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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ 【珈琲亭】Amber・2 +



「ジル、次の角を左。その次は二区画進んだ後右な」
「分かった」
「姫さん、どう?」
『うむ。ちかづいてきておる』


 朝から自分の相棒であるバイクを盗まれ、それはもう悲喜こもごも色々あったわけだがこうしてジルの車に乗り込んで移動し始めりゃ少しは頭も冷え始める。
 ヒートアップして依頼時に涙目になっていた自分も思い返してみるが恥ずかしいなんて言わねえ。男には涙したって良い時がある。仕事の相棒が居なくなったんだ、そりゃぁああもう落ち込むだろ!


 さあ、今はこっちが追いかける番。
 姫さんもとい「ゆつ」という少女型日本人形さんの力を借りて俺は追いかけているわけだよ。盗人本人がバイクに乗って移動してるのか、それとも本気で売却目的でトラックにでも乗せられているのかは分からない。でも姫さんが言うには確実に「移動」している事。
 彼女の能力である「走査」の範囲から出ないよう、落ち着いて俺はナビをする。
 車ん中では姫さんに見えやすいように地図本を広げ、彼女が現在位置を指し示す。
 その地点に向かいやすいように俺は運転手であるジルに渋滞に引っ掛かったりしない抜け道を教えたりしてサポート。
 バイク便ライダーを舐めんなよ、盗人!!
 こちとら仕事柄幾らだって交通事情には詳しいんだ。この車がいずれお前達へと辿り着くのも時間の問題だっつーの!


『うむ、ちかくなってきたのう……おや』
「どうした、ゆつ」
「なになに、何か感じ取れた!?」
『ちかづいたゆえにみえるようになってきたが……これは「ばいくほんたい」がいどうしておるようじゃ』
「つまり」
「俺のバイクに誰かが乗ってるって事かー!! うぉおおおお! ちょ、マジ嫌だ! 俺のバイクにあれやこれやしてんじゃねーだろうなぁあ! 考えただけでも気色悪ぃい!」
「落ち着け」


 姫さん情報により敵はどうやら一名であることが発覚。
 俺は思わず手を拳にし、叩き鳴らす。見つけたらどうしてやろうか。俺の相棒にあれやこれやそれやあーんな事をしてやがったらただじゃおかねえ!


 その間もジルに的確に道順を教えることは忘れない。
 むしろ姫さん情報により、一層頭がさえたような気がしてならない。てきぱきと指示を下す俺はその思考の隅で捕まえた後の行動を考えつつも、姫さんがそのちっさな手で示す場所を視認し、次の道をジルへと伝えた。


「見えた!」
「あれか……」
『念もちかい。まちがいないじゃろうて』
「あああ、間違いなく俺のナンバーじゃねえか! 警察の野郎は何してやがる!」
「暴走しているならともかく、乗っているだけでは不審ではない。調査が行き届いていないんだろう」
「くっ、確かに」


 それはもう見覚えのある愛しい愛しい俺の愛車の姿が誰かに乗られて移動している姿が目に入った。身体つきから見て男っぽい。それもそれなりに体格がよさそうな……。
 苛立つこの気持ちをどうしてくれよう。
 俺は視線を強め、愛車に乗る盗人を睨みつける。


「どうする。今は国道沿いだ。捕まえるのは難しい」
「だが信号に捕まりゃこっちのもんだ。その時を狙う」
『ふむ。ゆだんはせぬように』
「どっちにしろ真横か真後ろに寄せてもらえねえか? そんで信号に捕まったところで俺はここから降りて捕まえに走る」
「分かった。努力しよう」


 今はまだ自分達の前に数台車やトラックがバイクまでの距離を邪魔しており、その時ではない。ジルは俺の意思を尊重し、制限速度内で車を抜きに掛かる。一台、また一台ジルの車が他の車を抜くと愛車までの距離がぐっと縮まっていく。
 あと少し。
 あと少しで俺の愛車が俺の手に戻ってくる……!


