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<東京怪談・PCゲームノベル>


とあるネットカフェの風景
− ROUND2 −

1.
「この間の記事、結構評判よかったみたいだぞ」
 放課後。新聞部に立ち寄ると部長から開口一番そう聞かされた工藤勇太(くどう・ゆうた)は「え?」と思わず声に出してしまった。
 開かずのパンドラロッカー。
 結局推測の域を出ない考察を纏めただけの記事になってしまったのだが、それが意外にも評判だという。
「御伽話みたいで面白かったとさ」
「ははは…」
 愛想笑いをした。が、部長は笑いもせずにピシッと勇太に言った。
「で、次の記事の件だが…」
「え!?」
「…何にも考えてませんでしたって顔だな。いいか? 新聞ってのは記事のネタになりそうなものを常にアンテナ張って見つけなきゃダメなんだよ。ロッカーの話はおまえがたまたま空いてたからやってもらっただけ。本来なら自分でネタとってくるの」
 部長の言い分はもっともである。
 しゅんと肩を落とした勇太に、部長は「…まぁ、そのうち慣れるさ」とポンポンと肩を叩いた。
「しょうがないからもうひとつ、俺が見つけてきたネタやるからちょっと調べてこい」

 一方、オカルト系アイドルSHIZUKU(しずく)はネットカフェでBBSを覗き込みながら面白いネタがないか眺めていた。
 しかし、あるのはいかにも嘘八百を並べ立てたような情報ばかりである。
「このSHIZUKU様の目を欺けるとでも思ってるの?」
 ぶーたれた顔でもアイドルは可愛い。
 カチカチと次から次へと情報を拾っては捨て、拾っては捨て。
 いい加減飽きた頃、1人の客がネットカフェに入ってきた。
「いらしゃいませ、お1人様ですか?」
「あ、はい」
 短い言葉だったが、確かに聞き覚えのある声。
 しかも、ごく最近に聞いた覚えがある。
 カウンターの方を振り向く。細身の今時の高校生。顔はなかなか可愛い。
 …やっぱり見覚えがある!
「おーい! 勇太くーん?」
 偶然の再会。声をかけると高校生・工藤勇太は「げっ!?」と小さく叫び焦って近寄ってきて「しーっ」と人差し指を口に当てた。
「何やってんだよ…まさか荒川の噂もう嗅ぎつけたのか? お、俺の掴んだネタは渡さないぞ!」
 数秒見つめあった後、SHIZUKUはニヤリと笑った。
「へぇ〜、なにそれ? 面白そうだなぁ…教えてくれるよね? ゆ・う・た・く・ん♪」
 この出会いは必然だった。SHIZUKUはそう確信した。
 そして、勇太は自分が墓穴を掘ったことを悟ったのだった…。


2.
 最近荒川に物を投げ込むと金の斧・銀の斧現象が起きるという噂。
 ある者はシャープペンシルが高級ボールペンになったり、またある者は10円チョコが100円のスナック菓子になったという。
「あー…そういえば、さっきそんな書き込み見た気がする」
 勇太から話を聞いたSHIZUKUはカチカチとマウスを動かしてBBSの画面をスクロールさせた。
「あ、そこ!」
 ディスプレイを覗き込んでいた勇太は短く声を上げる。
 SHIZUKUが止めた先には、確かに『【野球ボールが】荒川ゴールデンアックス【バスケボールに】』というふざけたタイトルのスレが立っていた。
「…ゴールデンアックスってそういう意味だったのね…」
 SHIZUKUがポツリと呟いた。
 勇太は画面をスクロールさせながら、有益な情報らしきものをメモしていく。
「プリントアウトした方が早いよ?」
「記者は常に自分の言葉で物事を書くんだ…って先輩に言われたんだよ」
 ペンを走らせながら、勇太がそう言うとSHIZUKUは「今のが受け売りじゃなかったらかっこよかったのにねー」と笑った。
 有益そうな情報を総合すると、場所は荒川にかかる特定の橋の上。
 そして、たまにまったく関係のないものが飛んでくるとか。
 変な声を聞いたが姿は見えなかった…という書き込みもあったが、それが関係しているのかはよくわからなかったので、とりあえずメモしておいた。
「さて、情報も集まったし…俺行くわ」
「あ、待ってよ。あたしも行くよ」
 立ち上がったSHIZUKUに勇太は眉根を寄せた。
「だから、これは俺のネタなの! 雫にはやらないって」
「ひっどーい! アイドルをこき使っておいて、ポイ捨てするなんて…男の風上にも置けない…しくしく」
 アイドルは嘘泣きを始めた! 周りの冷たい視線がHPを削っていく!
 どうする勇太!?

