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<ハロウィントリッキーノベル>


Trick or Treat?

1.実り…過ぎたサツマイモ
 秋。食欲の秋。実りの秋。
「豊作が豊作を呼んだのだ」
 大きな廃屋のような洋館の屋根裏。そこには小さいながらも立派な畑が存在する。
 人形屋英里(ひとかたや・えいり)がそこに山と積まれたサツマイモを見ながら「うん」と頷いた。
「困りましたねぇ。さすがにこの量は一気に消費できる量じゃありませんよ」
 掘り返して一息ついた鬼田朱里(きだ・しゅり)は、自分でも驚くほどの量を掘ったことに気がついた。
 英里の作る作物はいつも豊作だが、ここまで豊作なのも珍しかった。
 朱里と英里はこの屋根のひとつ下に一緒に暮らす仲だ。
 とはいえ、恋人かと聞かれれば違うと思うし、友達かといわれるとう〜ん…と、まぁ、そんな仲だ。
「芋けんぴ、大学芋、ふかし芋……うーん、それでもまだまだ余りますね」
「お裾分けしても?」
「お裾分けしても」
 朱里にそう返されて、英里は困った顔をした。
 そんな困った顔されると朱里も困ってしまう。
 どうにかしてこの困った顔を笑顔に戻したいものだ…と、朱里に妙案が浮かんだ。
「そうだ! スイートポテトを作りましょう!」
「す、すい??」
「スイートポテトです。茹でたサツマイモを裏ごしして、形を整えて焼く西洋のお菓子だそうです」
 朱里はサツマイモを持てる限り持って、台所へと運ぶ。本棚を探せばレシピの本くらいはあるだろう。
「それを作ってどうするんだ?」
 英里の言葉に朱里はにっこりと笑う。
「今日はたしかハロウィンなので、お菓子を配ってもいい日らしいです。…そうだ。草間さんのところに持って行きましょう」
「はろ…はろうぃ??」
 混乱する英里に優しく朱里は諭す。
「西洋のお祭りなんだそうですよ。ほら、『バレンタインデー』や『ホワイトデー』と一緒ですね」
「なるほど」
 英里はふむっと納得した。
 とはいえ、朱里も完全にハロウィンを把握しているわけではないので、それは実は正しくなかった。
 けれどもここにはその間違いを指摘できる人間はいない。
「…何か手伝えることはあるか?」
「じゃあ、一緒に作ってくれますか? スイートポテト」
 英里が手伝いを申し出てくれて、朱里は嬉しくなった。
 1人より2人。英里と何かを出来るのは嬉しい。
 全てのサツマイモを運び終えると、2人は台所に立って皮むきを始めた。

 美味しいお菓子になぁれ。


2.時計ウサギと赤頭巾
「良い仕事をしました」
 にっこりと最後のスイートポテトが焼きあがると同時に朱里は満面の笑みを浮かべた。
「これで全部か?」
「はい、これで全部です」
 朱里は完成したスイートポテトを満足して見回し、英里ににっこりと笑った。
「ありがとうございました」
「なんで礼を言う?」
「だって一緒に手伝ってくれましたから」
 ニコニコ上機嫌の朱里に英里は少し驚いたような顔をして、目を細めた。
「さて、次に取り掛からないと」
「え? 今これで全部だって…」
 朱里の言葉に英里は首を傾げる。すると朱里はまた微笑む。
「ハロウィンには仮装をするのが規則なんだそうですよ。着替えましょうね」
 ノリノリの朱里は英里を部屋に戻して、自分も着替えに戻った。

 モノクルに白いブラウス、ベスト、ズボンに懐中時計。
 オマケのごとく垂れた白い兎の耳に、ズボンからは尻尾が見える。
 不思議の国の白兎。朱里は鏡の中の自分を見た。
 英里はなんと言ってくれるだろう?

