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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【回帰・19】 +



「――分かった、引き受ける」
「本当か!?」
「か!?」
「そもそも俺の我侭で深層エーテル界に行ったんだからカガミに罪被せられないし、それをチャラにしてくれるなら引き受けるから」
「それだったら見逃してやる!」
「やるぞ!」


 犬耳犬尻尾の兄弟達は俺が引き受けた事によって涙を止め、きらきらと期待の目で見上げてくる。そしてどうやって解いてしまった封印を収めればいいのか彼らに問いかけた。


「まず伝説通り鬼八の身体は手足、胴体、首と分けられて各地に封印されている。現在魂だけが彷徨っている状態だからな。その三つの封印を解くと鬼八は完全に復活してしまう、これが非常にまずいのだ」
「のだ!」
「鬼八自体も完全復活を狙っているはずだ」
「狙ってるのだ!」
「じゃあ場所を教えてくれ」
「手足は山の中、胴体は民家の裏、首は町の中にある」
「仕方ない、地図を出すか。ほれ書き込め」
「かきかき」
「かきかき」
「効果音まで口にしなくてもいいから!」


 カガミが手の中に付近の地図と赤ペンを取り出し、兄弟がそれを受け取って丸を付け始める。ただ、文字は知らんと言い切り、二人はチェックをつけた場所を指差しながら改めて「手足」「胴体」「首」と教えてくれた。それに従ってカガミが改めて文字を追加し、俺へと手渡す。


「時間がないから手分けして探すぞ」
「了解」
「お前達頼んだのだー!」
「だー!」
「俺は手足を捜す。お前は胴体に行け」
「分かった。もうテレポートして良いよな。記憶取り戻したんだから能力制限掛からねーよな」
「問題ないだろ。ほら急ぐぞ」
「あ」


 カガミは言い終わると同時に転移し、姿を消してしまう。
 手足が埋められているという山中へと行ったのだろう。俺も行かないとと慌てて地図を見下ろし、胴体が封印されているという民家を確認する。しかしこれ見知らぬ土地で迷子にならないだろうか。そこだけが地味に心配だったりするわけだが……。


「ええい! 急がないと駄目だって言ってるだろ。飛ぶ!」
「あ、お前!」
「お前大丈夫か!?」
「え」


 テレポートで飛んだ瞬間後ろから聞こえた兄弟達の声。
 それが一体何を意味するものなのかは――飛んだ先で大雨に降られて一気にびしょ濡れになった俺はすぐに理解する事になる。


「ふ……しかも塚は壊されているっていうオチが付いているしさ、そうだよな。普通の人間はこんな大雨の中、傘も持たずに飛び出したりしないっつーの」


 目の前の塚は明らかに人外の力によって粉々に壊されており、破片がそこらかしこに散らかっている。俺はぐったりと肩を垂れ下げながら心の中で涙を零した。



■■■■■



 水に濡れても構わないと開き直ったその後、俺は首が封印されているという塚の場所へと飛んだ。
 そこは町中だが今は大雨の為か人気が全く無い。だがゆらりと揺れている何者かの影が見え、俺は目を見張る。今にも最後の塚を壊そうとしている首だけがない人のような何か――瞬間的に俺はそれが「鬼八」である事を察した。


「止めろ! 壊すなー!!」


 咄嗟に叫んで注意を引き付ける。
 口の中に雨が入ってきて気持ち悪い。濡れた服も肌を冷やすが、まだ夏だったのが幸いした。ゆっくりと俺の方へと振り返る何か。正しくは身体を傾けて俺の方を見ようとしている首のない人のようなもの。だが首の部分には黒いもやのようなものが浮いており、目の部分が仄かに光っているのが分かった。
 ゆらぁりと姿が定まらないでいる顔の部分は気味が悪く、視線が合うと背筋が凍るような感覚に襲われた。


「勇太! 手足は無かった!」
「カガミ! 遅い!」
「文句は後で聞く。来るぞ!」
「おう!」


 襲い掛かってくる鬼八が腕をぶんっと振り上げ、俺達へと振り落とす。
 その力は強く、咄嗟に二人とも飛んで避けなかったら粉々に砕け散っていただろう。まさに今、拳が落とされ穴が空いたアスファルトのように。
 俺もカガミも宙に浮き上がりながらまだ未完成の鬼八を見下げる。それでも三分の二の身体を手に入れた鬼八の力は大分強まっており、首がくっつけばより強力な力を得る事は容易に想像が付いた。


「喰らえ、念の槍<サイコシャベリン>!!」


 俺はサイコキネシスを応用して作った槍を相手に飛ばす。
 一部かわされるが数で押した俺は見事それを相手の身体にヒットさせる事に成功した。だがその槍が消えた後、傷は再生し何事も無かったかのように肉体が復活を遂げる。カガミもまた衝撃波らしきものを繰り出すが結果は同じである。
 やはり力を取り戻しつつある鬼八の再生能力にはより強大な力が必要らしい。


