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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【回帰・12】 +



 俺を狂わそうとした夫婦杉の気に気を当て払ってくれた男性は自分が何者なのか答えない。
 カガミが俺の身体を支えてくれたので、そのままゆっくりと立ち上がる。若干ふらつきはしたが、肩や腕を貸してくれているカガミのお陰で倒れる事はない。
 白着物に袴姿の年配の男性は変わらず夫婦杉を見やる。
 俺はカガミへと視線を向ければ、彼は何故か男性の方を睨む様に見つめていた。


 やがて時は静かに流れ、男性が俺達の方へと身体を向ける。
 その面立ちには掘り深く皺が刻み込まれ、何か圧するような威厳があった。その唇が開かれれば、俺はやっと名乗ってくれるかと思ったが。


「君は神通力を操る民の話を聞いたかね?」
「え――あ、はい。聞きました。確か神様からお告げを聞いたり、神通力を操って災いを退けていたって言う民の事ですよね」
「そうか。聞いているなら話は早い」


 そう言って男性は頷く。
 一瞬カガミの方へと視線を向け、カガミもまた男性の方を見ていた。何故自分ではなく彼らがそういう風に視線を交じらせるのかは分からない。けれど真剣な面立ちをしているカガミに今質問をぶつける事は出来ず、俺はただ黙って話を聞いていた。


「その民は、夢の世界でお告げを授かっていた」
「――え、夢」
「夢とは何か? 君はどう思われる」
「え、えっと……俺にとって、ですよね。俺にとって夢っていうのは――夜に見る夢とか将来的な意味での夢、みたいな?」
「そうか……」


 何故このような話をするのか俺にはさっぱり分からず、思わず表情が引きつる。
 本当は別の答えがあったのだけれど、それを口には出来なくてカガミの腕を服の上からきゅっと掴んだ。
 俺にとって『夢』とはカガミ達と出会える異空間。異世界。別世界。
 でもそれをこの年配の男性に伝える事は戸惑いがある。
 男性の瞳が俺を見る。まるで何か探っているような……そんな気配のする瞳だった。


「夢とは個の深層意識。そして個の外にはすべての意識が繋がった外界深層意識がある。その民はそこで得た情報を持つ神と通じ、情報を……つまり『お告げ』を得ていた」
「え、えーっと? 深層意識の中に神という概念があって、民の人達は夢の中でその神様っていうのからお告げを貰っていたって事、でしょうか?」
「かの民に神と呼ばれる者は『神ではない』と否定するかもしれないが」


 そこで一旦言葉が止まり、男性の視線がカガミへと向かう。
 なんだろうこの人。
 何か引っ掛かりを感じ、胸の内がざわつく。でも男性はただカガミに微笑を浮かべているだけで、危害を加えようとはしていない。俺がカガミの方を見ようとすれば、彼はそっと顔を背け表情を見せてくれなかった。


「しかし力無き人間から見ればそのような者達は『神』に等しいもの」
「はぁ、そうですね……」
「君がこの話を聞いて何を思うかは自由。だが私は道を示した」
「……道を示す?」
「私から告げることは以上。どうかよく見聞きせよ、さすれば道は開ける」


 最後にそう言い切る男性の声は迷いが無い。
 きっとこの神社の神主なのだろうと俺は思い、暫し地面を見るようにして考え込む。夢の世界に存在する神のような者。夢の世界でお告げを貰っていた民。お告げによって災いを避けていた人達。
 それは『神話』の世界のはずだ。
 口伝で伝え続けられている物語であり、現実かどうかなど定かではない話。でもあの男性はしっかりとした口振りで一連の話を俺に言い聞かせた。
 でも何故?
 俺がその話を聞いていたのは偶然。そして夫婦杉に来たのも偶然。男性に出会ったのも偶然――のはずだ。頭の中に沢山の疑問符が浮かび、そして溜まっていく。


「あのっ――あれ、いない!?」


 ついに耐え切れなくなった俺は混乱の原因を語り聞かせてくれた男性に直接問いかけようと顔を上げた。
 しかしそこに男性の姿は既に無く。


 カガミは俺の隣に立ち、腕を組んで何事か考えている。
 その神妙な表情と雰囲気は夫婦杉の気の影響もあるのか、カガミを改めて人ではない事を知らせた。纏う気は人間と変わらない。でも彼はそう見せかけているだけであって、本質は決して『人間』ではないのだ。


