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●斡旋屋―取り立て―/工藤・勇太
『異質』を『世間』は受け入れはしない。
表面上は、驚き、喜び、受け入れるフリをしながら決して、異質は同質には成り得ないのだ。
(「この子も、普通じゃなかった……って事か」)
頬を掻きながら、工藤・勇太(1122)は参ったなぁ、と心の中で呟いた。
『異質』は『異質』の臭いを嗅ぎつけるのか……。
斡旋屋(NPC5451)の横に立つ人形は、紙袋を抱えたまま無表情で立っていた。
勇太は、転がった林檎を拾い、人形に差し出す。
ゆっくりと動き、その林檎を受け取る人形――時折、人形の中を通って行く人を見ると、まるで全ては幻の様な気がしてくる。
「……魔術、ね。俺の能力と相性悪いんだよね……。おまけに俺バカだし、交渉とか苦手……」
「問題ありません」
……何が問題ないのか。
この確信が何処から出てくるのかは不明だが、どうやら目の前の斡旋屋と名乗る少女は自信があるらしい。
きっと、自分には判らない理由があるのだろう――と勇太は思う。
困っているのなら、放っておけない……このままにして、斡旋屋が魔法使いにでも殺されれば、自分は後悔するだろう。
「まぁ、あんたのボディガードだったらなんとか出来るかな……」
「ありがとうございます。1人では、不安だったものですから」
どうやら、斡旋屋はその返事を聞いて少しばかり安心したようだった。
ペコリと頭を下げられて、そんなのいいから! と勇太は慌ててしまう。
「お礼は終わってからで、ほら――行かなくていいのか?」
「そうですね。秋の日はつるべ落とし、と言いますから」
「つる……?」
思わず首を傾げた勇太に、行きましょうか、と斡旋屋は歩きだす。
その後ろを付かず離れず、歩く勇太と人形。
魔術師の所に行くのだから、魔法陣だとか怪しげな呪文だとかを唱えるものだと思っていた勇太だったが。
「――此処?」
目の前に広がるのは、白い壁をもつ洋館だった。
庭は様々な色の植物に覆われ、東京と言う土地にありながらまるで、森を思わせる。
「ええ。彼は『異質』とは言え、社会の一員でもありますから」
チャイムを鳴らすと、音楽の授業で聞いた様な音色が鳴り響いた。
何だか聞いたことがあるなぁ――などと思いながら、音も無く開かれたドアに勇太は足を止める。
自動ドアのような、稼働音はしなかった。
「此処、何時でもこんな……なのか?」
「ええ。電気を止められたらしいので、魔力で開けているようです」
千の魔法を使う魔術師ですから、と平然と返って来る言葉に勇太は思わずぽかん、と口を開けた。
「――いや、他人の家に色々言うのはあれだけど」
どれなんだ、と自分でツッコミを入れる。
『頭は固く狡猾で魔術師の力量も高い』魔術師が、電気を止められている、とは。
「……魔術かぁ、便利だなぁ」
最早、そう呟くしかなかったのだ。
●
白骨の使い魔に通され、勇太達は洋館の一室に通されていた。
秋と言ってもまだまだ暑い中、白骨の持ってきたお茶をズズーと啜る。
庭は鬱蒼としていたが、元来几帳面な性質らしい住人の部屋は、ぎっしりと魔術書が詰まっている。
魔術的な意味を持つ文字なのか、勇太には理解出来ないものばかりだ。
「……何だ、小娘。斡旋料なら払わんぞ」
年月を顔に刻んだ、老いた魔術師は傲慢な仕草で鼻を鳴らした。
此方の目的を知っているらしい――斡旋屋はどうでるのか、と視線を移せば、正座したまま表情を変えない。
「契約書にサインもあります。第一、内容問わずと言ったのはそちらでしょう」
「後払いにしたのが、失敗だとは思わないのかね」
「後払いは、貴方の希望でしょう。仮にも魔術師、契約書の重みを知らない事はありませんよね?」
「ふん。そもそも小娘が、斡旋屋をするなどと無理な話。身の程を知るんだな」
「はぁ!? 何言ってんだ?」
思わず呟いた勇太に、視線が集まる。
「何だ、この小僧は。身の程知らずな……」
「事情は知らないけど、そんな頭ごなしに否定しなくていいだろ!?」
「事情を知らずに口出しするのは、おこがましいと思わんのかね」
「話は聞いてるよ。払うって言ったものを、払ってないってな」
「依頼は失敗だった。そもそも、私向きじゃない依頼を斡旋した方が悪い」
勇太が説明を求め、斡旋屋へと視線を移す。
「尤も報酬の高い依頼を紹介するように、と言われたので肉体労働の依頼を斡旋しました。契約書にサインもあります」
「知らん知らん、とっとと帰れ!」
バチバチバチ――
突如、空中が爆ぜる……癇癪を起こした魔術師から放たれる、魔力の奔流。
斡旋屋を背に庇い、サイコシールドを張った勇太は、直ぐにサイコジャミングを相手にかける。
脳の中に干渉し、呪文の詠唱を阻害する。
「要するに――魔術を発動させなきゃいいんだろ!」
「……小僧!」
魔術師が古い本を手にする、いけません、と斡旋屋が小さく呟いた。
「既に魔法を込めたものならね、例え……」
「――説明、ご苦労さん」
サイコクリアソードを放ち、古い本を穿つ……だが其れより速く駆け抜けたのは、白骨の使い魔。
