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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Episode.14 ■ 大立ち回り






 冥月の言葉に周囲に武装していた戦闘集団が逃げ道を失くすように囲い込んだ。

「IO2……ッ!」
「そうらしいな」

 IO2のエージェントやバスターズ。武装した格好からその素性を割り出した百合の言葉に呆れたように冥月が呟いた。数は数十。取り囲まれた冥月と百合が互いに背を合わせて周囲を見回す。

「ディテクター……ッ! やはり私達を――」
「――それはない」
「何故です!?」
「約一年、私は彼と共にいた。その間に捕まえるつもりなら幾らでも隙はあっただろう」
「……お姉様は、彼を――」
「――そんなもので人を見る目を衰えさせる程、私は愚かか?」
「――ッ! すいません……」
「良い」

 冥月は考えていた。
 ――このIO2の部隊達が何故このタイミングで自分達を襲ってきたのか。やはりそれは百合と虚無の関係性に気付いた可能性が高い。或いは武彦の背後の関係である自分を調べあげた結果か。
 いずれにせよ、掴まる訳にはいかない。彼が帰るまでは、零のいるこの町を離れる訳にもいかないのだから。

「一つ聞く。標的は私か? それともこの子か?」

 冥月の言葉に誰も反応しようとはしない。

「……百合、影の中から師の戦いぶりを見ていろ」
「で、ですが――」

 百合の言葉を遮り、影が百合を飲み込む。冥月はそのままスッと歩き出し、敵の取り囲む中央へと躍り出た。

「さて、これで銃を使えば同士討ちになる訳だが?」

 冥月の言葉にIO2の隊員達が一瞬動揺する。
 ――その瞬間を、冥月は見逃さなかった。

 影が刃となってバスターズの手に持っていた銃から伸びたケーブルを一斉に切り裂く。突然の影の動きにバスターズ達がそちらに振り向き、戦況が混乱に陥る。エージェント達が慌てて冥月へと振り返るが、そこに冥月の姿はなかった。

「くっ!」

 走る一筋の風が、次々とエージェントを気絶させていく。
 それと同時に、影が次々にバスターズを捕縛し、その場で動けないように拘束する。そんな中、ジーンキャリアと特殊な武器を持った数名が影を逃れて集団の中から躍り出てきた。

「……能力無効化の武器と、反射神経で避けたジーンキャリアか。なかなかの大所帯だな」

 冥月が立ち止まってそう呟いたかと思うと、次の瞬間には駆け出し、能力を無効化した特殊な武器を持ったバスターズの背後へと回り込み、それぞれをあっさりと手刀で気絶させて武器を破壊する。
 ジーンキャリアが振り向き、唸りだす。獰猛な遺伝子が冥月を敵と認識し、駆け出した。
 が、冥月は後ろへと飛んで距離を置いた。その直後、冥月のいた地点に黒い針が何本も四方八方から襲い掛かった。

「まだ他にもいたか」

 周囲を駆け回る忍。忍者と呼ばれる彼らを芝生の動きとその行動パターンから位置を把握し、影がその場にいた忍を何名か一斉に捕縛する。バリバリと猛ましい音を立ててステルス装置が壊され、忍者達が姿を現し、その場で動けずにもがいている。
 ジーンキャリアが冥月に襲い掛かる。人数は三人。人間とは思えない速度で次々と冥月に向かってその鋭い爪で襲い掛かるが、それらを全てかわしながら、冥月が一人の腕を掴んで互いにぶつけ、もう一人の伸ばした腕をそのまま肩で背負うように投げ飛ばす。

「――ッ!」

 冥月が気配に気付き、再びその場から飛んで避けた。

「……髪を切ったな……?」

 冥月のいた場所に突如襲い掛かった剣閃。それが冥月の髪の一部を斬りおとした。
 ――冥月が怒り出し、一瞬とてつもない殺気を放つ。

「昔褒められたんだがな、この髪は綺麗だと……!」

 風を切った一動。冥月が自分の髪を斬りおとした忍者の位置を把握し、その一瞬で間合いを詰めて掌で腹部に向かって攻撃を繰り出した。ステルスが破壊された忍者がその場に倒れこむ。
 さらに冥月は止まろうとせずにジーンキャリアに向かって飛び出した。反応するジーンキャリア達だが、冥月が手と足に黒い影を纏い、彼らの尋常ではない硬い身体や重い攻撃を全て砕く。圧倒的な攻撃力に、ジーンキャリアが爪を振り下ろして対抗するが、影を纏った冥月の拳がその爪をあっさりと砕いた。
 クルっと身体を回して腹部に回し蹴りを入れ、頭を掴んで後ろに飛びながら蹴りを顎に入れると、一人のジーンキャリアがその場に倒れ込む。

