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<東京怪談・PCゲームノベル>


蒼天恋歌 7 終曲

 門は閉じ、虚無神の暴走は食い止められた。
 ヴォイド・サーヴァンは霧散し、状況が不利になった不浄霧絵は姿を消した。
 未だ虚無の境界が生きていることは同じ事件が起こる可能性を秘めているのだが、この門を閉じ、ある程度平和な世界に戻したことが何よりの功績である。

「終わったのですね」
 レノアはあなたに言う。
「私は、何もかも失った。家族も……でも」
「いま、私がしたいことを言っても良いですか?」
 と、彼女は嬉しそうに行ったのだ。
 そう、何もなくなった、というわけではない。
 ささやかに、何かを得たのだ。


 非日常から日常に戻った瞬間だった。

 日常に戻るあなた。
 只、少し違うと言えば、隣に子犬の様なレノアがいる。
 相変わらず方向音痴、料理は修行中。掃除は上手くなったようだが、謎に、精密機器を壊す。というお茶目なところは残っている。
 あなたは、このあと、彼女とどう過ごすのだろう?

 未来は無限にあるのだ。



〈二週間後〉
 異様な曇り雲は異常気象か竜巻として取り上げられていた。テレビを賑やかしていたが、今は下火となっている。ただ、少しばかり月刊アトラスで話題になった程度で、セレシュ・ウィーラーの生活にはこれと言った変化はなかった。ただ、彼女の生活に一切の変化がないわけではない。

「ああ! 遅刻! 遅刻!」
 廊下でバタバタ足音がする。可愛い声で慌てているのはレノア・シュピーゲルだった。
「目覚ましちゃんとしときとあれほど……。」
 ダイニングでゆっくり新聞を読んでいたセレシュが、慌てているレノアに言った。
「しかたないでしょう。気がついたら壊れているんだから!」
「目覚まし時計破壊、通算13個……って。電気系統全般がダメなんかね?」
 セレシュはため息をついた。
「ちゃんと、飯食べてから行きや〜。」
「そんな時間ないよぉ。」
「つべこべいわん。朝食は一日の元気の素や。」
 セレシュの言葉に、レノアはほおを膨らませてぐぬぬとなった。レノアは、ダイニングにあるテーブルに着席しては、バターロールをとり、行儀よく食べている。目は壁掛け時計を睨むように見ていた。
 牛乳を一気に飲み干し、「ごちそうさま!」と言っては、レノアは出ていった。
「いってらっしゃい。」
 セレシュは新聞を閉じ、朝のコーヒーを淹れる。
「そろそろ時間やなあ。」
 彼女は立ち上がり、食器を片付けては仕事の準備をする。

〈戦いの後〉
 レノアを引き取ると言うことは難しかった。戦いが全て終わったあと、影斬が保護をすると言うからだ。いきなりなことでセレシュは戸惑ったが、レノアはそれに従おうという風に見える。それに、はっと気気づき、面と向かってセレシュが反対した。
「うちの家族や。うちが面倒見る。護衛を頼んだのはうちやけど、そこまではせんでええ。」
 と。
「では、聞こう。今回の事件がもう一度起きることがある。それでも、君は彼女を守れるか?」
 影斬の冷たく威圧的な言葉が、セレシュを襲う。
「守れる! 家族屋から守れるわ!」
 影斬の威圧に負けないぐらいの声でセレシュは答えた。
「……。」
「……。」
 影斬は武器を構えない。しかしセレシュは影斬に飛びかかる勢いでもあった。
「それでも、レノア。彼女の元を去るのか?」
 影斬は落ち着いた口調でレノアに言った。
「私は……。」
 レノアは走ってセレシュに抱き付いたことで答えは決まっていた。
 レノアは、影斬による保護ではなく、セレシュとの家族のふれあいを望んだのであった。


