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<ハロウィントリッキーノベル>


+ カボチャ王国VSジャック・オ・ランタン【後編】 +



 ハロウィンの夜を騒がしていたジャック・オ・ランタン種族達。
 彼らは同じ南瓜仲間であるカボチャ王国へと侵攻し、彼らの特殊能力「増加」を使ってカボチャ王国の国民達を強制的に自分達の種族へと変換していた。
 だが殆どのジャック・オ・ランタンはカボチャ王国のカボチャ大王二世と仲の良い魔女っ子によって異世界から召喚された多くの異世界人によって捕獲され、彼らは今――。


『ちょっとー、出しなさいよー!』
『ふむ。即席とはいえこのようなカボチャの蔓で強靭な檻を作り上げるとは中々やりおる』
『なに感心してるの! もっと抵抗しなさいよ』
『はっはっは、紳士たるものある程度は余裕を持たねば』
『キィー!!』


 と、まあ。
 即席とはいえ城の広間中央にて頑強に編み上げられたカボチャの蔓の檻の中に詰め込まれているのである。当然魔法が使えぬよう手足は縛り上げて。


「で、このジャック・オ・ランタン達どうするの?」
「どうしましょうか。とりあえずハロウィンさえ過ぎてしまえば彼らは大人しくなるわけですし、せめて今宵は放置するのが一番安全といえば安全なのですが――……けれど彼らもカボチャ仲間。出来ればハロウィンを楽しんで頂きたいのがカボチャ王国の国王である私の本音です」
「……カボチャ大王二世……」
「――と、言う訳で、パーティでもしましょうか」


 ころっと声色を変え、一気にムードがシリアスからほんわかモードへと切り替わる。
 このカボチャ王国で一番大きいカボチャ大王二世はずりずり――否、ずず……ずず……っと重々しい音を立てながら今ジャック・オ・ランタン達を捕らえている檻へと近付き、その巨体をずずんっと前に突き出した。


「ジャック・オ・ランタン達。貴方達の侵攻は悪戯の範囲を超えております。よって、私は国王として命じます」
『な、何を言うのだ、でっかい南瓜は』
「でっかい南瓜ではありません。貴方達が侵攻しようとしたこの国の王、それが私、カボチャ大王二世です」
『ぐ、ぬぬ……』
『何をさせる気かしら』
『きっといやらしい事よ。ほら大王ですもの。わたくし達のような美女カボチャをはべらせたり、頭と身体を切り離して愛でたりあれやこれやそれやこれなんかを!!』
『いやですわ、いやですわ。美しい私達をお食べになるおつもりね!』
「それ共食――」
『『 そこの異世界人は黙らっしゃい!! 』』
「――……」


 女性型ジャック・オ・ランタン怖い。
 異世界人はぐっと息を飲みながら大王へと視線を向ける。彼はくいっと胸らしい場所を張ると国王としてジャック・オ・ランタン達へと命令を下した。


「貴方達も今宵のハロウィンは楽しみたいはず。ならばまず迷惑を掛けた異世界人達へ奉仕をしなさい」
『ほ、奉仕、だと!?』
「言葉を砕いて言いますと、これから行うパーティの準備を手伝いなさいという事です。パーティの最中もウェイター、ウェイトレスとして働いて頂きますが、もちろん自由時間はあげましょう。一緒にハロウィン・ナイトを過ごす事――それが私が下す命令です」
『カボチャ大王』
「最後に二世を!」
『……カボチャ大王二世』
「よろしい」


 なんだか綺麗に纏まりかけているなぁと皆が国王の采配に感心を抱いていた。しかし、そこには一つ問題がありまして。


『カボチャ大王二世、我らは料理出来んぞ』
『むしろわたくし達は悪戯をする方ですもの。お菓子を頂く側ですわ』
『教えて貰えれば手伝いくらいは出来るし、給仕の方は頑張れるが……』
『剣舞を踊ったりするのは得意ですのよ。素敵な殿方と試合もとい死合いも』
「――おや?」


 まさかの展開。
 人型を取っているというのに料理が出来ないとはなんという痛恨のミス。てっきり料理くらい出来ると思っていたが――。


「しょせんは、カボチャか」
「大王である私もその点に関してはフォロー出来ません。ならばこう致しましょう。異世界人さんに教えていただくという事で」
「ん?」
「お願いしますね」
「はい?」
「 お 願 い し ま す ね 」