『きあいがこもっとるのぉ』
「ゆつ。大事なモノを失えば誰だってそうなる」
『嵐殿の念、きらいではないが――ぼうそうせぬといい』


 姫さんは役目は終わったと腕を下ろし、ぽすんっと俺に寄りかかってくれる。
 か、可愛い……! だが相手は女の子とはいえ日本人形。残念ながら俺の恋愛範囲外。だが協力者としてそれくらい思ったってごにょごにょにょ。
 何はともあれ俺の愛車奪還まであと僅か。
 俺はハンターの目でその時を待つのみ。



■■■■■



「うらぁあっ! 怒りのラ●ダーキ〜ック!!」


 俺は車から飛び出すと愛車に乗っている男へとラ●ダーキックをぶちかます。
 ただの飛び蹴り?
 そんな突っ込み受け付けません。ノーセンキュー。
 突然俺に蹴り飛ばされた男は当然受身など取れるはずもなく、そのままアスファルトの上へと無様に倒れ込む。それも愛車と一緒に。バイクの車体に下敷きになった男は罪の意識からか直ぐにバイクから抜け出し、走って逃走しようと試みるが――はっはっは、俺がそれを許すはずがねえ!!


「お前、俺のバイクをどうするつもりだったぁあー!!」
「ひ、ひぃぃ、まさか持ち主!?」
「その通りだ、この糞野郎めッ!!」
「ちょ、ちょっとした出来心で」
「それで無罪になると思ったら大間違いだからなぁあ! てめえにはしっかり罪償ってもらうぜぇ!!」
「ひぃっ――!!」


 バイクのほぼ後ろに寄せてくれていたジルの車が男と俺へと近付き、他の車の走行の邪魔にならない場所かつ盗人の男が逃げられないよう前へと止まった。
 中からはジルが窓から顔を出し携帯電話で何事か喋っている。恐らく警察への連絡だ。
 俺の身体に乗せていた姫さんは出る瞬間、ジルに押し付けてきたが大丈夫だろうか。思わず投げ出す勢いだったからそれだけがちょっと心配。後でお叱りくらいは甘んじて受けよう。
 今はただ、俺がこの男をフルボッコにしないよう耐えるだけ。
 ぎりぎりする。殴りたい気持ちは山々だが、これ以上男に危害を加えてしまうとそれはもはやただの暴力。行き場のないこの怒りは視線に乗せ、男を威圧という形で押さえ込むしか出来ない。
 更に言えば警察のパトカーが近付いてくるのが見えると男はもう逃げられないと観念したのか、大人しくなった。


「連絡をして下さったのはどなたで?」
「私です」
「盗難されたバイクの持ち主は?」
「俺」
「では二人には話を伺わせて貰うとして。……盗んだのは君か。車に乗りなさい、署で詳しい話を聞こう」
「……っ」
「連行してくれ」


 ジルと俺に一人警察官の男が付き、事情を説明する。
 俺は朝、盗難届けを出した事を素直に伝え、警察官はその事実を確認するため肩に掛けてあった通信機で連絡を取り合う。バイクのナンバー、型番、持ち主の名前がスピーカーから流れ聞こえ、それら全てが一致すると警察官は頷き、俺に身分証明書の提示を求めそれを確認してからバイクの所有者だと認めた。


 その間、一台のパトカーの中では男がぽそぽそと何事か呟いているのが見えた。
 警察に囲まれてはもう逃げ道はない。窃盗罪でそれなりの処罰が下される事だろう。


「しかし、よく見つけたね。盗まれた本人がこういう形で見つける事はそうないんだよ」
「はっはっは。俺、運だけは良いんで」
「盗まれた事は不運だったが、見つかって良かったね。悪いけど、手続きだけ行わせて頂きたいので一緒に暑まで来てもらって構いませんか? 私共の判断だけでバイクをお返しする事は出来ませんので」
「――ですよねー……」
「まあ、盗難届けもきちんと出てますし、簡単な手続きで終わりますよ。本日中にはお手元に返せると思います」
「っしゃ!」
「申し訳ありませんが警察官が一人貴方のバイクに乗って動かしますが、それだけは我慢して下さい。暑まで五分程度なので協力お願いいたします」
「……了解っす」


