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+ カボチャ王国VSジャック・オ・ランタン【前編】 +
「とりっくあんどとりっく!」
ハロウィンの夜、ステッキを持った魔女っ子が貴方に魔法を振りかけた。
その瞬間視界は歪み、地面が揺れる。
やがて目を開いた時に目の前に現れたのは――。
「でっかい南瓜ー!!」
「『でっかい南瓜』ではない。私の名はカボチャ大王二世です」
「でっかい南瓜に顔が付いてて王冠被っただけじゃん!」
「そこは突っ込んではいけません。それでも私は大王二世なのですから」
えっへん。
どこが胸なのか分からないが人間サイズの南瓜が胸を張り偉ぶる。
周りを見れば一面の南瓜畑。大王はその中でも一際大きい南瓜だった。
だがへにょへにょと頭の蔓をしおらせ、カボチャ大王二世は言った。
「じつはですね、同じカボチャ仲間であるはずのジャック・オ・ランタン種族がハロウィンと言う事で我が王国で暴れまわっているのです。国民を勝手に収穫し、ハロウィンと言う事で彼らの特殊能力「増加」を使って仲間を増やし悪戯する気ではっするはっする――と!!」
「悪戯する気ではっする……って良くわかんないけど!? それで何が問題なわけ!? カボチャあってのジャック・オ・ランタンじゃん!」
「いやー、国民達が勝手に収穫されるのは私も困りますし、ハロウィンが終わったら国民がポイ捨てされるのも見てられません。――そこで、ですね。紆余曲折あって、仲良くなった魔女っ子に助けを依頼して、今色んな世界から応援を頼んでいるところなんです。貴方もその一人」
「――はぁ!?」
「貴方も別世界からやってきた異世界人ですよね。帰りたいでしょ。と、言うわけでして、私達では対処に困っておりまして、申し訳ありませんが異世界人さん。ジャック・オ・ランタン達を捕まえる、もしくは王国から手を引くようにして下さいませんか」
「自分達でやればいいじゃん!」
「だってー、私も部下もカボチャですよ。畑から動けないのです」
「…………」
「根性出しても蔓でずりずり、秒速三十センチ以下。どうです。この役立たなささ!!」
―― やっぱりただの『でっかい南瓜』なんじゃん。
ある一人の異世界人は心の中で突っ込んだ。
■■【scene1:顔合わせ】■■
「……また異世界巻き込まれ系か。慣れてきた自分が怖いんだけど」
そう言って呟いたのは高校生男子である工藤 勇太(くどう ゆうた)。
彼は突然現れた魔女っ子により買い物の最中、私服姿のままこの場所に飛ばされてしまった。とりあえず様子見とばかりに一人の異世界人とカボチャ王国の王様のやり取りを眺めながらがくっと肩を落とした。だが、自分の世界もそうだが此処も現在ハロウィンの真っ最中。それならば、と彼はある決断を下す。
「もしかして――えいっ!!」
試しとばかりに自分の秘密能力「チビ猫獣人変化」を使ってみる。
ぽふんっと言う可愛らしい音と共に彼の姿は一瞬にして五歳児程度の肉体へと変化し、そしてその頭には猫耳、手足は猫手に猫足。二足歩行の立派なチビ猫獣人が出来上がった。服装もハロウィンとあってきりっとそれらしくタキシード姿。
その変化に好奇心から近寄ってくるカボチャ達が居た。
「えっへんにゃ!」
「あらあら、ちっちゃい猫ちゃんですわー」
「こんな子まで召喚しちゃうだなんて魔女っ子も人を選ばないようになったものね」
「なぁに言ってるの。あの子昔から人なんて選んでないじゃない」
囲むカボチャに囲まれる勇太。
ひょいっと勇太はそのうちの一つを抱き上げ、マジマジと観察をするが。
「こいつらどっからどーみてもかぼちゃにゃ。にゃのにしゃべってるにゃ……えい!」
「きゃあ! 齧られたー!」
「……食べられにゃいにゃ」
「きゃー、野蛮ですわー! 煮てもないのに食べられるはず有りませんのよー!」
どうやら女性だったらしいカボチャ達が転がるようにして逃げていく。一瞬にして自分の周りががらがらに空くと、このカボチャ達実は意外と素早いのではないかと勇太は思った。
「あら、勇太君じゃない」
「にゃにゃ?」
「あ、猫さんの方の勇太さんですね。こんにちは」
「にゃー!! ハスロ夫婦さんにゃー! う、二人の仮装が眩しい……っ」
勇太に声を掛けたのは二人の男女。
男性――ヴィルヘルム・ハスロの今の服装は吸血鬼の仮装。それに同色のフリルタイ付きの白いブラウスに茶色のベスト、更にその上には黒のロングコートを纏っており、すらりと長い足には黒のズボンという見事なもの。
そして彼の妻である女性――弥生・ハスロ(やよい・はすろ)は魔女の仮装。ダークレッドのロングドレスにウィッチハットという普段のクール系の彼女とはまた違った印象をもたらす格好である。更に雰囲気作りとして典型的な箒(ほうき)と所持しており、まさに夫婦は誰もが認める美男美女カップル。カボチャ達からも「麗しいですわ、美しいですわ!」などと声が上がる。
そんな二人のあまりにも決まりっぷりに勇太は顔の前に手を翳し、何となく感じた後光を避けるかのように振舞った。
「しかし喋るカボチャなんてどういう仕掛けなのだろう? ね、弥生」
「そうね。大王なんて凄く大きくて……こんなサイズのカボチャ、スーパーでも八百屋さんでも見たこと無い!」
「あ、突くのは止めて、くすぐったいです! あ、あ!」
弥生はついつい悪戯心が湧き出てカボチャ大王二世をつんつん突く。
