コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


開かずのパンドラロッカー

「おぉ、荒れてる荒れてる」
 いつものネカフェでパソコンを覗きながら、呆れ顔で雫が呟いた。
 ヒミコが店に入ってきたのはそれとほぼ同時だった。
「雫さん、どうしたんですか?」
「あ、ヒミコちゃん、おっつー。これ見てよ」
 雫は親指でパソコンのモニタを指す。そこにはゴーストネットOFFのスレッドの一つが表示されていた。
 スレッドタイトルは『駅にある開かずの108番ロッカー』。
「開かずのロッカー……って、最近噂のアレですよね?」
「そう。これぐらいはあたしも聞いた事あるし、実物も見てきたんだけどね」
 開かずのロッカーとは、近所の駅にあるロッカーの内、たった一つだけどうやっても開かないロッカーがある、と言う噂である。
 雫が見てきた物も実際に開かず、鍵がかかっているようで、非力な女子高生の雫にはどうやってもこじ開ける事はできなかった。
 ただこの噂、別にオカルトがどうのこうのと言う訳ではなく、単にロッカーが開かないというだけで、板違いも甚だしい話題だったのだ。
「その噂がどうしたんです?」
「昨日だったか一昨日だったか、またスレが復活して噂に尾ひれがついてるのよ。ちょっと見てみ」
 画面がスクロールされると、そこには気になる一文が。
 フラリと現れる謎の鍵屋の鍵を使うと、そのロッカーが開き、その中のモノを得る事が出来る。
「これって……」
「不確定情報だけど、面白そうでしょ? ゴーストネットOFFの更新材料としては持ってこいだと思って」
「でも、この鍵屋さんってどこにいるんでしょう?」
「それを探すのがあたしたちの役目よ! 手がかりだってちゃんとあるわ」
 雫が指したのは一つのレス。
 そこに書かれてあったのは『それはパンドラの箱の様。希望は最後の一つに残されている』と言う、詩のような文章。
「なんだか不思議な詩ですね」
「気になるでしょ? 大体、このスレの流れはこのレスに対しての罵詈雑言になっちゃってるけど、あたしはこれが重要なヒントだと思ってるわ」
 無根拠な自信を持った雫だが、ヒミコもこの文字列が気になって仕方がなかった。
「パンドラの箱のお話が、開かずのロッカーに関係してるんでしょうか?」
「難しい事を考えるのはヒミコちゃんに任せるわ! あたしは行動行動。まずは鍵屋探しよ!」
「アテはあるんですか?」
「扉を開けてくれそうな、ギリシャ神話の神様でも探してみるわよ。その神様の話が手がかりになるかもしれないし」
 そう言って雫はネカフェを出て行った。
 残されたヒミコはパソコンの画面を見つめて、首をかしげた。

***********************************

 とりあえず、何も考えずに駅へと繰り出してきた雫。
 そこはさすが駅、と言うべきか、人がごった返していた。
 しかも魔都東京の駅ともなれば、老若男女、人種、果ては人でないモノまで入り混じるのだから人間ウォッチングをすれば釣果は過多となるだろう。
 そんな中にいて、雫は知り合いを一人見つける。
「おぅい、セレシュちゃん!」
 つかまったのは金髪青眼の女性、セレシュ・ウィーラー。
 突然手を掴まれてかなり驚いているようだが、その相手を見て一息ついた。
「なんや、雫ちゃんかいな。驚かせんといて」
「いやぁ、それはすまなかったねぃ。セレシュちゃんはこんなトコでなにしてんの?」
 全く遠慮を感じさせない、無用心な踏み込みにセレシュは苦笑する。
 それもまた雫の美点ではあるのだが、もう少し話の流れと言う物を感じさせてはくれまいか。
「うちはこれから買い物やで。……まぁ、別に急ぎではないんやけど」
「ホント!? じゃあ暇ってことね!?」
「拡大解釈されてる気ぃもするけど、まぁあながち間違ってはおらんね」
「じゃあさ! ちょっと手伝ってくんない!?」
 そう言いつつ、雫はセレシュの手を掴んで離さない。
 即ち、これは『手伝ってくれ』と言う要請ではなく、『手伝え』と言う半命令なのだった。
「……まぁ、時間もあるし、別に構へんけど……あんまり物騒な事はいややで」
「大丈夫大丈夫。今回は調査メイン!」
 『今回は』と言う所に何か含みを感じるが、ここは彼女の言葉を信用しておく事にしよう。

