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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ ある一夜の夢 ―彼と夫婦の三人の場合― +



 夢を見ている。
 夢でなければ説明が付かない。
 そうだ、これは夢だとも。


 でなければこんな変化――どうしたらいい!?



■■■■■



「ふぁあ、今日もいっぱい遊んだにゃー……」


 そう言いながら高校生男子である工藤 勇太(くどう ゆうた)は大きなあくびを漏らしながら伸びをする。
 その姿は鏡に映り、彼の今の姿を如実に映し出す。それは五歳児程度の身体に猫耳猫尻尾を持った子供――今のところ、この夢の世界だけで具現化する事が出来るチビ猫獣人の姿である。
 彼はその尻尾を気分良く揺らしながらてててっと二足歩行で一緒に遊んでいた十二歳ほどの蒼と黒のヘテロクロミアの瞳を持つ少年――カガミへと身体ごと抱きついた。そしてそのままごろごろと顔を押し付けて心の底から甘える。
 普段は高校生男子だが、この姿になると彼は精神年齢すらも五歳児程度まで下がり、常に甘えたい盛りになるので見ている分には可愛らしい子供であった。


「お前今日も良く食って遊んで食って遊んで……マジでガキ化してるな」
「んにゃ〜♪ 俺様はこの姿だとすっごく楽にゃんだにゃん」
「工藤さんはこの姿だとリラックスしまくりですもんね」
「にゃ! スガタ、ほっぺ突いちゃいやにゃ!」


 カガミと対になるような容姿を持つ少年、スガタに食らわすのは見事な猫パンチ。
 ただし本気で拒絶している訳ではないので、ていていっと動く手も愛玩対象になるだけ。洋テーブルのイスに腰を下ろしたカガミに彼は両手を持ち上げ抱擁をねだる。カガミもそろそろこの姿での勇太の対応に慣れて来たのかひょいっとその小柄な身体を抱き上げると背中をぽんぽんと撫でながらあやしに掛かった。
 そうなれば子供の身体というものは正直なもので……。


「んにゃ……うとうとしてきたにゃ……」
「此処で寝るのかよ」
「カガミ、その子供を寝かせるなら部屋を貸すけど?」
「あー、そうだな。連れて行こうかな」
「んー……」
「――あら、でもちょっと待ってミラー。お客さんが来るみたいよ」
「フィギュア?」
「……あら、あらあらあら。それも素敵なお客さんだわ。ミラー、そろそろその扉の前まで来るみたい。お出迎えしてあげなきゃ」


 勇太を抱き上げたカガミに部屋を勧めたのは家の持ち主の一人――黒と緑のヘテロクロミアを持つ十五歳程の少年、ミラー。
 そしてそんな彼に来客の知らせを告げたのは長い黒髪を持ち、黒と灰色のヘテロクロミアを有する足の悪い少女、フィギュア。
 彼女の言葉に導かれ、勇太以外の皆は意識を『外』へと張る。『目』の良い彼女は既にそこにいる来客に心を動かされ凄く楽しそうに微笑を浮かべた。
 そして――。


「ヴィル、ここ、『鏡・注意』って書いてあるわ。何かしら、これ」


―― コンコン。


「さあ……今の私には何も分からないよ。すみませーん、誰かいらっしゃいますかー!」


 扉を叩く音とこちらを伺うような声に皆顔を見合わせると、客人を出迎える為にミラーは足を運んだ。



■■■■■



 時は少し戻り。
 ある一組の夫婦――ヴィルヘルム・ハスロと弥生・ハスロ(やよい はすろ)はある暗闇の中に居た。其処はまさしく暗黒で、自分達二人以外は何もない空間であったが……それよりも夫婦には衝撃的な事実に気付いた。


「貴方はヴィル、よね?」
「弥生、だよね。一体その姿はどうして……」
「嘘っ! やだっ、ヴィルってばその姿どうしたの!?」
「え、私もかい!?」


 その闇の中では互いに互いの姿を認識することは可能であった。
 だが、それ以外のものは一切『無』であり、『有』という言葉は存在していない。だからこそ夫婦は「これは夢だ」と判断する。何故なら自分達の姿が今有り得ない状態に陥っているからだ。鏡の無い場所では自分の姿を視認する事は不可能だが、伴侶が互いに見つめ合って驚きあう事で『自分』の身にも何かが起こっている事を感じ取る事が可能だった。
 そしてそれに呼応する様に聞こえてくる笑い声。
 見えるのは――真っ暗な空間に一件だけ建つアンティーク調の一軒家。


