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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


+ 狼と鬼と狐と +



 その日は四人アイドルグループ「Mist」のリーダー、バーミリオンとアッシュでの二人撮影の仕事だった。割と珍しい組み合わせでのピンナップ撮影を終え、楽屋に戻った時に何気なくバーミリオンがアッシュに――正しくは久能 瑞希(くの みずき)が鬼田 朱里(きだ しゅり)へと話しかけた事から始まった。
 それは瑞希とは仲の良い……でも朱里にとっては喧嘩仲間でもある人物の話題で。


「なあ、朱里。あいつ、今どこにおるん? なんか最近付き合い悪いねーん」
「うちに居ます。勝手に引っ越して来やがりました」


 撮影用衣装から私服へと着替え終わり、ファン対策に色々と変装を施した後の事。
 瑞希はべたーっと背後から朱里に抱きつきスキンシップを図りながら急に連絡が取りにくくなったメンバーの愚痴を零す。しかしそれには思わぬ返答が朱里から与えられ、瑞希は目を丸めた。


「はぁ? 何それ。ちょっとうち初耳やねんけど!」
「私も出来れば来て欲しくなかったですねぇ……住人の許可も取らず、いきなり荷物を車で持参して『今日からわたくし此処に住みますので』とか……ホントやってらんねーって話ですよ? ええ、ええ、本当に」
「あ、そうなんや。勝手に引っ越しやがったんや。そんでうちにも全く連絡なしかー……寂しいわぁ」
「そう思うんでしたら引き取って頂いても良いんですよ? むしろリーダーとして引き取って下さい」
「えー。それはうちの関与出来る部分やないしー」
「どっちなんですか!! 大体付き合いが悪くなったのは二人の距離が遠くなったせいでしょう!?」
「まあまあ、それはおいといて。ちょっと落ち着き。そんなに過剰反応示さんでもええやーん」
「うー……折角の二人暮らしが……」
「そうかそうか、二人暮らし――え? 二人暮らしやったん!?」


 朱里とその彼女――正しくは友人以上恋人未満の相手の話はMistのメンバー内では有名であり、度々皆の話題に上がってはいたのだが二人がまさか同居しており、更に二人暮らしというところまでは聞いていなかった。
 その為瑞希はくっついていた身体をそっと引き剥がしながら心の中で同情の念を浮かべる。
 二人暮らしでありながら進展していなかったとは。
 それはもう健全な青春真っ盛りの少年としては色々と思うところがあるだろうと、一応精神年齢は一番上であると思われるMistのリーダーは考えてしまったためだ。
 だがそれよりも今にも黒化して色々と毒舌を吐きかねない朱里のフォローに回り、彼を落ち着かせに掛かる。誰だって好きな相手との領域を侵されれば悔しいだろうと、それはもう共感もしつつ。


「でもうちも朱里らが住んでる家見てみたいなぁ。あかん?」
「別に良いですよ。そのままあの人を引き取って下さるなら」
「それは本人次第やて。ほな、行こか」


 瑞希はボディバックを身体に引っ掛けながら立ち上がる。
 扉に向かって歩いていく彼を見つつ、朱里はぽそりと「バミシアなら引き取れ」と言ったとかなんとか。正体が人狼である瑞希はその言葉をちゃっかり耳にしてしまうが――ここはあえて大人の対応もとい笑って無視すると言う選択を取った。



■■■■■



「おー、外装はぼろっぼろやなー」
「まあ、廃屋と間違われる事は多々有りますけど」
「でも中は綺麗やーん。あ、お邪魔しまーっす」


 やってきたのは朱里と英里と先日転がり込んできた『アイツ』がいる住居。
 見た目は廃屋ちっくな洋館ではあるが、中に入れば掃除が行き届いており物もきちんと整頓されている様から生活感が感じ取れる。すんすんっと何気なく匂いを嗅ぐように鼻を動かすとそこには朱里とアイツ、それからもう一人まだ出逢った事のない誰かの気配を感じ取る。
 ふと、とんとんとん、と軽い足取りで誰かが階段から降りてくる音が聞こえ朱里と瑞希は同時にそちらへと視線を向けた。


「おや、客か。おかえり、朱里」
「ただいま、英里。……上に何しに行っていたんですか」
「いや、師匠と話をしに」
「師匠ー!?」


 瑞希が思わず言葉を復唱してしまう。
 降りてきたのは話題の少女――人形屋 英里(ひとかたや えいり)。ゴスロリ服に長い金髪を三つ編みにしたどことなく不思議なオーラを背負う彼女は今、その手に酒瓶を抱えている。ゴスロリ少女と酒瓶……ある意味不思議な組み合わせを眺め見つつ、でも階上に居るであろう『アイツ』を思えば納得はする。だってその人物は酒豪なのだから。
 だが、次の英里の言葉に瑞希は絶句した。


