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ヤッツケマン秋のお折檻SP!ポックリ金隠島で芋煮えた主人ざます
1.
♪水平線の先には艱難辛苦が在るだろう
♪だけど僕らは打たれ弱い〜仕事は嫌だ〜引篭ろうニ〜ト!ヒッソリ隠居島〜♪
綺麗な歌声はどこまでも響き渡る。
誰もいない砂浜に1人、三島玲奈(みしま・れいな)は砂の上に文字を書く。
『にーと』
ここはこの世のどこかにあるという幻・ニートの楽園『ヒッソリ隠居島』。
温暖な気候、引き篭るには最適の晴天、自給自足バンザイ!
…バンザイしても誰もいないので、ツッコミどころはない。皆無である。
草食アキバ系は男も女も外には出ない。
お部屋サイコー! インドア天国! ネットで会話する友達がいるもん!
「休暇はやっぱり静かにのんびり過ごしたいよね〜」
砂浜の文字は波にさらわれた。玲奈は再び歌いだす。
玲奈の隠居島国歌の歌声は風にのリ、コスプレオタクの耳に入る。
「こ、この歌声は…コスプレの気配!?」
歌声でコスプレサーチ作動! 砂浜に打ち出でてみればセーラー服美少女発見!
「こ、ここまで制服を着こなすなんて…ネ申だ!!」
パシャパシャとカメラのシャッターを押され、玲奈も悪い気はしなかった。
「もっと撮っていいよ〜」
あまつさえポーズをとってしまった玲奈…が、異変は突然起きた。
「…?? あれ??」
風景が突然変わり、ポーズを決めた玲奈の回りには海岸線を見つめ嘆く人々の群れ。
「え、えっと…? どうしたの??」
「ああ松島や、松島や…!」
さめざめと泣く人々の視線の先には…何もない。ていうか、ここはどこ?
「日本三景! 松島よ!? 知らないの!? …っていっても、島がないんじゃわからなくて当然よね…」
「島が盗難?」
玲奈の直感が冴える。
「そうよ、忽然と姿を消してしまったの…あぁ、松島や、松島や…!!」
前代未聞の怪事件発生! 誰が何の為に?
それを解決するのは…そう、名パンティ玲奈ン!
玲奈ンの出番なのだ!!
2.
「ココは瓜の島なのだ!」
「朕の島なの〜!」
斜視の人と赤い服を着た人がなにやら諍いを起こしている。
島を巡る争いに、静かに聞いていた鬼鮫(おにざめ)警部はダンっと机を叩き割ると立ち上がった。
「…馬鹿も〜ん! えぇい! 全員逮捕だ〜逮捕〜!!」
島を巡って争う人々を検挙していた鬼鮫警部のもとに、玲奈ンは現れた。
「実は…かくかくしかじか…」
「…そこは省略する必要があるのか? 本当に??」
えぇい! おだまり!
「とにかく、その逮捕者の中に松島を盗んだものがいるかもしれないの。調べさせてもらってもいいかな?」
「…ふつーの人間にそういうことは無理だと思うが…まぁ、気の済むようにするがいい」
鬼鮫警部の捜査協力により、取り調べが行われた。
だが…
「冤罪なのだ!」
「補償請求しろなの〜!!」
ワーワーとわめく逮捕者はシロであった。
名探偵・玲奈ン。推理を外す!
「人間、誰にでも間違いはあるわ!」
開き直っちゃダメです。
「ほ〜奥の細道に落丁が?」
場所は変わり、こちら某所にある某怪盗の隠れアジトである。
…隠れてないアジトなど存在するのかはわからないが…。
「拙者も初耳で御座る」
「芭蕉が幻の魔句を? 胡散臭いな」
剛毛をびっしりと手足に生やした図鑑の妖怪は、辞典の妖怪と色本の妖怪にそういわれるとちっちっちっと舌打ちをした。
「この話は裏のしっかりしたルートから仕入れたのよね〜」
図鑑の妖怪が言うにはこういうことだ。
奥の細道の落丁した部分には幻の楽園・ニートのパラダイス隠居島を召還する魔法の俳句を掲載した幻の頁があるという。
妖怪盗図鑑一味は、盗みだした奥の細道の原本を使い、掲載されていた魔句を用いて、隠居島を強奪したのだ。
「で、島は今どこに?」
「もちろん、あやこチャンにあげちゃう♪」
にひひっと笑って、図鑑の妖怪はいやらしい顔して妄想キスを繰り広げる。
待っててね、愛しのあ〜やこちゃ〜ん!!
3.