―― このカボチャ、本気で料理してテーブルの上にあげてやろうか。


 ある一人の異世界人はハンターの眼で大王を見つつ、心の中でさりげなく誓った。



■■■■■



「……こんな感じで今に至る訳なんだよ」


 即席で一人人形劇を演じていた少女――人形屋 英里(ひとかたや えいり)は事のあらましを説明すると人形を撤収に掛かる。彼女の人形劇で一通りの状況を理解した面々は拍手を贈った。そんな彼女は魔女っ子に頼み、一度元の世界に戻った後着替えて戻って為この世界に飛ばされた時は和風だった衣装が今のテーマはアリスの帽子屋。
 白いブラウスに赤のリボンタイ、黒ベストに黒ズボン、帽子屋のトレードマーク的な小さい黒シルクハット。全体的にゴシックがかっている衣装である。
 そしてそれに合わせて彼女の口調は少年っぽいものへと変わり、その足元にはお菓子製作に使えそうな野菜が大量に持ち込まれている。


「ああ、そうだ。最初にいっておくけど、この野菜達で悪戯したら……朱里に形が判らなくなるくらい、刻んで貰うからね?」
『『 ひぃぃぃ!! 』』


 彼女は一言口にすると、ジャック・オ・ランタン達にトラウマを発動させた。
 要約すると「食べ物で遊んではいけません」という事だが、それでも脅しておいて損はない。先に釘を打つことは非常に重要である。


「いいなー。僕も参加したかった」


 人形劇を見て感想を口にしたのは現在、男性にも女性にも見えるチェシャ猫ストライプ服に同柄ズボン。チェシャ猫ストライプ猫耳ニットを被っている金髪赤目少年――九乃宮 十和(くのみや とわ)。
 英里の知人であり、朱里にとってはアイドルグループの仲間である人物だ。そんな彼の本来の年齢は十二だが、現在は十八歳頃まで成長し英里と朱里と並んでも年齢に違和感がない。普段を知っている面々にとってはちょっと大人びた印象を与えてくるが、言葉遣いは変わらず子供。どうせパーティの参加者が人間以外の者でキラキラと溢れかえっているし、そもそも演技をしても意味がないと思った上である。


「あ♪ ねえねえ、アッ……むぐ!」
「はーい。ちょっと黙りましょうか。十和」
「むぐー」
「私のことは外では朱里と呼びなさいと言ってあるでしょうが」
「あーう」
「で、なんと呼ぶかもう一回言ってごらんなさい」
「けほっ……えーっと、朱里兄?」
「まあ、良いでしょう」


 同じ「Mist」というアイドルメンバーのアッシュを見つけた十和は彼に呼びかけようとするが、その瞬間危険を察したアッシュ――もとい、鬼田 朱里(きだ しゅり)に口を塞がれてしまう。
 そんな彼の服装は英里と一緒に元の世界に戻った時に着替えており、今は時計兎の格好である。モノクルにブラウス、ベスト、ズボンに懐中時計。オマケのごとく垂れた白い兎の耳に尻尾が付いており、英里、朱里、十和の三人で主役のいないアリスの世界の出来上がりだ。
 口を塞がれていた十和は手を外されると一度だけ咳き込み、でも朱里のことを兄付けで呼びかける。それに満足した朱里は他の参加者様と共にパーティの準備へと戻った。


 さて十和はと言うと、例のカボチャ大王二世の元へと行くとじっとそれを見上げ。


「うわー★ 大きい」
「確かに大きいよな」


 と、一言。
 すると同じように大王を見ていた死神の仮装をした一人の人物――晶・ハスロ(あきら・はすろ)もまた同意するように頷く。その顔には骸骨のお面をかぶり、手にはおもちゃの鎌。フード付きの黒いローブを着用し、ローブの下も雰囲気崩さぬように、黒の燕尾シャツに白のベスト。下には黒のズボンを履いている。
 大王は自分の話題かと彼らへと身体を傾け、そしてもっと自分を見ろと今はパーティ用の蝶ネクタイを付けほんのり装飾品が増えている自身を見せ付ける、が――。


「黒ちゃんと同じくらいあるかなー。黒ちゃん、今日は食べちゃ駄目だよ。食べて良いのは悪い子だけだよ★」
「王様位の大きさのカボチャが八百屋かスーパーに置いてあったら、料理のしがいがあるのに……」
「こいつら私が着飾った事には一言も触れておらん! なんて屈辱っ!! むしろ料理して食べる気満々!?」


 十和は肩に乗せている現在鳥へと形を変えているペットの黒ちゃんに不吉な事を話し掛け、死神は料理の対象として誰かと同じような事を呟いていた。もっと良く見ようと晶は死神の面を取り、王様へとじりじり近寄る。料理宣言された以上、王様はずりずりと後退し逃げるわけだが――。