どうやら感覚はあるらしく、彼女が突くたびに大王が反応する。それが面白くてついつい、つんつんつんつんつん。あ、止めて、悲鳴が出ちゃう。つんつんつん。ぎゃー! 以下略な触れあい中。
そんな一人と一体? を「平和じゃないか」とつい和やかに見ていたヴィルヘルムの足に何かが絡む。彼が視線を下ろすと其処には数体のカボチャ。絡んでいたのはカボチャの蔓だった。
「そこの異世界の方! わたくし達は仕掛けじゃありませんわー!」
「え、違うんですか」
「私達はカボチャ王国の民。外見は確かにカボチャかもしれませんが、貴方達と同じように生きてますのよ!」
「それはそれはとんだ失礼をしてしまった。可愛いカボチャさん」
「きゃー! 格好良い男性に可愛いって言われちゃったー!」
カボチャなのに美意識は似ているのか、黄色い声があがった。
さて当のヴィルヘルムはというと異世界に連れてこられたにも関わらず全く動じていない。
王様と国民ぎっしり状態にはやや驚いてはいたが、最初は作り物だと勘違いしてためだ。だが、国民達の必死の訴えによりやっぱりこの場所は異世界なのだと再認識する。興味津々で喋るカボチャ達から現状を聞きながら、彼は彼らの為にもジャック・オ・ランタン達をどうにか対処出来ないものか真剣に考え出した。
「あら、あっちの二人は――」
ふと弥生が何かに気付き、集まった異世界人の中から見覚えのある二人へと視線を向ける。それに倣ってヴィルヘルムと勇太もそちらに顔を向けた。しかし勇太は身長が低かったため人混みという壁に阻まれ「見えにゃい……」と猫耳をしょんぼりさせる。それを気遣ったヴィルヘルムが彼をひょいっと抱き上げ、大体同じ視線の位置まで来るように高さを調節した。その行動を見たメイドカボチャ達が「紳士ですわー」と頬を染めていたのは無理もない。
さてそんな風にして三人視線を向けた先には赤と青の水干姿の男女が何やら周囲のカボチャ達や大王に向かって色々している姿が目に入った。
「ふふ、折角の英里とのデートを邪魔して下さりやがりまして有難う御座います――刻んでもよろしいですか?」
青の水干衣装を身に纏った十代後半ほどの少年――鬼田 朱里(きだ しゅり)はアイドルスマイルを浮かべながら首をこてんと愛らしく傾げる。
普段は綺麗な敬語使いであるというのに、その言葉使いも今は怒りの為若干崩れて声色も低い。手の爪は妖力によって伸ばされ鋭く尖っており、更に言えば頭には小さな二本の角が生えている。どうやら彼は相当不機嫌らしく、その笑顔は非常に黒い。その雰囲気に圧されたカボチャ達は「ひぃぃぃ!!」と悲鳴を上げた。下手な事を言うと本当にやりかねない。そんな雰囲気が今の彼にはあった。
「おお、そうか。『じゃっく・お・らんたん』と言うのは南蛮南瓜の事じゃったか。ふむ、苦しゅうないぞ。南瓜共よ。わらわの傍に来るが良い」
「英里!」
「なんじゃ、朱里。そう怒らなくても良いではないか。のう、南瓜達」
「「「 可愛い女の子にナンパされちゃって胸がドキドキです!! 」」」
「うむうむ。愛いのう。愛いのう。わらわはそなた達の可愛い外見が気に入った。ゆえに今回の一件には協力してやろうと思う。その代わり主らを連れて帰っていいかのぉ?」
「「「 え、いいのかな。っていうか抱っこされてどきどき! 」」」
「駄目に決まってるでしょうが、この南瓜共!! そもそも胸なんてないくせに!」
「駄目なのか……残念じゃ」
朱里に突っ込まれ、赤水干を身に纏っている少女――人形屋 英里(ひとかたや えいり)はしょぼんっと頭部に生やしていた耳を垂れ下げる。
彼女の現在の格好は赤水干に本物の狐耳と九本の尻尾。普段三つ編みにし結っている金の髪の毛も今は下ろしており、和風狐美少女となっていた。更に言えば普段はどちらかというとクールな口調で物を喋る彼女だがついつい、悪のりで雅言葉を使っている。それが似合うものだから周りに居た使用人カボチャ達が「どこが胸だ」と突っ込まれたばかりの胸を高鳴らせている。
「ったく……おや、弥生さんこんにちは」
「こんにちは、朱里君。その頭の角凄いわね」
「もちろん作り物ですよ。良くできているでしょう?」
首をこてんと傾げ笑顔で返す朱里。
もちろん本性が『鬼』である朱里なのでそれは作り物ではなく本物であるが、此処で正体を明かす気は無かった。そして不機嫌ではあるもののそれを対象以外にぶつけるような暴走も彼は決してしない。いつもより若干黒さはあるものの、まだカボチャ達に向けていたものよりもさわやかな笑みで弥生へと微笑みかける。――が。
「きゃー!! カボチャ大王二世助けてよぉー!!」
「はははは、人の領域(へや)に踏み込んでおいて逃げるなんてええ度胸しとるやないか。この魔女っ子め」
「わーん! この人こわーい!」
ふとカボチャ大王二世のほぼ真上に魔方陣が出現し、そこから二人の女の子が落ちる勢いで登場した。片方は皆が「えいっ!」と魔法を掛けられ召喚した魔女っ子。箒にまたがってひょいっと空中移動した後飛び降り、今はカボチャ大王二世に抱きついてひっくひっくと何やら泣いている。もう一人はと言うとその背に生やした二対の金の翼を広げ、悠々と城の床へと着陸した。
「あ、セレシュさんにゃ!」
「お、弥生さんに……なんや、朱里さんと英里さんまで居るやないか。ほんまにあの魔女っ子何しに来よってん」
「セレシュさんも今日は仮装してるのね。その綺麗な翼はとてもリアルで綺麗……」
「あはは、今宵はハロウィンやろ。というわけで魔法や」
「私も気になるのですが……その先端が蛇になっている髪の毛は? 繋ぎ目も見えないんですが」
「魔法です」
