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<東京怪談・PCゲームノベル>


●ペリト卿の宝石【1】―石神・アリス―

 革のシートに腰かけた彼女、石神・アリス(7348)の乗った車が、夜の東京を走る。
 流れていく夜景を瞳に映しながら、彼女は相槌を打つ。
「いえ、少しばかり気になったものですから。ええ、わたくしもお待ちしております」
 偽りの笑みを浮かべたまま、アリスは手帳にメモを取った。

 ――『アレクサンドラの威光』

 大粒で変色性の高い、ロシアで採掘された『アレキサンドライト』と呼ばれるクリソベリルの変種だ。
 純粋な、ロシアン・アレキサンドライト。
 アレクサンドル二世に献上された宝石の一つであり、それは皇后、大公女を始めとする『アレクサンドラ』達の手を渡り、現在ではペリト卿の元に在った。
「此れを機に、ペリト卿ともお近づきになりたいものですね」
 美しい筈の東京の夜景も、美に執着し、美を賛美するアリスの瞳にはガラス玉以下に映る。
 人工物のネオンの中には、人の感情もなければ、自然の憧憬もない。

「此処で構いません」

 ブレーキ音一つ立てずに止まったリムジン、運転手がドアを開けてから黒い髪を靡かせ、アリスは車を降りた。
 見上げれば、丸い月が煌々と輝いている。
 メイドに素性を告げれば、既に話は通っているようで、アリスはペリト卿と斡旋屋(NPC5451)の待つ部屋へと案内された。
 ベルガモットの香りと、光の角度や強さまで計算されたカットの施されたシャンデリアの美しい室内。
 斡旋屋(NPC5451)が立ちあがり、ペリト卿と思われる初老の男性を示す。
「彼が、依頼人のペリト卿です」
「よろしく頼むよ、石神君。母君は元気かな?」
 にこやかに口にしたペリト卿の手を握り返し、ええ、とアリスは笑みを作った。
 ちらり、と斡旋屋を見れば少しも表情を変えず、彼女と人形は下がっている。
(「コレクションに加えたいな〜」)
 既に作り物めいた斡旋屋を見ながら、そのような事を思う。
 その表情が、苦悶に歪む事はあるのだろうか――。
 とは言え、依頼は遂行しなければならない。
「お気遣いありがとうございます、母は元気ですよ。ところで、4人の警備員の証言をお聞きしても宜しいでしょうか?」
 相手もアリスの素性はある程度知っているらしい、尤も、お互い様なのでアリスは笑みで返答する。
「ああ。部屋に待たせてあるよ、好きなように聞くといい」
「ええ、此方はお任せ下さい」

 挨拶が済んだ事を知ったのか、斡旋屋がアリスの方へと顔を向ける。
「私、斡旋屋と申します。以後、お見知りおきを」

『斡旋屋 晶』

 と書かれた名刺を受け取る……扇と蝶の舞う、雅やかな名刺だ。
「アキ、でも、ショウ、でも構いません。勿論、斡旋屋と呼んで頂いても」
「わたくしは、石神・アリス。よろしくお願いしますね」
 そう口にして、華やかにアリスは笑うのだった。



 屋敷内の見取り図を手に、アリスは警備員の元へと向かう。
「失礼、話を伺っても構いませんか?」
「ああ……『アレクサンドラの威光』の事か。大した話が出来るとは思えないが――」
「犯行時刻の、あなたの行動は?」

 ――警備員、仮にAとしよう。
 警備員Aは警備員、Bと共に宝物庫の近くに在る詰め所で休憩を取っていた。
 警備員Bは仮眠を取り、Aは本を読んでいたという。

「俺達は3時間交代で、警備を行っている」
「異常はなかった、といいますが……」
「他の奴等が騒いだ頃に、向かったからな――全く、盗むなら俺と関係のないところでやって欲しいよ、早く帰りてぇ」
(「随分と、図太い警備員ですね。普通、一番に向かっても良さそうですが」)

 警備員Bの証言。
「仮眠を取っていた。あいつ(警備員A)は雑誌に夢中だったからな、先に向かった。少なくとも、ガラスの割れる音はしなかった」
 音がすれば、起きる筈だ、と警備員Bは証言する。
 そして、犯行時刻に警備していた警備員CとDも異常がなかった、と言っているのなら異常はなかった筈だ、とも。
(「異常がなかった……犯行時刻は別時刻の可能性もありますか」)

