コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


吸血鬼に永遠の眠りを





 廃墟のビルの中、満月の輝く夜に似合わない激しい爆音が鳴り響く。

「―ぐっ…こんな仕事、引き受けるべきじゃなかったな…」
 左肩に受けた傷を右手で止血しながら、武彦は生温かい自分の血の感触を味わっていた。

「フ…、人間風情がこの私と戦おう等とは嗤わせる」
 ツカツカと革靴の音を鳴らしながら、おおよそ人とは思えない恐ろしい形相をした
吸血鬼が武彦へと歩み寄る。

「…あぁ…、全くだ…。吸血鬼なんて、常人が勝てる様な相手じゃねぇよ」
 諦めたかの様に笑みを浮かべた武彦が吸血鬼たる相手へと告げた。
「伝説上の生き物退治なんて依頼、受けなきゃ良かったと後悔してるさ」


「ならば後悔と共に血肉を屠ってくれる」
 吸血鬼が詰め寄り、鋭い爪を振り翳す。

 高額な資金を積まれ、武彦が引き受けた吸血鬼退治。やはり一筋縄で片付く様な
相手ではない。
「…とまぁ、一人だったら無理な仕事だったろうな」
 武彦は自分の背後に立つ人物の気配を感じ、静かに呟いた。
「やれやれ、遅かったじゃねぇか…。



――。


「遅かったな…じゃなーい!」
「おぶぅっ」

 身体を前のめりに倒した武彦の背にドスっと勢いをつけて乗ってみる。「うぉぇ」っと何だか気の毒な声が聴こえたが、許してあげられる状況ではないのでとりあえずふんぞり返ってみる。

「ズタボロなの見てらんなくて出てきたの。ヘバるの早すぎ」
「お前…そう言うが、相手は吸血鬼だぞ!?」
「知ってますー! 吸血鬼なんてヤダなのにどうしてもっつうから来たのに。最低5分は耐えてって言ったのに! このヘタレ!」

 ドスッドスッと武彦の身体の上で勢いをつけて何度も上下する。全くもって実に不甲斐無い状況だ。武彦に頼まれた仕事の手伝いは吸血鬼退治。何か秘策があるのかと思いながらイヤイヤついて来たにも関わらず、あっさりと形勢は不利な状態のまま押されてる。
 ――私の能力も、この程度の短時間じゃ何処まで埋めれたのか解ったモンじゃない…。

 対する相手は伝説上の生き物。目の前にいるその迫力と、さっきまでの動きの素早さはやはり、と言うべきか、さすが、と言うべきか…。

「でもま、こんな怪我しちゃもう邪魔なだけよね…。足手まといになっちゃうから下がってて」
「そ、そんな訳にはいかねぇだろ! これは俺が受けた仕事――」

 トン、と背中の上から武彦の首に針を刺す。何が起きたのかも知る事なく、武彦はそのまま気を失った。

「ごめんね、草間さん。まだ知られたくない能力ってのもある訳で…。まっ、乙女の秘密は全部知らない方が良いのよ」

 そうは言いながらも、後で血を流し過ぎたせいで倒れたのだと誤魔化す気ではいる。

「…小娘、いつまで遊んでいるつもりだ?」
「あー、ちょい待って」

 吸血鬼の問いかけに構わず武彦の身体をずるずると引きずる。
 ―にしても思ったより重いな、このおっさん…。
 そんな事を思いながら下がり、武彦を物陰にぽいっと投げ出す様に避難させた。ふぅっとパンパンと手を叩き、そのまま吸血鬼の前に歩いて行く。

「お待たー。さ、やろっか、吸血鬼さん?」
「ほう、逃げるのかと思えば。血を献上しに来てくれるとは有り難い」
「私の心も身体も血も全てあの人の物だからあげまっせーん」

 べーっと舌を出して吸血鬼に向かって答える。「でも、可愛い女の子だし、優しくしてねん」と言ったら嘲笑するかの様な笑みを浮かべてこちらを睨んだ。

「それは出来ぬ。今宵は血に飢えているのでな。死ぬ前に血を吸って、それから無残に殺してやろう…」

 その言葉と共にゆらっと肩を揺らし、弾ける様に吸血鬼が飛び出した。やっぱり速い。常人のそれや動物のそれとも明らかに違う速度で詰め寄ってくる。鋭い爪を携えた腕が鋭利な槍の様に突き出されてきた。その手を両手で掴み、その力と速度を生かして反対方向へと投げ飛ばす。

「…小娘、人間が今の動きを読めた、と。そう言うつもりか?」
「どうだろうね? まぐれだとしたらラッキーだよね、私」

 そうは言いながらも頭の中で計算をする。
 実質、先程までの5分に足りない程度の武彦と吸血鬼の動きしか見れず、それを体現するにはやはり未だ足りない。が、それは戦いの中でも補完出来る範囲内だ。