「……ッ!」
振り下ろされた瘴気の刃を腕で受け、あくまで斡旋屋を守るボディガードとなる。
伏せた状態の斡旋屋に怪我はなさそうだ、とは言え勇太の肩には侵食されるような痛みがあった。
サイコシャベリンで白骨を破壊し、魔術師へ向かって攻勢に出る。
ワラワラと出てくる、白骨兵達をグラビティボールで押しつぶす。
サイコジャミングで詠唱を阻害させるが、既に魔力の込められたマジックアイテムには効果がない。
だが、後ろに隠れている斡旋屋に危害を加えさせる訳にはいかないのだ。
「……くっ!」
「大丈夫ですか?」
魔術と思念の力がぶつかり合い、それは反発を起こすと小規模な爆発を起こす。
家が振動し、几帳面に並べられた本達が落ちていく。
「く、此れ以上、家を壊すわけには」
ガクリ、とうなだれる魔術師……散らばった白骨兵の残骸を見、溜息を吐いた。
「か、勝った?」
「不本意だが。……適当に持って行け」
不満げに鼻を鳴らした魔術師は、後を白骨兵に任せ、そそくさと部屋から出て行った。
「迷惑料と延滞料も押収しましょう。ところで、傷は」
斡旋屋の視線に、瘴気に焼かれた肩や傷を見せる。
魔術での傷痕はまるで、身体の芯に纏わりつくような熱と痛みを訴え、勇太は少しだけ、眉を顰めた。
それでも、笑みを作り口にする。
「怪我がなくて、よかった」
「お陰さまで」
テキパキと傷の手当てを始めた斡旋屋は、一番大きな肩の傷を見た後、本を探る。
魔術師のマジックアイテムだ……古い本の独特の臭いが鼻に付く。
「治療の魔法を施しました。……治らないようでしたら、またご連絡ください。不本意ですが、優秀な医者がいます」
「……優秀な医者? しかも、不本意?」
表情も声のトーンも変わらない言葉が、ほんの少し刺々しくなり勇太は肩の傷をなぞりながら問いかける。
優秀ならば、いいのではないだろうか――?
と思うが、それを言うのは何故だか、憚られた。
「ええ、ただ。何処にいるかも分からない『もの』ですから」
●
魔術書と本に、置物など沢山の荷物を手に、斡旋屋は機嫌が良さそうに見えた。
「そう言えば、報酬をまだ、お支払いしていません」
何が良いですか? と問いかける斡旋屋に、静かに勇太は首を振った。
「報酬? いらないよ」
元々、報酬の為の行動じゃなかったのだ。
勇太は報酬を必要としていないし、ただ、困っていたから助けた、それだけだ。
だが斡旋屋は少し、首を傾げ。
「何故でしょう?」
「――別に俺、報酬が欲しい訳じゃないから」
「人間は、解せません」
俺にも分からないよ、と勇太は苦笑を浮かべる――空には、間の抜けたうろこ雲。
日が暮れかかった空は、切なくも美しい桃色と赤、そして紫をしていた。
じぃ、と視線を感じ、勇太はもう一度、斡旋屋に視線を移し、そして、人形に視線を移す。
「でも。怪我がなくて良かった」
「……怪我人に言われると、少しばかり違和感を感じます。ああ、よろしければ、此方を」
「――何?」
斡旋屋が差し出したのは、一枚の名刺だった。
一瞬、その『作り物』の右手に視線を奪われた後、真っ白な名刺に書かれた名前に視線を移す。
『斡旋屋 晶』
「転移の魔法が籠っています。その名刺を持って、念じれば私の店へ来ることが出来ます――効力は1度ですが」
「へぇ……ええっと、しょう? それとも、あき?」
その名刺には、漢字のみが書かれている。
「どちらでも。ショウ、でもアキ、でも。勿論、斡旋屋でも。傷が痛むようでしたら、そちらをお使いください。此方で、医者を手配します」
「……不本意だけど、優秀な医者を?」
その言葉に、斡旋屋は頷いた。
「あ、俺は工藤・勇太。うん、名刺は貰っておくよ――っと、家まで送ろうか?」
また、変な相手に絡まれたら困るし、と付け足した勇太だが、ゆっくりと首を振る斡旋屋に、そうか、と頷いた。
きっと、何らかの意図があるのだろう。
「じゃあ……また、会えたら」
「ええ。縁があれば――」
カァ、カァ、と烏が鳴く。
烏が鳴くから、帰ろう、と何処かで聞いた様な歌を思い出しつつ、勇太は帰路に着くのだった。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1122 / 工藤・勇太 / 男性 / 17 / 超能力高校生】
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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工藤・勇太様。
この度は、発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。
頂いた文章から、とても真っ直ぐでひたむきな印象を持ちました。
戦闘シーンを入れつつ、コメディタッチで綴らせて頂きました。
お気に召して頂ければ、幸いです。
では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。
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