 扉を開けると、まだ英里は出てきていなかった。
 時間節約の為に籐の籠にスイートポテトを詰め込んでいると「朱里」と声をかけられた。
「あ、赤頭巾ですね。すごく可愛いです」
「そ、そうか。…朱里はうさぎ…? なんだか英国の紳士みたいだな」
「ちょっと頑張ってみました」
 褒め言葉かよくわからなかったが、英里が微笑んだのでよしとした。


3.まだまだ余ります
 外に出るとすでに夜の帳が下り始めていた。
 宵闇に明るく光るジャックの頭。
 街を闊歩するのは可愛いおばけたち。
「さぁ、お菓子をあげるからおいで」
 大人たちの声に、駆け寄る子供達は口々に言う。
「Trick or Treat!」
 にぎやかな街角、おばけたちの世界。
 日常とは違う、少し不可思議な世界。
 そんな中を朱里と英里は近所の人々にスイートポテトをお裾分けしつつ、草間興信所を目指す。
「Trick or Treat!」
 途中、何度か行きかう子供たちにそういわれ、スイートポテトをお裾分け。
 子供達は既製品のお菓子がもらえると思っていたらしく、びっくりしていた。
「ありがとう、お姉ちゃん。お兄ちゃん」
 嬉しそうに走っていく子供たちに、英里も朱里も思わず笑みがこぼれる。
 すると、英里が突然道行く人々に声をかけ始めた。
「とりっく・おあ・とりーと」
 英里はそう言いながらスイートポテトを渡し始めた。
 どうやら何かを勘違いしたようだが、朱里もそれが正しいのかなという気がしたので真似することにした。
 さぁ、草間興信所までもうすぐだ。

「こんばんは。お裾分けに…」
 大音量のブザーを鳴らして、英里と朱里は草間興信所へと入った。
 するとネコ耳のカチューシャをつけた草間零(くさま・れい)と犬耳カチューシャを嫌そうにつけた草間武彦(くさま・たけひこ)が「おぅ」と出迎えた。
「今日は2人一緒なのか」
 草間がそう言うと朱里は嬉しそうに笑った。
「ハロウィンなのでスイートポテトのお裾分けに来ました」
「…? なんでハロウィンでスイートポテトなんですか?」
 零がよくわからないといった顔で朱里と英里を見比べる。
「たしか、はろうぃんは菓子を配る日なのだろう?」
 英里がそう言うと、零は今度は草間のほうを見た。
 兄弟の無言の会話に、朱里は焦った。
「え……? 僕達、間違えてました?」
「いや、間違いではない。間違いじゃないんだが…お菓子をあげるのは『Trick or Treat!』と言ってきた子供にであって、誰彼かまわずお菓子をやる日…ではないぞ?」
 草間にそういわれて、朱里はショックを受けた。
 英里に…間違ったことを教えてしまった!
「と、とりあえず頂きましょう! 折角持ってきてくださったんですし!」
 零が慌ててお茶の用意をする。
 そして4人はスイートポテトを食べ始めた。
「おぉ。美味いな」
「英里さんの作ったサツマイモですから」
「どうりで美味しいわけですね」
「…ありがとう」
 和気藹々と食べる4人だったが…。

 やっぱり予想通り、多いものは多い。
 4人で食べきれる量ではなかった…。


4.緊急ミッション発生
「捨ててしまうのはやはり…誰か渡せそうな人、居るか?」
 英里は考えて、そう草間に訊いた。
 草間は難しい顔をして「そうだな」と考え込んだ。
「うーん……子供達にもほぼ、渡してしまいましたし」
 道すがらに渡してきた子供たちや大人たち、近所の人たちに配ってまだこの量。
 それを話すと零はびっくりしたようだった。
「どれだけ作ってきたんですか?」
 零の問いに朱里は「…えっと、沢山?」と笑って誤魔化した。
「いい案ありますか? 草間さん」
 朱里がそう聞くと、草間はおもむろにこの地域の地図を取り出して指差し始めた。
「ウチの事務所がここ。んで、ココまで歩くと…」
「?」
 あまりに唐突な説明に英里も朱里も、零までもがぽかんとしている。
 しかし草間はお構いなしにニヤニヤと笑って話を続ける。
「あそこの連中は終始頭使ってばっかだからな。美味いもの食えば、ちったぁマシな記事も書けるかもしれない」
 記事? 雑誌か何か?
「もしかして…白王社ですか!?」
 零がようやく思い当たったように、大きな声を出した。
「その通り。まぁ、子供じゃないが、脳味噌の中は子供みたいなもんだ」
 ニヤリと笑った草間に「白王社?」と英里が訊ねた。
「あぁ、昔なじみのヤツが雑誌の編集をしててな。怪奇系じゃちょっと名の知れた雑誌なんだが…『月刊アトラス』って知らないか?」
 訊かれて英里は頭を横に振った。
 当然、朱里も知らなかった。
「…そうか。まぁ、知らなくてもいい世界はあるさ。とにかく、そこなら多分色んな人間もいるだろうからスイートポテトの完食も夢ではないわけだ。さ、行くぞ!」
 草間はそう言うと先頭に立って歩き出した。
 英里が不安そうに朱里を見た。朱里は優しく微笑むと「いきましょう」と手を繋いだ。

