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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【回帰・20】 +



 翌日。
 九州地方を騒がしていた大雨は鬼八を倒し、瓊々杵尊(ににぎのみこと)の力により再び封印された事により収まったとあの狛犬の兄弟達から聞いた。俺はと言うとあの大雨の中傘も持たずに飛び出したと言う事で、散々カガミに弄られつつも風呂に入れられそれはもうぬくぬくと身体を温められたおかげでなんとか風邪を引かずには済んだわけだが。
 そして大雨で交通機関がストップしていたが、今はもう通常運行しているという事で俺は新幹線で東京まで帰る事を決意した。
 正直せっかくここまで来たのだから観光らしい観光もしたかったが、昼ぐらいには出立しようと決め、現在駅構内の物産品店の前。


「んー、スガタには和菓子っぽいのがいいよな。で、ミラーとフィギュアには洋菓子っぽいものがイメージ的に良さそう」
「あいつらは与えれば基本的に何でも食うぞ」
「いやー、それでもなんか違ったものとか珍しいものとかあるといいじゃん」
「そんなものか?」
「そんなもんだって。んー……ストラップとか持っていっても皆携帯持っていなさそうだし、やっぱり食べ物系がいいかな」
「持っているふりは出来るけどな」
「いや、そこはやっぱり実際使っている人にあげた方がいいかなーって思うしさ」
「この地域は今『日向夏』という蜜柑が結構有名っぽいぞ。そこにもポップが立ってる」
「あ、ホントだ。じゃあ、それ関係の饅頭とクッキーと……あ、そうそう。【珈琲亭】Amberの皆にもなんか差し入れないとな! 今回の件でこの場所を教えてくれたのはあの人達だし」


 俺とカガミは二人並びながらお土産コーナーへと足を運ぶ。
 カガミと色々相談しながらあーだこーだと買い物籠に皆の分のお土産を積みながらレジへと行けば、それなりの金額になって「うっ」などと一言漏らしてしまう。それを見たカガミが後ろからすっと札を出してくれたわけだが、そこは断固拒否! 俺のお土産にカガミが金を出すなんてそんな事させられない。
 と、言うわけで元々薄い財布が更に薄くなったのは……まあ、旅行だしと心慰めておく事にしよう。


 無事買い物も終わり、新幹線が出発するまで時間がある。
 俺はベンチに荷物を置いてからんーっと背筋を伸ばす。色々と問題が解決した分すっきりとした気持ちだ。それに大量のお土産となれば幸せも一押し。
 高揚した気分で俺はある事を決行する。


「勇太?」
「お先に!」
「おい」


 たっと俺は死角になる物陰へと走っていくとそのまましゅんっとテレポートである場所へと転移する。
 やっぱり九州に来たからにはあの場所は一度は見に行っておかないと駄目だと思うんだ。迷わずテレポートし、そして出た場所は上空。
 防御壁を張り、空気の薄さをカバーしながら俺は空からそれを見下ろしていた。


「……やっぱり凄ぇ」


 そこは阿蘇山。
 九州中央部の活火山で、外輪山と数個の中央火口丘からなり、世界最大級のカルデラ――火山の中心にできたほぼ円形の大きな凹地――をなしている。観光客の姿が蟻の様に小さく動いているのが見え、俺は思わず口元を緩めてしまった。空からの観光客なんて今自分しかいないだろう。きっと誰も気付かない、此処は最高の穴場。
 それに周囲の自然も相まって広大な景色の前に俺は思わず言葉を失った。


 始まりは自分が研究所の利用された能力者に襲われた事から始まったこの旅路。
 ミラーとフィギュアと契約し、失ってしまった母親の記憶。
 その母親の記憶を取り戻したいなら本人達に直談判するしかないわけだけど、その代わりに他の物を失うのならただぐるぐると繰り返すだけ。それならと自分で探し始めた母親の記憶は多くの出会いと、そして沢山の成長を教えてくれた気がする。


 【珈琲亭】Amberの皆に出会って九州地方に何かあると教えてもらった。
 カガミにはこの旅の最中ずっと傍にいてもらって俺が迷いそうになるとすぐに別の道を示してくれたり、的確な指示を出してくれた。それが例え<案内人>として<迷い子(まよいご)>である俺への役割だったとしても構わない。
 記憶を失くした母さんの過去を見て、父親との出会いを聞き、母を保護してくれていた旅館の女将さんにも出逢って自分の知らない過去を知ったことはとても大きな成果だったと思う。
 それでもまだまだ母さんに関しては謎だらけだけれど、いつかそれもあの人の口から聞けたらいい。


「深層エーテル界で見たあの女の子や巫女の事も、多分無関係じゃないと思うしな」


 意識体で潜った深層エーテル界……あの光の大地に同化し、沈みそうになった俺を助けてくれたあの人。
 母さんは少しずつ回復に向かっていることも知れたのだから、いつかきっと俺が母さんを迎えに行こう。
 決意を新たにし、俺は新鮮な空気を胸へと吸い込む。
 排気ガスなどに汚れていない綺麗な酸素。それは心まで清らかにしてくれるような気すらして。


「せめて荷物はロッカーに入れてから移動しろって」
「カガミ」
「買ったばかりの土産物が盗まれても知らないぞ」


 ふわりと、体温が俺を包み込む。
 後ろから回された腕が温かく俺は交差したその腕を掴んだ。ぎゅっと握り締めて後ろに体重を預ければしっかりとした胸板に俺の頭がぶつかる。彼の方が若干高めに浮いているらしい事がそれで分かった。
 優しく包み込まれて俺は少しだけ頬が熱くなるのを感じたけれど、それでも言わなければいけない事があると唇を開く。


「あのな、カガミ」
「うん」
「俺、今回の一件ホントに感謝してるんだ。いろんな人に助けてもらって、自分一人で出来る事って本当に限られているんだなって実感したよ」
「人間ってそんなもんだろ。だから助け合う」
「自分に便利な能力があるからって過信してた俺にマジで説教したい」
「今後はそんな事思わないだろ。だったらそれでいいじゃねーか」
「うん、そこは肝に免じて――で、さ」


 もごっと一瞬言葉に詰まる。
 言わなきゃと意識すると余計に恥ずかしくなってきて、顔に熱が集う。だけど素直に口にしよう。


「俺がいつか<迷い子>じゃなくなっても俺はお前を呼ぶよ。お前の事が好きだから」


 この広大な大地に生きる俺は今眼下にいる人々と同じちっぽけな存在だけど。
 沢山の人の為にお前は動いて、俺のことなんて<迷い子>の一人でしかないわけだけど、それでも、それでも――。


 傍に居てくれる幸せ。
 他愛のないその存在がいつの間にか心のよりどころになっていた事を俺はもう知ってしまっている。
 いつまでも傍に居て。
 ずっとずっとお前を呼ぶから。


「お前が望むなら、傍に居る」


 俺の左手を取って何か細いリングが嵌められる。
 きっと自分が無茶を言ってもカガミがそう答え笑ってくれることも、心の底では知っていたのかもしれない。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは!
 第二十話もとい第三部・第三話です!

 ところで風邪引いてませんよね?(第一声)
 旅路に区切りがついた今回の話。色々あったなぁとライターとしてもしみじみしつつ。多くの人と出会い、助言してもらったり、物理的に助けてもらったりと能力者ではなく「一般人」としての工藤様を見れた気がします。

 今回アイテムを渡しておりますのでそちらも見て頂ければな、と。

 ではでは、また宜しくお願いいたします!!