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【HS】燦然!物語の王
■□蘭領アンティル、シント・マルテン□■
国連軍の飛行隊が慌しく出撃の準備に取り掛かっている。走り回る兵達が互いに声をかけ合う。緊張が走るその光景は、さながら戦争の真っ最中ではないだろうかとすら感じる程だ。キューバに攻勢を掛けるべく国連軍の飛行隊が出撃準備中
「ヨウ化銀の準備万端であります!」
「うむ。では1300を持って作戦を開始。キューバ全土へ向けて、全機発進を通達せよ!」
「了解しました!」
司令官と思しき男が告げた言葉に、兵の一人が復唱するかのように無線でその指令を伝える。時刻は丁度、十三時。つまり、作戦の開始を告げる事になる。次々と飛び立つ機体を見つめながら、司令官が口を開いた。
「キューバ全土人工降雨作戦とはな……」
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない……」
□■グアンタナモ基地■□
「フフ、三途の水は亡者の現世記憶を消すのよ」
得意気な表情を浮かべながら鍵屋が召集されている消防隊に向かって告げた。ザワッと波紋が広がるにも関わらず、鍵屋はそれを気にする様子もない。
――先日の戦闘から、軍は虚無の怪物から鹵獲した“三途の忘却川レテ”の水を放水車や消防艇、消火ヘリに充填させていた。即ち、記憶を消す為の水を大量に搭載させているのだ。
鍵屋の思想はやはりマッドサイエンティストの名を欲しいままにしていると言える。
■■キューバ本島■■
「追憶地雷原に陥り、混乱した敵を各個撃破しろ!」
虚無の仕官が声をあげた。
切羽詰った虚無の軍勢が、来たる本土決戦に備えて地雷原を造り上げている。彼の言う“追憶地雷”とは、踏んだ者の想いを増幅させる代物だ。その想いを悪用して混乱に陥らせるつもりだ。
「すべての物語を支配する神……。王たる者が完成した今、我らに恐れるものはない!」
□□首都□□
丘ほどの大きさもある巨大蜘蛛“アナンシ”達がその醜い肢体をモゾモゾと動かしながらフロリダ方面に向かって赴いていた。それだけの大きさであるアナンシが一匹どころか、七匹もいる。
中央神殿玄関前に差し掛かろうと言う所で、ボコっと音を立てて要塞程の大きさの女郎蜘蛛が出現した。彼女、と呼べるかは怪しい所だが、その背には巨大な壷を背負っている。
「敵はフロリダ方面から迂回して首都を突く筈だ。その猿知恵を砕け!」
蜘蛛使い達が指示をすると、アナンシ達がそれに応えるかのようにカシャカシャと不気味な音を立てた。
■■フロリダ沖・空母甲板■■
「ぶしゅるるる」と怪物が唸る姿を見つめながら、司令官がククッと笑みを浮かべた。
「こちらには暴力二女がいるからな」
全ての勢力が準備を進めたその先。今まさに激しい戦闘の火蓋が切って落とされようとしていた。
「巨大蜘蛛とは趣味の悪い……。まぁ、そんな事を言える立場ではないが。出番だ! 殺戮の限りを尽くしてこい!」
「キシャーッ」
咆哮をあげた、暴力カニ女と称された玲奈。真っ直ぐ眼前を睨み付け、勢いよく飛び出し、蜘蛛の脚を貪った。
「迂回すると思ったでしょ? 残念だけど、この際、一番手薄なのは中央よ。さて、放水部隊、綺麗に洗ってあげなさい」
鍵屋の指示と同時に、怒涛の放水が神殿を洗う。正面からぶつかり合う苛烈な戦いと思われた次の瞬間に取られた鍵屋の一手。思わず呆けてしまった虚無の兵士達を見つめて、鍵屋が小さく笑う。
「その幻想、物語の王で覆す……!」
敵は要塞蜘蛛が吐く糸で消防隊の捕縛を開始する。自我を失いかけている玲奈が、それを阻止させようと真っ直ぐに要塞蜘蛛へと向かって駆け出すが、あらかじめに用意されていた追憶地雷が玲奈を襲った。
巻き上がった光の塵によって記憶が蘇る。
「ママよ、玲奈」
母の記憶が玲奈を苛む。
幾度に渡って玲奈を裏切ってきたその実母の記憶ではなく、玲奈が全てを知る前に抱いた母への想いが混在する。記憶が混乱を招き、玲奈が足を止めた。
これを好機と判断した虚無の仕官が玲奈に一斉攻撃を行うように蜘蛛達を放った。
「だから……何じゃボケぇ!」
とっくに自我が崩壊しかけている玲奈に、追憶地雷はかえって拍車をかける結果となった。己れや周囲を省みずに全てを破壊し尽くそうと暴れる玲奈を遠目に、鍵屋がクスっと笑った。
「策に溺れたか……。私の玩具にあんなものを使って逆鱗に触れるとはね……」
破壊の限りを尽くす。言葉通りに全ての敵を屠った跡に忘却の雨が降る。
「全ての物語を統べる王もリセットされたら台無しだろう?」
玲奈の吐いた忘却の泡が、全てを消し去る。
FIN
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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。
風邪でなかなか動けず、納品遅れて申し訳ありません。
虚無の造り上げた神も、リセットの前には太刀打ちは
出来ませんでしたねw
さすがですw
と言うより、理不尽なぐらいの圧倒ぶりでしたねw
それでは、今後とも宜しくお願い致します。
白神 怜司
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