「ふむ、何か随分と一つ一つが上手く動いてるのぉ」
「メデューサ系でしょうか? しかし本当に上手く出来ているな。興味が湧きました」
「以上、ぜーんぶ魔法です」
ゴスロリ風の服にヘアバンドを身に纏った外見十五歳ほどの女性は微笑む。
だが本人は二十一歳だと主張している眼鏡を掛けた成人女性で、その名前はセレシュ・ウィーラーと言う。
彼女は数々の問いかけに対して全部「魔法」だと言い切った。その背には黄金の二対の翼、髪の毛は蛇。……つまり、本来は『ゴルゴーン』である彼女は素の姿を曝け出していたのである。彼女はにこにこと本当にイイ笑顔を浮かべるとヴィルヘルムの腕に抱かれているチビ猫獣人を指差す。
「で、ご夫妻はいつお子さん作ったん? そちら弥生さんの旦那さんやろ?」
「にゃー!! 俺様夫妻の子供違うにゃー!」
「初めましてですね。皆さんのお話は弥生から兼ね兼ね聞いておりました。……あ、でも私達に子供はまだ早いかな。まだ二人の時間を過ごしていたいからね」
「まあ! ヴィルったら、照れちゃうわ……」
「ヴィルヘルムさんも言うところ違うにゃー! 弥生さんも何か違うにゃー!」
「ああ、その男性が噂の弥生さんの旦那さんなのか。じゃあその子は誰なのかのぉ?」
「えっと……」
「誰なんですか? さあ、きっぱりすっぱりと正体を明かしやがって下さいな」
「にゃ……にゃ、にゃ……」
「どこかで見たことあんねんけどなぁ。あ、そうや。勇太さんに似て――」
「に゛ゃー!! 違うにゃ! 俺は工藤 勇太じゃにゃいにゃー!!」
「――うち苗字まで言うてへんで? ん?」
ヴィルヘルムの腕に抱かれているチビ猫獣人を見ながらセレシュは小首を傾げた。
朱里と英里もまた四人の元へと集い、にこにこと笑顔を浮かべ彼の正体に付いて無言で迫ってみる。元々彼=勇太である事を知っている弥生とヴィルヘルムはどうフォローしようかと顔を合わせて迷うが。
「そこの金髪の眼鏡女、怒らせると本気でこわーいわよ」
「にゃー! 俺は工藤 勇太にゃー!!」
カボチャ大王二世に泣きついていた魔女っ子が呟いた言葉にもはやこのメンバーならば、ばれても構わないと勇太は自ら正体を明かす。ハスロ夫妻はその豹変っぷりに自分達が彼のその能力を知った時の事を思い出し、ついつい笑みを漏らしてしまう。
満足げにセレシュは頷き、朱里と英里もまた納得の表情を浮かべた。英里の方など勇太が生やした猫耳に興味を抱き、触りたくなりうずうずとしている。そのせいか己が生やしている尻尾もついつい、ぱたぱたと動いてしまった。
「で、結局何やの。この集会。多種族入り混じりやねぇ」
「お、俺がお話してあげるにゃ!」
ヴィルヘルムの腕からぴょんっと飛び降りた勇太はセレシュの手を取り、たたっと素早く城の壁の方へと走っていく。この面々の中で唯一彼女が人外であるという事を知った上での行動だった。
勇太の方はかくかくしかじかと簡単に説明をする。此処がカボチャ王国と呼ばれる異世界である事。そしてジャック・オ・ランタン種族達に攻められている事。魔女っ子が応援の為に異世界人を召喚しまくっている事。
そこで勇太はちょっと気になっていた事をこっそり聞いた。
「で、にゃんでセレシュさんは魔女っ子さんを追いかけてたにゃ?」
「あー、うちなぁ。侵入者は石に変えたくなるねんよ」
「にゃ?」
「うちの中にある行為衝動って言うてな――まあ、つまりこうや。うちが元々居た世界のハロウィンに参加する為に着替えてた時に魔女っ子がやってきたんやけど……」
そう言ってセレシュは人差し指を立て、事の発端を話始めた。
『とりっくあんどとりっく!』
『おお、侵入者なんて久しぶりやわー、たいへんだー』
『な、何よその棒読み! もうちょっと驚きなさいよね!』
『まあまあ、ゆっくりしていってねー』
『きゃん! 何、今の視線!!』
『ははは、石化の視線、石化の魔法、石化の魔剣、イロイロアルヨ』
『きゃー!! 眼鏡外してあたしを見ないで、魔方陣出さないで、魔剣振り回さないでー!!』
『あははははははははは!! 逃げんなこら』
『いやーん!!』
「――……セレシュさん。それじゃにゃんか悪役っぽいにゃ……」
「あかんで。ほんまあかん。いくらハロウィンやって言うても人の領域(テリトリー)に勝手に入ったらあかんと思うでー。……さてっと話終わったなら戻ろっか」
セレシュはカボチャ王国の事の経緯を聞き、勇太は改めて彼女の恐ろしさを感じつつ皆の元へと戻ることにした。
■■【scene2:VS! ジャック・オ・ランタン】■■
「困ってるのは分かったけど、事情を説明してから呼んでや」
「説明させる気あったの? あんた」
「他の面々も知らなかった言うてんで」
「う」
「まあ、事情は分かったからうちは手伝うけどな」
魔女っ子に指摘しつつセレシュは城の外へと出る。
そこには城以上にぎっしりと国民達が詰まっており、見事なカボチャ畑が広がっていた。
「捕まればいいにゃ?」
にゃにゃーん♪ と、もはや捕獲に関しては遊ぶ気分でやる気満々な勇太も今の彼に対して大きめなカボチャに溺れないように気をつけつつ外へと出た。既に他にもグループが作られており、城の周囲を固めている。門番カボチャが「お気をつけて!!」と蔓を使い、びしっと敬礼して皆を送り出した。
「力になれるなら……と引き受けてみたけど、能力を聞くと本気で掛からないと危ないね。異世界は異世界で魅力的だけど、元の世界には戻りたいし、あの世にも行きたくないよ。話せるならば説得したいところだけど……どうなるかな?」