 …諦めて連れてきました。
「ホントにこんなとこに出るのかな〜?」
 橋の上から無邪気に川を覗き込むSHIZUKUを後ろから突き落としたい衝動をグッと押さえ込んで、勇太は努めて冷静に振舞った。
「百聞は一見にしかずって言うし、とりあえずなんか投げ込んでみたら反応があるんじゃないか?」
 そう言って勇太は投げ込めそうなものを探す。
 橋の上には小石。こんなものを投げ込んでもしょうがないだろう。
 自分の持ち物…ペンもメモも投げ込めないし…鞄の中身は言うに及ばず…適当な物がない。
「おい、しずk…」
 そう言いかけたとき、SHIZUKUは勇太のポケットからサッと何かを抜き取った。
「あ、これにしよ♪」

 SHIZUKUが手にしたそれは、勇太のスマフォだった…。


3.
「ま、待て! それは俺の…!!!」
 顔面蒼白、頭の中真っ白。
 勇太は慌てて取り返そうとしたが…
「えいっ!」

「ぎゃー!!!!!」

 SHIZUKUは何のためらいもなく、スマフォを川に向かって放り投げた。
 その瞬間、瞬間が勇太の脳裏にコマ撮り写真のように焼き付いていく。
 今テレポートを使ったら…俺まで川に落ちちゃうよ。
 俺のスマフォ、おまえテレポート使って俺のとこに戻ってこいよ。
 俺ができるんだからおまえもきっとできるよ。
 そしたらおまえ、助かるんだぜ…。

 ぽちゃん☆

「さぁて、何が出てくるかな〜♪」
 がくりと崩れ落ちた勇太とは対照的に、ワクワクが隠せないSHIZUKU。
「なんで…何で自分のやつでやらないんだよ! 何で俺のなんだよ!!」
「だって、あたしの投げてもし戻ってこなかったら、誰かに拾われてアイドルのプライベート情報流出の危機じゃない」
 全く悪気を感じさせないSHIZUKU。
 今なら突き落としてもいいんじゃないかな?
 そんな殺意がむくむくと…
「いてっ!!」
 勇太の殺意を打ち消すように、頭に何かがクリーンヒットした。
 かなり痛かった。
「なんだ…? 携帯??」
「携帯? 降ってきたの??」
 勇太が拾い上げたそれは、二つ折りの携帯電話で誰かの使い古しのようだ。
 電源は…入らない。うんともすんとも言わない。
 空を見上げたが、それ以上何も降ってきそうな気配はない。
「俺のスマフォ…」
「ホントに違うものになったね〜。どうなってるのかな〜♪」
 心底嬉しそうなSHIZUKUとどん底な勇太。
 スマフォ…カスタマイズも全部済ませて、使い勝手物凄くよかったのに…。
 もう…戻ってこない…。
 俺のスマフォはゴミなんかじゃない。まして、川はゴミ箱なんかじゃないのに…。

『みんながそういう気持ちならよかったのに』

 その声は唐突に勇太に話しかけてきた。


4.
 勇太が感じたその言葉は川の方から聞こえた。
 勇太は川を覗き込んだ。そこに小さく光る何かを見た。
 その光は、勇太の体をすり抜けて勇太の肩に止まった。
 光がすり抜けた瞬間、勇太はその光がアザラシであることを理解した。
 昔、この荒川に迷い込んで死んだアザラシの魂。
(なんで…こんなことを…)
 心の中でそう呟いた勇太に、アザラシは言った。
『人間はどうしてゴミを川に捨てるの? 君は言ったよね? 川はゴミ箱じゃないって。ボク、綺麗な場所が好きなんだ。綺麗な川で眠りたいんだ。なのに、みんな川に捨てていく』
 悲しげな叫びに、勇太は対応に困った。
 こういう時はどうしてあげたらいいのだろう?
 優しく…すればいいのかな?
 小さな光をそっと撫でて、勇太は囁く。
(そうだな。綺麗な川がいいよな。人間だって悪いヤツばかりじゃないんだよ。でも…ごめんな)
 きゅうっと小さくひと鳴きして、光は川に飛び込んでいった。

「どうしたの? ボーっとして」
 SHIZUKUが大きな目をぱちくりと、勇太を覗き込む。
 勇太はSHIZUKUに言った。
「今から川の掃除をしよう」
「…え!? 今から!?」
「俺のスマフォが見つかるまで、徹底的にやる! 雫も手伝ってくれるよな?」
 にっこりと勇太が言うと、SHIZUKUはおろおろと視線を泳がせる。
「だ、だって…汚れるし…それに、今日はもう遅いし」
「なら明日でもいいよ? 俺のスマフォを落としたの、雫だもんなー」
 極上のスマイル、プライスレス。
 タダより高いものはない。
 返す言葉もなく、SHIZUKUは勇太のスマフォを探すために首を縦に振るしかなかった。

 後日、高校の新聞には荒川を掃除するオカルトアイドル・SHIZUKUのスクープ写真が載った。
「まさかこんなネタを持ってくるとは…急成長だな」
「いやいや、たまたまです」
 部長に褒められた勇太の手には、SHIZUKUの手によって発見されたスマフォがすっかり修理されて元通りの姿で握られている。
 勇太はもう一度SHIZUKUの映る新聞を見た。

 掃除をするSHIZUKUの後ろ側には、小さく光るアザラシの魂が今まさに天に昇ろうとしているところが映っていた…。



■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 NPC / SHIZUKU (しずく) / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル


■         ライター通信          ■
工藤・勇太様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼ありがとうございます。
 アイドルとの再会、そして…なんかラブとは程遠いライバルになってますね。
 これは性別を超えた友情の予感!?
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。