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<東京怪談ノベル(シングル)>


元気ハツラツ☆バニー娘

「いらっしゃいませー♪」
 ちょっと薄暗くて、ちょびっと煌びやかな店内で働く笑顔のバニーガール。それがあたし、山田・ハナ。
 年は20歳で独身。身長体重は企業秘密とさせて頂きまーす!
「お客様はおひとり様ですか? ではでは、奥のボックス席にご案内いたしまーす♪」
 普段は敬語なんてまったく使わないんだけど、やっぱり仕事は仕事だからさ。
 あっと。そうそう、ここはバニーガールの衣装で接客するスタイルなの。勿論、あたしが着ているこれね。
 どう? 似合うでしょ?
 赤いバニーガール衣装に赤くて長い耳。尻尾は白いけど、そこがまた可愛いのよね。
 職場の支給品だけど、結構気に入ってるんだ。
 だたちょっと難点があるのよね。
 その難点って言うのは――
「きゃっ!」
 うぅ、来たよ。
「お客様、当店はおさわり厳禁の健全なお店で御座いますー。なので、バニーウェイトレスを眺めるだけでお願いしますね♪」
 にこっと笑ってお客様を席にご案内。
 そう、難点って言うのは、こうして触ってくるお客さんがいるってこと。
 まあ、可愛いあたしに触りたいって気持ちは――って、ちょっと、そこ! 可愛いをスルーしたでしょ!
 失礼しちゃうな。これでも指名率は高い方なんだからね。
「ハナちゃーん! 3番テーブルのお客様がご指名だよ!」
「はーい♪」
 ほら来た!
 3番テーブルって言うと……
「げっ」
 見るからに怖そうなオジサン。
 しかもなんだか機嫌悪そうだな。
 でもまあ、こういう人には慣れてるし、問題ないかな。
「お待たせいたしました。ハナでーす♪」
 ニッコリ笑顔でご挨拶。その時に腕で胸を寄せて上げてサービスするのは忘れないよ。
 触れない分、見ることに楽しみを見い出して貰わないとね。
「お客様はロックがお好みなんですね。わかりました、ハナが特別にご用意しちゃいます♪」
 カチャカチャと出来るだけ音を立てないようにお酒の準備。希望銘柄に、希望の飲み方を聞いて、お客さんの好みに合わせて用意するのが基本ね。
 オジサンもあたしを待ってるときの顔に比べると、少しだけ表情が和らいでるかな。
 そもそも、なんであたしがこういうオジサンに慣れてるか。これを1から話すと長くなっちゃうんで省くけど、何でも楽しんでやるのは大事なことよ。
 人間、いつ死ぬか分らないんだしさ♪
「お客様面白いですね♪ あ、おタバコ吸われるんですか? じゃあ、コレで――」
 おもむろに取り出したるは、お店支給のジッポライター。これを胸の間に挟んで、っと。
「お熱いので、早目に点けて下さいね♪」
 いや、これ本当に熱いのよ。
 顔にジッポの火が掛かりそうだし、何より火を点けてる間、ものすごい煙草が近いって言うね!
 でもでも、こんなのヘッチャラ♪
「お気に召して頂けたなら良かったです♪ 良ければ、またハナを指名して下さいね♪」
 バチコンッ☆
 ふっふーん。ハナ特製のウインクだよ。
 こうやってあたしのことを印象付けさせて、次の指名に繋げていくわけ。
 それこそ、千里の道も一歩から? そんな感じ。
「ハナちゃん! 空いたテーブル片付けてくれる!」
「はいはーい!」
 お客さんを見送ったら次の仕事だね。
 ここは基本なんでもやらないといけないお店なんだ。
 接客に、掃除、洗い物なんかもたまにやるかも。でもまあ、だいたいは接客重視だから。
 それにしても、今日はお客さん多いな。まあ、その分バイト代も弾んでもらえるだろうし良いんだけど……。
「流石に腰が痛いかも」
 トントンッと腰を叩くこと少し。
「うん、これでいけそう!」
 気休めでしかないことはわかってるよ? でも、土木系のお仕事に比べればまだまだ!
 ああ、うん。
 アルバイトを掛け持ちしている身としては、いろんな仕事を経験してるのよ。
 これもそのバイトの1つ。
 重労働であることにかわりはないけど、まあ、まだいける範囲よね♪
「1つだとそうでもないんだけど、空の食器を重ねると結構重いんだよね。よっと!」
 トレイを片手に颯爽とご退場。流しに食器類を置いて、っと。
「もう、1時回ってるんだね。そろそろ閉店――」
「ハナちゃーん! ご指名だよー!」
「あ、はーい!」
 本当、今日は忙しいな。
 でもね、こういう時こそ笑顔で働くんだよ。
 そうすれば、明日はもっと笑顔でいられるんだから!
 これが楽しく生きていくコツ♪
 酔っていても、怒っていても、それは人の個性だもん。受け入れて前向きに相手をしていかないとね!
 という訳で、あたしは次のお客さんのテーブルに行ってくるね。
「明日からヨロシクね、新人さん♪」
 そう言って笑顔で去ってく。
 本当に今日は忙しいな。でも明日から新しいアルバイトさんが増えるし、大丈夫だよね。
「うん、楽しみ!」


――END