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VamBeat −Sequentia−
セレシュ・ウィーラーはセシルが居なくなった方向を暫く見つめ、そっと服についた血に触れる。
「ん?」
血が残っているということは、より詳しく分析できるということではないのか?
そうと分かれば急いで返ろうと、セレシュは家路を急いだ。
その場でやる分析には不足がある事は否めず、こうして落ち着いて分析できることはありがたい。
どうせだから、分析結果とあわせてあの神父のことも含め、草間や蓮に顔出しした時にでも相談がてら話しておこうかと思う。
それがどれだけ役に立つかは分からないが、もしかしたら、それに関する情報や治療薬の入手法が分かるかもしれないと思って。
興味が沸いたという言葉が正に当てはまる。
それに、分からない事を分からないままにしておくのは、セレシュの性に合わない。
セレシュは新しい服に着替え、セシルの血の分析を始める。
「なんやろなぁ。まるでブラックボックスや」
あの時に分析しきれなかった不安定感を、より突き詰めていけば、解除コードが必要なプログラムにでもぶち当たったかのように、読みとめない部分が現れる。
「……理屈やないことでもあるんやろか」
それはまるで、人の心の内までは分析して分かるものではないと言われているようで、セレシュは目を細めた。
本業であるマッサージ師もしつつ、家では分析の日々を繰り返し、流石に疲れたなと思えてきた。
「休憩しよかな…」
ふらふらっと訪れた、緑が多い公園のベンチには、先客が居た。
(他のベンチ、探そかな)
しかし、生憎他のベンチにも誰かしら座っていたり、日が当たりすぎて誰も据わっていなかったりと、ベストポジションを見つけることが出来ない。
(まぁ、あそこ1人やし、座ってもええやろ)
日陰のベンチで1人座っている黒髪の少女にセレシュは近づいていく。
黒髪の少女はセレシュが近づいて着ている事に気が着くと、何故か驚いた表情になり、そそくさとベンチから歩き出す。
(ん?)
その様子が余りにもわざとらしく、セレシュは黒髪の少女を追いかけるとその腕を掴んだ。
「待ち!!」
その感触は、つい数日前に感じたものと良く似ていた。
「なんで逃げるんや!」
「逃げて、ないわ。何か、勘違いしてるんじゃ……」
黒髪の少女は申し訳無さそうな、気弱な微笑みを浮かべ、セレシュの手をやんわりと解く。
「下手な誤魔化しは止めとき。髪の色は変わっとるけど、セシルやろ?」
黒髪の少女は一瞬びくっと肩を震わせたが、笑顔を崩すことなく、それは誰のことだとでも言うような反応を返す。
「雰囲気全然違うんやね」
初めて出会った時の彼女は、銀髪に赤眼。それに比べて今は黒髪に青眼だ。まるでひっくり返したかのように色を変えている彼女に、セレシュは構わず続ける。
「その髪、染めてるわけやないんやろ?」
「……これが、本当の私だから」
そこまで言えば、彼女は観念したように搾り出すように答えた。
「姿を変えれるんか」
この程度のことがあのブラックボックスとは思い難いが、謎が1つ解けたことに、ある種の満足感を覚える。
「そない神父に追われるようなことしたようには思えんのやけど、何があったん?」
セレシュはセシルを連れて日陰のベンチに戻り、尋ねる。けれど、セシルはまた唇を強く引き絞るばかりで、何も話そうとしない。
セレシュは一度息を吐くと、セシルに向けてパンと手を合わせ、頭を下げた。
「あのことで、うちも神父から目をつけられとる可能性が高い、最低限の事情くらいは教えてくれ」
頼む! と言いながら、そろりとセシルの顔を上目遣いで伺うも、ばっちりセシルと視線がかち合ってしまう。
「それは、大丈夫よ。私とこれ以上関わる事をしなければ、彼の眼中にあなたが入る事はないわ」
「何やそれ」
思わず突っ込みの言葉が零れる。
「あの時は、たまたま私の側にあなたがいて、私を生かしたと思ったから……私がまきこんでしまったの。本当にごめんなさい」
「謝らんといて。近づいたのはうちなんやから」
セレシュはふとセシルから目線を外し、辺りを見回すように公園の遠くの方へ視線を移動させる。
「なら、こうして話しとったら、うちまた神父に襲われたりするん?」
「…どうかしら。他の人みたいに逃げたら、標的にされることはないとは思うけれど」
「本当かいな」
こくんと、セシルは頷く。
