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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【回帰・18】 +



 カガミは言う。
 「行かせたのは俺だ」と。
 「文句があるならこいつの『案内人』である俺が対応するし、罰も受ける」と。
 「お前達の領域を犯した罪は避けない」……そう、まるで自分一人が悪いのだと言うかのように彼は言い切ったのだ。実際は俺が決めて、カガミはそれを許してくれただけだというのに。
 そしてカガミの言葉に反応した犬耳犬尻尾の獣人の子達は目を大きく丸め、それからキィーッ! と両手をぶんぶん振り上げて騒ぎ始めた。


「なんだなんだ!」
「なんだなんだー!」
「ニニギ様の命でここを守れと言われてたのに!」
「言われたのにー!」
「『案内人』のくせに生意気だー!」
「なまいきだー!」
「だから別に天罰を下そうが何をしようが俺は避けんと言っているじゃないか」


 喚く兄弟にさらりと言い放つカガミ。
 途中気になる単語が聞き取れ、俺は首を傾げる。人の名前――ニニギ様という言葉にこの兄弟らしき二人の更に上の人物が居る事を知ったからだ。それがどういう人物であるかは分からない。むしろ今の俺には一体どういう状況でこうなっているのかさっぱりなのだ。
 だが明らかにこの兄弟はエーテル界について知っていた、それだけでただの獣人ではなく何かしら理(ことわり)に関係する人物である事だけは推測出来た。


「ひとまず、のちほど謝罪もかねて此処を訪れる。今はこいつを休ませるのが先だ」
「あー! 逃げるなー!」
「にげるなー!」


 ひゅんっと空間が歪む気配。
 カガミが転移を使う瞬間、ぐらりとぶれる意識。俺はいつもなら耐えられるその衝撃に堪えられず、そのままカガミに身体を預け闇の中へと沈んでしまった。



■■■■■



 暗闇の世界から戻ってくればそこはどこかの一室。
 テレビの音が聞こえ、そこからは異常気象を告げるニュース番組が流れている事が分かった。俺は寝転がっている事に気付くと声のする方――テレビと、それをみているカガミの姿を確認し、ほっと息を吐き出す。上半身を起こせば、一人用のソファーに座っていたカガミはゆっくり視線だけ持ち上げ俺へと顔を向けてくれた。


「起きたか」
「ん、ここ……どこだ? あと今何時?」
「ここはホテルの一室。今はお前が深層エーテル界に行った次の日の昼だな」
「え!? 俺どれくらい寝てたんだ!?」
「ほぼ丸一日」
「う……」
「深層エーテル界に行って疲れたんだ。ぶっちゃけそれくらい寝ても寝足りないくらいだぜ」
「そんなものなのか……ところでさ、何か外変な音しないか。雨っぽいんだけど……雨にしては激しいような」
「ああ、今降ってるからな。それはもうバケツをひっくり返したかのような豪雨が」


 カガミが立ち上がり、窓際に寄ると締め切っていたカーテンを開く。
 その向こう側には異常なほどの大雨が降り注いでおり、視界もままならない。目の前のビルを見るのがやっとという状況であろうか。その視界の不鮮明さに瞬きを繰り返す。カガミもまた外に視線を向けると、彼は唇を開いた。


「妙な気を感じるな」
「え」
「俺はちょっと昨日の神社に行ってくる。お前はもう少し休んでろ」
「俺も行く!」
「休んでろって」
「かなり寝たから平気!」


 元気になった姿を見せる為に俺は立ち上がってみせる。
 もう大分回復していた身体はあっさりと立つことが可能で、あの境内に居た時の様な脱力感はない。精神と肉体との結びつきが大分強くなったことがそれで分かる。そして一人で先に行こうとするカガミの傍に寄り、もう大丈夫だという意思を強く見せ服を掴んだ。
 だって置いていかれる方が嫌だ。
 先日の兄弟の一件もあるし、俺がいないのにもしカガミが何か罪を被せられたりするのも困る。


「仕方ない奴だな」
「もう諦めろって」
「……本当に無茶すんなよ」
「おう」


 カガミがあまり表情を変えぬまま声を掛けてくれる。だが心配げな声色が俺は嬉しい。あの境内へと飛ぶんだろう。彼は俺の肩に腕を回して、すぅっと息を吸った。
 空間が歪む気配。昨日は体力と精神力の疲労でその移動すら耐えられなかった俺だが、今回は違う。自分のテレポートにも似た彼の転移によって神社の本殿の屋根の下へと瞬時に飛べば、そこもまた異常天候の場となっており――。


「ここが一番気が濃いな」
「そんなの分かるか?」
「お前は分からないか」
「う、……流石にただの雨としか」
「まあ、人間ならそうだろうな。……っと、あいつら」


 カガミが俺の肩から手を外す。
 土に雨が強くぶつかり、跳ね上がる地面の向こう側に昨日出逢った兄弟の姿を見つけた。彼らは雨の中でも特に気にした様子はなく、でも何か慌てているようで俺達の方へと駆け寄ってくる。最初こそびしょ濡れだと思っていた彼らの服装だが、屋根の下へとやってくれば瞬時に布が乾き、汚れた様子すら見せなかった。


「うわーん! 助けてー!」
「助けてー!」
「何があった」
「お前達のせいでもあるんだからなー!」
「だからなー!」
「え、俺達のせい!? お、俺が深層エーテル界に行ったからこうなったとか……?」
「半分はそうだけどー!」
「半分は違うー!」
「カガミ……」
「いや待て。深層エーテル界に行ったのは認めるし、その罪は受け止めようとは思う。しかし天候の原因に関しては別の要因があるだろう。そこを話せ」
「僕達が遊んでいる間にお前達がエーテル界に侵入したのが悪い!」
「悪い!」