「そうね。出来るだけ穏便に行きたいところだわ。でもジャック・オ・ランタン達に身体が付いている時点で行動範囲は広いわよね」
「気を引き締めていこうか」
「そうね」
弥生は改めて自分が持っている箒を握り込む。
ヴィルヘルムは出来るだけ穏便に済ませるためにあるものを用意し、それを手にして時を待つ。二人の意向としては説得で済めばそれに越した事はないというもの。至って大人な考えであった。
「さてわらわも準備じゃ準備。トランクを常備しておいてほんに良かったのう」
「さぁ、やりますか。準備運動、準備運動」
「わらわはまずは――狐を召喚じゃ!! 出でよ!!」
トランクに妖力を注ぎ込みながらそれを開くとぽふんっと小さな煙が上がり、そこには六匹ほどの可愛らしい仮装狐が現れる。英里に召喚された狐達もまた水干姿で、しかも前足――もとい手にはフォークとナイフっぽい武器を持ちそれはもうやる気満々である。そして二本足で立っているのはもうお決まりというヤツで。
「「「 おおー、すごいですー。狐さんだー! 」」」
「ふふん、わらわの力を見たか! 見たなら主らを触らせよ」
「「「 きゃー! 逃げられなーい! くすぐったーい! 」」」
「あはははは、声を揃えて喋る南瓜も面白いのぅ! 可愛いのう!」
「朱里が楽しそうでなによりだ」
さて陽気な英里を見て一旦は心和やかに過ごしていた朱里だが、彼も依然とやる気である。――ちなみにこの場合の漢字は恐らく「殺る気」で。
ふふふふふ、と黒い笑みを浮かべながら彼は自分の手の中に符を数枚握り込む。
幾つか分かれたグループではあるが、やはり見知った者同士の方が連携が取りやすいだろうと言う事でここのグループはこの六名で動く。
セレシュはまだ敵の姿が見えないという事でジャック・オ・ランタン対策に、とある物体を用意する事にした。もちろんそれは全員分。その為に事前に仲間から一つだけある物を提供してもらっていた。
「きたー!!」
「きたー、きたー!」
「きちゃったー!!」
やがて決戦の時。
伝言ゲームのように遠くの方から城の方へとカボチャ達が騒ぎ始める。それを感じると皆ばっとその方向へと身体ごと向き、体勢を整えた。
そして彼らが見た先には黒い影が数体。共通しているのはカボチャの頭にくりぬいた顔、人型ではあるが棒のように細い身体というところ。男性体はスーツ姿に外套を羽織り、女性体はハロウィンパーテイドレスにとんがり帽子を被っているのが見えた。その手にはランタン、もしくは魔法書らしい書物が握られており外見だけならハロウィンの雰囲気バリバリである。
だが彼らはこのカボチャ王国において現在『敵』なのだ。
「きゃー、止めてー!」
『「増加」!』
「引っこ抜かないでー!」
『「増加」ですわ! さあ、私達と共にあの城を征服いたしましょう?』
飛行能力を持つ彼らは遠慮なく畑から南瓜達を引き抜き、そして自身の特殊能力「増加」を使用し彼らに身体を与えて仲間に加える。結果、カボチャ王国の国民達はジャック・オ・ランタンへと強制的に種族変換させられ、敵の数も増えていく。
「駄目にゃ! お前ら止めるにゃー!」
「まずい、行くよ。弥生!」
「ええ! ヴィルも気をつけてね!」
「狐達も行くのじゃ!!」
「さてさて、お手並み拝見と致しますか。ふふ……今日という日を邪魔して下さった元凶は根から絶ってやりますよ」
「うちは支援魔法から行くわ。皆に防御魔法掛けるで!!」
セレシュが素早く数拡大で呪文を唱え、見えない鎧を全員の前に纏わせる。
これにより相手が「衝撃波」を放ってきても多少は軽減出来るはずだ。それを受けた皆は彼女に礼を言いつつジャック・オ・ランタン達との距離を詰める。
「お前ら、暴れるのはやめるにゃー!! 俺だって許さないにゃ!」
勇太は己の能力で作り出した念の槍<サイコシャベリン>を一体の男性型ジャック・オ・ランタンに思い切り放つ。しかしそれはさっとかわされ、空中で消えた。だが一撃で終わる勇太ではない。またしても念の槍<サイコシャベリン>を生み出すと、次々と放ち攻撃の手を緩めない。
『トリックオアトリート!!』
「にゃああ!!」
『可愛い可愛い子猫ちゃんですわね。ふふ、耳もこんなにぴんっとしていて』
「にゃあ!! ぞくぞくするにゃー! 触るにゃー!」
『トリックオアトリートですわよ。どうでしょう。貴方にはわたくしからとぉーっても美味しいお菓子を差し上げましょう』
「にゃ、にゃ? お菓子?」
『わたくし達の味方になって下さるのならとびきりのお菓子を差し上げますわ』
突如後方から現れた女性型ジャック・オ・ランタンに「はい」っと猫の手に乗せられたのは明らかに上等なチョコレート。
勇太はじゅるりとよだれが出るのを止められず、ついつい目を輝かせた。これは非常に抗いがたい誘惑である。これは自分を陥れるための罠である。分かっている。分かっているのだが――今の勇太の精神年齢は外見と一緒に下がっており、五歳児そのもの。つまり、判断力も弱く――。
「にゃーっはっはっは! 俺様は寝返ったのにゃ! 皆にいたずらするのにゃー!」
『おお、我らの同志がまた一人増えたのか! これは素晴らしい!』
「お菓子いっぱい貰うのにゃー!! えい、念の槍<サイコシャベリン>の嵐ー!!」
「「「「「 勇太さん(君)!? 」」」」」
まさかの味方の寝返りに一同は声を揃えてしまう。
しかも彼の能力を知っている分、強力な槍が自分達の方へと飛んでくれば慌てて防衛に入った。その為、「きゃん! びっくりですわ!」「何か胸元に穴があいたようにすぅっとするなぁ」などとカボチャ達にも被害が及んでいる。刺さった槍は役目を終えた瞬間に消えるため、あまり痛そうでないのが幸いだ。