 雫の話を聞く事数分。
「つまり、そのパンドラロッカーとやらの中身が知りたいわけやね?」
「開けられればこの上ないね!」
 携帯電話で当該スレッドを見つつ、セレシュはふむと唸る。
 問題点は幾つかあるが、現状は理解できた。
「まぁ、とりあえず、うちはそのロッカーの実物も見た事あれへんし、そこまで連れて行ってもらえる?」
「お! 現場百回ね! 捜査の基本がわかってるじゃない、セレシュちゃん!」
 嬉々とする雫に引っ張られ、セレシュは駅の構内へと入っていった。

***********************************

 連れて来られたのはロッカーが立ち並ぶ一角。
 壁面に並ぶロッカーの数はかなりの物だった。
「この中にある、えっと……これ! この108番のロッカー。これよ!」
 雫が指したロッカーには確かに『108』の番号が振られてある。
 傍らの鍵穴には鍵が刺さっておらず、このロッカーが閉まっている事が窺える。
 セレシュが自ら取っ手に手をかけ、軽く引っ張ってみてもびくともしない。
「確かに閉まってるなぁ……。少し、魔法の気配もする」
 後半は小声で呟く。
 ロッカーからは明らかな魔力が感じられる。
 自然発生した霊的なものではなく、誰かの意図が感じられるのだが、術式が複雑すぎて解呪はかなり困難だろう。
「なるほど、普通の鍵では開かんのも納得やね」
「何かわかった?」
「強敵やっちゅー事がわかった。本腰入れな一生開かんで、これは」
「そうかぁ……」
 神妙な顔つきをする雫。どうやってもこの中身が気になるのだろう。
 ここまで来ると、セレシュも多少興味がわいてくる。
 この中には一体何が入っているのか、そしてこの魔法を仕掛けた張本人はどうしてこんな悪戯めいた事をしたのか。
「ちょっと、あんたら」
 と、そこで背後から声をかけられる。
 振り返ると、そこには男子高校生が。
「あら? 勇太さんやないの。どしたん、こんな所で」
「うぉ、セレシュさん? そっちこそ、なにやってんだよ?」
 そこにいたのは工藤勇太。ちょっとした知り合いの超能力高校生である。
「うちらはこのロッカーを調べに。勇太さんは?」
「俺はちょっとそのロッカーに用事があって、見張ってたんだよ」
「見張るぅ? 何のために?」
「……新聞のネタのために」
 聞くと、どうやら新聞部に所属している勇太は、先輩諸兄に圧力をかけられ、このロッカーの事を記事にする役目を負わされたのだとか。
 なるほど、学校における上下関係とは厳しい物である。
「と言うわけで、モノは相談なんだけど、セレシュさんもこのロッカーについて調べてるなら、協力してくれないか?」
「なるほど、勇太さんもロッカーの中身が知れれば御の字やんね」
「いや……うん、ちょっと微妙だけど」
 歯切れの悪い勇太だったが、それ以上の理由は教えてくれなさそうだった。
「ちょっと良いかしら、お二人さん!?」
 そこに割って入ったのは雫。
「そろそろ、そこの男子の紹介をお願いしても良いかな? あたしは結構、蚊帳の外って耐えられないタイプなんだけど!?」
「あ、ああ、雫ちゃんは勇太さんとは面識なかったんか」
「状況を整理するために、ちょっと場所を移動しようぜ。近くに喫茶店もあるし」