「おや、アキラ君じゃないか」
「あ、父――じゃない、ヴィルさん。こんにちは」
「お面を被っていたから誰かと思ったよ」


 現れたのはヴィルヘルム・ハスロ。
 変わらず吸血鬼の仮装のままだが、現在ロングコートは脱いでおりフリルタイ付きの白いブラウスに茶色のベスト、黒のズボン姿である。


「あれ、いつも一緒にいる奥さんは? まさか一人参加ですか?」
「ああ、妻はあそこのソファーで今は寝ているよ。なんていうかだね、一緒に参加をしていたんだがちょっと目を離した隙にお酒を飲み過ぎて酔っぱらってしまって……その、どうやら周りのカボチャ達やジャック達に飲みっぷりが良いとか煽てられた様で……」
「……なるほど」
「でも幸いと言っていいものか謎だけど、周りの方々に絡む前にぐっすりと寝てしまったから良いかな」
「変な男に目を付けられても嫌ですしね」


 アキラはヴィルヘルムが指差した方向を見て、そこで眠っている女性の姿を見つけた。女性の身体には風邪を引かぬようにとヴィルヘルムがかけたロングコートがしっかりと掛かっており、その表情はどこか幸せそうである。
 実は彼、アキラはこのヴィルヘルムとその妻の子供である。だがしかし何故か未来の世界からやってきて、若いこの夫婦の近所で日々過ごしているという背景を持つ。名前も皆には「アキラ」としか名乗っていない。だが、時折ヴィルヘルムの事を「父さん」と呼びかけそうになっては慌てて両手で口を封じるのももう慣れた。


「それにしても王様はとても良くお似合いで」
「お前は分かってくれて私嬉しい!!」
「他のカボチャさん達もパーティ仕様で可愛いですね」
「「きゃー、また可愛いって言われちゃったー!」」
「あ、そうか。着飾ってるんだ。カボチャが」
「「ぶー。ちょっとしたことに気付く男の方がもてますよー」」
「かぼちゃにモテても……なー」


 ヴィルヘルムは場の雰囲気に和みつつ、王様とその傍に居た女性カボチャを褒める。
 しかしアキラはちょっと対応が違っており、困ったように首を傾げた。ふと彼は会場内にいる一人の少女へと視線が向く。彼女もまた自分とヴィルヘルムの存在に気付くと、ドレスの裾を持ち上げ「御機嫌よう」と丁寧な挨拶をしてくれた。


「こんにちは、アリスさん」
「あれ、ヴィルさんも知り合い?」
「ふふ、わたくしは両方とも知り合いでしてよ」
「アリスさんは魔女の仮装ですね。とても露出度が高くてびっくりします。寒くありませんか?」
「大丈夫ですわ。お気遣い有難う御座います」
「寒くなったら言ってくれよ。俺の服貸すから」
「まあ、アキラさんまで」


 黒髪の美しい少女、石神 アリス(いしがみ ありす)は二人の青年の気遣いに気分を良くし、朗らかに微笑む。だが今宵の格好は肌の露出が多い魔女衣装。時々アキラがどこを見ていいものか迷い、ちらちらと視線を彷徨わせていた。


「私達は可愛いですかー?」
「格好良いですかー?」


 ふと褒めあっている三人に声を掛けてくるカボチャ王国の住人達。
 足元から期待の視線を向けられれば、アリスは苦笑交じりの笑顔で「ええ、可愛いですね」と答えた。
 彼女は確かに可愛いものが好きだ。それも飛び切りの美少女や美少年が好み。だがいくら可愛いとはいえ、カボチャはどうでしょう……と内心思ってしまう。


「さっき英里さんが人形劇をなさっているのを拝見致しましたわ。それに朱里さんも。この調子ですと他にも知っていらっしゃる方がいそうですね」
「あ、勇太さんには逢いましたか?」
「まあ、あの人も来ていらっしゃるのですか。どこにいるのでしょうか」
「さっきカボチャさんやジャック・オ・ランタンの子供達と遊んでいる姿を見かけましたけど今はどこかな――っと居た居た。勇太さーん!!」


 アリスの疑問にはヴィルヘルムが答え、そして身長の高い彼は人(以外も居るが)ごみの中から目的の人物を探し出すと、手を振って呼び寄せた。
 そんな彼――工藤 勇太(くどう ゆうた)は自分が呼ばれた事に気付くときょろきょろと顔を左右に振ってからヴィルヘルムの存在に気付く。そして戦闘時と同じようにチビ猫獣人の姿で大量のお菓子をせしめていた彼はヴィルヘルム達の元へ一緒に遊んでいた子供のジャック・オ・ランタン達と共に勢い良く走り寄って来て。


