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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


●斡旋屋―雨遊び―/セレシュ・ウィーラー

 止むコト無く降り続く雨。
 梅雨と違う事は、その雨に冷気が含まれている事だろうか……?
 顔にひんやりとした冷気を感じながら、セレシュ・ウィーラー(8538)は、ゆっくりと瞬いた。

(「ややこしいのにおうたなぁ……」)

 溜息の一つ吐いてもいいところだが、セレシュは場を弁えている。
 目の前の少女、そして人形……少女がセレシュへ、声をかけた。
「どうです、お茶でも」
「雨宿りがてら、お茶するだけならええけど……有無を言わさず、斡旋するのは勘弁な」
 婉曲な了承だったが、少女、斡旋屋(NPC5451)には伝わったようだった。
「大丈夫ですよ。本日は休業ですから」
(「胡散臭い――」)
 胡散臭げな視線を向けたセレシュだが、先だって喫茶店の中に入った斡旋屋を追いかけるように、店内へと入る。
 雨で足止めされた人々が、他愛もない話に花を咲かせていた。
 その中の開いている席に座った二人は、メニューを見、そしてお互いオーダーを告げる。
 セレシュはアイスティ、斡旋屋はグリーンティだ。

「そう言えば……この前の魔術師とは、ちょくちょく情報交換しとるよ。お互い、得るものがあるさかい」
 口火を切ったのは、セレシュの方だった。
 この前の魔術師――セレシュと斡旋屋が出会う切欠になった、魔術師の事だ。
「この前は先に能力を聞いとったから楽に勝てたけど、色々やり取りしてると、かなり実力があるのがわかったわ」
「ええ、曲がりなりにも千の魔法を持つ魔術師。……でも、意外ですね。彼女は孤独を好むと思っていましたが」
 斡旋屋の言葉に、店員の持ってきたアイスティを飲んだ後、口を開く。
「孤独を好むって言うより、人を寄せ付けへん感じやね。ただ、真っ当な性格やないのは今更ゆうてもどうしようもないけど……」
 ちらり、と斡旋屋を見、そしてセレシュは人形に視線を移す。
 少しだけ首を傾げ、斡旋屋と人形はその様子を観察しているようだった。
「金銭感覚が少しおかしいのだけは、どうにかした方がええと思うわ、ほんま」
 後払い、でも倍額払う……前回はそこで揉めたのだ。
 手持ち金がなかったのか、面倒だったのかは知らないが――あまり賢明だとは思えない。
「(やから、こんなえげつない斡旋屋に毟り取られるんや)」
 半分は『褒め言葉』でもあるが、セレシュは口に出そうとはしなかった。
 えげつないと言われて、喜ぶ相手でもないだろう……外見とは裏腹に、図太い性質の斡旋屋が気にするとは思えないが。
「彼女の金銭感覚のおかしさは、此方としては喜ぶべき事です」
「……次は、付いて行かへんで?」
「斡旋料を速やかに払って頂ける事を、願っておいて下さい」
 商魂たくましいなぁ、と何処か諦念の思いでセレシュはストローで軽くアイスティを掻き混ぜる。
 カラカラと氷同士がぶつかる音が、涼やかに響いた。
「……そういえばこの前取り立てたもん、幾らくらいになったん?」
「市場価値で申し上げれば、5万程。ですが、それ以上の価値があると踏んでいます」
「ほんまに……逞しいなぁ」
 えげつない、と言いそうになってセレシュは言葉を改めた。
 斡旋屋は涼しい表情のまま、仕事ですから、と言い切る――セレシュは心の中で、自分が斡旋料を払う機会がない事を、切実に祈った。
 鍼灸マッサージ師の仕事では、少々高めの斡旋料だ。

「聞いてもええんやったら教えて欲しいんやけど、後ろの人形ってどういう存在なん? 普通の人には見えとらんみたいやけど」
「ヒトガタが気になりますか?」
 ……ヒトガタ、と呼んだ人形に意識を向けた斡旋屋は、セレシュの方へと意識を戻した。
「ヒトガタ?」
「人の形をしているので、ヒトガタ。合理的でしょう」
「――そのセンスに脱帽するわ」
 白いからシロ、と言うネーミングセンスと変わらないではないか。
 だが、少しの皮肉も斡旋屋は平然と受け流し、言葉を続けた。
「ヒトガタは、人だったものです。言わば、命の形ですよ……私達の、護るべきものでした」
 婉曲な、と言うよりは説明し難い、と言う雰囲気を感じ、セレシュはほう、と息を吐いた。
 この斡旋屋にも、躊躇いなんてものが存在するのか。
「今は、ヒトガタが護ってるように見えるけど」
「ええ。今は――用心棒のようなものです。命の形ですが、肉体を持っていないので普通の人には見えないようです」
 遺憾に思います、と続けた斡旋屋の言葉に、諦念の様なものを感じてセレシュは口を噤んだ。
 話しても構わない、事ではあっても話したくはなかったのかもしれない。
 ……いや、話したくなければ、目の前の人物はキッパリと断るだろう。
(「なんや、事情がありそうやなぁ」)
 一口、飲んだアイスティは少しだけ苦く感じた。