 びしっと指先を突きつけてくる兄弟。
 この雨の中では観光客の姿もなく、獣人達は人の視線も気にせず俺達の方を睨んできた。しかし涙目になっているその目に気迫はなく、むしろ子供の駄々っ子のような印象の方が強い。カガミはそんな兄弟へと近付くと膝を折り曲げ、視線を合わせる。今にも大粒の涙を零して泣き出してしまいそうな兄弟達へと更に説明を求めた。


「うー……お前達が昨日去った後、腹いせで暴れていたら」
「暴れていたらー!」
「境内にあったある封印を壊してしまったんだー!」
「だー!」
「……おい、それは俺達のせいじゃないだろう」
「いだだだだ、ほほつねるなー!」
「なー!」


 責任転嫁という言葉が相応しい様子の二人についついというようにカガミの口から溜息が出た。ついでに兄弟の頬を両手で片方ずつ摘み上げ、捻る。兄弟はその瞬間から耐えていたものを堪えきれず、ぼろぼろと涙を零し始めた。ひっくひっくとしゃっくりを上げて泣く二人を見ながら俺はカガミへと寄り、ひとまず説明をしてくれるよう頼んだ。
 俺が本当に深層エーテル界に行ったせいでこうなったのではないとカガミは言ってくれたけれど、それが目の前の二人が暴れた原因なら……多少は、こう良心がちくちく痛む。
 カガミは兄弟から手を離し、そして彼らは説明を始めてくれた。


「お前達! 三毛入野命(みけいりのみこと)という古代日本の皇族を知ってるか!」
「知ってるかー!」
「……俺知らない」
「俺は知ってる」
「く……案内人の情報量め……」
「三毛入野命は神武天皇の兄だ。こっちの方の名前は?」
「き、聞いたこと、あるよう、……な?」
「……御伽噺として聞いてくれ」
「……色んな意味で悲しいな、俺!」
「こっちこそ無知でしょんぼりなんだぞー!」
「だぞー!」
「で?」
「神武天皇の兄である三毛入野命は大変剣の腕の立つ武将だったのだ! 彼は昔々人々を苦しめていた鬼八(きはち)という鬼を退治し、封印したという伝説である! あれは本当の話なのだ!」
「なのだ!」
「鬼八は荒神でな。鵜目姫(うのめひめ)という美しい姫を無理やりさらって妻にし、あららぎの里の『鬼ヶ岩屋』に隠していたんだ。でもな、三毛入野命がある時、七ヶ池という池の水面を見るとその姫の悲しげな姿が映っていたという。その姫にどうして悲しむのかと命(みこと)は問えば、『無理やり連れてこられて悲しいのです』と答えた。それを聞いて、三毛入野命は鬼八を退治することを決意し、討伐に出たという」
「でも鬼八はやっかいなヤツで何度でも何度でも息を吹き返すのだー!」
「大変だったのだー!」
「最終的には身体を三つに分けて、別々の場所に埋めたらしいぞ。ここの神社にも鬼八を退治する三毛入野命の像があるはずだ」
「あっちにある!」
「ある!」
「――……で、すっごーく嫌な予感がするけれど、その先は?」


 カガミはすらすらと古代神話について語り述べ、兄弟達がそれを補足するように言葉を揃える。
 修正が掛からないという事はカガミの情報は正しいのだろう。俺はこの話の流れ的にそれはもう……オチというか、この雨の原因がなんなのか分かったような気がしたがあえて二人に問いかけた。すると彼らはしゅんっと犬耳を垂れ下げてしまう。だが、次の瞬間うるっとまた目に涙を溜めながらもキッとした強い意志で彼らは言い切った。


「だから、我らが暴れたせいで、境内の中に鬼八が封印されていた『鎮石(しずめいし)』を壊してしまったのだ!」
「のだ! ……うわぁあああんん!!」
「う、泣くな。泣くな……ふぇ、ぇえええ……」
「――だと思った」
「カガミ、冷静すぎるだろ」
「この大雨はその封印が解けたせいだ。責任転嫁にも程があるな」
「でも暴れた原因は俺……」
「罰は受けると言ったが、こいつらの責任まで取るとは言っていない。おいお前ら」
「ふえ」
「びくっ!」
「アイツは居ないのか。――あー……お前ら曰く『ニニギ様』」
「ニニギ様をアイツ呼ばわりするな、無礼者ー!」
「ぶれいものー!」
「で、居るのか居ないのかどっちだ」
「……お留守だ。ニニギ様が居たら助けてくれなんていわん!!」
「ふぇー……」


 『ニニギ様』という言葉に俺はまたちんぷんかんぷん。
 カガミはあー……という声を出しながら今は厚い雲に覆われている空を見上げた。そこから降り注ぐ雨は更に量を増やし地面を叩く。このままでは雨量による被害が出る事は間違いない。泣き出した兄弟は自分達の涙を拭うのでいっぱいいっぱいのよう。


「う、う。我らの非は認めるから力を貸してくれ……」
「くれー……」


 それでも必死に訴えてくる兄弟に、俺はどうするべきか。
 豪雨が神の封印を解いてしまったものであるというのならば適任者に任せた方が良いとも考えるが、それに対応出来る人物――『ニニギ様』は居ないらしい。
 カガミは俺へとちらっと視線を向ける。
 その視線はただ俺の判断を待つばかり。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 第十八話もとい第三部・第一話のお届けです! 多分この位置取りで良い筈!

 これは古代神話に纏わる新たなお話ですね。
 兄弟のお願いに対してどう判断するのか――次のお話をお待ちしております^^