「そうそう師匠なら潰れたぞ。弱いのか?」


 酒瓶を掲げながら彼女は首傾げ。
 その瞬間、朱里と瑞希は顔を見合わせ「!?」のマークを互いの頭の上に浮かべた。『アイツ』は決して酒には弱くない。むしろウワバミに失礼だと言うほど飲む。特にワインが好きで店に行けば買占めに走るほど強い。それほど強いからこそ「潰れた」という事実が信じられない二人であった。


「ど、どんな酒飲ませたん!? 英里、ちゃん」
「何故名前を知ってる」
「あ、いや、朱里からいつも話聞いてますー。あ、うちは久能 瑞希言いますねん。よろしゅうに」
「ああ、例のあいどるぐるーぷの。こっちこそ朱里がいつもお世話になっているのだ」
「で、どんな酒を飲ませて?」
「いや……師匠、酒好きなのは知っていたからこれを分けたのだが」


 掲げる酒瓶にラベルは無し。
 中には小ぶりの実が幾つか入っており果実酒である事が窺える。それも手作りのものであることが分かると、酒好きの瑞希としても興味が湧いた。なんせあの『アイツ』を酔い潰した酒だ。興味を抱かない方が可笑しい。


「飲みたいなら小瓶に分けるから持って帰るといい」
「ありがとさん。遠慮なく貰いまーっす」
「じゃあ、私は今日料理当番なのでな。すまないが朱里と二人で話しててくれ」


 言いつつ、英里は台所の方へと足を進める。
 次第に遠ざかっていく彼女の姿を見とめながら、瑞希はくっと肘で朱里の身体を突いた。


「で、アレが例の彼女なんやね」
「一応呼び捨てにはしませんでしたね」
「まあ、初対面やしー。呼び捨ててええ?」
「本人が良いというなら私は止めませんよ。あの人なんて英里様なんて言うくらいですし」
「あー、それはアイツ本人の癖やしな。しゃーないしゃーない」


 顔の前で手を振りながら瑞希はあっさりと肯定する。
 普通、一般人に様付けなどしたら引かれる可能性は高いが、そこはそれ。個性というものもある。普段の『アイツ』を脳裏に浮かべながら瑞希はさらっと流した。
 しかしその彼を倒す手作りの酒……英里自身は全く悪気など無く、善意で持ち込んだ酒ではあるが、瑞希の中では酔い潰れたという姿を見てみたいという興味がむくむくと湧き上がる。
 それは朱里も同じだったようで、階段へと二人視線を向けると同時に頷き、そこを上る事にした。



■■■■■



「ほんっまに酔いつぶれとる」
「しゃ、写真に収めたい……!」
「その写真どないすんの?」
「え、使いどころなんて……幾らでもあるでしょう? ほら、あれとかそれとか」
「止めとき。喧嘩の種や」
「そうですか。弱みを握っておけば喧嘩すら起こらないかもしれませんよ」
「その写真を取り返そうと躍起になるのが目に見えてるから止めたって。そしてその喧嘩はいつもうちが止めてるの思い出して! 瑞希ちゃん泣いちゃう!」
「めそめそと嘘泣きをされても」
「――ま、実際面白いから写メっとこ」
「ころっと変わりますね!?」


 両手を顔に当てて嘘泣きポーズをしていた瑞希はあっさりと自分のズボンポケットの中から携帯を取り出し、噂の人物の滅多に見れない姿を撮影する。
 あられもない姿……とまでは言わないが、顔を真っ赤にしぐったりと倒れている姿はそうそう見れるものではない。朱里も撮影しようとしたが、それだけは最後の良心で瑞希が止めた。データは少ない方が価値があがるという点もそうだが、実際朱里にこのような姿を撮影されたとなれば相手は憤慨する事間違いないからだ。
 二人はそんな相手を突いたり、足で軽く蹴ったりしてみるものの全く起きる気はないはない。よっぽど強い酒だったんやなぁと瑞希は既にお土産として貰える予定の酒に期待を寄せた。


「で、実際のところ朱里とあの英里ちゃんどないなん? ちゅーくらいした?」
「……瑞希」
「あ、うちはそこまで突っ込まへんから嫌やったら答えんでもええで。人には話したくない事もあるやろし、朱里が混乱しても困るしな」
「まあ瑞希がいつも手加減してくれているのは知ってますけど」
「ふふん。皆のお兄さんやからな!」


