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+ 同居人手合わせシリーズ ―狼と鬼― +
それはそれはとても良い天気の日でありました。
そんな中、うちが住む外見廃屋チックな洋館ではある重大なる発見がなされたという事で……。
「っていうか、なんで地下室がある事に今まで気付かへんかってん」
「よくある事ですよ」
「自分が住んでる家やで!? なんで間取り知らんのん!」
「さあ、私は同居人ですから」
朱里と一緒に発見された扉の奥を覗き込めばそれはそれは立派な地下室が広がっておるってどういう事や。朱里の返答に納得いかへんかったから同居人の女の子に聞いてみたら彼女曰く、「ここは開かずの間がいつの間にか解禁されることがよくあるのだ」との事。
……どっちの回答も回答やった。
契約する時とかに普通は自宅設計図とか貰うんちゃうのん!? この子ら一体こんな変な洋館で今までよう暮らしてきよって、ホンマにお兄さん心配になっちゃうやん!!
「はは……まあ、発見されたのはええねん。別に掃除したら物置にでも使えると思うし」
「そうですね、物が全く無い綺麗な部屋です。埃は溜まっているようですが掃除したら問題ないでしょう。ええ、それはもう」
「ん? 朱里、ええ笑顔やな〜……あ、うち用事が」
「まあ、そう言わず。ちょっと一戦――手合わせしましょ?」
「やっぱりー」
ひくっと頬の筋肉が引きつるのを感じる。
うちはさっさと危険感知をしてくるっと身体を反転させたけど間に合わず、朱里にがっしりと肩を捕まれとります。
「って言うか、痛い痛い痛い! 朱里は正体『鬼』なんやからホンマに勘弁してやー!!」
「そういう瑞希だって『人狼』でしょう? さあ、やりましょう。今すぐやりましょう」
「ああ、もう生き生きしよって……」
「瑞希とは手合わせしたことありませんから楽しみなんですよ」
「まあ、そやね。いくら人狼がパワーファイター言うても同じタイプとは戦いたくあらへん!」
「そうですか? 折角こんなに広い場所が見つかってしかも何も無い空間と来たら遊びたくなるじゃないですか」
「なんやねんな。鬼って好戦的なん?」
「私は相手によりますよ? 私が闘いたいと思えば好戦的になりますよ?」
それはもういい笑顔。
眩しいくらいの微笑みでヤる気満々の表情を浮かべている朱里にこれ以上何を言ってもあかん。こうと決めたらコイツはどこまでもヤるから止められんと思ったら付き合うしかないってね。
「ああ、さよか。覚悟完了や」
「そんな何気に泣きそうな声を出さなくても。……ああ、怪我しても平気です。あの二人も手合わせするみたいですし。治癒もすぐ出来ます」
「あの二人もって……」
ちらっと自分達の後ろにいる男女へと視線を向ける。
二人はこっちの様子を見てなにやら雑談中のよう。うちは……現在朱里にずりずりと地下室の中へと引き摺られている真っ最中。しかしこの地下室ホンマに無駄に広いんやけど、元々何で使っていたのか謎過ぎるで。何人かまとめて手合わせ出来る程広いってどういう事や。
「さ、やりましょう。本気で」
「――まあ、うちもたまには本気出さんと身体鈍るしな」
「では」
「んじゃ」
うちと朱里は互いに向かい合い、各々の種族特性を身体に現す。
うちは人狼やさかい、腕を狼のように毛をぶわっと変化させ筋力をアップさせる。対して朱里は鬼角を頭部に出現させ、それはもう目に殺気を宿らせながらうちを見て。
「ここで負けたら最年長組として名が廃る!」
「別にその程度で廃りませんって」
目と目が合い、動いたが最後。
――それが勝負開始の合図。
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「……情けないんやけど」
「同じく情けないです」
「これって引き分け?」
「私の勝ちじゃないですか」