「なぁ、お金以外に趣味とかあるん? 前回はお金の話しかしとらんかったし」
「お金、と言うよりも本が好きなんです。希少価値の高い本はどうしても値が張りますし、だからお金も必要になります」
 本はいいですよ、と勧められてセレシュは少しだけ、苦笑を浮かべた。
 どの本がいいのか、サッパリ分からないがその様子を見る限り、本は全て良いと思っているのかもしれない。
「ウィーラーさんに協力をお願いした取り立てでは、素敵な本を仕入れる事が出来ました。感謝しています」
「……そりゃぁ、嬉しいなぁ」
 棒読みになっていない自信は、残念ながらなかった。
「特に画家の描いた絵本、が一番印象に残りましたね……保存状態もいいですし、何より綺麗です」
「へぇ、どんな本なん?」
「今は持ってきていませんが、花が咲いて枯れるまでの一生を描いたものでした。素敵なものですね、命と言うのは」
「……そうやなぁ」
 命が無い様な口調ではあったが、それには同意せざる得ない。
 もしかしたら、その斡旋屋は花の命に何かを、重ね合わせているのかもしれない……例えば、ヒトガタ、と呼ぶ隣の人形を。
 虚ろな穴と視線があった気がした。
 陶器のような艶やかな白をしたヒトガタは、無感動に此方を見ている。
(「居心地悪いなぁ――」)

「そう言えば、ウィーラーさんはアンティークショップ・レンの常連客ですよね」
「……ん? 何で知ってるん」
「この前、売りに行った時に拝見しましたので。随分と、熱心に見てらっしゃったので、常連客ではないかと」
 あまり、聞きたくなかった事実である。
 まあ、曰くのついたものは曰くありげな人物からもたらされるのかもしれないが。
「あそこは、色んなもん置いてるからなぁ。見るんは好きやで、常連客と言えるんかわからんけど」
「碧摩さんの観察眼には、感服致します」
 そう口にした斡旋屋は、口調こそ大人びているものの、素直に感心しているようだった。
 いつも、そうやって殊勝でいれば可愛いのに、という言葉を飲みこむ。
 それはそれで、不気味な様な気がした。
「なあ、さっきから思ってたんやけど……グリーンティ、飲まへんの?」
「香りが好きなんです」
 ……解せない返答である。
 喫茶店のグリーンティからは殆ど香りが感じられないが、斡旋屋は別なのだろうか?
「自分、贅沢やって言われへん?」
「言われた事はありませんが……贅沢、かもしれませんね」
 ゆっくりとコップを伝う水滴が、テーブルを濡らしていく。
 止まない雨の音と、そして人の他愛もない会話。
 沁み渡るような、喫茶店のBGMと――この店のどれ程の人が、本当に『人間』であると言えるのだろうか。
「それにしても、止まへんなぁ……こう言う日には、膝が痛いって言いだす人が多いんよ」
「へぇ、それは知りませんでした。天気に左右されると言うのは、不便でしょうね」
「まあ……そう言う人がおらんかったら、商売あがったりなんやけど」
 鍼灸マッサージ師をやっているのだ、とセレシュは告げる。
 表情一つ変えず、意外でした、とのたまった斡旋屋を軽く睨みつけながら、アイスティを飲んだ。

 止まない雨も、何時かは晴れる。
 分厚い雲の合間から覗いた太陽が眩しくて、セレシュは目を細めた。
「じゃあ、そろそろ出よか。楽しかったで、それなりに」
「此方こそ、楽しい時間をありがとうございました」
 また、お会いできればいいですね……と斡旋屋はゆったりとした口調で紡いだ。
 何時もの淡々とした口調であれば、それは遠慮、と言いたいところだが、祈るようなゆっくりとした口調に思わずセレシュは口を閉じ。
「そうやなぁ……また、機会があれば。有無を言わさん斡旋は、ごめんやで」
「考えておきます」
 ――やはり、食えない相手である。
 手を振り、そして背を向け、セレシュと斡旋屋は、お互いの日常に戻っていくのだった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21 / 鍼灸マッサージ師】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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セレシュ・ウィーラー様。
発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

前回の魔術師も気に入って頂けたようで、幸いです。
アンティークショップ・レンについても少しだけ、触れさせて頂きました。
ガールズトーク(?)をするセレシュ様と斡旋屋ですが、気に入って頂けますように。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。