「くっそ、もう一回飛ばす!!」
「伝説に従ってもう一度手足と胴体を切り離せばいけるか……」
「そんな余裕あんのかよ!」
「お前剣も使えたよな。俺が隙を作るからそれで切れ」
「カガミッ!!」


 カガミがまっすぐ鬼八へと突っ込み、攻撃を開始する。
 すると鬼八もまた地面から浮き上がり、大きく腕を振り回し始めた。それを紙一重で避けるカガミを見ると俺は手に力を込め、そして透明の刃<サイコクリアソード>を作り出す。カガミに攻撃が集中している今がチャンス。俺はテレポートで鬼八の後ろに回ると剣を振り下ろす。肉を断つ感触が手に伝わり、ぞくりと寒気が走った。だが切り落とした腕は宙に浮き、そのまままたしても胴体とくっついて。


「なんだよ、再生能力持ちじゃないか!! 切ってもすぐに治るんじゃ追いつかない――!」


 それでもカガミが気を向けようと攻撃を繰り返す。
 腕を切った俺の方へと鬼八が行かないよう素早い動きで多くの力を飛ばしていた。明らかに状況が不利になりつつあるのを感じ、俺は他に何か手はないだろうかと必死に試行錯誤する。
 その瞬間――。


―― 我が剣を貸そうぞ!


「え!?」


 急に聞こえてきた声。
 同時に手に持っていた透明の刃<サイコクリアソード>が大太刀の形を形どる。変化したその剣をまじまじと見据えていればそこには神の気が宿っており。
 声を信じるしかない。
 前を見るしかない。
 俺は両手でその剣を改めて握り込むと、テレポートでカガミと鬼八の間に割り込んで――。


「沈めぇぇえええ!!」


 剣を頭の先から下の方へと振り下ろして一刀両断にする。
 二つに切り裂かれた鬼八はもがき苦しむ声を上げたかと思うとそのまま地面へと落下していく。俺達も後を追いかけて地面へと降り、立ち上がってきた場合を考えて構えを取る。しかし鬼八は力尽きたかのようにもうぴくりとも動かなかった。


「よくやってくれた。礼を言う」
「よくやってくれたのだ!」
「だー!」
「あ、昨日の人!」


 すぅっと雨の中現れたのは俺が深層エーテル界に行く時に声を掛けてくれた年配のご老人。その服装は先日と変わらず神主っぽい。だがもう普通の人間ではない事は今の発言や、突然現れた事により分かっていた。カガミは俺の頭の方へと手を翳し、見えない防御壁のようなものを張り雨を避ける。傍目的には空中で雨が跳ね返っているわけだが、見ている人の中に生粋の人間はいないのでまあいいかとも思う。正直濡れた身体もそろそろ重たかったしさ。


「我が名は瓊々杵尊(ににぎのみこと)。この子達は高千穂神社の狛犬だ」
「ニニギ様は偉い神様である」
「敬え!」
「お前達は取りあえず黙っておるように」
「はーい」
「……」


 しゅんっと耳と尻尾を垂れる兄弟達。
 男性はすっと俺の前へと寄って来るとまっすぐ手を伸ばす。すると大太刀の姿だった透明の刃<サイコクリアソード>が元の姿へと変わった。間違いない、あの時声を掛けてくれたのはこの人だ。俺はふぅっと息を吐き出し、やっと肩の荷が降りたかのように緊張を解いた。


「この子達が迷惑をかけた。私からも謝罪の言葉を述べる。すまなかった、人の子よ」
「いえ、俺のせいだって言う話なので」
「否。そもそもエーテル界への侵入は私が既に認めていた。この子達に連絡しなかった私に非がある為、天罰など下さないので安心せよ」
「あ、……それなら良かった」
「瓊々杵尊はあの神社の御祭神だ。おい、鬼八の処分はそっちで出来るか?」
「そちらの力を借りぬよう善処しよう」
「ならいい」


 カガミと神様がなにやら対等に話しているのを見て俺はこの態度はいいのだろうかと内心心配しつつ、それでもあえて黙っている事にした。
 俺は倒れている鬼八を見下げる。最後の塚だけは無事だがそれでもこれから先どうやってまた封印をするのだろうかと気になって仕方がない。だが今は。


「へっ、くっしゅん!!」
「あ、そうだった。お前濡れすぎ」
「こいつ忠告聞かずに飛び出したからなー!」
「馬鹿だ!」
「……おい」


 夏とはいえびしょ濡れの服装を早く脱いで風呂にでも入りたい。
 俺は心の中に「自業自得」という言葉を書きながらちょっぴり落ち込む事にした。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 第十九話もとい第三部・第二話です!

 封印を解いた狛犬兄弟達に協力して倒すお話となりました。
 文字数の都合上戦闘シーンカットしまくりで内心めっそり。もっと格好良く書きたかった! と思いつつ、とりあえず風邪を引かぬうちにお風呂に入って下さい(笑)