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<東京怪談ノベル(シングル)>


白鳥瑞科の日常―T






 警報音が鳴り響く施設内。
 警告灯が忙しなく回るその中に、黒く蠢く魑魅魍魎が現れ、一人の女性へと向かって襲い掛かる。
 銀色に輝く刃を舞うように振るい、それらを一閃で斬り裂いた彼女は、その長く美しい髪をなびかせ、ブーツを履いた足で軽快な音を踏み鳴らして歩いていく。

 そんな彼女の前に再び魑魅魍魎が姿を現し、飛び掛かるが、その女性は構わずそれらを薙ぎ払い、足を止める事なく闊歩していく。


 ――その美しさは、正に妖艶といった所だ。誰もが彼女を見れば息を飲んで立ち止まるだろう。

 身体にピッタリと張り付く戦闘用に改造された上着。
 そして、純白のケープとヴェールをつけ太腿に食い込むニーソックスを履いたスラッと伸びた脚は、膝まである編上げのロングブーツ。
 それらを見せ付けるような腰下まで深いスリットの入ったシスター服。

 それらが全て、その美しい肢体を強調するかのように身体を包み込んでいた。

 服の上からでも十分過ぎる程に解る豊満な胸を強調するコルセットを着け、革製で装飾が施された手首まであるグローブ。
 グローブの下には二の腕までの白い布製の装飾の在るロンググローブ。

 その手には、銀の装飾を施され、先程から一閃で全てを薙ぎ払う剣が握られている。


「……まったく、呆れてしまって言葉も出て来ませんわね」

 取り囲みに次々と現れた魑魅魍魎を前に、小さく口を開いて呆れながらに呟いた“白鳥・瑞科(しらとり・みずか)”は小さくため息を漏らした。
 再びの銀閃。周囲を取り囲んでいた魑魅魍魎共が霧散し、その中で髪を手でサッと横に払って瑞科は再び迷う事もなく奥へと向かって歩いて行く。




―――。




「――……【教会】の犬、白鳥瑞科……!」

 モニターを見つめていた一人の男がクソッと声を漏らして手元の台を殴り付けた。
 男は焦っていた。自らが最も危惧すべき組織、【教会】。その中でも名前が知れている程の戦闘能力に長けた“武装審問官”は数える程しかいない。

 ――その中でも、最強と謳われる女がモニターに映っている。

「ど、どうしますか!?」

 慌てた様子で男に向かって声をかける部下の組織員。

「なぁに、案ずるな……。アイツが向かっている先に全同士を集めろ」
「はっ!」

 男がそう告げると、組織員がその場から走り出した。再びモニターに目を移した男が歪んだ笑みを浮かべた。

「……見れば見る程に美しい……。その身体を鮮血で染め、捧げればもっと素晴らしい力が手に入るだろう……!」





―――。





 広く何もない空間に出た瑞科が足を止めた。
 前後の扉が閉まり、周囲の影から這い出るように再び黒く蠢いた魑魅魍魎達が瑞科の周囲に姿を現す。

「倫理に反する悪逆非道を尽くす悪魔と契約を行った結果、取るに足らない力を得て異形の者へと成り下がる……。真に醜いは人の業、とでも言った所でしょうか……」

 一体の黒い影が瑞科の背に向かってその手を刃のように尖らせ、襲い掛かる。

「――哀しく憐れな迷い子ですわ」

 身体を捻りながらその刃を避け、剣を突き刺す。その豊満な胸を掠めそうになった刃をが空中へと霧散する。その様子を皮切りに、一斉に中央に立つ瑞科目掛けて魑魅魍魎が押し寄せる。
 駆け抜けながら銀閃を描く。数十とも思える黒い集団が、その身体に一切触れられる事も叶わず、なびいた髪にすら触れられない。それを理解した上で立ち振る舞っている瑞科が、壁に足をかけ、追ってきた魑魅魍魎の上空をしなやかに飛び上がる。
 黒い影が広がる地面に向けて、剣を持っていない左手を翳すと、独特な猛しい音を奏でて電撃が放たれ、その一帯を光の鞭が薙ぎ払い、消え去った魑魅魍魎と焦げ付いた地面の上で踊る電撃達の上に舞い降りた。

 髪を再び払い、閉まった扉を斬り裂いて更に奥へと進む。





――。





「――高みの見物、ですか。あまり褒まれる趣味とは思えませんわね」

 広々とした部屋の中央にあるモニター。その前に立つ男に向かって瑞科が口を開いた。

「……これはこれは、見目麗しいお客様ですね」

 モニターを見つめていた男が瑞科に向かって振り返った。

「お褒め頂き光栄ですわ。と、言いたい所ですが、わざとらしくそんな振る舞いはなさらなくても結構ですわ」
「フフフ……、素晴らしい強さですね。さすがは【教会】最強として名を馳せるだけの事はある、白鳥瑞科さん」
「わたくしの名を知っていらっしゃるのなら、話が早いですね」

 剣の切っ先を男に向けた瑞科が言葉を続けた。

「悪魔と契約を行った罪。【教会】の名の下に、武装査問官・白鳥瑞科がその罪を断罪しますわ」
「……魑魅魍魎共程度ではやはり相手になりません、か」
「あら、あの程度で足止めをなさるおつもりだったのかしら?」
「フッ、いやはやお強い……。是非ともこの手でその身体に恐怖を刻み付けてやりたくなる……」

 男の視線が瑞科の身体の足から腰、そして豊満な胸から顔へと色欲に駆られた目で舐めるように見つめた。

「野蛮な本性が出ていらっしゃってよ。生憎、わたくしの身体は貴方のような殿方に見初められる為に鍛えている訳ではありませんわ」
「フフフ……、噂通りの気丈な女だ」
「そういう貴方も、想像通りの下賤な方ですわね」

 クスっと笑って言い放つ瑞科の言葉に、男が表情を変える。

「いつまで強気でいられるかな……?」
「あら、お気に障ってしまいましたか?」
「フン、その生意気な口、二度と叩けなくしてくれるわ……!」

 男の身体が黒に近い灰色の身体に変化を始める。
 筋肉が膨れ上がり、華奢だった姿から一変して筋骨隆々とも呼べる肉体に身体を変え、その姿で瑞科を睨み付ける。睨み付けた赤い瞳が、悪魔特有の目付きに変わる。

「ウオオオォォォッ!」
「悪魔に魂を売り渡すとは……。実に憐れですわね」

 嘆くように呟く瑞科に向かって悪魔と化した男が駆け出し、その太い腕を振り下ろす。素早くその腕の横を駆け抜けた瑞科が、その身体に剣を振り払い、すれ違いざまに腹部に一撃を加える。
 痛みに嘆く悪魔に瑞科が振り返り、その身体を再び静かに揺らしたと思えば、弾けるように飛び出した。

「ガアアァァッ!」

 薙ぎ払うように振り切られる悪魔の右腕をひらりと飛び越える。更に襲い掛かる左腕に足をかけて更に高く飛び上がり、真上から黒く景色を歪める透明な球体を放つ。悪魔の身体がそれに押し潰されるように地面へと叩き付けられ、地面を割る。響く重低音の中、瑞科が悪魔に歩み寄る。
 そのなめらかな身体が軽快な足音と共に悪魔の眼前へと歩み寄る。

「オ……オノレ……、教会ノ犬……!」

 悪魔が重力の球体が消えて立ち上がり、再び瑞科に向かって襲い掛かる。




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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

この度は長編という事で、ご依頼有難うございます。
まずは第一編という事でお届けさせて頂きます。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、引き続き今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司