「ヴィル、あんなものさっきまであった?」
「いや、無かったよ」
「そうよね。……じゃあどうして急に現れたのかしら」
「行ってみるかい?」
「そうね、ここで二人で居ても仕方が無いし。案外妖精とかの悪戯だったりして」
「それにしては随分可愛らしい悪戯だね」
「ふふ」


 二人は向かう、その家へ。
 夫婦らしく手を繋ぎながら――どんな時でも相手が伴侶ならば手を離す理由など逆にないというかのように。
 そして楽しげな会話の音を聞きながら二人は玄関の前へと立った。その扉の傍には一枚の張り紙。


「ヴィル、ここ、『鏡・注意』って書いてあるわ。何かしら、これ」


 コンコン。
 その声を聞きながらヴィルヘルムが扉を二度叩く。


「さあ……今の私には何も分からないよ。すみませーん、誰かいらっしゃいますかー!」


 やがて開かれる扉、中から現れたのは一人の少年。
 黒と緑のヘテロクロミアが二人を見つめ微笑みかける。それは丁度夫婦の瞳の色を一人が所有しているかのような印象を与えつつ、人好きされそうな笑顔を浮かべながら彼は言った。


「こんにちは、<迷い子(まよいご)>。ご用はなんでしょう?」
「まよい、……え?」
「ヴィル、ちゃんと挨拶しなきゃ。――こんにちは、私達ちょっと道……かしら。それを訊ねたくて此処に来たの」
「そう。あとこの不思議な場所について知りたく――っ!?」


 少年の向こう側、つまり室内を見やれば壁と言う壁が全て鏡張りで構成されており思わずヴィルヘルムと弥生は目を見張る。
 そしてその部屋の中央に一人の少女が安楽イスに座っており、優雅に紅茶だと思われる飲み物を啜っていた。その傍には同じようにテーブルイスに座っている双子らしい少年達の姿が確認出来た。
 黒い髪の毛を持つ少女は来客である夫婦を見ると少しだけ嬉しそうに微笑み、カップをソーサーの上へ置き、それから空いた片手を持ち上げる。


「初めまして、<迷い子>。己の困惑を取り除きたいなら私の元へいらっしゃい」


 招く手。
 甘く誘惑する声は己の肉体の変化について知られている事を告げていた。此処は一体どこで、何故このような変化を起こしているのか。
 何を知るにも情報が必要だ。そう思い、ハスロ夫婦は恐る恐る中に入る事にした。



■■■■■



 視線を感じる。


 勇太はひくりと伏せていた瞼を震わせ、己を抱く腕を一層抱きしめる。
 だが視線はまだまだ消えない。むしろ増えたような気がした。
 勇太はひくひくっと瞼を痙攣させるかのように動かし、やがて重いその部分をゆっくりと押し上げた。まだ自分を抱く腕は消えていない。それだけが彼を安心させていた――逆を言えば油断させていたとも言うが。


「……にゃんだにゃぁ……」
「んー……この子猫ちゃん、どこかで見たことがあるわ」
「確かに。この子は誰かに似てるね」
「……あれ……? 勇太君よね……?」


 『勇太』。
 その言葉にチビ猫獣人である彼はぴくっと耳を動かし反応する。だが未だ眠気の方が勝っており、彼は大きな欠伸をして再び眠りにつこうとした。だがその瞼の裏で今見たものを写し、反芻させる。そして記憶の隅に引っ掛かりを覚えると頑張ってその目を開いた。


―― なんだか見た事あるような顔だにゃぁ……――って、ハスロさん達にゃー!?


 バチッ! とそれはもう綺麗な擬音が付く勢いで勇太の瞼は開き、眠気も吹っ飛んだ。


―― にゃ!? にゃんでー!? にゃんで二人がここに!?


「あ、起こしちゃったみたいだね。すまない」
「いや、別に良いよ。コイツ寝てばっかりだし。――ほれ、そろそろ起きろ」
「にゃ、にゃにゃ!?」
「ところで貴方、勇太君、よね?」
「にゃー!!! ち、違うにゃー! 勇太じゃないにゃー!」
「あら人違い?」
「そ、そうにゃ! 勇太なんてヤツ、俺様知らにゃいにゃー!」
「ねえ、カガミ。工藤さんを寝かせる部屋のベッドメイキングが終わっ――」
「にゃぁああ!! スガター!!」
「え、何。今、僕何か悪い事した?」