 RRR……小さな着信音が鳴り響き、アリスは携帯電話を手にした。
 彼女の裏の情報網は膨大だ、成功した頃にはペリト卿も含まれるだろう。
『アレクサンドラの威光』が転売されていないか、裏の情報網で情報を集めたアリスだったが、少なくとも今は売られてはいないらしい。
(「ほとぼりが冷めた頃に、売却する可能性もありますが……宝石を狙う、と言うとコレクション目的でしょうか」)
 理解出来なくはない、宝石コレクターにとって『アレクサンドラの威光』は神秘と怪奇を塗り固めた、魅惑の宝石だと言う。
 生きた石像をコレクションとするアリスにとっては、あまり興味がないが、件の宝石について情報をくれたコレクターの声には垂涎の響きがあった。

 警備員Cの証言。
「宝物庫の入り口を警備し、監視カメラで内部のチェックをするのが俺達の仕事だ。異常はなかった――ただ、午前2時丁度に、忽然と宝石が消えたんだ」
「その間、出入りした人物は?」
 アリスの言葉に、警備員Cは首を振ったが……思い出したように口を開いた。
「宝石が消えた後、出入りしたのは俺達警備員だけだが……ペリト卿は1日前に入ったらしい。保険金目当てじゃないか?」
 推理小説みたいで面白いよな、と馴れ馴れしい警備員Cの手を払いのけながら、アリスは警備員達が部屋に入った順を、紙に書き出し、位置を確認する。
 一番早くに入ったのが、警備員C、その次にD、B、A。
(「警備員Dにも、聞いてみますか」)

 警備員Dの証言。
「監視カメラを見る限り、可笑しな点はなかった」
「1日前に、ペリト卿が入室しているという話がありますが」
「事実だよ……本来なら、警察に届けねばならないところだが――お嬢さん、私達が信用できないのなら、自分で映像を見て確かめるといい」
(「随分と、余裕の態度ですね……」)



 ペリト卿の部屋から、1階分は続く螺旋階段を降り、封鎖されている宝物庫の隣、警備員の詰め所内、モニターの前に座り操作する。
 再生された映像には、確かに午前2時に忽然と消える『アレクサンドラの威光』が存在していた――。
(「……確かに、忽然と消えていますね」)
 現場を改める必要があるかもしれない、そう感じながら息を吐いたアリス。
 映像を止めようとした時――細い光に気付いた。
 気のせいと言われれば、自分でもそうだと思ってしまうような、細い光……それが、警備員Aから伸びている。
 眼を凝らし、そして何度か瞬き、アリスは息を吐いた――不意に、好ましい香りがして振り向く。
「お邪魔してしまいましたか」
 静かに立つ、斡旋屋と人形……気配すらなかった、斡旋屋は滑らかな動作で紅茶をアリスの前に置く。
「ありがとう」
 素直に礼を口にし、紅茶の香りを味わう。
 ダージリンのようです、と斡旋屋の説明を受け、軽く頷いたアリスはその紅茶に口を付けた。
 ……警備員Aにもう一度、話を聞かねばならないだろう、だが、その前に現場を調べなければならない。

「やはり、そうでしたか――」
 映像で把握できない程度の、微量な『青』の塗料。
 午前2時、恐らくその時刻に溶けるように仕掛けられた、化学物質。
 いや、仕掛けられたのではなく、ボタン一つで溶けるように細工されていたのかもしれない。
 赤外線のデータを併せて見れば、強い熱量が午前2時に『アレクサンドラの威光』から発せられている。
 ――そして、紛失してから現れた警備員Aとその手から伸びる細い糸。
 鋭利な刃物で傷つけられた、ガラスケース。

「話があります……いえ、単刀直入に言いましょう、ガラスケースに傷を付けたのは、あなたですね」
 警備員Aに向かって告げたアリスは、同時にプロジェクターに映像を再生する。
 光る一本の糸を指差し、警備員Aとプロジェクターを交互に見つめた。
「『アレクサンドラの威光』は、午前2時に盗まれたのではなく、事前に盗まれていたのでしょう、恐らく、1日前のペリト卿……彼は本当にペリト卿だったのか」
 アリスの瞳が鋭く光った――まるで、獲物を追い詰めた蛇のように。
「宝物庫から盗まれたのは『アレクサンドラの威光』だけ。この宝石だけが目当てだったのでしょう――バックに誰がいるのか、此方で調べても構いませんが」
 どうします、と問いかけたアリスに、警備員Aは大声で笑うと、言った。
「その通り、俺はある人から頼まれただけだ。ペリト卿、いや、その姿をした人物にな。――そう、あの人『アレクサンドラ・ミハイロヴィナ』が」

 ……『アレクサンドラの威光』の、本来の所有者だ。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7348 / 石神・アリス / 女性 / 15 / 学生(裏社会の商人)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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石神・アリス様。
発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

口調等が、今一つ不明でしたので、敬語調にさせて頂きました。
情報を集め、そして推理する……純粋な推理物を書くのは楽しかったです。
続きは『アレクサンドラパート』になります。
このノベル1つでは、完結ではありません。
興味がございましたら、また、いらして下さいませ。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。