「なんで「催眠」も使われてへんのに寝返ってんねん!」
「え、えっと、この場合もう一回お菓子を渡したらいけないだろうか」
「今は本当に子供なのね。どうしましょ。まさか勇太君に攻撃するわけにはいかないし……」
「まさかの展開なのじゃ。ふむ、これは少々考えなければいけないのぅ」
「……ふぅん。そう来るのですか」
五人が動揺、もしくは考えを深めている最中も侵攻は続く。
英里の召喚した狐達も頑張ってその侵攻を食い止めるべく、ていてい! と頑張ってフォークとナイフもどきでジャック・オ・ランタン達を突いていた。
『……狐達よ。この攻撃はぜんっっっぜん痛くないのだが……』
「「「「「「 ていていてい!! 」」」」」」
『おや、なんだか呆れのせいか力が抜けてきて……』
「今じゃ!! お前達、捕獲ー!!」
『わ、ぁー――!?』
狐達によって思い切りやる気を削がれたジャック・オ・ランタンは本人も意識していない間に精神ダメージが蓄積し、次第に動きが鈍くなる。そしてその瞬間を英里は見逃さず、狐達へと叫ぶ。すると勢いを増した狐はそのまま捕獲と言う事で隠し持っていた縄をジャック・オ・ランタンに引っ掛けそのままぐるぐる巻きにした。完全に動きを奪うと、狐達は前足もとい両手を仲間と共に叩きあわせ喜びながらぴょんぴょん跳ねる。
そして召喚者であり、主である英里を振り返るとキラキラとした瞳を向けた。
「うむ、お前達良くやったのじゃ。抱擁して褒めてつかわす」
さあ、おいでとしゃがみ込み、狐達を抱きしめ彼らの頭を優しく撫でる。
その興奮は英里自身が生やしている耳と尻尾にも表現され、尻尾はぱたぱたと動き下にいたカボチャ達が「くすぐったい尻尾さんですわー!」「お、女の子の尻尾がぶつかって……」「兄さん、鼻血出てるぜよ」などとざわめいていた。
なんにせよ、ここは畑。ぎっしりと詰められたカボチャ達を避けるのは中々難しいというものだ。
英里はこれに気を良くすると他のジャック・オ・ランタン達にも狐を仕向けた。
ちなみに先程捕縛したジャック・オ・ランタンは浮遊せぬようカボチャ達の蔓で押さえられつつ、城の中へと「えっさほいさ」っとカボチャからカボチャに渡され、まるでベルトコンベアーのように運ばれていく。
「あれ? どうして逃げるんですか?」
『な、何。この子、なんか妙な威圧が……』
「ちょーっと動きを止めたいだけなんですよ。ほらっ!!」
『危ないっ!』
「――……何故、避けるのですか?」
こちら朱里VSジャック・オ・ランタン数体。
彼は対象に対してにぃっこりと満面の笑みを浮かべながら「威圧」する。英里は今狐達を見ているため影響しないが、それをつい見てしまった仲間達にもぞくぞくっと背筋に寒い何かが走った。それはもう黒い笑み。
今日一日英里と一緒にずぅっと楽しい時間を過ごせると思っていたと言うのに邪魔された恨み。自分達を召喚したのは魔女っ子でも、その魔女っ子が召喚せざるを得なくなった状況を作り出したのは紛れも無く侵略者であるジャック・オ・ランタン達だ。
それはもう怒りメーターが上がっていくというもの。
「ねえ、何故避けるのですか?」
『ひぃぃぃぃ!!』
『怖ぇえええええ!!』
「ああ、符が足りないんですね。ええ、ええ、分かってますよ。遠慮なく差し上げましょう――ほら!!」
威圧を使って相手に睨みを利かせ、そして避けたジャック・オ・ランタンに対して動きを止める符を倍増させるとそれを次こそ逃げられないよう四方から飛ばす。
それでもかわすようならば更なる枚数を持って彼は追い詰めた。
一体、また一体と彼の手によって符の拘束を受け、空中に浮かんでいたジャック・オ・ランタン達が落下していく。それを畑のカボチャ達が「きゃー、受け止めてー!」「任せろ、姐さん!」などとちょっとしたドラマを繰り広げながら蔓で受け取り、城へと運んだ。
「しかし「増加」を使われていてはキリがありませんね。……折角ですし、鬼女を使おうかな」
「朱里、それはやりすぎじゃ」
「そうかな。私は全然問題ないと思うんだけど」
「鬼女は戦闘用絡繰り人形ゆえに危険じゃ。そもそもわらわ達の目的は捕縛。それなら符で充分。それに足場が少々悪いしのぉ」
「え、カボチャの一体や二体、……数十体踏み潰しても良いじゃないですか」
「「「 やめてー!! 」」」
「ほら、カボチャ達からもこう訴えられておるし」
「……分かりましたよ。符で頑張ればいいんでしょ。頑張れば」
「そう拗ねるでない」
英里と朱里の会話を聞いていた者達はいつもの朱里とは違い、やたらと好戦的かつ攻撃的なところにギャップを感じる。
朱里は密かに舌打ちをすると、改めてジャック・オ・ランタン達を落としに掛かった。後で思う存分癒しを貰おう――そう考えながら。
『向こうの勢力も中々のもの。僕も本気で行くんだから――ん?』
「そこの少年っぽい方ー! 少しお話しませんかー!」
『なんだ、僕に何の用だ。下には降りぬぞ。降りた瞬間に捕獲されるのは分かっているからな』
「いえ、私としては出来れば穏便に話を付けたいので――これなどいかがでしょうか?」
『なっ、それは高級ハーブ入りクッキー!』
「蝙蝠型のキャンディもありますよ」
『……くっ、ハロウィンを分かってるな、お前』
「では、Trick or Treat?」
『う、ぅー……』
ヴィルヘルムは用意しておいたバスケットの中から菓子を取り出し、まだ比較的若そうなジャック・オ・ランタンに声を掛ける。
