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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.13.5 ■ 五年という月日





「それにしたってさ、そろそろ教えてもらえるかな? 世間話や昔話は嫌いじゃないけど、そんな事する為にわざわざ私にコンタクト取った訳じゃないでしょ?」
「…はぁ、お前は相変わらず直球な人間だな」
「プロセスは大事だけど、武ちゃんと私の間に今更そんな前置きいらないでしょ?」

 相変わらず、とでも言うべきなのだろうか。
 茶髪の見た目十代中盤程度の溌剌として飄々とした雰囲気を出しながら、核心に迫る時は何の躊躇もなく踏み込む。憂はそういう人間だ。
 無駄な気遣いをせずとも付き合える相手、という点では武彦も苦労しないのだが、目の前にいる憂はIQ200以上の超天才。その度量を推し量りかねてしまう。

「ま、世間話や昔話をしに来た訳じゃないのは確かだ」
「にっひひ、そうだと思ったよ」
「掻い摘んで話す事になるんだが、最近の虚無の動向を知りたい」
「“虚無の境界”の事?」
「あぁ、そうだ」
「ふーん…。本当にそれだけ?」

 憂の言葉は真意を聞き出す言葉だ。下手な誤魔化しや嘘をついても全て整理されて粗を探し出し、そのほころびをあっさりと論破するだけの知識を持っている。
 だからこそ、下手な嘘は通用しないと武彦は知っている。

「正確には活動や目的について詳しく知りたいんだが、色々とお前の立場に対して伏せなきゃいけない事情もあるんだ」
「口外されちゃマズい内容も抱えているって事?」
「あぁ」
「えぇぇー! ショックだなぁ…」
「は…?」
「武ちゃんは私の事、口の軽いガキだと思ってるんだね…。だから私にはそういう話をしたくないって事なんだよね…。そうだよね、数年間も音沙汰なかった人だもん。私から連絡したらエージェントに探りを入れられるからって気を遣ってあげてたのに、武ちゃんはこういう時しか私を頼ってくれないんだよね」

 ガックリと肩を落としながら涙を溜めて憂が捲し立てる様に早口でネガティブ発言を開始した。
 ――と同時に、しまった、と言わんばかりに武彦は顔に手を当てて重い溜息を吐き出した。

「いや、憂。ちょっと待てって…――」
「―気休めの安い優しさなんて要らないんだからね。私はいつか武ちゃんが私に会いに来てくれると――」
「―わぁーったから、落ち着け! 話すから!」
「わーい」

 昔からこの流れになるからこそ、武彦は先程重い溜息を吐いたのだった。
 こうして自分が折れなければ憂は延々とネガティブな発言をして自虐しながら武彦の心をチクチクと攻撃するのだ。
 ――完全に理解した上でやっているという事は切り替えしの早さから解るだろう。

「実は虚無の連中が“能力付与”を行った可能性があるんだ」
「―ッ、詳しく聞かせて」

 憂の雰囲気が一瞬にして切り替わる。やはりスイッチの切り替えは慣れたものだ、と武彦は小さく感心してしまった。
 張り詰めた雰囲気の中、武彦が憂を信じて意を決して話しを始めた。





「―成る程ね…」

 話しを一通り聞いた憂が近くにあった独特な形をした壁に取り付けられたパソコン端末にアクセスを開始した。
 憂が操作している端末は、独自のネットワークに繋がる能力者の管理情報を調べる為のIO2専用の端末だ。利用出来るのはそれなりの権限を持っている憂や昔の武彦クラスでなければ、上層部立会いの下で使用する事しか出来ない。

「“黒 冥月”…。武ちゃん、解ってるよね? 推定能力値と犯罪履歴から、IO2では超要注意人物指定、SS《ダブルエス》ランクの犯罪者だよ?」
「解ってる」
「…まいったなぁ。SSランクって言えば、虚無に所属している幹部クラスと同等な扱いになっちゃうね。一年前から消息不明って書いてあるけど、まさか武ちゃんと一緒にいるとはなぁ…」
「だが、今は殺しも犯罪もしちゃいない…! 確かに常識から外れてる部分はあるんだが、根っからの危険人物って訳じゃねぇんだ」
「…ほほ〜ぉ?」

 武彦の言葉を聞いていた憂が目を輝かせて武彦を見つめる。端末に映し出された遠巻きな写真では判断しかねるが、顔が整っている事は憂も見て解っていた。
 そんな憂の視線に、思わず武彦がたじろぐ様に憂を見つめた。