 話の途中一度カガミの方を見て微笑んだ男性。
 一切今回の話題に触れず、むしろ俺に対して避ける様な素振りを見せたカガミ。


 彼ら二人にしか通じなかったものがあったようで、俺は少しだけ心が痛んだ。これは自分の理解力が悪いせいなのかもしれないけれど、と心の中で卑屈になる。
 だけどその気持ちだけはカガミは汲んでくれたようで、理解に苦しみ拗ねた俺に対してぽんっと頭が撫でられる。その手の温度が心地よくて、結局一度深い溜息を吐き出した後、俺は自分の顔を叩き、そして鞄の中からあるお守りを取り出した。
 それは旅行前に借りていた二十年前の高千穂神社のお守り。
 母さんが唯一あの旅館の思い出として持っていたであろうものだった。


「カガミ。俺、これが縁の物だと思う」
「……」
「深層エーテル界に行く為に必要な縁の物はきっとこの神社のお守りだ」


 お守りを握り締めながら真剣に俺はカガミへと声を掛ける。
 彼自身は深層エーテル界に俺が行く事に反対しているが、俺が行くと決めた以上決してそれ以上の制止は掛けてこない。だけど今だって心配げに俺を見ているのが判った。だからもう一回言う。納得して貰えないなら何度でも言うだろう。


「カガミ、見える? あそこ」
「…………」
「さっきまで良く分からなかったんだけど、あの男の人に気を当ててもらったせいかな。あの夫婦杉の思念が今は規則的に渦を巻いているのが見えるんだ」
「……そうか。見えるようになったのか」
「カガミは見えてた?」
「否定はしない」
「――俺さ、道が見えるんだ。えっと道って言っても地面じゃないぜ。こう、気が分かれて……ってカガミには説明しなくてもわかるよな。『見えてる』んだから」
「ああ」


 それは常人では見えない空気のような道。
 神木と呼ばれるだけのことはあると感じながら流れていく道筋を俺は視覚ではなく感応能力の目で見ていた。
 入り口のような場所を見つけると俺はそちらへと向かう。カガミもまた後ろをまっすぐ付いてきて二人一緒に夫婦杉が形作る『道』へと足を踏み入れた。
 俺の手にはお守りがしっかりを握られており、決して落とすまいと力を込める。


 ふと、何かを通り抜けたような感覚。
 それは神社なのに、神社ではない場所に出たと言った方が正しく身体が緊張し始めた。
 ――何かに導かれている感覚がある。夫婦杉に触った時のように、おいでおいでと手招きされているような……でも、決して先程のような強制的なものではない導き。
 それに惹かれて進めば、お守りを持った手とは反対の手――俺の左手にカガミが手を絡ませてきた。


「行くぜ、カガミ」
「いつでもどうぞ」


 たったそれだけの確認の言葉と交わす視線。
 たったそれだけで通じ合う事が嬉しくて思わず俺は笑ってしまった。


 此処は現実であって現実ではない場所。
 ならばどこか。
 そんな事は俺には分からない。けれど進むべき道は知っている。良く見て、聞いて、――どうしても迷っていたら手を引いてくれる案内人という『最強の守護者(かみさま)』が俺には付いているから。


 自分の身体が保てなくなり、分解する気配。
 それは不思議と怖くは無かった。まるでそれは眠りに入る瞬間のようにあまりにも自然だったから。そんな俺に対してカガミは変わらず個を保ったままだったけれど、それは恐らく存在のあり方の差なのだろう。
 意識が入り込んでいく。
 どこかに。
 導かれるように。
 次第に手の中のお守りが温かくなり、俺はカガミにも見えるように右手を持ち上げた。それは手の上で淡く光り、そして――。


「カガミ、糸を見つけた」


 お守りと何かが引き合って、一筋の糸を生み出して惹き合う。
 そう、此処がどこかなど、――そんな事は慣れ親しんだ精神はとっくの昔に知っているのだ。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 さて、第十二話もとい第二部・第二話のお届けです。
 今回は道に至るまでのお話。最後のプレイングがちょっと曖昧だったので、こちらでマスタリングさせて頂きまして、肉体を得たまま道を進む表現を使ってみました。
 ただし、途中で空間分断表現も入れましたので、肉体ではなく精神体で潜ったでも有りなのでそこは工藤様にこだわりが御座いましたら後々のプレイングに組み込んで頂ければ幸いです。
 (その場合は恐らく気絶状態ですね。話の中では真夏なのに!/笑)

 例の男性がカガミになんだか挑戦的?だったのでどうしようかと思いましたが、これはこれで楽しく書かせて頂きました、有難う御座います^^
 ではではまた次をお待ちしております!