 柔らかな英里の手は、朱里よりも小さくて温かかった。


5.白王社にて
 月刊アトラス編集部は現在修羅場中である。
「えぇい! 寝てるのは誰!? 原稿あげるまでは寝かせないわよ!!」
 叱咤激励するのは有名鬼編集長・碇麗香(いかり・れいか)その人である。
「…!? ね、寝てましぇん!」
 ハッとその声に起きたのはダメ編集者・三下忠雄(みのした・ただお)である。
「相変わらずの殺伐さだなぁ…」
 草間がそう呟くと「あら」と碇はまるで珍獣でも見るかのような眼差しで草間を目視した。
「誰かと思ったら草間探偵じゃない。どうしたのかしら? 仕事がなくてうちに就職でもしにきたの?」
「だぁれが仕事がないって? …折角ハロウィンを楽しませてやろうと思ったのになぁ…」
 どうやら旧知の仲らしい2人の会話に、なにやらトゲを感じる気が…?
「ハロウィン? あぁ、だから仮装しているのね。折角だから用件だけは聞いてあげるわよ?」
 碇の言葉に草間は朱里に視線を移した。
「私、鬼田朱里といいます。ハロウィンなのでスイートポテトをお裾分けにきたのですが…」
 朱里の言葉を聞きながら、碇はじーっと朱里の顔を見つめて囁いた。
「あなた…Mistのアッシュじゃない?」
「いえ、違います」
 即答した朱里に碇は何かを言いかけたが「まぁ、いいわ」と話を切った。
「スイートポテトを持ってきてくれたわけね。ありがとう」
 にっこりと笑った麗香は、先ほどまで怒号を上げていた同一人物とは思えない。
「そっちの子は…赤頭巾なのね。アリスじゃなくて」
「あ、あ…?? …人形屋英里という。よろしく頼む」
 英里がそう言うと、麗香は「こちらこそ」と名刺を差し出した。
「社会人のたしなみとして貰っておいてくれるかしら? 何かいいネタとか情報掴んだら売り込みに来てもらってもかまわないし」
 麗香はそう言ってにこりと笑うと、編集部内に大声を張り上げた。
「可愛い赤頭巾ちゃんと白兎さんからスイートポテトの差し入れが届いたわ! しっかり味わって食べなさい!」

『おーーーーーー!!!!』

 湧き上がるアトラス編集部内。スイートポテトはあっという間に編集者たちに持っていかれた。
「手作り!? 美味い! なんていうか…人の温もり感がコンビニ弁当とは違うね!」
「これで勝つる! 勝つるぞ!!」
 空になった籠と張り切って仕事に戻る編集者たちを見て、英里がふふっと小さく笑った。
「どうかしました?」
 朱里が訊くと、英里は答えた。
「喜んでもらえてよかった」

『とりっく おあ とりーと!』

 そう朱里たちが言うと、編集者たちは朱里たちに満面の笑顔を返した。
 英里の笑顔が戻ってよかった。
 英里が喜んでくれてよかった。
 そう思うと、朱里も自然と笑顔になった。

 それがハロウィンの魔法…。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女性 / 990歳 / 人形師

 8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男性 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ) / 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵

 NPC / 草間・零(くさま・れい) / 女性 / ? / 草間興信所の探偵見習い

 NPC / 碇・麗香(いかり・れいか) / 女性 / 28歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集長

 NPC / 三下・忠雄 (みのした・ただお) / 男性 / 23歳 / 白王社・月刊アトラス編集部編集員

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 鬼田朱里様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 ハロウィンにスイートポテト。美味しそうです。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。