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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


吸血鬼に永遠の眠りを





「何カッコつけてはるんですか」

 武彦と吸血鬼の対峙にため息混じりに声をかけたのはセレシュだった。

「待ってたぜ……」
「うちは来んかったら良かったって後悔してますけど。だいたいうちの専門は魔法具やし、戦闘は専門外なんやけど?」
「いや、まぁ、お前ならどうにかなるかなってな……」
「はぁ。まっ、報酬しっかりくれるんやったらやりますけど」

 そう言ってさっさと武彦の前に歩み出たセレシュが目の前の吸血鬼を見つめる。
 暗闇の中でその輪郭しか見えていなかったセレシュにとって、目の前に立っている吸血鬼が少女の姿をしている事には驚いた。

「ほう、貴様が私と戦うというのか?」
「まぁ、そういう事になるなぁ」

 愛用の剣を手に取ったセレシュが、その鞘から抜いた細剣をピッと振るった。

「結界は貼らせてもろたから、逃げられへんよ?」
「ククッ、元より逃げるつもりなどない」
「ならえぇわ。始めよか?」

 タンっと駆け出したセレシュが手に握っていた細剣を握り、魔力を込めた。その白い光に吸血鬼の少女が顔をしかめ、横に薙ぎ払った剣をあっさりと受け止めるのではなく、後方へと飛んで避けた。

「……その力、ただの人間ではないようだな」
「一瞬で見抜いて避けるんか……。ホンモンはやっぱ面倒やな……。でも、元々接近戦はあんまり好かんのよね、うち」

 白衣を着たセレシュがその左手を翳すと、真っ白な球体が浮かび上がり、魔法によって生まれた光の矢を放って吸血鬼の少女に向かって襲いかかる。
 持ち前の運動能力を利用した吸血鬼の少女はその攻撃は飛んで避け、壁を蹴ってセレシュに向かって突っ込んだ。

「遠距離攻撃が得意と言うならば接近戦に持ち込むまで、というものだ!」

 鋭い爪を振り下ろして吸血鬼の少女がセレシュに向かって声をあげて襲いかかった。
 セレシュは細剣でそれを受け止め、その場で吸血鬼の動きを制止した。

 この光景に、武彦は思わず目を見開いた。

 吸血鬼の力は常人とは比べ物にならない。だと言うのに、目の前でセレシュはそれを受け止め、制止した。
 先程の光の攻撃に、この圧倒的な力。武彦はその力のぶつかり合う様子を見つめて言葉を失った。

 そんな事には構わない、と言わんばかりにセレシュが押し勝ち、吸血鬼の身体に手を翳して魔法を放つ。
 これを避けきれずに身体にダメージを負いながら、吸血鬼の少女もその空いていた左手でセレシュの腕を切りつけた。

 互いに傷を負った、僅かな一瞬だったが、二人の傷はほぼ同時に消え去り、元の姿に戻っている。

「……これは驚いたな。貴様、ただの人間ではないらしいな」
「アホ言わんといてや。うちは人間らしい人間しとるっちゅーねん。ベスト・オブ・ヒューマンやっちゅーねん」

 何か使い方がおかしいのだが、そんな事をセレシュも吸血鬼の少女も気付いていない。

 互いに睨み合いながらの思考が巡る。

 ――セレシュにとっては、この状態は押しの一手に欠けるというのが正直な感想だ。

 互いの治癒能力からして、このままでは消耗戦を強いられる事になる事は明白だと推測出来る。
 これに関しては吸血鬼の少女も同意している。再生能力がある分、優位になると踏んでいた吸血鬼だが、それを相手も持っているとなれば、そのメリットは通用しない。

 だからと言って、いつまでも睨み合っていても仕方ない。
 吸血鬼の少女が先手を打って飛び出す。

「再生能力があるのなら、それが届かない所まで壊してくれる!」
「ハッ、同感や!」

 セレシュが光の矢を一斉に具現化し、放つ。
 先程からセレシュが放っている光の矢。これは、神聖属性と呼ばれる魔法に当たる。

 魔の属性としても名高い一族である吸血鬼にとって、言うなれば銀の刃と同じく、激痛を伴う代物だ。いくら再生能力があるとは言え、それをまともに浴びたいとは思わない。

 ある意味、セレシュは吸血鬼の少女にとって相性が悪い相手だ。

 光の矢を避けながら、吸血鬼の少女が手の中に黒い魔力の塊を凝縮させ、それを投げつけた。
 向かってくる黒い魔力をセレシュが神聖魔法を帯びた剣で一刀両断し、左右へと弾くと、その先で砂塵を巻き上げた爆風が舞い上がった。