***********************************

 そんなわけで近くの喫茶店。
 四人掛けのテーブルに各々頼んだ物を置いて、一息つく。
「へぇ、どこかで見た事あると思ったら、あんたがあのSHIZUKUか」
「ふふん、天下のアイドルとお茶出来てるんだから泣いて感謝しても良いのよ?」
「なんか、あんま嬉しくねぇな」
「な、なにおぅ!!」
 確かに庶民派アイドルと言ってもこれほど馴染む娘もそういまい。
 雫がこれ以上噛み付く前に、どうにかしなくては。
「自己紹介も終わった事やし、今後の予定を話そか」
 ポンと手を打ったセレシュに勇太も同意する。
「情報整理って言ったけど、俺もそっちもあんまり情報はもってないっぽいしな」
「一応、ゴーストネットOFFの当該スレッドは随時確認してんねんけどな。それっぽい情報は皆無やで」
「じゃあ、今持ってる情報の考察とかはどうよ?」
「考察ねぇ……」
 ヒントとなりそうな物と言えば『それはパンドラの箱の様。希望は最後の一つに残されている』と言う不思議な文言。
 そこから考えられそうな物と言えば……。
「ロッカーの番号が108ってのもなんか関係あるんじゃない?」
「せやけど、パンドラの箱、もしくはパンドラの壷ってのはギリシャ神話やろ? ギリシャ神話に108に関係するお話なんかあったかな?」
「俺はその辺、あんまり詳しくないぞ」
「威張って言う事じゃないわよ」
 とりあえず、ここはギリシャ神話と108は関係ない、と言うことで話を進める。
「ギリシャ神話と108が関係ないってことは、この開かずのロッカーにもあんまりギリシャ神話が関わってねぇってことなんじゃないか?」
「じゃあパンドラの箱って何よ?」
「神話では結構簡単に開くみたいやしな。パンドラさんが勝手に開けちゃったって感じやし」
「うーん……確か、パンドラの箱って最後には希望が残ってるって話だろ? だったら、そのロッカーにも希望ってやつが詰まってるんじゃ?」
「あたしはロッカーの中には災いが詰まってると思うなぁ。108ってのも不吉だし」
 108と言って最初に思い浮かんだのが『煩悩』だからであろう。
 正確に言えば煩悩は災いとは違うのは余談。
「中身の話よりも先に開けるための手段やな。鍵屋っちゅー人間を探さんと、ロッカーの中身を検めも出来んで」
「鍵屋に関しては、ふらっと現れる、としか言われてないし、探すのも難しそうね」
「この近くの鍵屋に聞いて回れば見つかるんじゃねぇの?」
「そんな簡単なら良いんだけどねぇ」
 ため息をついて、雫はアイスティーを飲んだ。

