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<東京怪談ノベル(シングル)>


【狂獄】死してなお狂い咲く





■■オランダ領アンティル。シント・マルテン島■■




 11月11日。
 この日はハロウィンの元祖、聖マーチン祭で街は賑わい、活気あふれていた。
 とは言っても厳かな催しもある為、そこに対しては別の顔を見せてはいるのだが。

 にも関わらず、虚無の境界に勝利した事に歓喜しているIO2とは裏腹に、玲奈は引き篭もる毎日を繰り返していた。
 自分が暴力カニ女という姿に変わってしまった事を嘆いている悲痛な少女の心を考えれば、それも無理はない話ではある。

 そんな玲奈の元に、携帯電話に一通のメールが届く。
 玲奈はそのメールを見て「こんな時に……」と嘆くが、そうも言ってはいられない。IO2からの異変調査をせよ、というメールだった。


 一つの島を国境が分断する国境線付近。
 それが今回玲奈に下された調査対象となった場所だ。

 渋々いちご柄のビキニを纏った玲奈は、重い足取りを引きずるように部屋から出た。


 IO2の斥候とも呼べる部隊と共に、玲奈達は早速その調査対象となっている国境線に向かう事となった。
 もう間もなく国境線だ、という所で一人の能力者が目を見開いて肩を震わせた。

「両国民の鬩ぎ合う念が……」
「え……?」

 玲奈は霊能力者を持った一人の霊能力者の言葉を静かに待った。
 聞けば、現実を陽炎の様に揺らめかせ、魔物が跳梁するのが見える。と霊能力者は語った。

「……いくら聖マーチン祭であるって言っても、そんなに霊が騒ぐなんて事……」

 玲奈は不思議に思いながらも斥候達と共に国境線に向かい、国境を渡る事にした。


 そんな玲奈達は信じ難い光景を目の当たりにする。





■□京都市左京区□■




 かつて戦乱や疫病で野晒しとなり、屍置場だった場所だと言う事は今でも語られている。そしてこの場所には今も街の暗がりに霊が屯すると言われている。
 そんな場所で、不思議な光景を目の当たりにしていた鬼鮫がため息を漏らした。

「成仏反対!」
「執着、未練、何が悪い!」
「迷おうぜぇ!!」
「うるせぇ!」

 鬼鮫が霊刀と霊銃で討伐を始める横に、玲奈もいた。

「ったく、何だってんだ……、こいつら」

 そこかしこで騒いでいる悪霊達に呆れるように呟いた鬼鮫の横で、玲奈は黙ったまま俯いていた。
 仕事は仕事だ、と割り切るかのように、玲奈も吸盤の柄から光線を放って霊を薙ぎ払う。

「何やら奇怪なモノも連れているな……」

 霊のリーダー格とも呼べるモノが鬼鮫達の前に姿を現した。

「おまえが元凶か?」
「いかにも。それにしても、お前」

 玲奈を見つめたリーダー格の悪霊が口を開いた。

「お前は此方側につくべきだとは思わないか?」
「え……?」
「何言ってやがる――」
「――人間側に与する必要があるのか? お前は我々に近い存在だ。そのような姿になってまで、何を人間などというものに拘る必要がある?」

 玲奈の中に響き渡る悪霊の声に、玲奈がその言葉を受け止めてしまう。

「さぁ、こちらに来い。お前はとっておきの場所へと迎え入れてやろう……」
「……はい……」
「おい、待て!」

 鬼鮫の言葉はどうにも届かず、玲奈はその悪霊と共に霧の中へと姿を消した。

「チッ、何処に行きやがった……!」
「鬼鮫さん!」
「三島が連れて行かれた。追うぞ!」
「ハッ!」





□□京都の大手呉服商、越後屋の地下□□




「執着心、未練、大いに結構!」

 巨漢が幽霊達が並ぶ前に立ち、幽霊相手に自己啓発セミナーを開催しているという不思議な光景が広がっていた。

「死後もこの世で生きるのです! これは幽霊となった者達、全ての為の禅……。そう、幽禅です!」

 巨漢の言葉に会場が湧いていた。
 フラフラと連れられた玲奈も、その光景を見つめて徐々に生気を取り戻すかのように目を向けた。

「成仏する義務などない! 何度でも言いましょう! 執着心大いに結構。霊もこの世を押下すべきだ!」

 霊達は目から鱗が落ちるかの様にその言葉に聞き入り、湧いている。
 その中には感涙する亡者さえいた。

 そんな中、巨漢が玲奈達に気付いて手を差し伸べた。

「暴力二女よ……。貴様は本来、黄昏の向こう側の存在。有りの儘に生きれば良いのだ」
「ありの……ままに……?」
「そう。有りの儘にです」

 人の精神とは脆いものだ、と巨漢は小さく嘲笑う。そんな中、玲奈はあっさりとその言葉を受け入れ、洗脳されていく。


「馬鹿野郎」
「――ッ!」

 玲奈の背後から鈍い音と低い声が響き渡り、玲奈が気を失って倒れようとしている所を鬼鮫とその部隊が支えた。

「こいつはこっち側なんだよ。勝手に連れて行くんじゃねぇよ」
「敵……! 生者は敵!」

 ワッと一斉に鬼鮫達に襲いかかる悪霊達。
 それに霊刀と霊銃を使った鬼鮫達が応戦する。

「暴力カニ女、玲奈……。是が幽禅だ。貴様も何れ学ぶ」
「チッ、逃げるのか!?」

 追いかけようと鬼鮫がその場から追おうとするが、それを悪霊達が邪魔する。
 巨漢は嘲笑にも似た笑みを浮かべて闇に消えながら呟いた。 

「また逢おう」





                                       FIN



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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

まさかの成仏反対運動が出て来るとは、
夢にも思ってませんでしたw

エヴァはなかなかな終わりでしたからねぇ……。


何はともあれ、今後共よろしくお願い致します。

白神 怜司