 伊達にメンバーの纏め役をやっているわけではないと瑞希は胸を張る。
 朱里はそんな相手に一回だけ息を吐き出すと先程の質問に肯定するために頷いた。キスの経験はある。だがそれを英里がどう受け取ったかは分からない。……そういう感じの言葉もそっと付け加えながら。


「あー、青春やーん」
「青春、ですか?」
「ええやんええやん、ちょっとずつ進展すんのも有りやで。可愛いなぁ、朱里」
「ちょ、撫でないで下さいよ!」
「ほんまええなぁ。ほんわかするわー」


 Mist内では子供組に属する朱里の銀髪を遠慮なく瑞希は掻き乱す。
 決して朱里が混乱しないよう、ついでに黒化もしないように気をつけながら言葉を選び、瑞希は彼を可愛がる。なんだかんだと言って瑞希自身も頼りがいがあるところを見せたいお年頃なのだ。


「でも最近は二人の時間が減りまして」
「ほう」
「原因は……」
「あ、最後まで言わんでええで。そこは察してるから」
「なら引き取ってくれません?」
「んー……引き取るのはどやろな。別に英里ちゃんも嫌がってるわけやないんやろ」
「師匠って言うくらい英里が懐いてる辺りが問題なんですよ!」
「あー、どうどう。落ち着いてーなぁ。――で、結局は二人きりの時間邪魔されたくないんやろ?」
「そりゃあそうですよ。当たり前ですよ!」
「んー……」


 目の前には拗ねた朱里の姿。
 足元には酔いつぶれた腐れ縁の男の姿。
 両方を交互に見やりながら瑞希は天井の方へと視線を向けた。ややしてから彼はぴっと人差し指を立て、朱里の鼻先へと突きつける。一体どうしたというのか、朱里はその銀の瞳で相手を見返して。


「んじゃ、二人に協力しよーかな。――というわけで、朱里。うちの話良く聞きや」


 にっこり。
 笑うと実年齢よりも幼くみえる表情を浮かべると、瑞希は自分が今しがた思いついたアイディアを朱里へと語り聞かせることにした。



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「――というわけで、本日からお世話になりまーっす」
「うむ、賑やかになるのは良い事だ」
「あ、そうそう呼び捨ての許可アリガトなー」
「別に呼び捨てくらいは構わん。師匠の様付けの方がむずっと来るからな」


 後日、洋館前にはまたしても引越しトラックが一台。
 中に詰め込まれているのは瑞希の荷物で、引越しスタッフ達が素早く二階の部屋へと運んでいく。一応最低限の荷物だけ持ってきたため作業はすぐに終わり、トラックが去っていくのを皆で見届けた。


「で、何故お前が此処に来た」
「だってひとりは寂しいもん。俺はちゃーんと朱里に許可とったで」
「ええ、二人きりの時間を邪魔しないという約束と、色々協力して下さるという事で」
「せやさかい、これからは英里と朱里の時間は邪魔せんよう、うちを構ってー!!」


 あの英里と瑞希の初対面の日に酔い潰れていた男もまた引越し理由を聞きながら「ちっ」と思わず舌打ちをする。面白い事を独り占めしたかったという心があったようだが、引越しにより瑞希との付き合いが悪くなった事に対して多少申し訳なさを抱いているのも事実。
 構ってといつものスキンシップで抱きついてくる瑞希をぐいぐい肘で押す同居人の一人。朱里と英里は「仲がいいのだな」「あの二人は特別仲良しですよ」などと言いながら家の中へと入っていく。
 それを追いかけるように、残された二人もまた家の中へと足を運んだ。


 二人が三人になり、四人になったこの廃屋ちっくな洋館でこれから先どんな物語が紡がれるかは……それはまだ誰も知らない未来の話である。









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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8583 / 人形屋・英里 (ひとかたや・えいり) / 女 / 990歳 / 人形師】
【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8627 / 久能・瑞希 (くの・みずき) / 男 / 24歳 / アイドル・アクション俳優】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、先日の続き?のシチュノベの発注有難う御座いました!
 今回は瑞希様と英里様との初対面も兼ねた引越し話! しかしどんな酒が出てきたのか……正直気になるところです。
 しかし四人になった洋館ではまたどたばたな日常が始まりそうですね。
 家事当番を四人で分担したり、なんだかそれはそれで楽しそうな(笑)

 朱里様と英里様の今後が上手く行きますように。ではでは!