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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


■夜は眷属の時間

 無数の人工灯できらきら輝く街には、夜を楽しむ人々の姿があった。
 その中の一人、久能・瑞希(8627)も例外ではない。仕事仲間である桐生・出流(8626)と連れだって、足取り軽く街へ繰り出したのだった。
「仕事が終わって、まっすぐいぬなんてありえへんやろ。酒でも飲もや」
 そう気軽に誘った瑞希だが……黄色い声で『Mistのバニじゃない!?』と、若い女性が声を上げた。
「っと……! よう変装を見抜いたな! 出……じゃない、シアン! 逃げるで!」
 灰色のパーカーが翻り、瑞希が駆けだした。
「自分たちを応援してくださっているのだから、そう逃げることもないでしょうに」
 それを視界に納めていた出流は、そう言いながらも瑞希を見失うわけにはいかないので、自分たちのファンであろう女性に会釈をすると同じように駆け出していった。


「……あーもう! 酒が飲みたいだけやのに、なんっで行く店行く店満席やねーん!!」
「仕方がないだろう。金曜の夜だぞ」
 うがーっ、と叫びながら手をばたばたさせる瑞希に、冷静に状況を返す出流はエレベーターのボタンを押し、これで入れなかったのは5件目か、と呟いた。
 若い世代に人気のアイドルグループ「Mist」として活動している出流と瑞希。
 しかし、アイドルとはいえ歌番組やライブにばかり出演しているわけではない。
 その他俳優活動などもこなしており、メンバーは多忙な毎日を送っている。
 そんな中で、久々に仕事が早く終わったため……オフを満喫しようとしていたのだ。
「仕事終わった言わんで、ロビー前に置いて帰ったマネージャーの陰謀なんか?」
「報告しなかったのか? それは怒られるしかないな……」
 わたくしはきちんと報告しましたけど、と付け加え、さらに瑞希をしょんぼりさせたが……抜かりのない出流は、きちんと関係者に彼も一緒に帰ると伝えてある。

「もう最悪やん……どこやねん、ここぉ……」
 人目を避けつつあの店この店と渡り歩くうちに、なんだかよく分からない場所へと紛れ込んでしまったようだ。
 住宅地のように入り組んだ路地。土地勘のない場所だったため出流も瑞希も迷い始めてしまった。
「困ったな……」
「携帯のナビとかでなんとか戻ろか――って、待ってや出流! 酒の匂いがするで!!」
 空気の中にそのようなものが混じっているのだろうか。出流は本当か? と言って、眉を寄せつつ訝しむ。
「だが、まぁ……お前の言うことは当たるからな……特に酒関係は外さない」
「せやろ? よっしゃ、酒がうちを呼んどるでぇ!」
 割と酷いことを言われているのにも気づかず、嬉しそうに駆けだしていく瑞希。
 たどり着いたのは、時代を感じる……古い洋館だった。
 二人は一度顔を見合わせ、木製の重厚な扉をゆっくりと押して中へと入った。

 目に飛び込んできたのは真っ赤な絨毯と広がりのある空間。明るすぎない照明が、二人を優しく出迎えてくれていた。
「いらっしゃいませ」
 カウンター内にいるバーテンが会釈し、二名様ですかと聞いてきた。
「どうぞお好きな席に掛けてください」
 店内は、客と思しき者は誰も居ない――いや、瑞希と出流の他にも店内には黒いドレス姿の女が居るのだが、雰囲気からして客の感じはしない。
 テーブル席も空いているが、二人は吸い寄せられるようにカウンターへとやってきてスツールを引いた。
 店の雰囲気に気圧されたわけではないが、瑞希はかぶっていたフードをそっと取る。
 短い黒髪が、衝撃でさらりと揺れた。
「ドレスコードとか、あるんやろか」
「うふふ、ございませんよ。自由な格好で構いません」
 ほんならジャージでもえんやろか、と疑問を口にしながら金属製のスツールに座り、出流はコンビニに行くのと訳が違うんだぞ、と窘めてから顔を上げた。
「――……」
 出流が、自身の能力の一つでもある……吸血種の【匂い】を感じ取ったようだ。視線は隣に座った瑞希を超え、その先に座っている女の姿を捉える。
 それに気づいたのか、女は『ご安心ください。吸血鬼にも節度はありますわ』と柔らかい笑みを向けた。
「あ……いや、失礼しました。気分を害したのであればお詫び致します」
 出流が折り目正しく謝罪すると、そのドレスの女――ここのオーナーで久留栖 寧々というらしい――は、気にしておりませんよ、と手の中に琥珀色の液体が入ったグラスを収めたままはにかむ。
「いやー、しっかし、迷うた時はどないしよか思うたけど、安心したわ〜」
 瑞希はメニューを受け取り、バーテンの絢斗に人懐こい笑顔を向けたのも束の間。
 すぐにその眉は苦悩のために寄せられ、低いうなり声が聞こえた。
「ここ、カクテルが多いんか……? すくりゅー……? じん? んあー……出流! 任せたわ。
うち、さっぱり判らんよ」
 ぽいと渡されたメニューを見て出流も困ったように瑞希を見たが、バーテンに申し訳ありませんがとメニューを返しつつ告げた。
「カクテル……お任せでお願いします。わたくしも瑞希も詳しくはないので」
「かしこまりました。では、お二人に似合いそうなものを作りましょうか」
 バーテンの言葉に興味を持った瑞希は、おお、と小さい声を上げ手元を注視する。
「あんまり知らんモンてのはワクワクするなぁ」
「ふふ、そうですね……。たまには違う趣向もいいものです」
 出流も瑞希の言葉に同意し、カシャカシャとシェイカーを振る様子に目を細めた。


