コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.7 ■ 接触-T







「はい。…勇太、電話です」
「俺に?」凛から渡された携帯電話を手に取った勇太が不思議そうな顔をして携帯電話を耳に当てた。「もしもし?」
『よう、俺だ』
「草間さん!?」

 思わず素っ頓狂な声を上げながら勇太は驚いていた。
 そう言えば、と勇太の脳裏に以前の武彦との会話を思い出す。凛の携帯電話を通す事で直接的なやり取りは避ける、とか…。

『変わった事はあったか?』
「…うん、俺のクローンがどうとかって――」
『―なんだと!?』武彦の声が不意に荒く鳴り響いた。
「あ、だけどサンプルの採取がどうとかって、その…。暴走しかけて…」
『…じゃあ、取られてはいないのか?』
「うん…」
『そうか…。無理はするなよ、勇太』
「べっ、別に無理なんかしてないよっ」

 見抜かれたか、と思わず顔を赤くして勇太が反論を返してはみるが、武彦が電話越しに笑っている。やはり武彦には強がった所で通用しないのか、と勇太の心の中には複雑な喜びが生まれていた。

『こっちもある人物と接触していたんだが、まさかそいつの言う通りになるとはな…』
「ある人物?」
『古い知り合いだ。とにかく勇太、今はIO2のそのクローン技術に関する協力はするな。どうにも裏がありそうだ』
「どういう事ですか?」
『正直、俺もこんがらがってはいるんだがな。IO2はクローンに関して何を言っているんだ?』

 勇太は楓から聞いた話をそのまま武彦に説明をした。
 やはり武彦にも思い当たる節があるのだろうか。「うーん…」と小さく呟いてから暫くの間、言葉の空白が生まれていた。

「草間さん…?」
『いずれにせよ、身動きが取りにくい状態ではあるがな。お前がさっき言っていた暴走の具合によっては、いずれ楓から凛を通して採取を要求される可能性もあるな』
「楓…って、知り合いなんだ…」
『あぁ、アイツは頭が回る。お前にとって警戒心を抱かずに済む相手として、凛がいるなら確実にコンタクトを取って来るだろうな』
「凛を…?」

 勇太が凛を見つめると、凛はきょとんとした表情で小首を傾げていた。

『勇太、一度興信所に一人で戻れ。俺も今そっちに戻っている最中だからな。落ち合って今後の行動を決める必要がありそうだ』
「でも、鬼鮫達には凛と一緒に住めって言われてるんですけど…」
『凛を利用しようと楓が動く前にお前は一度IO2から姿を隠せ。凛に予め、勇太に逃げられたと報告させろ。お前の話しが今日の事なら、トラウマのせいで錯乱したと思われても凛に言及される事はないだろうからな』
「―ッ! 解った!」

 勇太が電話を切り、凛へと携帯電話を返す。
 凛とエストに武彦と電話で話した内容を説明した勇太は、二人に自分が暫くIO2への協力をしない事を納得させて、一度姿を隠すと伝えた。

「連絡手段はどうしますか?」
「とりあえず、周囲を探って接触出来そうな時に俺から凛に接触するよ」
「では、凛からの用事は私が動きましょう。今後の為に、鬼鮫さんにだけはその旨を私から伝えておきます」
「鬼鮫に?」
「はい。彼は貴方の事を気にかけ、組織に飼われている飼い犬というタイプでもありません。彼を敵に回す事は得策ではないでしょうからね」

 不意なエストの言葉に、勇太は少しの間思考を巡らせる。

「解りました、お願いします。凛、とりあえず一度俺は興信所に戻らないで姿を消すから」
「解りました。気を付けて下さいね」
「あぁ」

 勇太がその場からテレポートを使って姿を消した…――。





―――

――






「そう、ですか…。解りました。彼の行きそうな所にはエージェントを配置しておきましょう」

 電話を切った楓が小さく溜息を漏らした。
 ―こうなる可能性がなかった訳じゃない。凛が言及されない為の布石として、先に勇太が消えた事を報告させる作戦など、小賢しい作戦を立てて出鼻を挫いたきたのは高校生のあの二人が考える様な作戦ではない事ぐらい、楓には解っていた。

「武彦、まさか邪魔をすると言うの…?」

 真っ先に楓の頭の中に浮かんできた黒幕の存在。
 工藤 勇太との接点が多い五年前の事件を考えれば、その後IO2を離れたあの男がその後も関係を続けていたと考えても不思議ではない。だとすれば、鬼鮫もあまりアテにはならない。従順に任務や組織を優先し、それらを全うする事だけを目的としている腕の立つエージェントが必要になる。
 何かを思い立ったかの様に楓が携帯電話を使い、ある人間に電話をかけた。