 ちなみに、後方にいた武彦はこれによって更に後方へと吹き飛ばされる。

「どわっ!」
「あ、探偵さん。離れとかんかったら怪我するで?」

 もう遅いわ、と呟いた武彦を尻目に、セレシュは再び光輝く光の矢を。それに対応するかのように吸血鬼の少女も黒い魔力の矢を飛ばし、ぶつけ合う。

 舞い上がる砂塵を目眩ましに、その中から吸血鬼の少女が飛び出し、セレシュの身体へと攻撃を入れようと手を前に出して襲いかかるが、セレシュがギリギリの所で細剣でそれを防いだ。

 しかし、そのスピードの乗った衝撃でセレシュが後方へと吹き飛ばされた。
 これを好機と見た吸血鬼の少女が追撃に出ようとするが、セレシュがニヤリと口元を歪ませて光の矢で吸血鬼の身体を突き刺し、斜め上空に向かって吸血鬼の少女が吹き飛ばされる。

「あー、しんど。なんちゅー力しとんねん……」
「……おのれ、ダメージを受けたフリをしたか」

 セレシュは立ち上がりながら、吸血鬼の少女は光の刃が消えて地面に降り立ちながら言葉を漏らした。
 もはや武彦に介入する余裕はない事は既に分かっている。

 再生能力で互いに無傷の状態にまで回復する。

 セレシュの考察が正しければ、このまままともに戦っていても、月が出ている間は消滅にまで追い込めない状態が続いてしまう。
 やはり消耗戦になりそうだ、とため息を漏らした。

「面倒だ。この場所もろとも消え去れ」

 吸血鬼の少女が魔力を凝縮した球体を、先程とは比にならない大きさにまで膨れ上げて口を開いた。
 さすがにあのサイズは切れないだろう、と踏んだセレシュが武彦に向かって声をあげた。

「伏せて!」

 突然のセレシュの言葉に武彦が慌てて伏せて顔を隠した。
 セレシュが眼鏡を外し、その青色の瞳を吸血鬼の少女が魔力を放つと同時に見つめた。

「――ッ! な……んだと……!」

 みるみる身体が石化していく状態の中で吸血鬼の少女が口を開いてセレシュの正体にようやく気付いた。

 そんな中、放たれた魔力の球体を、細剣に神聖魔力を注ぎ込んだセレシュが剣を寝かせて思い切り振りかぶる。

「場外ホームランや!」

 ガキンっと音を立てて迫り来る球体を細剣で斜め上へと振りかぶり、思い切り打ち上げる。
 天井を貫通し、そのまま魔力玉は闇の広がる空へと飛んでいく。

 ふぅ、とセレシュがため息を吐いてから吸血鬼を見つめると、そこには石化し、まるで石像のように変わり果てた吸血鬼の少女の姿があった。

「……もうえぇで」

 セレシュが眼鏡をかけ直してから武彦へと振り返った。
 武彦は恐る恐る顔をあげると、セレシュの正面に先程までいた吸血鬼の少女の姿をした石像に、思わず目を疑った。

「せ、石化……したのか?」
「せや。面倒な奴やったからね」

 セレシュが近付いてテキパキと魔法と封印をかけ始める様子を見つめながら武彦は呆然としていた。

「そ、それは?」
「簡単に石化が解けへんように封印。それと、二度と目が覚めないように完全な石になるように魔法をかけたんよ」

 そう言ってセレシュが振り返り、ニヤリと笑ってどこからともなくハンマーを取り出した。

「裸婦像の方がえぇって言うんやったら、服だけ砕こか?」
「バッ、バカな事言うな」
「冗談やって。まぁ吸血鬼の少女や言うても、ここで服砕いて持って帰ってるトコ見られたら変態やな」

 そう笑いながらセレシュは告げて、武彦に歩み寄った。

「傷口見せて」
「あぁ」

 セレシュに傷口を見せると、セレシュがその細い手を翳して治癒魔法をかけた。
 すると、武彦の傷口が綺麗に跡形もなく治った。

「血は戻せへんから、ゆっくり休まなあかんけど、これでえぇやろ」
「ありがとうな」
「それで、探偵さん。報酬なんやけど?」
「……分かってる。しっかり多めに払うよ」
「イッヒヒ、まいど」

 石像は武彦に運ばせて、セレシュはそのまま武彦の事務所へと向かって歩き出した。



 ちなみに、事務所に置かれた吸血鬼の少女の石像は、いつの間にかセレシュによって、服の部分だけすぐに剥がれるように細工されていた事に掃除をしていた零が発見し、「お兄さん、変態です!」とあらぬ誤解を受ける事になった。




                                      FIN



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ご依頼ありがとう御座います、白神 怜司です。

さてさて、今回は吸血鬼編へのご参加有難うございました。
陽クンこそ出て来ませんでしたが、
こういう自由奔放ぶりはセレシュさんの魅力ではないかな、と
思いながら書かせていただきました。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後共よろしくお願い致します。

白神 怜司