「トリックアトリート!」
「はい、蝙蝠型のキャンディー」
「にゃー! お菓子ー!」
『わーい、お菓子ー!』
「悪戯したかったにゃー!」
『他の人から貰ってくるー!』
「あ、行っちゃったにゃ――ってアリスさんにアキラさん!?」
「……勇太さん?」
「まあ……なんて愛らしい格好」
「待って。待ってアリスさん! 目がちょっと危ないにゃ!」
「あら、そんな事ありませんわ。勇太さんが可愛らしいからちょっと魔眼がうっかり発動しそうだなんてそんな事は……」
「ぎに゛ゃー!!!」


 五歳児の姿でしかもチビ猫獣人という姿はある意味アリスの心に響くものがあり、彼女は必死に魔眼を使わないように押さえ込む。
 彼は一応知り合いで、今までそれなりに色々協力し合った仲間。流石に此処で魔眼を使って石化させるわけには――と、一応彼女なりに葛藤を抱いているようである。


「ああ、でもこの姿の石像が出来上がったらきっともっとわたくし幸せに……」
「逃げるにゃー!」
「あ」
「あーあ、行っちゃった。よっぽど怖かったのかな」
「これでもわたくし、自制心くらいはありますのに」


 ぴゃーっと走っていくチビ猫獣人な勇太を見て三人同時に笑いあい、そしてそれぞれまたパーティ会場の中へと戻っていく。
 ウェイターとして働いているジャック・オ・ランタン達を見事すり抜けて走り去っていく彼の姿を見ていたのはある一人の女性。


「あらぁ。あんな小さな子までいるのね」


 その女性の名はレナ・スウォンプ。
 いわゆる魔女で、服装は普段とは変わらないがアクセサリーがハロウィンっぽく蝙蝠などのモチーフで飾られている。ウェイターのジャックから酒の入ったグラスを貰いながら、彼らが持つ書物が気に掛かり彼女はそれを見せてもらえるよう強請り始めた。
 客人には手をあげられない現在、男性型ジャックはしぶしぶと言う様に彼女に書物を渡す。レナは嬉々としてそれを受け取りそれはもう嬉しそうに笑顔を浮かべると本を開いた。


「ふむ、この国の王様とか国民って食えるのかな」
「きゃっ! びっくりした!」
「あはは、ごめんごめん! 俺の名は清水 コータ(しみず こーた)。コータって気軽に呼んでよ!」
「その衣装は一体なんなんかしら?」


 顔どころか肌が一切見えない黒子衣装でレナの隣に立ったのは清水 コータという人間の男性。彼は今、カボチャ達を観察しながら楽しそうにパーティ会場に運ばれてくる食事の数々を眺め見ていた。そして彼はレナを驚かせてしまった事を詫びると、一度だけぺらっと顔の部分を捲り顔を見せる。至って普通の人間の顔が見えるとレナもほっと息を吐き出し胸を撫で下ろす。


「色っぽいお姉さんは踊ったりしないのー?」
「え、誘ってくれるなら踊りたいわ」
「じゃあ、俺と一緒に踊ろうよ」
「でも今は本に興味が――ああ、でも踊りたいし!!」
「俺と本どっちを優先させる?」
「うーん……折角のパーティなんだし、踊るわ!」
「そうこなくっちゃ!」


 後で本を貸してね、とウェイターのジャックに書物を返しつつレナはコータが差し出した手に手を重ねた。
 ダンスホールへと足を踏み出し、彼らは踊りだす。知らないステップであったが、コータは即興で覚え、レナを次第にリードし始めた。その手腕にレナも驚き、そしてやがて相手へと身を任せてステップを踏む。黒子と魔女のペアという不思議な男女に注目が向くもそこはそれ。国民がカボチャであるのだからもはや黒子ごときでは国民は驚きもしない。


「あなた結構やるじゃない」
「お姉さんこそ!」


 ダンスを踊る面々を見ていれば十和もまたうずうずと身体が動き出し始める。
 元々ダンス系が大好きな彼の事、知り合いが皆料理製作に走ってしまった事もあり、誰か相手はいないだろうかと周囲を探す。
 すると一人佇んでいる女性型ジャック・オ・ランタンの姿があり――。


「君も踊るの好きなの?」
『そ、そんなことないわっ!』
「でもダンス踊りたそうにしてるじゃない」
『だ、だって……相手がいないんだもの』
「じゃあ、僕とレッツ・ダンシング♪」
『きゃあ!』


 綺麗に着飾られた女性型ジャック・オ・ランタンの手を掴み、十和はダンスホールへと駆け出す。
 一瞬悲鳴を上げた相手ではあるが、やっぱりダンスを踊りたかったらしく、十和がぺこりと頭を下げれば彼女もまたカボチャ頭を下げて応対した。そこから先のダンスはまさに激しく――剣舞のように軽やかにステップを踏むジャック・オ・ランタンに対して十和もまたリズム良く足を動かして対応する。
 細い身体を支え、時折回転させ、近付いては離れ、離れては近付き……即興のペアとは思えない見事な踊りっぷりを披露し、周囲の人間の視線を釘付けにした。