ぜぇはぁと互いに息を切らしながら互いの背中を寄りかからせながら戦闘終了後にだらだらと喋りだす。うちはもう寄りかかるのもしんどくなって、最終的にはまだ掃除前の床にごろり。こりゃ後で風呂に入る事決定やな。ああ……服も洗わなあかんし、……いや、これもう捨てよ。ボロボロになっとる。
朱里の方も普段着が切り裂かれてその下の皮膚が見えとるし、互いにきっついきっつい戦闘やったなー……、アレさえなければ。
「なあ、うち真面目に思うんやけどどうせ手合わせするんやったら掃除してからが良かったわー」
「埃臭いのも考えものですね」
「あー、もう……くしゅん!」
「瑞希、まだくしゃみ治まらないんですか」
「人狼の嗅覚なめたらあかんで。……へ、っしゅ!!」
「お陰できつい一撃を入れることが出来ましたけどね」
「こっちかてっ、っしゅ!! くしゃみさえなかったら……」
あかん。まだむずむずする。
うちは痛む鳩尾に片手を当てながら先程までの戦闘を回想してみる事に……。
それはもう途中までは優勢やったんやで。狼変化で受身取りながらの鬼の朱里との戦闘は激しかったなー……。
『はぁっ! 朱里逃げんなや!』
『正面から喰らったら一発で落ちますからね。ある程度かわしますよ』
『くっそ、素早いってー!』
『瑞希の方こそ、狼変化して空中でも回避するじゃないですか。回転軸ずらして逃げるなんて私には無理です』
『人狼なめんな』
拳を繰り出せば朱里はさっと身体をそらし攻撃を避ける。
そして床を思いっきり蹴って懐に入ってくるものだから、慌ててうちは狼変化してかわすしかないってどういう事や。それだけ朱里が本気って事は分かるし、こっちも本気でやらないとマジで死ぬでコレ。
実際問題朱里が繰り出してきた強力な拳は床を殴打した瞬間、そこは激しく破壊され背筋にぞっと寒気が走る始末。まあ……うちかて朱里がかわしてついつい壁を殴った時に思いっきり穴あけたからおあいこと言えばおあいこやねんけど。
『朱里ー! そろそろ落ちてー!』
『嫌です。そちらが落ちて下さい』
『ホンマいい加減にせい! もうこの辺で――』
『?』
『ふ……』
『瑞希? あ――』
互いに互いの攻撃と回避に文句をつけつつの応戦。
しかしそれは突然やってきた。鼻腔を襲う悪魔。戦闘によって舞い上がったそれはもう溜まりに溜まった埃がうちら二人を襲い掛かって――。
『『 へ、っくしゅん!! 』』
そのまま攻撃と同時に繰り出す互いの拳。
朱里の拳はうちの鳩尾に。
うちの蹴りは朱里の胸元に。
二人して倒れ込む床の上で、暫く呼吸が上手く出来ず咳き込んだのは……言うまでもなく。
「――あれさえなければうちの勝ちやったかもしれんのになぁ」
「でも先にくしゃみして倒れたの瑞希ですよね」
「えーほぼ同時やーん。引き分けでええやーん」
「じゃあ、もう一戦やりましょう」
「ホンマ勘弁してーー!! は、くっしゅ!!」
まだまだヤる気満々の朱里の鼻も擦ったせいで赤く、それはもう二人とも埃に降参。
「むしろ埃が勝者でええんとちゃうか」
「……解せない」
うちの一言に朱里はそれはそれもう嫌そうな顔をしつつ次の勝負をしようとねだりに入り、うちの腕を引っ張るばかり。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【8596 / 鬼田・朱里 (きだ・しゅり) / 男 / 990歳 / 人形師手伝い・アイドル】
【8627 / 久能・瑞希 (くの・みずき) / 男 / 24歳 / アイドル・アクション俳優】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、ノミネート発注有難う御座いました!
手合わせという内容にびっくりしつつ、結果はお任せでしたので本気で試合ったらどうなるのかなと必死に考え……どう考えても掃除していない地下室って埃臭い=くしゃみ連発という式が離れませんでした。
特に瑞希様は人狼ですし、人一番敏感そうですよね(笑)
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