ハロウィン好きなのはやはりジャック・オ・ランタンも同じ。特に精神年齢が低そうな者であれば引っ掛かるのではないかとヴィルヘルムは考え、キャンディをチラつかせる。行為自体は先程敵勢力が勇太に行った事と同じだが、決定的に違う点が一つだけある。
『僕はお菓子がいい』
「ではあちらへとどうぞ。はい、キャンディ」
それはカボチャ王国側は決してジャック・オ・ランタンを味方にはしないという事だった。
ヴィルヘルムに選択肢を迫られたジャック・オ・ランタンは彼から蝙蝠型キャンディとクッキーを受け取るととても大人しくなり、カボチャ王国の国民に蔓で腕を捕縛されながらも自ら城へと入っていく。
だがしかし、この手がずっと使えると思ったら大間違い。
『あーら、こちらの男性はわたくし達の同志を手懐けるおつもりよ』
『それはいけませんわね。困りますわ』
『ではでは、こうしましょ――「トリック」!』
『そして「トリック」!』
「うわっ!!」
ふっと女性型ジャック・オ・ランタンに二体囲まれたヴィルヘルムを襲う特殊呪文。それも二連発。
その瞬間、彼の身体に衝撃が走り煙幕に包まれる。けほけほと噎せながら彼はそれを払おうと大きく手を振った。
「ヴィル! 大丈夫!?」
「あ、ああ、少し煙たいけど、けほ……」
「貴方、その姿は……」
「え? あ……あああ!?」
駆け寄ってきた妻、弥生が煙幕を完全に払った夫を見やる。
そこには今まで着ていた吸血鬼姿ではなくカボチャのきぐるみを纏わされた青年の姿が在った。キリッとした印象だった吸血鬼が一瞬にして笑いを誘うカボチャコスプレ姿へと変わった事により、女性型のジャック・オ・ランタンから高笑いが上がる。
『おーほっほっほっほっほ!! お似合いですわ!』
『ええ、とってもお似合いですのよ! 更にお菓子もただのカボチャの種に変えておいて差し上げましたわ』
「ちょっと貴方達! うちの旦那になんて事をするの!!」
『ああら、年増が何か喚いているわ』
『あらほんと。素敵な旦那様をお持ちの年増が何かキーキー喚いているわぁ』
「と、年増ですって!?」
『わたくし達は新鮮野菜。今年取れたてピチピチですのよ』
『それに比べて貴方は恐らく十年以上経っているんでしょうぉ? 腐っていないだけマシですわよねぇ』
「人間と野菜と比べられてたまるものですかぁ!! もう、怒った、怒ったわよ!!」
弥生は女性としてのプライドが傷付けられ、怒髪天を衝く勢いで持っていた箒を杖代わりに使い攻撃魔法を飛ばす。
だが、ちょこまかと余裕の表情で逃げるジャック・オ・ランタン達。くすくすと笑いながら時折「年増」と囁きあうその行為は更に弥生の怒りを煽り立てて。
「お、落ち着いて弥生!」
「貴方! これが落ちついてられると思う!? ヴィルだって変な魔法を掛けられたのにっ」
「いや、あのね。これ脱げるから。カボチャのきぐるみだから一応脱げるから。それに弥生が年増だなんて私は思っていないし、年齢を言うなら私の方が上なんだからね」
「そこを怒ってるんじゃないのよ! あの女達の態度がムカつくのよ、ヴィル!」
「でも冷静にならないと攻撃は成功しないよ」
「……う……」
「私が隙を作るから、弥生はその時を狙ってくれないか」
「……分かったわ」
「じゃあ――行きますよ」
ヴィルヘルムは「トリック」によって着せられたきぐるみを勢いよく脱ぎ、フリルタイ付きの白いブラウス姿へと変わる。変化させられたのはどうやら茶ベストとマントだったよう。
そして彼は脱いだばかりのカボチャのきぐるみを思い切りジャック・オ・ランタン二人の方へと投げた。またしてもひょいっとジャック・オ・ランタン達は高笑いと共に避けるが――。
「カボチャさん達、ごめんなさい。失礼します!」
「ぷぎゃ!」「いでっ!」
「そして、貴方達も――大人しくして下さいね」
『まあ!?』
『きゃっ!』
「弥生!! 今だ!」
「貴方達――とっとと……大人しく捕獲されなさーい!!」
己の身体能力の高さを誇るヴィルヘルムはカボチャ二体を踏み、高く飛び上がるとジャック・オ・ランタン達の身体を片手ずつ拘束に掛かる。そして顔だけ振り向かせ、落下する瞬間愛しの妻へと合図を送った。その瞬間、魔女である弥生は土属性の捕獲魔法を発動させる。
勢いよく盛り上がる土、そこから飛び出したのは……カボチャ達を支える蔓。
今は彼女の支配下にその蔓はあり、二体のジャック・オ・ランタンを見事捕縛した。ぐるぐると巻きついてきゅっと締め付ける蔓はそのまま下方に降り、そしてキィキィ喚く二体のジャック・オ・ランタンを国民達がえっさほいさっと運んでいった。
『おやおや、仲間がどんどん捕獲されていく。中々やりますな』
声色からして今までのジャック・オ・ランタンより年上らしい男性体のジャック・オ・ランタンが現れる。
その手には書物。彼はぺらりとページを捲ると、指先を紙面に走らせた。そして笑顔で固定されている表情を深めるように頷きを数回繰り返す。そんなジャック・オ・ランタンを見つけ、素早く気を巡らせたのはセレシュだ。直感が告げる。
――コイツは、格上だと。
セレシュは黄金の翼を羽ばたかせ素早くそのジャック・オ・ランタンの前へと姿を現す。
彼女の登場により、彼は「おや」と気を向けた。セレシュは素早く手先に魔力を込め、いつでも放てるよう準備をする。一対一。対面するセレシュとジャック・オ・ランタン。緊迫した空気が二人の間に流れた。
「何をしようとしてんのか分からんけど、邪魔させてもらうで!!」
