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<東京怪談ノベル(シングル)>


白鳥瑞科の日常―W






 翌朝。
 朝食を食べている瑞科の前に、一人の女性が座った。

「おはようございます、博士」
「にゃはー、相変わらず凛々しいねぇ、瑞科ん」

 博士、と呼ばれた女性は瑞科を見てうんうんと頷いた。
 薄い灰色の瞳をしている少女のような風貌の彼女だが、彼女は“教会”の武器・防具開発と、魑魅魍魎・妖魔などに関する研究を行っている第一人者であり、その容姿とは裏腹に今年で三十歳を迎えた超天才だ。
 眼鏡の奥で瞳を輝かせ、瑞科を見つめていた。

「珍しい事もありますわね、博士。貴方が朝食の時間にここにいらっしゃるなんて」
「まぁいつも地下にいるからねー。時間の感覚がない私らは、朝食を食べるなんてちょっとした都市伝説みたいなもんだよ〜」
「フフ、相変わらずですね」

 いやー、と言いながら頭を掻いている博士だが、突然目が輝く。

「ところでさ、瑞科ん。この後ちょっと付き合ってもらえるかにゃ?」
「この後ですか?」
「ちょっと瑞科んに来てもらわないと完成しないものがあってねぇ。神父様には許可ももらってきたからさ」
「そうですか、分かりましたわ」



 朝食を済ませ、教会の中にある地下へと伸びる薄暗い階段を降りていく。

 研究施設とは、教会の地下にある。その存在は関係者でなければ絶対に見つからない、使われていない部屋の大きな木箱の中から続く階段を使わなくては辿り着けない。勿論“教会”関係者でも、“教会”の研究施設への出入り口となるこの木箱を知っている者は多くない。

 視界が広がる。白を貴重にした研究施設内に辿り着いた瑞科達が歩いていると、そこにいた研究者達の視線が二人に注がれた。

「んっふっふー、瑞科んと一緒に歩いていると迫力が違うねぇー」
「博士の功績を尊敬しているだけですわ」
「おぉー、なんと嬉しいお言葉だねぇ、瑞科ん」

 ルンルン気分で前を歩く博士と、その後ろをついて歩く瑞科。確かに周囲の視線は二人に向けられているが、それに臆する事もなく瑞科は堂々と胸を張って歩いて行く。

「さて、これだよ、瑞科ん」
「これは?」

 足を止めた瑞科の目の前に、人の背の高さと同じぐらいの高さの何かに布がかけられている。博士が得意げにその前で腕を組む。

「さて、瑞科ん。戦闘服の着心地はどうだね?」
「えぇ、着心地も悪くないですし、良いと思ってますわ。博士がお作りになったのですよね?」
「そう。しかし、あれは瑞科んにはちょっとキツい所と緩い所が生まれちゃってたからねぇ。その身体に合わせて作ったものじゃないからねぇ」
「基本的には戦闘査問官の戦闘服ですから、仕方ありませんわ」

 瑞科の答えに、博士が小さく笑う。

「しかし、私はついに完成させた! 見よ!」
「――ッ! これは……?」

 博士が捲った布の下に、マネキンが戦闘服を着て立っていた。

 身体にピッタリと張り付く戦闘用に改造された上着。
 純白のケープとヴェールをつけ太腿に食い込むニーソックスを履いたスラッと伸びた脚は、膝まである編上げのロングブーツ。
 それらを見せ付けるような腰下まで深いスリットの入ったシスター服。
 胸にはコルセットを着け、革製で装飾が施された手首まであるグローブ。
 グローブの下には二の腕までの白い布製の装飾の在るロンググローブ。

「1/1瑞科んマネキンを使って作った、新戦闘服! 瑞科ん専用!」
「わたくし専用……? ですが、見た目は変化ないような……」
「これは着てもらってから説明した方が分かると思うにゃー。とりあえず、あそこの試着スペース使って着てみて」
「えぇ、分かりましたわ」

 博士に促され、瑞科が戦闘服に着替える。
 試着室に瑞科が入り、その前で腕を組んでまだかと待っている博士。そんな博士は露知らず、その着心地の違いと、独特な違和感に思わず瑞科は驚いた。