「へえ、やるじゃない♪」
『貴方こそ見事なリードっぷりだわ。人間の癖に私に追いつくなんて』
「へへ、ダンスなら負けないよ〜!」
『――もし良かったら次の曲も踊ってくださる?』
「もっちろーん!」


 そして彼らのダンスを見ながら食事を楽しんでいるのはアリス。
 彼女は周囲の人間で好みの人材が居ないか、小皿に乗せたクラッカーを口に運びながら観察し始めた。そして彼女の好みぴったりの子がいると素早く相手に近寄り、アリスは声を掛ける。微笑む彼女の目を見た相手はすっかり彼女の虜。魔眼を使い催眠を掛けると、アリスへとそれはもう心を丸ごと奪われ彼女に奉仕を始めた。
 その後、相手の身に何が起こるかなど――今は知らないままに。


「トリックアトリート!」
「悪戯されちゃ困るからお菓子をあげるわ」
「有難うにゃ!」
『あ、そろそろ僕達お母さんのところに戻るー!』
「にゃ?」
『ばいばーい』


 そしてジャック・オ・ランタンの子供達と遊んでいた勇太はと言うとパーティが始まった途端子供達が親元へと帰っていくのを見てほんの少し寂しくなってしまう。ふと周囲を見やれば他の参加者達も仲の良い人達と良い雰囲気になりつつあり、ついつい寂しくなる勇太。


「カガミに逢いたくなったにゃ……」


 しょぼんっと猫耳を垂れ下げながら勇太は呟く。
 なんだか心にぽっかりと空いたものを感じ、一人じゃないのに湧き上がる感情に従い、そのまま彼はどこかへと消えてしまった。


 一方、厨房では料理組がジャック・オ・ランタン達と共にパーティ用の料理を作る様子が窺えて。


「英里さん、こちらの料理はもう運んでも大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
「ヴィルさん、こっちの料理も出来たよー! あ、ヴィルさんじゃなくってもそこのジャックさんでもいいや。会場に運んで」
『了解した』
「英里、さっきコータさんという方からリクエストがありまして、『カボチャプリンつくれる?』と聞かれたんですけど作れますか?」
「蒸すのに時間が掛かるがそれでも良ければ作る」
「じゃあお伝えしてきますね」


 厨房はある意味戦争。
 英里とアキラを中心に食事をどんどん作り上げ、それをヴィルヘルムや朱里が盛り付けて運んでいく。そして更に英里が召喚していた狐がメイド服、執事服に衣替えして、任せろという顔を浮かべている。……が、基本的に背丈が足りないので、もっぱら給仕はカボチャ専門となっているわけだがそれはそれでいいのかもしれない。
 カボチャ達に奉仕する狐……ある意味そんな可愛らしい光景に和んでいる者も居るのも事実である。


 さて、朱里はと言うとレナと踊り終えたコータに声を掛け、先程要求されたカボチャプリンが作れる事を伝えに言った。それを聞くとコータは「やりぃ!」と指をぱちんっと鳴らして大喜びし、また会場内をうろつき始める。
 レナはレナで女性型のジャック・オ・ランタンのドレスに食いつき、「やっだー可愛い! その服どこで買えるの!?」などとそれはもう女性トークを開始し始める。
 更にいつの間にか酒を手にしていた彼女のテンションはもう上がるばかり。


「やっぱパーティーはワインよねー」
「おや、こちらの方はもう酔っ払って?」
「きゃはははは、そんなことないわよぉー! えーい!」
「うわっ!?」


 レナが手を天井の方向へと持ち上げたその瞬間、パーンッ! と幻の花火が撃ち上がる。
 さすが魔女。綺麗に輝くそれはキラキラと輝き、皆の視線を釘付けにする。自分が愛用している紅茶セットを持ち込み、紅茶を配っていた朱里もまたそれを見て目元が思わず緩んでしまう。
 そんな時計兎の彼を見て、女性陣がおずおずと寄ってくる。彼に声を掛けたいのだが、どう声を掛けていいのか分からないといったようだ。
 だがそこは朱里のターン。
 素早く彼女達へと紳士的に微笑みかけ、「紅茶をご用入りの方は言ってくださいね」と首を傾げながら一声掛ければそれはもう遠慮という言葉を無くした女性達が殺到した。
 メインは朱里か、それとも紅茶か……それは彼にはわからない。