「…私よ。貴方に頼みたい仕事があるんだけど…」





――

―――



 ――激動し始めた一日が、夕闇に包まれ漸く静寂を与えようとしていた。

 IO2の操作網が草間興信所にまで及んでいる可能性を危惧していた勇太は、何を思ったのかあの場所を訪れていた。

「…あの時のままか…」

 今日起こった暴走は色々な感情をフラッシュバックさせる要因となっていた。
 施設での昔の記憶や、五年前の戦いの事。そして、ついこの間の黒狼との戦闘と、あの狼が抱えていた悲しみ。
 直近の出来事だった黒狼と戦った廃工場は、あの日と同じで穏やかな静寂に包まれていた。まるで時間が止まったかの様な場所だな、と思いながら勇太が小さく呟いた。

「見つけたわよ」

 カツカツと暗闇の中から靴を踏み鳴らし歩み寄る声が勇太の背後から聴こえ、勇太へと声をかけた。暗闇の中だと言うのに月明かりに照らされた金髪の少女が何処か嬉しそうにそう呟いていた。

「エヴァ…だっけ?」
「そうよ」

 ―おかしい。
 エヴァはそう感じざるを得なかった。先日の雰囲気とは何処か違う勇太を見つめ、足を止めた。

「A001、今日こそ実力を見せてもらうわ」
「嫌だと言ったら?」
「…そうね。この前邪魔をしたあの胸の大きい女を攫ってユーを呼び出してでも戦わせるっていうのも悪くないわね」
「――ッ! そんな事させない!」
「だったら、本気を見せてもらおうかしら?」

 エヴァが巨大な鎌を具現化し、頭の上でクルクルと回してから構える。
 どうやら冗談で済ませる訳にも、この場は大人しく帰ってくれる訳でもないらしい。勇太はそんなやり切れない気持ちの中で腰を落とす。

「殺気も感じないみたいだけど、本当に戦う気はあるのかしら?」
「アンタを殺さなきゃいけない理由なんて俺にはないからね。でも、凛達に手を出させる訳にはいかない」
「ナイト気取りね」
「ふっかけて来たのはアンタだろ」
「そうね…!」

 砂塵を巻き上げながらエヴァが急襲しに勇太へと間合いを詰めた。
 前回と今回では勇太の反応も違った。勇太は鎌が振り下ろされるその寸前、テレポートを使ってエヴァの背後に回り込み、更にサイコキネシスでエヴァの身体を吹き飛ばす。突如背後から襲い掛かった衝撃で本来なら吹き飛ばされる所だが、エヴァは鎌を地面に突き刺し、それを軸にクルっと回って勇太へと振り返って鎌を再び構えた。

「やるわね。でも、私を倒さないとユーの仲間達は私が殺すわよ? それが嫌なら、もっとちゃんと戦いなさい!」

 大鎌を両手に掲げたかと思えば、ズズっと溶ける様な音を奏でながら大きな鎌から姿を変えた鎖鎌が現われた。錘のついたチェーンをグルグルと回し、遠距離にも対応出来る武器に切り替えたらしい。

「悪いけど、それでもアンタを殺す気はないよ。殺気がないのはお互い様だろ!」

 勇太が両手を左右に広げると、猛ましい音を立てながらバリバリと放電する様な一メートル程ある槍が十本程具現化される。勇太が右手を翳すと、三本の槍がエヴァ目掛けて空中を駆け出した。
 エヴァはそれを右・左とステップしながらあっさりと避けると、最後の一本を身体を捻る様に飛び上がってそのまま振り上げたチェーンを勇太目掛けて飛ばす。
 霊力を武器にする鎖鎌に見た目の長さは関係ないらしい。勇太は想像以上に真っ直ぐ襲ってきた鎖釜の横にあった右へと走ってかわし、横にあったコンテナを蹴って高く飛んで一斉に残った七本の槍をエヴァへと襲い掛からせる。
 後ろへ飛びながらエヴァがそれらの攻撃を避ける。最後の一本を避けた所で勇太へと目を向けようとするが、既に勇太の姿はない。
 咄嗟の判断から、エヴァはその場で鎌を背後へ目掛けて振り下ろすと、甲高い金属のぶつかりあう音が鳴り響いた。

「あっぶな…!」
「チッ」

 何もない筈の場所で、勇太の頭上で鎌が止まった事に驚く事もしようとせず、エヴァが再びクルリと身軽に飛び上がって勇太との距離を空け、勇太を睨む。

「そんな能力、あったかしら?」
「透明の刃<サイコクリアソード>ってね。あんまり慣れてないから使い勝手は悪いけど、助かったよ」
「…さすがね、オリジナル。やはり失敗作であるユリとは違う様ね」
「失敗作…?」

 勇太がエヴァの言葉に一瞬表情を歪ませて尋ねた。

「そうよ。あの子は完全なる失敗作…」



                                         to be countinued...