 やがて二人の前に出されたカクテルは、赤い色と青い色のカクテル。
 バーテンは、青いカクテルを出流の前にスッと出した。
「甘すぎず、辛すぎず。清涼感があり女性にも人気のカクテル……ブルーラグーン。
しかしウォッカを使用していますので……一気に飲むと危険ですよ」
 あなたにぴったりかと思いますよ、シアンさん……と告げられ、出流は目を瞬かせた。
「Mistさん達は有名ですし、テレビで良くお見かけしますから」
 そうして次に、瑞希へ赤いカクテルを差し出した。
「こちらはワインを使用したもので、ルビーモスカート。少々甘めですが、あとでほろ苦さがやってきます」
 そうして、出されたカクテルを二人は口に運ぶ。
「……確かに軽い口当たりで、水のように入ってしまいますね」
 どちらも飲みやすく、喉の渇きを覚えていたこともあり、出流はクイッとグラスを傾け飲み干した。
 あ、という声がバーテンから上がったが、心配無用やで、と何故か瑞希のほうから自信満々に言われてしまった。
「出流……あ、シアンの事やけどな。うちも、酒強いねん。ちょっとやそっとで潰れたりせぇへんよ」
「そういうことです。ワインやビールや日本酒やらと飲んでいっても、未だに具合が悪くなったことはありませんから」
 出流はウワバミもウワバミ、ウワバミも裸足で逃げるくらい飲んでも平気なんやと冗談めかした口調で瑞希から指さされたが、その指先をぺしっと払って出流はじろりと瑞希を睨んだ。
「何言ってる。そもそもウワバミは元を正せば大蛇のことだ。足があるわけないだろう」
「突っ込むところはそこなんか!?」
 そんなに飲まへんとか、ウワバミに失礼だろう、とかはないんかい! ――と、瑞希はつい裏手突っ込みを出流にやってしまう。
 その様子に顔を綻ばせるバーテンは、バラエティーでも活動できそうですねと言って、オーナーに窘められていた。
「よし、なんとなく飲みやすいんは分かった。ほな、次はうちが自分で選ぶかなぁ……」
「わたくしもそうしましょう。雰囲気も良いお店ですから、知り合いも今度紹介します」
 出流の言葉に、バーテンと寧々は顔を見合わせてから『ここに来ることができるかどうかは保証できませんけれど』と静かに言った。
「ここは、必要としている人にしか来ることが出来ません。何故そうなったのかは……機会があればお話ししますわ。
ともかく、本日お客様が来店されたのは……ゆっくり酒を嗜む場を必要とされていたから、でしょうか……?」
「そないにけったいな力があるんか、この店は!!」
 へぇ、と感心したような顔をする瑞希だが、出流は不思議そうに首を傾げた。
「……しかし、このようなしっかりした建造物なら周囲にも知られ、住所もあるのでしょう?」
 昼は喫茶店で夜はバーをやっていて、昼は誰でも拒むことはないのに何故か夜だけは見つけることすら出来ない人がいるのだという。
「そうですか……きっと、【僕ら】のような者にはそういう場所も、必要なのですね」
 深くは聴かずに、出流は了解したという物腰で頷いた。
 メニューの項目を指して、次のカクテルを決めると思い出したように瑞希も横からメニューを奪って探し始める。


 そうして他愛ない会話を楽しみつつ、もう数杯飲んだ後。
「……あ。瑞希、マネージャーから沢山着信が」
「ん? ……うわっ、ほんまや!! きっとカンカンやで」
 気づかないうちに入っていた、マネージャーからの着信。その数に驚いた出流は、明日の仕事のことも考え、そろそろ帰ろうと提案した。
 料金を支払い、ご馳走様と言って店を出る。
 少々冷たくなってきた秋の風が、火照った頬に当たって気持ちがいい。
 マネージャーに連絡を取り、飲んでいたのだと事情を説明すると、次からは気をつけてくれと渋々納得してくれたようだった。
 電話を切って、互いに顔を見合わせる。
「慌ただしく帰ってしまったけど……また、来る事が出来るだろうか」
「……せやな」

 もし、来ることがあるのなら。
 次は……何を飲もうか。
 二人でそう語りながら、時が止まったように穏やかな店から、眠らない街へと戻っていくのだった。

-END-

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登場人物一覧

【8626/ 桐生・出流 / 男性 / 年齢23歳】
【8627/ 久能・瑞希 / 男性 / 年齢24歳】