『ふむ、我も紅茶が欲しいのだが』
「おや、貴方は紅茶に興味が?」
『葉には少々煩いぞ。何より淹れ方にも拘りがある』
「嬉しいですね、紅茶に興味を持っていただけるとは」


 朱里の笑みではなく、純粋に紅茶に興味を抱いた男性型ジャック・オ・ランタンが声を掛ける。紅茶に対して煩いとあればそれはもう朱里とはしては嬉しいところ。戦闘中に浮かべていた黒い笑みが嘘のように今は爽やかかつふわふわとした微笑を浮かべながら癒しオーラを振りまく。それにつられて顔こそ表情は変わらないが、ジャックの方も嬉しそうに紅茶談義に入った。


 ヴィルヘルムは会場と厨房を往復しながら彼らの様子を楽しげに観察する。
 そしてキッチンで奮闘する面々を見つつ、また新たに出来上がってきたお菓子や料理を見てついつい笑みを零した。


「しかしアキラ君作の料理は形に拘りがあるね。なんだろう、この親近感。誰かの料理に似ているんだけど……うーん」
「ヴィルさん、今何か言いました?」
「あ、いや、アキラ君の料理がちょっと妻の作るものに似ているなと思ってね」
「あー……そうですか? あれかもしれませんね。育った環境とか似てるとか」
「このお化けや蝙蝠の形をしたクッキーや皆の顔に似せたクッキーも面白いよ。誰が食べるのか楽しみだと思う」
「ヴィルさんの顔型のもありますよ。後で奥さんにあげたらどうですか」
「はは、起きた時にでも渡しに行こうかな」
「ほら、そこのジャックさん達。次はカボチャ料理を教えてあげるから頑張って」
『カボチャ』
『だと……!?』
「やっぱりハロウィンにはカボチャ料理でしょ。え、駄目?」


 まさかのまさか。
 カボチャ料理がメインだと思い込んでいたアキラはジャック・オ・ランタン達に思い切りカボチャを使ったレシピを教え始める。既に中身をくり貫かれすかすかの頭を持つジャック達は少し怯えた素振りを見せるが、そこは表情があまり変わらなかったのでアキラは気にしない事にした。


「こら、そこの子供型ジャック!!」
『ぎくっ!!』
『びくぅ!』
「つまみ食いに来るとは良い度胸」
『逃げろー!』
『ろー!』
「まあまあ、怒らないからちょっとそこで止まれ」
『ぴた』
『え? 怒らないの?』


 英里につまみ食いを見つかった子供型ジャック・オ・ランタンが足を止める。
 その口には英里が作った和菓子が銜えられており、今にも食べる気満々であった。怒られないと知ると彼らは英里のほうをじーっと中身のない目で見つめる。英里はそんな彼らへとにっこりと笑顔を浮かべ。


「丁度よかった。手伝ってくれない?」


 人手が足りないんだ、と一言付け加えながら子供達への罰としてお菓子の作り方を教えながら更にペースを速めることにした。
 なんせパーティ参加人数が人数だ。作っても作っても直ぐに消化されていくのは目に見えている。


「作りすぎ……はないよね?」


 南瓜の茶巾やら芋羊羹やら和菓子をひたすら作る彼女を止める者は、今は居ない。



■■■■■



「俺さ、持参したプリンがあるんだ! 食わない?」
「あら、頂きますわ」
「あたしもちょうだいー、きゃはははは! 次は空に文字を書くわよー、えーい!」
「テンション高いなぁー!」


 レナは魔法を遠慮なく使い、会場を盛り上げる。
 そしてコータが配るプリンにも遠慮なく口を付けそれはもう幸せそうにはしゃいでいた。アリスもまたプリンを一つ頂きながら黒子姿の彼を見つめる。あの下にはどんな顔が潜んでいるのだろうか――そんな純粋な興味を抱きながら食べるプリンはとても美味しく。


「あー、邪魔でプリンが食えんっ!」


 とうとうコータは覆面状態だった頭巾を脱ぎ捨て、懐に仕舞い込む。
 その下から現れたのは快活そうな青年の顔。20歳という年齢と性格がそのまま顔付きに現れた面立ちにアリスは目を瞬かせる。これはこれで良い顔ではあるが、残念ながら彼女の好みからはややずれていた。
 やがてアリスはすっと席を立ち上がるとパーティを楽しむパンプキン大王二世の傍に寄り、何やら相談事を口にする。面白そうなその内容に王様は微笑むと、アリスの提案に快く許可を出した。


 < 会場の皆様にお知らせいたします。これより有志によるファッションショー及びオークションを行いたいと思いますので興味がある方はぜひ舞台近くまで足を運んで下さいませ >