 チビ猫獣人である勇太はまさか夢の世界で知人に会うだなんて思っておらず、しかもカガミに甘えまくりの状態の姿を見られたことにより自分の正体を誤魔化しに掛かる。
 だが、それを無残にも一言で散らしてしまうスガタの呼び声。彼は一切悪くない。そう悪くないはずだ。
 そしてスガタが口にしてしまった工藤、という言葉と勇太には直結しない。……知人でさえなければ。
 だからこそまだ取り繕えるだろうと信じて勇太は心の中でだらだらと汗を流しながら、でも表面上は可愛い子猫ちゃんぶって「え、えへ?」なんて小首を傾げ愛らしく笑ってみるが……視線が、痛い。
 誤魔化しに掛かった勇太に対して弥生がじーっとガン見を始めたからだ。
 ヴィルヘルムの方は「勇太さんに似ている可愛らしい子だな」とその程度しか思っていなかったが、弥生はそうではない。


 じぃー。


「え、えへ」


 じぃー。


「……え……えへへ」


 そして沈黙の戦いが数秒続いて。


「……に゛ゃー!! 耐えられないにゃー!! そうにゃ! 俺様は工藤 勇太にゃー!」
「ほら、ヴィル。やっぱり勇太君よ」
「弥生、今ごり押ししなかったかい?」
「気のせいよ、ふふっ」
「はぁ、はぁ……も、もう緊張で心臓ばくばくにゃ……」


 にらめっこ状態に耐えられなくなった勇太はとうとう観念し、開き直りにかかる。
 一方、見事工藤 勇太だと見抜き、口を割らせた弥生はそれはもう気分爽快という表情で夫へと微笑んだ。ヴィルヘルムもまたチビ猫獣人本人が「工藤 勇太」である事を認めたのだから、対応を知人に対するものへと変える事にした。
 だが、彼は屋敷内を見渡し、クラクラと目が回りそうになり一瞬自分の思考が白く霞むのを感じる。
 それは確かに鏡張りの部屋という異質な光景も含んでの事だったがそれよりも何よりも――今起きている自分の変化が信じられなくて。


「もうー、勇太君ってば小さくて可愛いわー! えい、撫でちゃえ!」
「わわっ」
「ヴィルも撫でてみたらどう? すっごく髪の毛が柔らかいの。やっぱり子供だからかしら」
「そうかい? じゃあ勇太さんが嫌じゃなければ撫でさせてもらいたいな」
「い、いいけどにゃ。いいけど……」
「嫌なら触らないよ」
「ち、違うにゃ! ――カガミ! 俺を下ろして欲しいにゃ!」
「あー、俺に抱かれてるのが恥ずかしいわけだ。ふーん」
「っ〜……!! 言うにゃ!」


 弥生の手が勇太の頭に触れ、髪と共にそこに生えている猫耳も一緒に撫でまくる。
 猫特有の軟骨が入った耳はひくひくと動き、無意識のうちに後ろに逃げようとするがそこは人間の手の方が早くあっさりと捕まってしまう。
 更に弥生はヴィルヘルムに声を掛け一緒に撫でようとするが、勇太はやっと今の自分の状態がどう言ったものであるか思い出すとかぁっと顔を赤らめ、カガミの腕の中から下りだす。にやにやと明らかにからかいの意思が入って見えるカガミのその笑顔が正直憎らしいと勇太はぎろっと睨み返す。


 しかし今はそっちよりもこっち。
 ハスロ夫婦の『変化』の方が勇太の興味をそそっており、彼は二人の前まで寄るとこてんっと首を左に倒し、猫手を口元に当てながら問いかけた。


「で、にゃんで二人も猫獣人に変化してるのにゃ?」



■■■■■



「さあ、お茶をどうぞ」


 そう言ってミラーはテーブルイスに座った新たな客人達にカップを差し出す。
 ヴィルヘルムと弥生はそれを素直に受け取り中を覗き込むが……。


「空だわ」
「何も入っていないね」
「でも貴方達が願えば、そのカップには願いが具現化して自分好みの茶が湧くよ」
「じゃあ私はカモミールティーがいいわ。思い出のお茶なの」
「弥生が熱を出した時に私が淹れたものだったね。じゃあ私も同じものを」


 ぴくりと弥生が黒猫耳を動かす。
 それは彼女の頭部に生えた耳。そう、弥生とヴィルヘルムもまた己の髪の毛と全く同じ色の猫耳が生え、更に『若返り』という変化を起こしているのだ。
 ヴィルヘルムは二十歳ほどの青年へ、弥生は十五歳程の少女へと若返り、その頭部に猫耳と臀部に尻尾が生えている姿はなんだか微笑ましい。暗闇の中で互いに確認した時は一体何事かと思ったが、勇太がチビ猫獣人姿であることも手伝い、次第に自身の変化に順応していった。
 特に百六十三センチである弥生は若返った年齢の関係も有るのか、背丈が十センチほど低く夫との身長差が開き視界が新鮮に感じている。