「着替え終わりましたわ」

 瑞科がカーテンをシャっと音を立ててあける。

「どう?」
「着心地もフィット感も以前とは比べ物になりませんわ。それに……、この違和感。あまりにも軽いような……」
「そう。そこが今回の戦闘服の大きな違いの一つ」

 博士が得意げに指を立てて解説を始めた。

「今回その戦闘服に使った素材は、ちょっと特殊な素材を使ったの。軽くなったけど、その生地自体が衝撃や斬撃にも強くて、身体を守るわ」
「そんな事が……?」
「可能よ。装飾は希望があれば好きに変えれるから言ってくれて良いよ。早速だけど、戦闘訓練に入って動いてみる?」
「えぇ、是非」

 博士に連れられて更に研究施設の奥へと進むと、広く、壁には緩衝用のクッションが貼り付けられた部屋へと二人は足を踏み入れた。

「戦闘訓練室なんて、久しぶりじゃない?」
「えぇ。実戦ばかりでこっちには来ませんから……」
「最大レベルでも瑞科んには触れられないからねぇ。おかげで最高レベルを引き上げるか迷ったけど、瑞科ん以外は最高レベルに辿り着きもしないし、今のままで保留だけどね。ま、最高レベルでいくよ」

 博士が奥の扉に向かって歩き出し、上にある窓の向こうへと姿を現した。中には何人もの研究者が座っていた。

『武器はいつも通り、剣で良いよね?』
「えぇ、問題ありませんわ」

 壁の一箇所が開き、そこから剣が一本出て来る。戦闘訓練で使う剣は本来の剣と同じ重さと長さだが、立体映像となった妖魔の映像はその剣が通った箇所と速度などからダメージとして計算される仕組みになっている。

 部屋の明かりが多少暗くなり、真ん中に狼人間のような妖魔が映し出される。

『GO!!』

 博士の声と共に立体映像の妖魔が飛び上がり、瑞科目掛けて飛び込む。瑞科はそれを相変わらずのなめらかな身体捌きで避け、その戦闘服の柔軟性をチェックするように攻撃を仕掛けずに後方へと飛ぶ。

「す、すごい……」
「ありゃ、瑞科んの戦闘チェックは初めて?」
「え、えぇ……」
「だとしたら、妖魔のプログラムを最高レベルにしたら分かるかもねー。何であの子が最強と云われるのか、ね」

 博士が手元に浮かび上がった光のモニターに触れて最高レベルに引き上げる。
 その動きに応えるかのように、瑞科の身体を連続した攻撃が襲い掛かる。鋭い攻撃の連続だと言うのに、瑞科はあっさりとかわしていく。

「お、恐ろしい程に美しい……」

 研究者達が息を飲む。一般の戦闘査問官でも、この最高レベルの立体映像には手を焼く。にも関わらず、ガラスの向こうに映る瑞科の姿は、まるで踊っているかのように美しく、その完璧な身体を揺らし、弾ませ、全ての攻撃を見切っている。

『瑞科ん、テスト終わりにしたかったら斬っちゃってー』

 突然博士が言い出した言葉に研究者達が驚く中、瑞科はすぐに剣を構え、すれ違いざまに一閃。そのテストを一撃で終わらせた。

「い、一撃です……! トータルポイント、オーバー。計測値がエラーに……」
「これだから、瑞科んには最高レベルを使っても何も参考にもならないのよねぇ」

 博士が呆れたように呟いて、再びマイクのスイッチを入れた。

『お疲れ様、瑞科ん。どう?』
「素晴らしい出来ですわ、本当に……」

 自分の動きに何の無駄もなく、軽くなった素材。そのおかげで、戦闘訓練を終えた瑞科は小さな昂揚を感じていた。今まで以上へと続くそのきっかけを感じ、瑞科は手を握った。

「……これなら、次の任務は楽しめそうですわ……!」

 未だ見ぬ新たな任務に、瑞科は小さく心を躍らせた。



                                          FIN


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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

4作連続ノベル、これにて完結となります。
最強の武装査問官という立場と、その容姿と振る舞いや自信。
そういったものに焦点を合わせて書かせて頂きました。
お楽しみ頂ければ幸いです。


それでは、今後とも機会がありましたら、
是非宜しくお願いいたします。

白神 怜司