 司会のカボチャがマイクを通して城内放送を流す。
 一体何事かと興味を抱いた女性達――ジャック・オ・ランタンも含む――は素早く会場前へと設置された舞台へと移動を開始した。
 舞台上ではアリスがマイクを持って立ち、すぅっと息を吸う。
 そしてにっこりと微笑むと、口を開いた。


< ただいまよりわたくしが持ってきた衣装によるファッションショーと、更に美術品などのオークションを始めたいと思いますわ。ぜひご覧になって下さいませ >


 そして音楽と共にこのショーに協力してくれた男女が舞台袖から現れ、その身を着飾っている服装をよく見せるためゆっくりと歩く。ドレス系からカジュアル系まで種類は豊富。ちなみに協力者はアリスが魔眼で「お願い」した人達ばかりなので、非常に愛らしい男女が多い。
 彼らは中央の方へと足を進め、モデルよろしくターンを決めてからまた舞台の端の方へと戻り、参加者へ服を見せ付ける。これにはファッションに非常に興味を抱くレナが食いつき、それはもうキラキラとした目でショーを見つめた。十和もまたアイドルという観点から自分に似合う服装の研究も兼ね、舞台へと視線をめぐらせる。その隣には先程一緒に踊っていた女性型ジャック・オ・ランタンが腕を絡めており、いつの間にか幸せそうで。


 更にファッションショーが終わると今度は今行われたショーに使用された衣装と共に美術品のオークションに入る。
 そこに出てきた美術品もまた価値が高いものが多く、観察眼を持つ者からどよめきが上がった。レナなどマジックアイテムも含め、ドレスと綺麗なネックレスを落札に掛かっている。
 競り合いで盛り上がる舞台を横目に見ながらもそちらには不参加組は料理を食べながら談笑で盛り上がっていた。


「あれ、勇太さんは?」
「そう言えば姿を見かけませんね」
「ん? 誰か探しているのか?」
「ああ、コータさん。実はですね、勇太さんといって今これくらいの小さなチビ猫獣人の姿をしている方を探しているのです」
「迷子になったとかでしょうか」
「パーティ前に人形芝居をしてた子が出してたチビ猫獣人だな!」
「その子です」
「よっしゃ、探そう! もしかしたらジャック達に悪戯されているのかもしれないしな!」


 ふと給仕をしていた朱里とヴィルヘルムが消えた勇太の存在を思い出す。
 彼の事だからオークションの方には参加していないと考えるが、簡単に会場内を見回してもその姿はない。もしかして埋もれているのだろうかと人混みの方を見るも、ぱっと見てそこには姿が無かった。
 そして途中でコータが捜索に加わり、あちらこちらと男三人で探しに回る。するとあるテーブルの前に立つ一人の青年の存在に三人は気付いた。


「ここ」


 しぃーっと指を一本たて唇に乗せる青年。
 ヴィルヘルムはそんな彼の姿を見ると、目を細めて微笑んだ。青年の名はカガミ。人間ではなく『案内人』と呼ばれる種族にあたる。今格好はパーティ用の黒タキシードを身に纏っており、場に馴染んでいて違和感が無い。普段は少年姿をとることが多いが、彼が青年姿になって出てくるにはそれなりに理由があり――それが大体勇太絡みであることを考慮するとヴィルヘルムはゆっくりと頷いた。


「なにやってんの、父――ヴィルさん」
「ああ、アキラさん。実は勇太さんが行方不明になったので捜索を」
「え、それヤバくない!?」
「料理作り終わったぞ。なんかもう多すぎるって言われたからこっちに来た」
「お帰り、英里」
「それで、勇太さんは見つかったのか」
「見つかったみたいですよ。ほら」


 朱里がカガミを指差し、英里は首を傾げる。
 青年が一人立っているだけで勇太の姿は無い。見つかったと言うが、どこが「見つかって」いるのかさっぱり分からず、意味が分からない組は首を傾げるばかり。
 だがカガミはにぃっと口端を持ち上げ悪戯笑みを浮かべると、蓋付きの銀トレイのその蓋をぱかっと開いた。普通ならその中には豚の丸焼きなどの料理が入っているはずだ。しかし今彼らの目の前に現れたのは――その中でヤケ食いをした後お腹いっぱいになって眠っているチビ猫獣人の姿であった。
 身体を丸めた子供がそんな場所にいれば流石に何も知らない人達は驚くばかり。
 むしろ料理されて運ばれてきたのかと勘違いしてしまうほどに。


「なあ、誰があの子料理したんだ?」
「私はしてない」
「俺もしてないって! むしろ食べ物じゃないし!」
「そもそもただ隠れていただけのようですしね……あーあ、服汚れていないと良いんですけど」
「おーい、勇太。起きろー」