 やがて弥生とヴィルヘルムがカップへと手を掛ければ、ミラーが告げたようにカップの底の方から液体が湧き出、とても安定感のある香りを放つカモミールティーがそこには存在していた。まるで魔法のよう、と少女姿の弥生はほうっと息を吐き出しほんの少しうっとりと目元を緩め、そんな若い妻の様子をヴィルヘルムは微笑ましげに見つめた。
 ちなみに結局カガミの膝元に収まった勇太の手には緑茶の入った湯のみが握られており、彼は熱いそれを舌が火傷しない程度まで冷ましてからゆっくり飲んでいた。


「しかし弥生さんはいつもよりちっこくなって可愛いのにゃぁ!」
「まあ、ありがとう。可愛いって言われるとちょっと照れるけど嬉しいわね」
「ヴィルさんはちょっと若返った感じにゃけど背はでっかいままにゃー!」
「まあ、この年頃には身長自体は止まっていたからね。今より十歳くらい若いのかな」
「でもにゃんでそんにゃ姿になったにゃ?」
「それが分からないのよね」
「猫獣人になりたいって思ったとかじゃにゃいって事にゃ?」
「うーん……私も弥生もそういう願望は無いはずだけど……」


 きゃっきゃっと五歳児の精神になっている勇太は二人の変化の感想を口に出し、夫婦はそれに応えながらもカップに口付け、少し熱いそれを冷ましながら飲む。
 だがいつもより敏感になっているのか、熱に反応して舌がびくっと跳ねた。まさしく猫舌である。


「何か変わった事といえば二人で夜寝る前に自分達が子供だった頃の話をしていたくらいかな」
「そうね。色んな話をしたから……それで若返っちゃったのかしら。でもこれはこれで楽しいわ。勇太君も可愛いし、ヴィルの若い頃の姿を見ることが出来て眼福!」
「弥生の目がキラキラと輝いているし、私もこの状態に……まあ、最初はびっくりしたけれど不便はないね。――どうして猫耳と尻尾が付いているのかは理由が全く思いつかないけれど」
「本当よね。それだけはホントに分からないのよ」


 首を傾げながら若い姿の夫婦は理由もとい原因を探してみる。
 通りがかった猫の記憶が作用している? それともバラエティ番組の企画で見た猫耳少女のせい? ――だがそれのどれもがぴったりと原因というピースに当て嵌まるような気がしない。
 そんな風に夫婦が悩んでいると不意にフィギュアが口元に手を当ててくすくすと笑い出した。そんな少女の笑みが分からず、皆が彼女を見やる。注目が集まってしまった事に対してフィギュアはややしてから気付き、そしてその手をそっと膝元へと重ねて下ろした。


「影響ね」
「にゃにゃん?」
「今回訪れた貴方達夫婦には『工藤 勇太』という少年との繋がりがあった。彼にはチビ猫獣人になれる能力があり、貴方達二人はそんな彼の能力を感受していた可能性があるわ」
「にゃにゃ!? 俺が原因にゃ!?」
「ふふ、だからつい笑ってしまったの。あまりにも可愛い『影響』で」


 理由を口にする少女はまた片手を口に当ててくすくすと声を漏らし笑う。


「勇太の力を感受して、夢の中で影響させるなんて面白い事をするよな」
「工藤さんの力を感じ取って、この世界に反映させてしまうなんて面白い話ですよね」
「その耳も尻尾も」
「その若さも」

「「 全てが全て、貴方達の夢だけれど 」」


 スガタとカガミが声を重ね、言葉を吐く。
 その一音も外さない文章の流れに勇太は久しぶりに拍手を送る。ミラーとフィギュアは慣れているため特になんの反応も示さなかったが、ハスロ夫婦は初めて出逢ったこの少年二人の協調性に興味を抱く。
 お茶会が始まる前に全員自己紹介をしており、彼ら二人が「双子」ではなく「対の存在」である事を教えて貰った夫婦はその在り方に心を動かす。更に言えば勇太を除いた四人――スガタ、カガミ、ミラー、フィギュアが<迷い子(まよいご)>と呼ばれる人や物を導く「案内人」という存在である事も彼らの興味をそそる。