 ああ、また一人俺の愛車に触れて、乗って動かすのか……。
 がくっと肩を落として俺は落ち込む。それでも戻ってくるというならこの苦行、耐えてみせようじゃねえか。
 ジルが俺を車へと手招き、俺は大人しく助手席へと乗り込んだ。キーはバイクに刺さったままだから動かす事自体は容易い。パトカーの後ろを付いてくるように、と警察に指示され、俺達は暑まで行く。


 その後、俺の方は色々と手続きを踏んで無事愛車は返ってきたわけだが――あの盗人がどんな処罰を受けたかはあえて聞かないことにした。



■■■■■



 後日。


「ジルー! こっちの店宛に手紙届いてんぜー!」
「……」
「あらぁ、嵐さんじゃないのぉ。こんにちは! 今日はお水? ジュース? そ、れ、と、も――お酒?♪」
「水に決まってんだろ。運転してんのに酒勧めんな。それにジュースにしても金は払わないってーの。……あれ、今日はあの医者いねーのな」
「あたしの前でその名前出さないで! マスタ、ほら配達物」
「……ああ、そこに置いておいてくれ」
「相変わらずマイペースだな――とと、姫さん元気?」
『嵐殿はあいかわらずげんきじゃのぉ』
「ふふん。おかげさまで愛車とバリバリ今日も仕事してんぜ!」


 会社に盗難云々の経緯を話し、此処【珈琲亭】Amberを通るルートも俺の管轄にして貰った俺は元気いっぱいの声で皆に挨拶をする。
 ジルは奥から二通ほど封筒を取り出してくるとそれを俺の前へと出した。


「今回の分はこれ」
「おっけー。今日のただ働きの分だな」
「遠くない場所だ。大丈夫だろう?」
「んー……オッケ、オッケ。住所は配達区間内だ。問題ない」
「今時間はあるか」
「ん? 時間指定物はもう届け終えたから後はゆっくり回るだけだけどそれが何?」
「そうか」


 そう言ってジルはオレンジジュースが入ったグラスを俺へと差し出してくる。
 きょとんと目を丸めた後、俺はぷっと吹き出し笑ってしまった。


「サンキュ、水だけじゃなくってたまにはこういう甘ったるいジュースもいい」
「飲みに来る時はバイクではない時に来い」
「お金落としていってねぇん♪」
「朔……」
「本音駄々漏れだっつーの。んじゃ、ありがたく頂いてっと」


 あの事件以降こんな風に過ごす時間が増えた。
 相変わらず淡々とした口調のマイペースな【珈琲亭】Amberの亭主、ジルに店のウェイトレスの朔。そして時折現れる医者のサマエル。そして俺が一番お世話になった日本人形のゆつもとい「姫さん」。
 たまーに俺もこの店の客として飲みには来るが、大体はこうして配達関係での交流が多い。他愛ない世間話を朔としつつジュースを適度なペースで飲み干した後、俺は立ち上がった。


「んじゃま、今日も元気に行くか!」


 俺は皆に手を振ってその場を去り外の駐車場に向かう。
 そこには愛車が待っていて、俺を出迎えてくれた。


 今日も、そして明日も返ってきたバイクと共に道を走っている――そんな俺のライダー生活の一ページ。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2380 / 向坂・嵐 (さきさか・あらし) / 男 / 19歳 / バイク便ライダー】

【共有化NPC / ジル / 男 / 32歳 / 珈琲亭・亭主,人形師】
【共有化NPC / 下闇・朔 (しもくら・さく) / 女 / 17歳 / ただの(?)女子高生.珈琲亭「アンバー」のアルバイト】
【共有化NPC / ゆつ / 女 / ?? / 日本人形】
【共有化NPC / サマエル・グロツキー / 男 / 40歳 / 開業医】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、再度PCゲーノベへの参加有難うございました!
 
 今回は見事追いかけ、捕まえるまでの道程を書かせて頂きましたv
 ラ●ダーキック! に吹かせて頂き、思わず笑顔で執筆を(笑)

 無事返ってきたバイクですが、この後は約束通りただ働きでこの【珈琲亭】Amberの宅配をお願いいたします(礼)
 といっても、ジルは無茶苦茶な事は言いませんので、嵐様の生活の一ページに加えさせて頂けましたら嬉しく思います。

 ではでは!