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<東京怪談ノベル(シングル)>


奥羽合茶釜だ玲奈

1.
 人里離れた山の中。人も寄り付かぬそこは不法投棄の温床となっていた。
 降りすさぶ雨は激しく、時に落雷を落とす。
 その一筋の光が不法投棄のガラクタの山に落ちた。
 がたっ…がたがた…
 そのガラクタが動き出す。落雷の振動だろうか…?
 いや、違う。
 それは、生き物のように形を作り、ついにガラクタの山の中から抜け出した。

「ふーはっは! ワイは総裁や。世界制服するでぇ。手始めに…」

 何で関西弁? …そこは触れんといてあげて。
 総裁と名乗ったガラクタ生物は塵を寄せ集め、巨大なロボを作り出した。
 鉄屑の怪獣・屑獣。
 恐ろしげなそれを前に、ふはははははと高笑いする総裁。
「えぇもん作ってもうたわー。…手始めに地元からいくで」
 ニヤリと笑った総裁に顔があるのかないのかわからなかったが、とにかくこうして世界征服を狙う総裁は誕生した。
 …しかし、地元から攻めようとするあたり、手堅い。実に手堅い。


2.
 こちら場所は変わり、東北の老舗旅館・鶴仙荘。
 鶴仙荘…『かく せん そう』と読みます。ここ重要です。テストに出ます。
「今日も雨だわ…」
 女将は外を見てため息をついた。長雨は観光の敵である。
 折角の紅葉シーズンなのに紅葉観光客の足は遠のくし、紅葉が散ってしまうかもしれない。
 あぁ、今年の秋は早く終わるかもしれないわ…。
 と、そこに1本の電話がかかってきた。
「はい、カクセンソウですぅ〜」
 旅館の予約かと思いときめく女将。
『こちら、秘密結社キャタピラである』
「はぁ、ご予約名『秘密結社キャタピラ』様ですか?」
 そして、受話器の向こうからは思わぬ言葉が聞こえた。

『今宵、核兵器を頂戴する』

 重々しい口調、カッコイイ決め台詞。決まった!
 秘密結社キャタピラを名乗った者はきっとそう思ったに違いなかった。
 しかし…
「え? うちの旅館は拡声器の在庫はちょっと…」
 女将、御年80歳のご高齢である。耳が遠いようだ。
『核兵器じゃボケ! もうええ! 今晩襲うから!』
 ガチャ!
 一方的に切られた電話。呆然とする女将。
「だって、旅館に拡声器なんてあるわけないじゃない…」
 文句をひとつ言ってみたが、誰が聞いているわけでもなく。
 とりあえず『襲う』という言葉が頭の中を駆け巡る。
 それは困る。老舗の名に傷がついてしまう。
 それに旅館を破壊されたりしたら、誰が修理費を払ってくれるというのか?
「そうだわ! こういう時のための…」

 女将は電話帳をぺらぺらとめくりながら、『か行』に記されていた国際文科省に電話をした。


3.
「キャタピラーをどないかしてくれ」
 国際文科省・忍者隊に入った女将の通報電話に対応したオペレーターはあくまでにこやかに、業務的に答えた。
『え〜、うちは東北は管轄外で…あ、もしかしたら国際警視庁の方なら対応してくれるかもしれませんので今からお繋ぎしますね』
「え!? ちょっと!??」
 ぷつっ…しばらくお待ちください…ぷつっ
『はい、こちら国際警視庁。どうしました?』
「キャタピラーをどないか…」
『あ〜、うちは管轄外なんで…国際国交省の方で訊いてもらえますかね?』
「あ、まっ…」
 ぷつっ…しばらくお待ちください…ぷつっ
『はい、こちら国際国交省。ご用件をどうぞ』
「キャタピラー…」
『それうちの管轄じゃないです。国際農林省に回します』
「えぇ…!!」
 ぷつっ…しばらくお待ちください…ぷつっ 
『はい、こちら…』

「いいからキャタピラーぶっ飛ばしてこいや!!」

 キレた女将の一言で、よい子の食育を担うご当地ヒーロー・価格人参屋台は本物の悪人と退治する羽目になった。
 でも、そんなこと言われたって困る。
 価格人参屋台が守るのはよい子の食育、健康、食卓の安全だけなのだから!
 重苦しい基地の空気。涙目で今にも辞表出しそうな表情の面々。
 しかし、救いの主は現れるのだ!
「大丈夫よ、みんな! あたしたちにはスーパーヒロインがついているわ!」
 バーンと開け放たれた扉からネタ大好き娘・瀬名雫(せな・しずく)が現れた。

「臼烏の玲奈ちゃんですぅ!!」

 雫の背後に立っていた三島玲奈(みしま・れいな)は思わずドヤ顔でそう言った雫にチョップをかました。
「こら、雫…って何するの!」
 雫は玲奈のスカートをおもむろに捲る。玲奈はそれを必死で押さえる。
 しかし、チラリズムの原理。隠した分だけ期待も大きい。
「純白のスコートと綿の下着…」
 そう言った1人の男性隊員が顔を押さえ、ティッシュに手を伸ばした。
 …鼻につめるだけです。考えすぎです。
「うむ、確かに…」
 すでに鼻にティッシュをつめた南部鉄瓶を被った隊長は、張り切って言った!
「よしギャザー、コットン不死鳥発進せよ!」

「ギャザーゴー!」

4.
 東北の温泉地。老舗旅館・鶴仙荘は今最大の危機に瀕していた。
「やめとくれ! 旅館が、旅館が壊れてしまう!!」
「なら、核兵器をお出しになって☆」
 ぐわらぐわらと旅館を蹴散らし暴れる屑獣。
 それにオマケの様にくっついてオカマの幹部が茶色い声で凄んでいる。
「おーほほほほ。侵略の手始めに核兵器を頂くわ☆」
「核戦争ちゃうて!」
 女将涙目。誰か、誰かいないの!?

「待たせたわね!」

 すばやく雑兵を颯爽と羽手裏剣の連射で倒し、シュタっと登場!
「来たな…待っていたぞ、『忍者隊』っ!!」
 茶色い声がそう言うと、玲奈はすばやく訂正を求めた。
「忍者隊ちゃうから。『価格人参屋台』ね? OK?」
「え? 違うの? なんでやの?」
「大人の事情でね〜…」
 このままだと井戸端会議のおばさん化しそうです。
 話、続けて!ほらほら!!
「…ま、まぁいいわ☆ とにかく行け!」
「受けて立つわ! いくわよ! 忍法火の車!」
 玲奈が霊力で屋台に点火すると、猛煙を上げて屋台をそのまま屑獣に特攻、からの〜自爆!!

 ちゅどーーーん!!!

「馬鹿者ぉっ、逃げるなっ! お前達は最後まで戦えぃっ!!」
 燃え上がる屑獣に逃げ惑う雑兵。オカマ幹部がいくら叱咤しても統制はとれない。
「おの〜れ人参屋台!」
 どこからともなく現れた抜け道を通り、オカマ部隊は涙目で撤退した!
 その後姿を見送りながら玲奈は今まさに最高潮の台詞を口にする。

「実態を見せずに忍び寄る白いスコート。正義の影武者、価格人参屋台、その名を…」

「あー…それ以上はダメかなぁ…」
 雫が冷静にそう言ったので、最後の決め台詞を言えなかった玲奈は密かに泣いた。

「奥羽合茶釜〜♪ 合茶釜〜♪」

 そして最後に…これだけは歌っておこうと思ったのだった…。