「――ッ!」

 冥月に死角となる位置から再び黒い針が飛んで来るが冥月はそれを指で掴み、振り向きもせずに投げ返し、慌てて避けた忍者を影が捕縛した。

 正に圧倒的な戦い。ジーンキャリア二人を残し、その場に倒れている数名と影で捕縛された数十という戦力。

 ジーンキャリアが再び冥月に向かって襲い掛かるが、冥月がすれ違うように攻撃を抜け出し、あっさりと手刀を入れて気絶させ、崩した。

『すご……い……』
「あらかた片付いたか……」

 冥月がそう言って手をパンパンとはたくと、突如猛ましい銃声が鳴り響き、影で自分の身体を覆った。影の中からその銃を放った相手を睨みつける。

「……やれやれ、そんな物まで引っ張り出してきたか」

  危機状況制圧用空挺二脚機動戦車、通称“シルバールーク”。
 ボディは卵形で、尖った部分が前になっている。鳥類の様な逆関節型の脚で、地形を選ばず移動が可能。
 手は三本爪で、体高は脚を含めて6m、体の前後幅は10m。
 戦車並の装甲を持ち、また坑魔処置により、魔法的、霊的攻撃に対しても高い防御力を持つ。

『シルバールーク! お姉様、逃げて下さい!』
「何故だ?」
『あれは対能力者にも利用される殲滅兵器です! 能力攻撃に対しても圧倒的な防御力を――』
「――大丈夫だ」

 冥月が影から飛び出し、シルバールークの140mm戦車砲の代わりに取り付けられたガトリングガンが動き出し、冥月の後を追って銃弾を次々と放つ。冥月の速度に追いつけず、銃弾の雨は冥月の走る後をどんどんと離れ、シルバールークが旋回する。

「これならどうだ?」

 影が周囲に扉のように次々と生まれ、そこから岩塊が凄まじい速度でシルバールークに襲い掛かる。逃れるように後方へと飛び、シルバールークが再び構えるが、さらに岩塊が次々にその後を追う。
 岩塊が落ちた先の陰から冥月が飛び出し、シルバールークの視界を自分に向けさせた所で、シルバールークの背後にさらに影が生まれ、放たれた岩塊がシルバールークの脚部を砕いた。
 動きが止まったシルバールークの武器を岩塊が砕き、行動も攻撃も出来ない状態に追い込んだ。

 ――冥月は違和感に気付いていた。

 本来シルバールークはその性質上、圧倒的な兵器を搭載して遠距離からでもミサイルを撃ち出す事が可能だ。その上、140mmの戦車砲も搭載している様子はない。公園とは言え、IO2がそんな所にこだわるのなら、そもそもこの作戦自体が成り立つハズがない。

『――ッ! お姉様!』
「――クソ、まだいたか!」

 さらにシルバールークが二機現れる。しかし武器はやはりガトリングガンを搭載している。冥月が再び影から岩塊を投げつけ、今度はその脚部を影で固定する。
 一機はその一斉攻撃で落ちた。が、もう一機は上空に飛び上がり、円形の身体からミサイルを吐き出した。

「成る程、奥の手としては取っていたという訳か」

 冥月に向かって放たれたミサイル。冥月が手を地面に当てると、巨大な影がそのミサイルをあっさりと飲み込み、それは不発に終わった。影を纏った右手に剣のように影が鋭利に尖って集束し、冥月が飛び上がる。
 ガトリングガンから放たれた銃弾を影によって弾き、シルバールークの脚部を斬り裂いて地面に降り立った。その横へ、バランスを崩したシルバールークが力なく地面へと落ちて叩き付けられた。

『……誰も死なずに……』
「私は誰かを殺す気はない。ここまでの勢力を圧倒的なまでにやられたんだ。IO2も引き下がるだろう」
『ですが、もうここから離れるべきではありませんか……?』
「それは出来ない。武彦との約束もあるからな……」

 冥月が周囲に敵がいなくなった事を確認するように再び見回す。

「……まだいたらしいな」
「――ッ!」

 忍者の部隊の数名が冥月に襲い掛かるが、冥月は見えないはずの忍者達の攻撃をあっさりとかわし、その気配だけで動きを捉える。再び影を手に纏い、忍者に攻撃を浴びせようとしたその瞬間。

「はいはーい、そこまでー」

 突如手を叩きながら少女のような見た目をした女性が声をかけた。冥月の手が止まり、忍者達がその少女の近くに一斉に移動した。
 そして白衣を着た少女の横には煙草を咥えた武彦が立っていた。

「……ッ、武彦」
「ったく、凄いな……」
「武ちゃんの勝ちだねぇ。見事に行動能力を潰されて、死者もなしだよ〜」

 周囲を見つめて武彦が呟く。

「武彦、どういう事だ?」





                                         to be countinued...



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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

圧倒的!
そんな強さでIO2の攻撃主力を倒してしまったのですが、
これは百合にはなかなか過酷な修行が待っていそうですw

今回のお話で繋がる部分が多くなるのかな、と
私も楽しませて頂いてますw

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司