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<東京怪談ノベル(シングル)>


●審判の代行者(3)

 帰還し、シャワーを浴びる白鳥・瑞科(8402)の肌を、真珠の様な水滴が滑り落ちていく。
 陶器のような滑らかな肌に、ふわふわとボディソープの泡が伝っていった。
 ヴィーナスは真珠の泡につつまれて、誕生したという。
 それが人の子でも、再現できるとするのならばこの様な感じだろうか――?
 栗色の髪が肩を滑り落ち、形の良いヒップラインを隠す。

(「任務達成後のバスタイムは、格別ですわね」)

 ほぅ、と息を付いて湯船に身体を沈めた――温かい。
 幾ら敵が弱いと言えども、身体はそれなりに疲労を覚える――いや、弱い敵の方が逆に疲れるのかもしれない。
 強い敵であれば、きっと瑞科の心は高揚し、疲労を覚えないだろう……否、疲労しているのは精神の方かもしれなかった。


 休日――瑞科は、慎ましやかなシスター服に身を包んだ。
 豊満な瑞科のバストが、シスター服すら妖艶なものに見せる……決して、下品にならないのはその、清純な雰囲気故か。

 カツカツ、と音を立てて教会、礼拝堂へと向かう。
 今日もまた、迷える子羊達が礼拝堂へと集まっていた。
「シスター瑞科、懺悔に来た人をお願いします」
 瑞科よりも二回りほど、歳月を重ねたシスターが近づいて、瑞科へと告げる。
 その表情には、苦痛が見て取れた――数多の罪に触れる。
 それは、辛く悲しいことだ……その罪と哀しみの多さ故に、神を憎んでしまう。
 信仰が揺らいでしまう、人間の脆い心。
 聖職者とは、心の強さが求められる職業である。

「……私は、殺人の罪を犯した息子を、匿ってしまった、逃げよと言ってしまった。あの子は、あの子は――罪を犯しても、私の子なのです!」

 何故、神は人に罪を犯させるのか……何故、それを止められないのか、と女性は啜り泣く。
 その手には古びたロザリオ、それを握りしめながらその場に崩れ落ちる女性の肩を抱きつつ、瑞科は静かに言った。
「主は全て、見ておられますわ。そして今、貴女の懺悔も知っておられます。神が罪を犯させるのではありませんわ」
 まるで天使の囁きのようだった、人の身でありながら、その背には翼があるように思えた――純白の翼が。
 顔を悲しみに歪め、そして我が子の罪を思い、女性は啜り泣く。
 それでも、あの子は私の子なのだと――罪を犯しても。
「主も、同じ思いでしょう。主にとっての私達は子供なのですわ、弱い弱い、子羊なのです」
 泣きながら何度も、拳を床にたたきつける女性の手を取り、瑞科は微笑んだ。
「心から悔い改めれば、主は許して下さいます。よく、告白して下さいました――わたくしはそれに、礼を申し上げますわ」
 ありがとう、と言われて全てを赦されて、女性はまた、泣いた。
 神の慈悲深さに、この罪を告解する為に、このシスターに巡り合わせて頂いたのだと。
 私は確かに、主に愛されていると。

「悲しむ人は幸いです。その人は慰められるからです」

 マタイの福音書5章4節の言葉、神の子が口にした言葉を諳んじながら、瑞科は泣き続ける女性の背をそっと擦った。
「罪を悔い改め、悲しむ事の出来る方は幸せですわ。その悲しみを、主は省みられます」
「私も、許されていいのですか……?」
「ええ。息子さんは、どうされているのです――?」
 瑞科の言葉に、女性は唇を震わせて、そして瞼を伏せた。
「警察に、連れていかれました……然るべき、罰を受けるでしょう。代わってあげたい、と思うのは」
 ……罪なのだろうか。
 罪には罰を、それは真なる神、創造主の決めた律法だ。
 瑞科は逡巡する、罪には罰を――それは正しいことだ、罰せられなければ、その罪の重さを知る事は出来ない。
 だが、その罰を肩代わりしたい、と言う女性の愚かしくも温かな母性を責める事は、彼女には出来なかった。
「罰とは、罪を犯した方の為に御座いますわ。その方が、立ち直る為に必要なのです――今は、息子さんの罪が洗い清められるよう、祈りましょう」
「シスターも、祈って下さいますか」
 瑞科にしがみつく女性、瑞科の纏うシスター服が皺になり、豊満な胸は辛そうに形を歪めるが、そのような事は気にならない様子だった。
 また、瑞科もそのような事は気にならなかった。
 ――ただ、目の前の女性を、微力だとしても救いたいと。
「ええ、勿論ですわ。一緒にお祈りいたしましょう」

 ……天に居られる私達の父よ。

 静かな祈りの言葉が、礼拝堂に響き渡る。
 その祈りの言葉に耳を傾けつつ、誰ともなく同じようにして祈りはじめた。
 静謐な、そして聖なる雰囲気が支配する――陽光が差し込み、ステンドグラスが美しく輝いていた。
 神の子を抱く、聖母マリアの姿は何処までも慈愛に溢れている。

「主は、祈りをお聞きになられます」

 そしてまた、祈りを終えた瑞科の表情も慈愛に溢れていたのだった。



 休日も終わり、家で伸び伸びと四肢を伸ばす瑞科。
 つらつらと考えるのは、昼間の女性の事――そして。

「召集……ですわね」

 司令である神父から、召集がかかる――恐らく、教会の情報部が拠点を割りだしたのだろう。
 優しきシスターの表情から、瞬時に瑞科は戦う武装審問官の表情へと切り替わる。
 任務に胸の高まりを感じていた……躊躇う事無くシスター服を脱ぎ、直ぐ様、武装シスター服へと着替えて教会へと向かう。
 司令室に向かえば、神父が手を組んで瑞科を待っていた。

「悪魔崇拝教団『セクト』の拠点が判明した。小規模だが、最近悪魔召喚の兆候が見られている。早期の撲滅の必要があるだろう」
「わかりましたわ、確実に殲滅してみせましょう」
「ああ、前回の任務と比べれば、容易いものだろう……きみ以外にも、支部を担当する武装審問官がいる」
「支部……?」
 瑞科の言葉に、司令はああ、と頷いた。
「本部と支部の二つの拠点が判明している、きみには、本部への襲撃を頼むよ。支部と共に、同時襲撃に当たる」
「ええ、わかりましたわ。朗報をお待ち下さいませ」
 自信たっぷりの笑み、勝利を信じて疑わぬ笑み――それに司令は頷いた。
「期待していよう」

 司令室を後にし、瑞科は悪魔崇拝教団『セクト』の方へと視線を向け、高らかにヒールの音を響かせながら『セクト』本部へと向かうのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402 / 白鳥・瑞科 / 女性 / 21 / 武装審問官(戦闘シスター)】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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白鳥・瑞科様。
発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

今回は、如何に多彩な表現をするか、に拘らせて頂きました。
シスターとしての瑞科様の姿、そして武装審問官としての瑞科様の姿。
その差異を感じて抱ければ、幸いです。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。