 計算を終えた私は、結果良いかんじに成功した自分の能力の行使に成功したと判断して、再び吸血鬼と睨み合う。

「フン、試させてもらおうか」

 再び吸血鬼が飛び出す。
 振り下ろされた右腕とその上がり方に手首から先の角度と視線。それらを全て見て、情報を統合し、その一瞬の中で身体を避ける位置を計算する。更にそこから反撃の手を考え、避ける方向を分析し、攻撃に移るまでの準備を整える。

 ――結果、右方向へ1歩移動し、身体を横へ移動し、

「――ッ!?」

 振り下ろされた右手の速度とタイミングを合わせ、その腕の肘に腕を組む様に引っ掛け、そのまま引き上げて関節を破壊しに身体を落とす。

 が、吸血鬼がその危険に察知したのか、身体を落とす寸前に距離を取る様に後ろへと飛んだ。

「…どういう事だ、何故攻撃を読みきれた…!?」
「それだけじゃないわよん」

 クスっと笑いながら、先程の吸血鬼と同じぐらいの速度で吸血鬼の眼前まで間合いを詰め、今度は攻め手に転じるかの様にクルっと身体を動かして回し蹴りを吸血鬼の腹部に目掛けて放つ。
 ――しかし、吸血鬼によってそれは避けられ、その場で空を切った。やはりまだ補完しきれていない…。

「侮っていたわ…。ただの小娘かと思いきや、なにやら変わった力を持っている様だな…」
「数百年は生きてるって言われる吸血鬼さんからのラブコールってのも悪くないと思うけど、血を吸われるならパスさせてもらうわ」
「フン、変わった女だ…!」

 更に一層早く吸血鬼が襲いかかる。
 私は吸血鬼の動きを全て計算しながら、最低限の身体の動きで吸血鬼の攻撃の当たらない場所を割り出して避ける。それも、ほぼ吸血鬼のその速さと同じ速度で。

 吸血鬼の表情に焦りが生まれる。無理もない。

 連続する吸血鬼の攻撃を、私はこの絶対記憶を使って吸血鬼の動きを全て分析し、読み取り、記憶する。攻撃をする際の表情の変化、手の動き、足の運び方。それらを分析させた上で、それらを今度は自分の身体で体現する。

 平たく言えば、火事場の馬鹿力の応用だ。

 自分の能力の活用と応用。この方法を使えば、生身の身体でも吸血鬼と同じレベルの動きが可能であり、更に仕草から攻撃のクセ等を見抜いている私に、吸血鬼の攻撃は当たらない。ジャンケンで出す物が最初から解ってる様なものだ。
 ――勿論、それなりのリスクも伴うのだが…。

「はぁ!」

 バシっと掌に力を入れて吸血鬼の連続する攻撃のリズムを狂わせた。その崩れたリズムに、今度は敢えて吸血鬼が私にやってきていた攻撃をそのまま返す。

「が…っ!」

 吸血鬼が後方に下がってだらしなく唾を吐きながら肩で息を整える。
 今、吸血鬼の表情から読み取れるもの。それは、焦り。そして恐らく、不安だ。今さっきまでの攻撃は全て読まれ、そのまま返された。
 これによって、吸血鬼の心が動揺を生み出し、その場で時を止めた様に固まった。

 ――あまり時間をかけてられない。このまま一気にラッシュに持ち込む。

 私の身体がもう既に限界を迎えつつある。
 吸血鬼の表情に一瞬の困惑が見られ、私は奇襲に成功したと確認した。慌てて防御に入った吸血鬼の動きを二手目、三手目と誘導し、わざとギリギリで避けさせる。

 そして、がら空きになった胴に、脚に隠す様につけていたホルダーから銀の短剣を取り出し、その心臓に突き刺す。

「ぐぉ…ぉぉぉっ…!」
「これでゲームオーバー…はぁ…はぁ…」

 吸血鬼の身体がみるみる灰となってその場でさらさらと崩れていく。私の能力ももう身体が限界を迎えた。

 そう、私の身体が抱えるデメリットそれはこの能力を使った後に必ず訪れるのだ…。私はそのせいで、その場で力なく倒れた。




―――。



「――おい、桜乃!」
「ん…、あぁ、探偵さん…」
「大丈夫か!? 一体どうなった!? 吸血鬼は!?」

 どうやら武彦が目を覚まし、漸く私に気付いて起こしてくれた。

「倒したよ…。だけど…、もう私無理…、動けない…」
「やられたのか…!?」
「…全身筋肉痛で動けない〜〜…。おんぶしてってー…」

「…はぁ??」


 彼は知らない。私のこの能力の事を。とはいっても、今は教えるつもりもないんだけど…。


「痛っ! あんまり揺らさないでよぉぉー」
「しょ、しょうがないだろーが!」
「あれ? もしかして顔赤い? 身体密着して興奮しちゃったの?」
「バカ言うな」


 こうして、吸血鬼退治というちょっと不思議な体験は幕を閉じた…。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

なんという隠し能力の持ち主…。
これはちょっと強過ぎるんじゃないかと思いながら書いてましたが、
お楽しみ頂けたでしょうか?

全身筋肉痛って、思ってるよりしんどそうですよね…w

それでは、今後とも、宜しくお願い致します。

白神 怜司