「にゃるほどにゃるほど。彼女が今の武ちゃんの恋人さんかー」
「な…ッ!! ちょっと待て! どうしてそうなるんだ!?」
「いあいあー、武ちゃん解り易いなー。この黒 冥月の話をしてる時の武ちゃんの表情、すっごい真剣だったしねー」
「そりゃ、その…。アイツは利用されてきた事で自分が人を殺してきた業を自分だけで背負おうとしやがる…。甘え下手と言うか何て言うか、ちょっと危なっかしくてな…」
「つ・ま・り、放っておけないって事でしょ?」
「ニヤニヤしながら言いやがって…。そうじゃなくて…――」
「―解ってるよ」

 不意に、憂が少し寂しげな表情を浮かべて武彦の言葉を遮った。その突然の雰囲気の変化に、武彦もつい黙り込んでしまった。

「お姉ちゃんの事もそうやって庇ってくれたもんね、武ちゃんは」
「―…ッ、だが、アイツはそれを望もうとはしなかった…」
「ううん。本当は凄く嬉しかったんだよ。だけど、嬉しいからこそ、苦しかった部分もあると思う」
「憂…。俺は――」
「―って事で武ちゃんに情報はあげても良いんだけど、その前に信頼出来るかどうかをテストさせてもらいまーす!」
「…は?」

 シリアスな雰囲気を作り出したかと思ったら、唐突に雰囲気を崩して拍手をしながら武彦に向かって憂が告げた。
 そう言えばこいつはそう言う奴だ、と武彦は思い出す。
 頭が良いせいか、色々な事を一瞬で導き出す。そのせいで、周りの空気をぶち壊す事に躊躇しない。お陰様で自分も昔は随分振り回されたと。






―――

――







 一方、草間興信所。
 相変わらずのワンポイントが胸元に入っていたシャツ。そして今日百合が着ているのは随分と可愛らしい豚の顔が描かれている。
 さすがにこれ以外の服はないものかと百合が零に向かって散々抗議をしていたが、そんな横に冥月が歩み寄った。

「うん、似合っていて可愛いぞ」
「お、お姉様…。それって私個人としては嬉しい言葉ですけど、このシャツが嫌で言い合いしている真っ最中なんですけど…」

 知った事か、とでも言わんばかりに百合の頭を撫でながら冥月が微笑むと、百合が諦めたかの様に小さく溜息を漏らした。その様子を見て百合が納得してくれたと勝手な解釈をした零が家事に戻ってしまった。

「百合。お前の能力の事なんだが、あれは命が危ない時以外に使うな」
「え…?」

 不意な冥月の言葉に、百合が冥月の顔を見つめる。

「お前の事は私が守ってやる」
「でも、あれはやっと私が手に入れた力で…――!」
「―そうだな。では体術を覚えろ。能力無しでも戦える様になれば良い」
「…え…」
「昔の様に色々私が相手をしてやろう。昔と違って、今の私はちゃんと指示してやる事も出来る。安心しろ」
「…え、遠慮させて頂いても…?」
「何だ、私に遠慮する事はないだろう」
「えっと、お姉様の場合は訓練のレベルが違うと言いますか、その…。って、いつの間にか影で飲み込まれて…――」

 百合は今でも憶えている。冥月は幼い頃から自分達の鍛錬の数倍もの量を平然とこなし、自分達の為に減らしてくれた筈の鍛錬だったにも関わらず、その苛烈さはちょっとしたトラウマになる程のメニューだったのだ。
 そんな百合の悲痛な言葉を遮る様に百合と冥月が影の亜空間へと入り込む。
 赤黒い世界なんとも不思議な光景を目の当たりにした百合が、思わず口を空けて周囲を見回す。
 そんな百合を背に、冥月がそのまま百合との距離を空ける様に歩いていき、間合いを取って振り返る。

「さて、いつでも良いぞ。かかって来い」
「…能力無しの組み手なんて、本当に懐かしいですね…」

 百合が思わず噛み締めるかの様に呟く。その表情は何処か嬉しそうな、そんな笑顔を浮かべていた。

「行きます!」

 百合が駆け出し、冥月との訓練が始まる…――。




 ――ハズだった。



「―まったく! 病み上がりなのに無茶をさせるなんて何を考えているんですか!」
「…め、面目ない…」

 数十分後、つい力加減を誤ってしまった冥月の一撃に目を回してしまっていた百合を連れて影から出て来た冥月は、零に説教されながら座って小さくなっていた。

「良いですか、冥月さん。お兄さんがいない間、私は二人の面倒を見る様にと言付かってます。それなのに、面倒を見なくてはならないあなたが無茶をさせてどうするんですか?」
「…返す言葉もない…」

 まるで大人に怒られている子供の様に冥月が小さくなってしょげている姿は、なかなか貴重な一瞬だったのかもしれない…。




                                        to be countinued...


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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

それぞれの展開を見せ、閑話な形で織り交ぜられていますが、
こういうストーリー展開も楽しいですw

頂いたプレを楽しませて頂いてますw

さてさて、今回のお話しから色々進展しそうな気がしますが、
お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司