 セレシュが気になるのは108と言う数字と、ヒントの中にある『最後』と言う言葉。
 108が煩悩の数ではないとすると、次に思い浮かぶのは水滸伝における108星という仲間である。
 水滸伝では108番目の宿星は地狗星の金毛犬の段景住だと言う。
 馬の見る目のある、痩せ型の大男で、あまり戦いは得意ではなかったそうなのだが、これは関係あるだろうか。
 他に神話として『最後』に関わりがありそうなのは、星座だろうか。
 星座の多くはギリシャ神話と関係がある。その中で最後と言えば鷲座。
 日本語で五十音順にすると鷲座が最後に来るから、と言う理由だが……これでは弱いだろうか。
 例えば、英語で星座をアルファベット順にするとこぎつね座になる。
 黄道十二宮に限れば最後は魚座だろうか。
「うーん、動物がいっぱい……? 動物園に何かヒントが……」
 セレシュの頭も大分混乱してきた。
 隣では勇太と雫も大して考えが纏まらなかったらしい。
「とりあえず、鍵屋を探さん事にはどうしようもないなぁ」
「んな事言っても、鍵屋の手がかりだってないぜ?」
「ふらっと現れるって言うんだから、適当に呼んだら来るんじゃない? おーい、鍵屋さーん」
「そんなバカな事が……」
 あるわけがない、と続けようとした時、見知らぬ男が四人掛けのテーブルの空いてる席に座った。
「なっ!?」
「お呼びかな?」
「……え?」
 呼んだ本人である雫も面を食らった。
 物凄く自然に、何の前触れもなく現れたその男。
 出で立ちは黒の外套にシルクハットを被った老紳士……と言えば良いだろうか。
 場違いな事この上ない恰好ではあるが、近付かれるまで気配すらなかった。
 一見して、ただ者でない事が窺える。
「おや、私を呼んだのではなかったかな?」
「え? あ、あなたが鍵屋さん?」
「そう呼んだのだろう? だったら、私が鍵屋だ」
 ホントにふらっと現れた鍵屋。
 突然すぎて思考が停止してしまったが、特に敵意らしきものは感じられない。
「嘘やろ、こんな簡単に見つかるなんて……」
「簡単とは言うがね、お嬢さん。私は誰の前にでも姿を現すわけではないよ」
 紳士は帽子を取り、モノクルの奥からセレシュを覗く。
「私は本気であのロッカーに挑もうとしている人物の前にしか現れない。君たちはそれに値した、と言うだけだ」
「他のやつらは本気じゃなかったってか……まぁ、ありえるかもな」
 噂は下火。デマであると決め付けている人間すらいる。
 そんな中で必死でロッカーの手がかりを探している人間は他にいまい。
「さて、君たちが鍵を求めるのならば、私はそれに応じよう」
 そう言って、紳士はテーブルの上にロッカーの鍵を置いた。
 キーホルダーには確かに『108』と書かれてある。
「これが本物であるって証拠は?」
「疑うのは構わないが、別に君たちが損をするわけではないだろう?」
「受け取った瞬間に何か呪い発動! とか?」
「……ふむ、確かに私は信用され辛いと自覚しているがね、そちらのお嬢さんならば、この鍵になんの罠も仕掛けられていない、とわかるのではないかね?」
 紳士はセレシュを見やる。
 セレシュはすぐに鍵の鑑定をしていたが、確かに悪意のある魔法や罠が仕掛けられているようには感じられない。
 あるのは『ロッカーを開けるための魔法』ただ一つ。
「大丈夫なのかよ、マジで」
「うちの見た感じ、開錠の魔法以外は感じられん……」
「わぉ、セレシュちゃんってそんな事もわかるんだ?」
「まぁ、一応な。……で、これはタダでもらってええんやね?」
「ああ構わんとも」
 嘘をついているようにも見えない。
 だが、警戒して損はないだろう。セレシュは慎重に鍵を鑑定して見たが、これと言って特殊な魔力は感じられない。
「鍵はここに置いていこう、どうするかは君たちの勝手だ。それでは私はこれで……」
「待ってや」
 立ち去ろうとする紳士をセレシュが呼び止めた。
「この噂を流したの……ううん、開かずのロッカーを作ったのはあんたなんか?」
「ええ、そうだとも」
「どうしてこんな事をしたか、聞いてもええですか?」
「……そうだな。答えよう。賭けをしたからだよ」
 老紳士は自分のあごを撫でて、答える。
「少し前に、とある少女とね。もし、ロッカーの扉を開けるような人物が現れたなら、君の勝ち。私はその少女を解放する。そうでなければ私の勝ち、と言った内容だ」
「少女? この開かずのロッカーに関係あるのか?」
「ロッカーを開けるためには、直接関係はないよ。……これ以上は私の口からは言えないな」
 老紳士は帽子を被りなおし、背中を向けた。
「では、君たちが彼女を救える様、祈っているよ」
 そう言って、老紳士は現れた時と同じように、何事もなく消えていった。
 それは今まで霞か何かを前に話していたような感覚に似ている。元々そこに老紳士がいたのかどうかすら怪しいぐらいだ。
「な、なんやったんや」
「でも、夢やなんかじゃなく、あのおっさんがいたのは間違いなさそうだな」
 テーブルの上には確かに108の鍵。
 雫はそれを引っ付かんだ。
「いくわよ、勇太ちゃん、セレシュちゃん! ロッカーの中身とご対面ってね!!」