『おお、随分と聡いお嬢さんがいらっしゃった。ではご期待に応えて』
「期待なんぞしとらんわー!!」
『はっはっは――では行きますよ』
「させへん!!」
セレシュが素早く攻撃魔法を放ち、何かの行動を阻止する。だがそれは相手も読んでいたらしく、さっと身体を傾げる事で回避した。
そして彼は指を打ち鳴らす。まるで打ち合わせでもしていたかのようにセレシュの後ろにもう一体男性型ジャック・オ・ランタンが現れ彼女の脇の下から腕を回し拘束した。ぎりっと締め付けるその力によって指先を振るえなくなったセレシュは目を見開く。
「な――!?」
『本当は貴方達のような人材は味方にしたいところなのですが……危険人物にはこの舞台を去って頂きましょう』
「まさか……」
『どうやら我らの能力を把握していらっしゃるようですし――ご期待に応えて倍掛け致しましょう』
『思い知るが良い――我らが能力、「強制案内」発動!!』
「――!?」
格上とセレシュが見出したジャック・オ・ランタンが叫んだ瞬間、全員の足元に魔方陣が現れる。
それは勇太にも及び、一様に皆目を見開いた。
「強制案内」――それはもっとも危険な特殊能力。
肉体から魂を分離させ、強制的に黄泉へとご案内するという最強呪文である。それを倍掛けで全員に掛けると宣言したのだから魔力の消費も半端無いだろう。それでもジャック・オ・ランタンはやった。それで片を付けると――勝利を信じて。
しかし遠くの方でパンパンパンッ! と連続で何かが弾け飛ぶ音が聞こえた。そして役目を終えた魔方陣は光を失い、やがて消滅する。
『な、んだと……!?』
「ふ、ふふ。うちかて何の策も練らんと飛び込んでると思わんといてな。あんたらがその魔法使う可能性高うかったからな。事前に全員分、身代わりの形代を準備させてもろうたわ。皆に髪の毛もろてな」
『なっ――』
「うちもちょーっと怒ってんよ。折角里帰り出来ると思うたのになぁ……?」
『お前、まさか』
「折角やしちょっと固まってもらおか。遠慮せんでええで」
ぶんっとセレシュは首を振り、自分の眼鏡を下方へと落とした。
そして眼鏡によって抑えられていた「石化の視線」が――解放される。
『うあ、ぁ……ぁ゛、あ!!』
「くたばれ、阿呆共」
『――ひっ、そんな、まさか――!』
前方に居たジャック・オ・ランタンが灰色の石像へと変わっていく。
飛行能力もそうなってしまえば発動せず、完全に石化した身体は一直線に地面へと落下していった。自分を押さえ込んでいるジャック・オ・ランタンにも視線を向け、彼もまたその強い能力に抗う事が出来ず石像と化し――落ちた。
セレシュは自分の目元に手を当てながら翼を広げ、眼鏡が落ちた地点へと降下し拾い上げる。特殊製のそれはレンズにヒビ一つ入れぬままカボチャ達の蔓によって優しく受け止められていた。その事に気付くとセレシュは思わず笑う。
「ありがとな、カボチャ達」
「「 どういたしま――ピッキーン! 」」
「あ、うっかり石化させてもた。すまんすまん。視線あるんやったね」
眼鏡を掛け石化の視線を抑えるとセレシュはほんの少し舌を出して誤魔化しに掛かる。
「後でちゃんと石化解除魔法掛けるから許してな」と今はカボチャのオブジェになってしまった国民達の頭をそっと撫でた。さて視界を巡らせば石像二体も国民達が頑張って運んでいくのが見える。
その視線の先に、勇太が居た。それも真っ青な顔で。
「んー? 勇太さーん。そう言えばあんさん、今敵やったなぁ」
「あわわわわわわわわっ!!」
「こっちは片付いたわよ。あら、勇太君」
「勇太さん、まだ敵なんでしょうか」
「ひぃー!」
「こっちも片付いたのじゃ。今朱里が他のじゃっく・お・らんたんを落としておる。こうなっては時間の問題じゃのぉ」
「にゃぁー!!」
「「「「 で、どうする(のじゃ)? 」」」」
四名に囲まれ、勇太はぴゃっとその場から逃げようと動く。しかしその行く手を阻むのは――。
「おや、勇太さん。何故逃げるんですか?」
「に、ぎゃぁああ!!」
「ああ、そう言えば敵でしたね。勇太さんってお強いですからさぞかし戦い甲斐があるでしょうねぇ?」
「にゃーにゃーにゃー!!」
「さて、私としては勇太さん相手なら鬼女を使ってもいいかと思っているんですよ。だって勇太さん凄くすごぉーくお強いですから……ね」
「にゃー!! 謝るから許して欲しいにゃー! ごめんなさいにゃー!!」
それはもう朱里の容赦の無い『威圧』に圧され、とうとう勇太は泣き出す。
えぐえぐと涙を零し、身の凍る思いをした勇太は必死に「ごめんなさい」を繰り返した。これには流石の皆もぷっと息を噴出し反省を認めざるを得ない。
「きゃー!」とまたしてもカボチャ畑から悲鳴があがる。
皆そっちの方へと向けば他のグループが取りこぼしたらしいジャック・オ・ランタンが「増加」を使って仲間を増やそうとしている姿が目に入った。
「はぁ……まだまだ時間が掛かりそうやな」
「お、俺だってがんばるにゃ!」
「勇太君は反省したんだからもうあっち側に行かないわよね? 次お菓子につられていったらメッしちゃうわよ」
「はいにゃ……もう行かないにゃ! これからは罠でも張って頑張るにゃ!」
「罠?」
「え、こう……雀を捕まえるザルの罠のデッカイ版を作ったりするにゃん!」
「「「「「 流石にそれは無理だと思う(よ/のじゃ) 」」」」」
そこまでジャック・オ・ランタン達は知能は低くないんだから、と最後に一言付け加えられ、「にゃうぅぅ……」っとぺたりと耳が下がる勇太であった。