 コータが純粋な疑問を口にし、ざわざわと周囲が騒ぐのをよそにカガミは眠っている勇太の頬をつんつんと突く。
 すると彼はむにゃむにゃと口元を動かし、やがて瞼を持ち上げる。最初はぼやーっとしていた彼だが、やがて目の前にカガミがいる事に気付くとぱあっと目を輝かせ。


「カガミーッ!!」
「よっと」
「逢いたかったにゃー! 寂しかったにゃー!」
「はいはい。呼ばれたから来た」
「一緒にご飯食べたり、踊ったりしたいにゃ!!」
「はいはい、お望みのままに」


 トレイから飛び出してカガミに抱きつくチビ猫獣人。
 そんな彼をあっさりと受け止めると、擦り寄ってくる子供の背中をぽんぽん抱きしめながらカガミは望みを叶えるためにパーティへと交じる事にした。



■■■■■



『トリック!』
『そしてトリックですわー!! ほーほっほっほ!』
「うわっ!?」


 パーティを楽しんでいた頃にそれはやってきた。
 油断していたコータの身に襲い掛かったのは悪戯魔法。「折角だし悪戯が見たいなー」と呟いた直後の事であった。それを聞いた――というより聞き逃さなかった女性型ジャック・オ・ランタン二人はそれはもう愉悦の表情を浮かべると嬉々としてコータに「トリック」を掛けたのだ。


 舞台の上では朱里が「鬼女」に武舞をお願いし、踊らせているところ。
 「鬼女」は戦闘型絡繰りで遠目では人形らしき間接は見えず、近付いてやっと間接らしい筋が見えるほどリアルに作られた日本人形である。黒の長い髪、白い着物、鬼の角の女性型人形で、作者は英里。だが、朱里が頼んで作ってもらったものである。少し妖力を入れておけば暫く動く物で、いつもは長刀だが今回は模擬刀にしている為、余興に協力している真っ最中。
 華麗に舞う人形の姿に異文化に触れていない人達はうっとりとした表情を浮かべるばかり。


 さてここで問題発生。
 トリックを掛けられたコータが何に変化させられたかと言うと――。


「え、俺まさかの人形ー!?」
『ほーほほほ、お揃いの男性型人形ですわ』
『それで一緒に踊れば宜しいのです』
「ありなの、それ」


 鬼女に対して鬼男。
 とはいってもあくまで彼が掛けられたのは仮装範囲で、生えている角とかも作り物である。しかし男性物の着物を身に纏い、そのままぽいっとジャック・オ・ランタン達に舞台の上に上げられてしまえばコータも流石に固まってしまって。
 ぎぎ、と鬼女がコータを見やる。
 舞台傍で見守っていた朱里と英里もきょとんっと目を丸め、舞台に上がってきた見覚えの無い鬼男を見つめるばかり。


 対面する鬼の男女。
 そしてコータの方へと投げられたのは薙刀。


「……ま、こういう余興も有りってね」


 鬼女が男と共に踊りだす演舞。
 即興の舞台で生み出すそれは格式から外れた踊りではあったが、見るものの目を惹き付ける魅力は充分に存在しており。


「鬼女に戦闘用命令をしなくて良かったな」
「本当に……そう思います」


 朱里と英里は踊り続ける二つの人形を見て、内心安堵の息を吐いた。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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ソーン
【3428 / レナ・スウォンプ / 女性 / 20歳(実年齢20歳) / 異界職 / 異界人】


東京怪談
【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【4778 / 清水・コータ (しみず・こーた) / 男 / 20歳 / 便利屋】
【7348 / 石神・アリス (いしがみ・ありす) / 女 / 15歳 / 学生(裏社会の商人)】
【8555 / ヴィルヘルム・ハスロ / 男 / 31歳 / 請負業 兼 傭兵】
【8584 / 晶・ハスロ (あきら・はすろ) / 男 / 18歳 / 大学生】
【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8622 / 九乃宮・十和 (くのみや・とわ) / 男 / 12歳 / 中学生・アイドル】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、ハロウィンノベル後編で御座います!
 今回は9PC様というこれまたいっぱい集まってくださって有難う御座いました! しかも初めましてさんもいると言う事で嬉しいです^^

 今回も三種類のEDが御座います。
 他のEDも合わせてご覧下さいませ。ではでは!


■朱里様
 紅茶が飲みたいです、こんにちは!
 朱里様の紅茶は拘りのものですよね。きっと美味しいんだろうなとプレイングを読みながらうっとりと。時計兎へと変わっていたのでそんな格好も見てみたいと内心思いつつ。
 鬼女格好いいですよね。想像だけですが、舞もきっと綺麗で……最後は某PC様との舞台となりましたが、これもありでしょうか?