***********************************

 一行は再びロッカーの前に戻ってきた。
 その手には108番の鍵。
「良い、二人とも? 開けるわよ?」
 それを持っている雫は、後ろに控えるセレシュと勇太に確認を取り、ロッカーの前に立つ。
 そして静かに鍵穴に鍵を差し込んだ。
 一度ツバを飲み込み、意を決して鍵を回す手に力をこめる。
 鍵はなんの苦もなく回り、ガチャンと音がして鍵が開いた事を示した。
「おぉ! 開いたで!」
「は、早く開けてみようぜ!」
 興味津々の二人の期待を受け、雫はそのロッカーを開ける。
「げっ!」
 すると、そのロッカーから泥がバシャバシャと音を立てて溢れてきた。
「な、なんだこりゃ!?」
「これが、パンドラロッカーの中身?」
 泥の量はさほど多くなかったので、目の前に立っていた雫の服を汚す事もなかったが、ロッカーと床が汚れてしまった。
 しかし、これが苦労して開けたロッカーの中身とは……。
「いたずらにしてはなんと言うか……」
「悪質やな。あのおじさんも茶目っ気が過ぎるで……」
 やはりパンドラの箱の中身は災い、と言う事なのだろうか。
 しかし、この箱の中には一片の希望すら窺えない。
 中に詰まっていたのは泥だけ。
「ねぇ、セレシュちゃん、勇太ちゃん……本当にこれだけだと思う?」
 珍しく思案顔をしている雫が二人に問いかけた。
「まだ何かあるかもしれないってか? まぁ、宝探しの最後がこれじゃ、どうしようもないけどさ」
 勇太の言葉には同意できる。
 あの老紳士が単なる悪戯のためだけに、ロッカーを封印していた高等魔法を使うとも思えない。
「パンドラの箱には最後に一つ、希望が残るはずでしょ? それが泥だけなんて……あたしは何かあると思う」
「雫ちゃんがそう思うのもわからんでもないけどなぁ……このロッカーの中には何もなさそうやで」
 セレシュがロッカーの中を覗くが、特にこれと言って仕掛けも見当たらない。
 最早魔術の気配すらしないし、これ以上何かあるような気配も……いや?
「待って、これは……」
「どうしたの、セレシュちゃん?」
「108番ロッカーの下……109番に何か妙な気配が」
 見ると、109番のロッカーも使用中なのか、鍵が刺さっておらず、開きそうな感じもしない。
「妙な気配って具体的にどんな?」
「108番にかけられていた魔法と同じ気配がする。雫ちゃん、その鍵、貸して」
 セレシュは雫から鍵を受け取り、109番のロッカーに刺す。
 すると鍵は108番と同じように刺さり、回り、鍵を開けた。
「こ、これって」
「もしかして……」
「こっちが本当のパンドラロッカー……!?」
 セレシュが109番のロッカーに手を伸ばす。
 扉はカチャリと静かに音を立てて開いた。
 中に入っていたのは……
「これは、いたち?」
 中を覗いた雫が首をかしげる。
 ロッカーの中で丸まっていたのはいたちなのかフェレットなのか、とりあえずそんなシルエットの動物。
 その動物は首をもたげ、セレシュと勇太を見た後、ロッカーの外へ出た。
「おわ!」
 すると、その動物は先ほどの老紳士と同じく、霞のように掻き消えてしまった。
 後に残ったのは、開いたロッカーが二つ。
「な、なんだったのよ、一体?」
 首をかしげるのは雫ばかりだった。

***********************************

「つまり、こないだの事件とこのロッカー、繋がってたってワケやね」
 ロッカーが開けられた数日後、セレシュはまたロッカーの前に来ていた。
 開かずのロッカーの噂は既に立ち消え、108番ロッカーも109番ロッカーも普通に利用されている。
 109番のロッカーに入っていたあの動物、あれはいたちでもフェレットでもなく、かわうそだったのだ。
 そして老紳士の言っていた言葉『彼女を解放する』と言う言葉。
 恐らくはあの老紳士は、かわうそと契約した神様で、今回のロッカー事件は神様とかわうその賭けだったのだ。
 未来永劫続く召使生活、それを回避するためにはあの109番ロッカーを開けなければならなかった。
 その役目をセレシュと勇太が負ったのは、偶然だろうか、それとも必然だろうか。
「あの娘もちゃんと成仏出来そうでよかったやん……」
 セレシュは109番ロッカーの扉をそっと撫で、その場を離れた。



□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


【8538 / セレシュ・ウィーラー (セレシュ・ウィーラー) / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】


【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□



 セレシュ・ウィーラー様、シナリオに参加してくださってありがとうございます。『実は前後編でした』ピコかめです。
 黒い炎と一緒に楽しんでいただければと思います。

 結局、『最後の一つ』ってのは108の次の数字に希望が埋め込まれてるよって話でした。
 まぁその希望と言うのもPCに対してではなく、某かわうそに対する希望だったのですがね。
 このささやかな希望がちょっとでも前回のビターエンドをまろやかにしてくれると信じて。
 ではでは、気が向きましたらまたどうぞ〜。