「彼が標的にするのは私と、私に関わろうとした人だけ……」
だから、余り長く一緒に居ないほうがいいとセシルは続ける。
「なら、長話するなら、人が多いとこ行ったほうが安全なん?」
万が一神父がまたセシルを狙って攻撃をしかけ、一般人がまきこまれては事だと思った。
「どうしてそんな事を気にするの?」
「知りたいんや、セシルのこと」
「……知っても、いいことなんて、何もないわ」
「いい悪いやない」
びしっと言い放ったセレシュに、セシルの瞳が驚いたように大きくなる。
「なしてセシルと一緒におったら神父に攻撃されるのかとか、セシルは本当に吸血鬼なんやろかとか、いろいろ分からんことばっかりや。そういうはっきりせんのいややねん」
どうなんや? と、覗き込めば、セシルは遠くを見るように眼を細め、寂しそうに呟く。
「私は、吸血鬼になりたくない……」
(答えてくれるんは、それだけか)
そういえば、神父が襲ってきた時、セシルは殆ど無抵抗だったように思う。怪我を負って動けなかったという事を差し引いても、不自然だ。それに、お互い名前を知っているという事は、単純に聖職者の仕事の範囲というわけでもないように思える。
「……ほんまは、仲良かったん?」
その呟きに、セシルは一瞬驚いた表情を見せ、懐かしむような微笑を浮かべた。
(これは、図星やな)
2度目でこれだけ話してくれたのなら、いいと思ったほうがいいのだろうか。
それに、関わるなと言うわりには、こうして一緒にいてくれると言う事は、邪険にされているわけではないのだろう。
「あの!」
セシルの突然と言うような、思い立ったかのような呼びかけに、今度はセレシュが瞳に驚きの色を浮かべる。
「その…服、ごめんなさいね。弁償できるほど、お金も持ってないの」
伺うような瞳をセレシュに向け、セシルは小さく頭を下げベンチから立ち上がる。
「それじゃ……」
そのまま去っていくセシルの背をポカンと見つめる。もしかして、今まで一緒に居てくれたのは、それを言うため?
「いやいやいや、待ちいって!」
はっと我に返り、セレシュはセシルの腕を掴む。
「あの時の怪我、治ったんか?」
「え?」
「腹の怪我のこと」
そっと指差せば、セシルは暫く瞳を泳がせ、答える。
「……大丈夫、よ」
じっと疑うようなじと目で見つめるセレシュに、セシルは思わず身を引いて、笑顔を浮かべた。
「嘘やな」
「ほ、本当よ。この状態でいれば、酷くならないの」
その言葉が引っかかり、今の状態のセシルを分析してみれば、殆ど人間。ただし、ブラックボックスはそのまま。どういうことだ。先日と血を分析した時に出た強い吸血鬼としての性は一体どこへ消えたというのだろう。
彼女は吸血鬼? それとも人間? いや、今はそんなことよりも。
「酷くならないちゅうことは、治ってないってことやな」
そっと手を当てれば、その顔に微かな苦痛が浮かぶ。
「なして治らんの? やっぱり、血がいるん?」
「血なんて、いらない。血を飲んで治すくらいなら、怪我を負ったままでいい」
ぎゅっときつく握られた拳に、本当に血を嫌悪している様が見て取れる。
「なんや、事情があるんやね。血以外の治療薬あるとええんやけど」
「それはもう、諦めたわ……。いろいろ考えてくれてありがとう。あなた、いい人ね。そんな人がやっぱり私に関わるべきじゃないわ」
そう言って、セシルはセレシュから身を引き、何かを懐かしむような、寂しそうな顔で微笑んだ。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【8538/セレシュ・ウィーラー/女性/21歳/鍼灸マッサージ師】
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■ ライター通信 ■
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VamBeat −Sequentia−にご参加ありがとうございます。ライターの紺藤 碧です。
必要以上にいろいろ喋らせてしまってすいません。どうにも大阪弁だと喋らせたくなってしまって……しかもいまいち答えきれてませんね。ですが、いろいろと入れましたので、読み取っていただければ幸いです。
それではまた、セレシュ様に出会えることを祈って……
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