海。それは心のふるさと。
海。それは生きとし生けるものの旅の始まりにして旅の終わり。
その海の上に突如として現れたどう見ても和式便器な地形の島が、これでもか!と竹槍を生やして快走している。
…まさに奇異! しかしてその実態といえば…その島を操るものがいた!
「凄いな!」
「島を結納しちゃうもんね〜! 待っててチョ、あ〜やこチャン♪ これであやこチャンは俺の嫁〜♪」
島を手綱で御しつつ、図鑑の妖怪は鼻歌交じりに海を進む。
「お〜ほっほ。これならどの国にでも高く売れるわ〜! ありがとう♪」
あやこチャンこと、藤田(ふじた)あやこは高笑いするとにっこりと図鑑の妖怪に微笑んだ。
「あ〜やこチャン、ご褒美のむっちゅ〜」
「だ〜め。売れるまでお・あ・づ・け」
いちゃいちゃと図鑑の妖怪とあやこは蜜月である。
「やってらんね」
辞典の妖怪は帽子を深くかぶるとそっぽを向き、色本の妖怪は「拙者、女には興味がござらん」と日本刀の手入れを始めた。
「又オカンの仕業か〜…許さん!」
その時、図鑑の妖怪一味の頭上に影が落ちた。
ふり仰げばそれは…玲奈号だった!
怒りに顔面を真っ赤にし、頭からは湯気をだし、これはどこの漫画だ?と思うほどに玲奈ンは怒り心頭で図鑑の妖怪一味の前に降り立った。
「覚悟なさい! 図鑑の妖怪!!」
べべん! べべべべべべん!!!
玲奈ンの声が早いか、謎の三味線の音が早いか。
玲奈ンの横を三味線の音と共に色本の妖怪が一陣の風のようにすり抜ける。
「な、なn…!?」
シャキン! 色本が日本刀をしまう音と共に、はらりと玲奈ンの制服が桜の花のように舞い散る。
「きゃ〜!!」
「また結構な物を…」
「隙あり!」
恒例の決め台詞を吐かせてなるものかといわんばかりに、色本の妖怪の頭上に蹴りをくらわす玲奈ン。
痛いよ、これは痛い。
「ふぼへぇ!!」
倒れこんだ色本の妖怪を見て、あやこは危機感を募らせた。これは…やばい!!
この女、やるわね! 女の勘がピコンピコンいっちゃうわ!
「ポックリ金閣島で殺ってお仕舞!!」
あやこが叫ぶと、無数の竹筒が槍を撃つ、撃つ、撃つ!!
玲奈ン、危うし!!
4.
しかし、玲奈ンは平然としていた。
怪我ひとつ…かすり傷ひとつもついていない。
「なんですって!?」
「ムダムダムダムダムダァ!」
玲奈ンはその身にまとった蒟蒻の鎧で槍をすべて無効化していた。
そして、蒟蒻を引きちぎり、次々投げつけてあやこへと反撃を開始する!
「きゃあ! 何するのよ!!」
蒟蒻の雨があやこに降りかかる。よけるにはあまりにもでかい。
ぼふっ!
ひとつの蒟蒻がある場所にいい音をさせてはまり込んだ。
「へっ!?」
ちゅっどーーーーーーん!!!!
玲奈ンの降らせた蒟蒻が見事竹筒にはまり込み、竹筒は詰まった。
そして、暴発した!! 連鎖、誘爆、大爆発!!
「あぁ! 私の金閣島がぁ!!」
さよなら、金閣島。君のことは忘れないよ…。
「あン☆」
「だめぇ」
金閣島を…お宝の全てを失ったあやこは、隠居島の女子を拠り所にして退廃した日々を送っていた。
もう現実に逃げ込めるところはここしかない。
心の傷はでかかった。2次元じゃだめだ、3次元がいい。
心の傷はいつか、心の闇となりあやこの女の本能を開花させていく…。
「あ〜やこチャン…」
図鑑の妖怪はただ、あやこのその姿を悲しげに、そして愛おしげに見つめた。
「図鑑の妖怪…あやこは暫く諦めろ」
辞典の妖怪は首を振り、横を向く。
「拙者には理解不能」
色本の妖怪はクールにそう言っただけだった。
「私も理解不能」
「わしも」
玲奈ンと鬼鮫警部は、ただこのすっきりしない事件の終わりにただただ呆然とするのだった…。
〜 エンドロール 〜
図鑑の妖怪・3世
事典の妖怪 第4巻
色本の妖怪 5円本
三島 玲奈ン
鬼鮫 警部
藤田 あやこ
パッパヤ〜パヤパ パヤパヤ〜♪
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