■■【scene3−1:お疲れ様】■■
かくして戦闘はカボチャ王国側の勝利で終了し、王様からもお褒めの言葉を頂いた後の事。
「あー、結局石化の視線使うてもたわ。ごめんなー」
「「 いえいえいえー。こちらこそ石像の気持ちが分かりましたー! 」」
「あんたらホンマ前向きやね」
セレシュは戦闘の際、うっかり石化させてしまった二体のカボチャへと石化解除魔法を使用し、元通りのカボチャへと戻していた。
傍にはチビ猫獣人の勇太。
彼はしょぼんっと耳を下げながら反省の為に自分が穴開けてしまったカボチャ達に「ごめんなさい」を繰り返していた。
「ほんとうにほんとーにごめんなさいにゃ」
「カボチャ王国の危機が去ったなら良いんですよー」
「そうですよー。例え僕らに穴が空こうと王国が無事なら良いんです」
「にゃ……でも穴塞がんにゃいよ?」
「きっとこの後行われるハロウィンパーティで僕ら美味しくなるので大丈夫です!」
「にゃにゃ?」
「美味しく食べてもらえるならこの怪我もまた男の勲章なのです」
「それはまさかの展開にゃ!!」
「そうですかぁ? カボチャ王国では毎年誰かが絶対にテーブルの上に上がりますよぉ?」
「……言葉だけ聞いてるとシュールにゃ」
勇太は思わずグロい想像してしまう……が、所詮は目の前に居るのはカボチャなのである。
料理されれば美味しいに決まっている。
「勇太さんは謝罪終わったん?」
「終わったにゃー! そっちも終わったにゃ?」
「うん。元に戻したし、うちらも城に帰ろっか」
はいっとセレシュは掌を差し出し、勇太は思わずそれを見つめてしまう。
けれどえへへっと笑みを零した後、その手を迷わず掴んだ。
「セレシュさんの『石化の視線』凄かったにゃ。思わずがたぶるしちゃったにゃん」
「他の皆には内緒やで、なーいしょ」
「分かってるにゃん。二人だけの秘密にゃん!」
互いに唇の上に人差し指を乗せながら約束しあう。
そんな二人をほんわかとした視線でカボチャ達は見つめ、彼らの為に城までの道を開いた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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東京怪談
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8556 / 弥生・ハスロ (やよい・はすろ) / 女 / 26歳 / 請負業】
【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
ゲストNPC
【NPC / カボチャ大王二世 / 男 / ?? / カボチャ王国・国王二代目】
【NPC / カボチャ / 男・女 / ?? / カボチャ王国・国民達】
【NPC / ジャック・オ・ランタン / 男・女 / ?? / ジャック・オ・ランタン種族】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは!
今回は2012年のカボチャ王国へようこそ!! そして見事解決有難う御座いました!
全体的に皆様何か振り切れていたので非常に楽しくプレイングを読ませて頂きました。笑わせて頂いた分、多く反映出来ていると嬉しいのですが!!
まず工藤様の「チビ猫獣人変化」の能力に関しましてはご本人様より東京怪談内でも認識・反映OKだと発注にてコメントを頂いております。なので上記参加者様はもしご本人様がチビ猫獣人で現れたとしても「既に知っている」設定が可能となります。(ただし基本的には蒼木製作ノベルのみ)
後は認識しあっていないPC様に関しては正体不明・きっと仮装なんだね! の認識のままです。
セレシュ様は工藤様のみ以前のノベルにて正体ばれOKと出ているので今回こそっと反映を。
また、今作では三つのエンディングが御座います。
他の方の納品物と合わせて読んで頂けましたら幸いです。
ではでは、また後半でも逢える事を楽しみにしつつ、失礼致します!
■セレシュ様
こんにちは!
魔女っ子とのやり取りでは読んだ瞬間思い切り笑わせて頂きました。行為衝動仕方ない、仕方ない。
今回戦闘の流れ上「石化の視線」使用しておりますが、工藤様以外は「魔法」だという判断となっております。なので正体バレはしておりません。
仮装に関しても「魔法です」と言い切るセレシュ様が可愛かったですv
■【おまけ】OPに使ったジャック・オ・ランタンのデータ■
【外見】
カボチャの頭にくりぬいた顔(基本的にくりぬいた顔で固定)
身体は棒の様に細く、手には普通のランタンまたは書物が握られている。
服装はスーツ系に外套(マント)。
女性タイプはハロウィンパーティドレスにとんがり帽子。
会話は可能。
【能力】
・「飛行」――標準装備。
・特殊能力「増加」――通常のカボチャに身体を与え、仲間を増やします。
・攻撃方法
「衝撃波」――かまいたちのようなもの。風属性。
「トリック」――攻撃を無効化。攻撃が鳩出現に変わったり、銃が玩具化したりと悪戯効果発生。
「幻覚・催眠」――掛かってしまうと一定時間(一分)味方も敵と思い込み攻撃衝動が湧く。
「カボチャ化」――どんな種族でもカボチャに強制変化。その後の「増加」が基本戦術。
「強制案内」――肉体から魂を分離させ、強制的に黄泉へとご案内。
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