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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


〜戦いは夫婦の絆?!〜


 カリブ海、オランダ領キュラソー島。
 ここに、三島玲奈(みしま・れいな)と、その夫、目下ニート生活満喫中のクレアクレイン・クレメンタイン(くれあくれいん・くれめんたいん)が住んでいる。
 テレビから流れるのは、遠い日本の風景、京都。
 受刑者の子供を預かる施設にて、愚図る子供に名画を見せて一瞬で黙らせてしまう凄腕の保育士がいる、という特集番組だ。
 ほけーっとテレビを見続けるクレアに、バスルームからリビングに戻って来た玲奈の怒りが爆発した。
 「便座は下げといてよね!稀に掃除ぐらいしたら?太るよ」
 嫁はたいへん口うるさい。
 クレアはソファの背もたれにぐでんと寄りかかると、大げさなため息をはあああ、と吐き出し言った。
 毎日こうだ。
 女性の身体に入ってからというもの、玲奈の小言は増えるばかりである。
 「は〜俺も癒されてぇ」
 クレアには、画面の中の保育士が、福々しい笑みを浮かべ、壁から絵画を外す手つきまでもがやさしさをもたらしているかのように見えているのだろう。
 げしっ、と玲奈からの容赦ない足蹴を喰らいながら、クレアは画面の中のある一点に視線を注いだ。
  あれは有名な絵画だ。
  そう、確か、レンブラント作の「ガラリヤ海の嵐」ではないだろうか。
  キリストが航海の無事を祈る絵には不思議な癒し効果が在るとは言われているが、どうしてそんな貴重な絵が京都の一保育園になど置いてあるのだろうか。
  その前に、
 「ほよ?あの絵って確か盗品じゃね?」
 「無論複製でしょ。和蘭の国宝よ」
 答えたそばから電話が鳴った。
 応対した玲奈が、渋い顔で電話を切る。
 「まさかのまさか、よ。どうやらあれ、ホンモノみたいね」
 ふたりは急に慌ただしく動き出した。
 すぐにあの絵を奪還せよ――女王陛下からの正式な依頼が下ったのだ。



 ふたりは京都に降り立った。
 クレアは相変わらず自分の容姿に不満そうな視線を送っている。
 駅を出るや否や、玲奈はふふん、と鼻を鳴らして夫に言い切った。
「そうそう、岩船神社に癒しスポットがあるのよ。観念して女子の遊びを堪能なさい」
 岩船神社は、頑丈な半地下式の弾薬庫が並び、かつて皇兵の屍が遺棄された土地に建っている、いわくつきの陸自祝園弾薬庫を挟んで、祝園神社の反対側に位置する有名なパワースポットである。
 天の浮舟とされる御神体や天の岩戸と称する洞窟などがあり、女子に人気なのだ。
 するとクレアは何を勘違いしたのか、容姿に似合わず鼻息を荒くし、歓声を上げた。
「ギャルスポット?女だらけ。うほっ」
「ばかあっ!」
 玲奈の肘鉄が華麗にクレアの腹部に炸裂した。
 
 
 
 玲奈たちが到着した日の深夜、祝園神社付近の井戸に、ひとりの女性が姿を現した。
 祝園神社では毎年、争いに敗れて鬼神と化した皇族を討つべく、神を呼ぶ儀式が催される。
 その儀式に立ち会う予定だった司祭を、その女性――例の保母は速やかに拉致し、連れ去った。
 おびえる司祭から無理やり、召喚した神を帰す方法を聞きだし、手荒く縛って弾薬庫に放り込んだ。
 儀式は厳格な作法に則って行われる。
 その手法を知る者がひとりでも欠ければ再度呼び出すことはできない。
 保母はドアを呪法で封じ、即座にその場を立ち去った。
 
 
 
 翌日、岩船神社にくり出した玲奈とクレアだったが、クレアは自分が何度も人に振り返られるのを見て、上機嫌になっていた。
「へっへー。白ワンピと黒髪が風に靡くでしょ。俺って可愛い?」
 自慢げに嫁にそう言うと、「調子に乗りすぎ!」といつもの肘打ちが飛んで来た。
 いてて、とうめきながら何か言い返そうとしたその時、甲高い悲鳴がクレアの鼓膜を貫いた。
「今のって…」
「幻聴じゃないわ。こっちよ」
 いち早く走り出そうとした玲奈の背中に、クレアが警告を発した。
「玲奈、浮舟の山向こうは陸自の基地だぞ」
「鬼神を封じる神が居ないわ。何故?」
 周囲の空気がおかしいことを察して、玲奈の顔がくもる。
 本来ならここには多くの司祭がいて、儀式を行い、神が召喚されているはずだ。
 玲奈とクレアなら、その気は確実に感じ取れるのに、気配すらない。
 ふたりは周囲の人々に手あたり次第声をかけ、原因の究明に当たった。
「なるほど…囚われてるのは司祭と子供たちね」
 まだ原因の詳細はわからないが、囚われている場所は特定でき、ふたりは陸自祝園弾薬庫へ向かった。
 
 
 
 保母の正体は、日本に恨みを持つオランダ商人の子孫だった。
 レンブラントの絵を用いて得た生贄をドルイド神に捧げる見返りに、甦った浮舟で仇為すつもりである。
「許せねぇ」
 クレアはエルフ譲りの長弓で、神の束縛を逃れた鬼神を射つづけた。
「あんたの好きにはさせないからね!」
 同じく紅蓮の怒りに支配された玲奈が、霊刀で切りかかる。
 鬼神を倒させまいと、ドルイド僧は浮舟から礫を撃つが、怒り狂ったクレアの矢にことごとく撃ち落とされた。
 そこでようやく形勢の不利を悟ったドルイド僧が逃げの一手を打とうとしたが、
 「甘いわよ!」
 玲奈が呼んだ玲奈号が、ドルイド僧の浮舟を圧倒的な質量をもって押しつぶした。
 断末魔の悲鳴があたりに響き渡り、やがてそれがやんだとき。
「をばちゃ〜ん」
 生贄にされかかった子供たちが、一斉にクレアに抱きついた。
 感動の瞬間かと思いきや、
「ガキっていいよなあ」
 意味深な視線を投げつつクレアが放った一言はその場の空気を滅殺し、
「こらあ」
 玲奈の必殺の蹴りが、クレアの細い背中にびしっと決まった。
 
 
 〜END〜