〈鍼灸整骨院〉
 予約が6人。初診が3人。まずまずという所。
 常連患者との世間話に花を咲かせては、初診患者への適切な施術とアフターケアをこなし、終わったのは午後2時であった。一息入れる前に、鍼の消毒や施術台のタオルやシーツなどの洗濯を済ます。一通り、後片付けが済むと、昼食と夕方の予約を確認する。
「4人やけど、あと1〜2人入りそうやなあ。」
 と、呟くと施術準備をどうするか頭でシミュレートしていく。その思考を破ったのは、自宅側のチャイムだった。
「どちらさんですか?」
 インターホン越しで来客応対する。
『織田です』
『草間です』
 相手が、顔見知りと知ると安堵した。これがやっかいな勧誘員なら無言でインターホンを置くところである。
「どうしたん。まあ、あがりや。」
 と、ドアを開けて通した。

「レノアの方はどうしていますか?」
「元気に学校いっとるで。今日は遅刻しかけのようやけどな」
 と、草間武彦と織田義明は定期的にレノアの調子を訊きに来ている。難しい書類上のことをこの2人が手伝ってくれているのだ。セレシュはその拳について大変感謝している。
「これが、新しい書類だ。各種項目をしっかり書いてくれ。」
「すまんなあ。本当はうちがやらなあかんことやのに。」
「アフターケア代は貰おうとは思ってるけどな。」
「安うしてくれへんか。」
 と、書類手続きの話をしている間に、時間は過ぎ去っていく。


〈学校の窓から〉
 澄み切った青い空。それを、ぼうっと眺めているのはレノアであった。
 彼女は今神聖都学園の学生である。
 幸いにもギリギリセーフというところで遅刻を免れた彼女は、今まで起こった出来事を思い出していた。辛い記憶や悲しい記憶もあったが、いまセレシュとともにいることが何より楽しい。彼女がゲートキーパーであることは、一部を除いて知らない。学校内ではほぼ全て知らないだろう。
 レノアの存在は神秘的でいろいろな噂になっている。今日も下駄箱に手紙が入っていたし、声を掛けてくる男子もいた。編入後に沢山人だかりができるのだ。しばらく、注目の的にはなるだろう。いま、こうして空を眺められるのは、慌ただしい学園生活の一寸した間なのである。
 自分はゲートキーパーであるから普通の生活は出来そうにない。しかし、今の平穏な時間を過ごしていこう。彼女はそう思った。
 放課後、クラスメイト達に遊びに誘われた。彼女は、満面の笑顔で、
「うん、いこう。」
 と、答えるのであった。


〈穏やかな日常〉
 午後診は早く終わり、セレシュは食材を買い。ふと時計屋で立ち止まる。
「たしか、……壊してたな。完膚無きまで。」
 どうも、電子音の目覚まし時計だと、彼女の攻撃に耐えられないようだ。それならボタン式ではない、古いタイプの目覚まし時計を買うことにした。
「まさか、チョップでボタン毎壊すとは……。」
 なんたるバカ力と言わざるを得ない。
 精密機械がかなり入っている時計だと、触るだけでショートし、頑丈そうなものでも勢い余って破壊するらしい。自分が起こした方が良いのだろうが、脳天がたたき割られるのは勘弁願いたいところであり……。
 帰宅して、夕飯を作る。時刻は7時ぐらいになっていた。
「ただいま〜。」
 レノアの声。
「お帰り。遅かったね。」
「友達と遊んでて。」
「そっか。あまり遅くならんようにな。」
「うん。」
 そして、セレシュは夕飯を作っている間に、レノアが着替え終わり、皿を並べてくれる。
「今日の晩ご飯は何?」
「中華で攻めようと。」
「ほほう。楽しみ。」
 と、和やかな会話。
 盛りつけをして、料理の香りが空腹へと誘う。
「「いただきます。」」
 2人は、そういってご飯を食べ始める。
「今日、何があった?」
「ラブレターが5通ほど下駄箱に入ってた。」
「ほう。モテモテやね。」
「茶化さないでよ〜。返事に困るんだから。えっと、あとね……」

 2人の日常は、これからも続くだろう。


〈終わり〉

●登場人物
【8538 セレシュ・ウィーラー 21歳 女性 鍼灸マッサージ師】

●ライターより
 こんにちは、もしくはこんばんは。滝照直樹です。
 この度は「蒼天恋歌 7 終曲」、そして最後まで参加していただきありがとうございます。
 『たいせつなもの』は見つかりましたでしょうか?
 では、機会があればまた、お会いしましょう。

 20121124
 滝照直樹