「此処はひと時の夢だけれどどうかゆっくりしていって頂戴ね。あたしは記憶に欠陥があるからあまりモノを覚えていられないけれど、こうして過ごす時間は確かにあたしの中で蓄積されていくものだから」
「フィギュアが忘れるなら僕が君の分まで記憶しよう、記録しよう。君が望むがままに、君が望む時に歪みなく愛しいと思う時間を渡すために――だからこそ歓迎するよ、猫獣人になった夫婦さん」


 柔らかく言葉を紡ぎ出し、フィギュアとミラーとが歓迎の意を示す。
 スガタはにこにこ、カガミはにやにやと夫婦の姿を見てからミラーの最後の言葉に同意するように頷いた。カガミの腕の中で勇太はぷはっとお茶を飲み干すと、ハスロ夫婦へとその子供特有の清らかかつ大きな瞳を向け、そして言った。


「弥生さんにヴィルさん、大丈夫にゃ! 皆いい人達にゃ!」
「まあ、僕はフィギュアに害がなければそれでいいから」
「い……良い人達にゃ」
「君は過去に前科持ちだから、ね?」
「にゃー! ミラーはちょっとねちっこいにゃー!」


 過去にすこーし事情があってフィギュアに間接的とはいえ危害を与えてしまった勇太はぞっと背筋に悪寒を走らせ、ぶわっと尻尾を膨らませる。
 なんとなく二人の間に対立関係があると察したハスロ夫婦は、互いに顔を見合わせ、そして次の瞬間にはぷっと息を吹き出してしまう。それを隠そうと二人は顔を背けて隠すが時は既に遅し。
 やがて弥生は周囲の鏡張りの家を見渡してからこほんっと咳払いをする。
 最初はその鏡張りの光景に驚きはしたけれど、すぐに遊園地みたいで面白そう! と目を輝かせたのもついさっきの話。


「私も出来れば皆と楽しく過ごしたいわ。良ければもっとお話をさせて貰ってもいいかしら」
「弥生と同様に私も皆さんとお話したいかな。特に「案内人」の役割とか気になります。一体どんな経験を持っていらっしゃるのか……良ければ聞かせて頂けませんか?」


 夫婦は深刻な悩みがあってこの肉体変化が起こったのではないと知らされると今度は前向きに会話を始める。
 勇太が居て、初めて出逢った変わり者の「案内人」達がいて……もっともっと知りたいと思った。それが彼らがここにいる根底の理由。


「心行くまで会話を楽しんでくれると僕らも嬉しいよ」
「どうか貴方達の心にあたし達の存在が残りますように」


 一軒屋の住人二人の言葉に皆一斉に笑みを浮かべた。



■■■■■



「勇太寝ちゃったな」
「さっきも寝かかってましたからね」
「二人も寝たか?」
「寝てる寝てる」


 そぉっとスガタとカガミが一室を開き、隙間から中を覗き見る。
 そこは眠気に襲われていた勇太の為にスガタが用意した客室の一つで、其処には今勇太を真ん中に置いて左側にヴィルヘルム、右側に弥生がキングサイズのベッドに横たわり定期的な寝息を立てていた。
 あの後沢山喋り、笑いあい、そしてじゃれあった三人はやがて疲れ、眠気を訴え始めた。特に弥生に悪戯心を湧かされその小さな身体を思う存分くすぐられた勇太は疲労がピークに達してからあっという間に寝落ちしてしまった程だ。


 楽しかったね。
 賑やかだったね。
 面白かったね。


 だけどこれは――。


「「 おやすみ、<迷い子>達。どうか良い一夜の夢を 」」


 ―― そして今宵の夢の扉は、閉じられた。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ) / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ミラー / 男 / ?? / 案内人兼情報屋】
【NPC / フィギュア / 女 / ?? / 案内人兼情報屋】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 PCゲームノベルへのご参加有難うございます!

 今回は三人での参加と言う事でどういう展開が楽しいかなと考えた結果、このように。
 そして当方のNPC全員に逢ってみたいの希望を有難うございました!
 ならばやってみせよう根性発揮で、勢ぞろいさせてみたりv


■ヴィルヘルム様
 美青年猫獣人!! と最初に悶えさせて頂きました。心が大変潤っておりますv
 今回は夫婦で猫耳尻尾な展開でしたが、いかがでしょうか?
 少々ヴィル様は自分のお姿にくらっと眩暈を覚えていらっしゃいましたが、最終的に会話を楽しんでくれる様子が微笑ましく……!
 楽しいお茶会を有難うございました!