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<N.Y.E煌きのドリームノベル>


●ちっぽけなクリスマス
 冬特有の、冷えた空気が場を支配している。
 クリスマスシーズンにも関わらず、斡旋所にはオーナメント一つ存在していない。
 何時もの通り、埃っぽく、そして本が積み上がっているのみ。
 マフラーを巻きなおしたセレシュ・ウィーラー(8538)は斡旋屋(NPC5451)に問い返した。
「ツリーのある、広場の警護やんなぁ?」
「ええ、その通りです。あくまで警護なので、危険度は少ないでしょう……勿論、敵が出た場合はその限りではありませんが」
「今の時点で、予想される敵はわからへんの?」
 斡旋屋は暫し首をひねって、考えているようだった。
 だが、結局は首を振って無言を貫く。
(「何か……ありそうやなぁ」)
 たっぷりの疑いを含んだ視線を向ければ、斡旋屋は漸く口を開いた。
「個人的には、幾つかの候補をあげてますが――此れ以上は斡旋の業務範囲外の上、個人の見解でしかないのでお伝えできません」
 その返事はきっぱりとしたものだった。
 つまるところ、見解が外れた場合に『知らない』の一点張りを使うつもりなのだろう。
「そうなんや、わかったわかった。じゃあ、行ってくる」
「ええ……ああ、一般人に関しては死亡しない限り、IO2が動いているので心配しなくてもいいですよ。では、良いクリスマスを」
 ――だから、クリスマスに警備なんやって。
 そう、心の中でツッコミながら、セレシュは息を吐いたのだった。



 ……と言う、会話をしたのが現場に着く前。
 装飾された、クリスマスツリーが夜を剥ぎ取るような輝きを放つ。
 ダッフルコートのポケットに手を突っこんだままのセレシュを待っていたのは――。

「どうして、セレシュがいるのよ」

 虚無の境界に属する、千の魔法を操ると言われる魔術師――しかめっ面でセレシュを見上げた。
 ミニスカートとニーハイソックスから覗く膝が、赤く寒そうだ。
 くしゅん、と小さなくしゃみをして、魔術師はセレシュを睨みつける。
「それはお互い様やわ」
 きっと、斡旋屋は知っていて鉢合わせさせたのだろう。
 個人的な候補も、絞り込んでいたのかもしれない――感謝すべきか、非難すべきかは分からない。
 最後にぶつけられた『良いクリスマスを』と言う言葉を考えると、善意のような気もするが、あくまで秘匿した事を考えると悪意なのかもしれな

い。
 少し頭を振って、セレシュはそんな思考を追いだした……今、すべき事は斡旋屋の意図を考える事ではない。
「なぁ、テロは止めへん?」
 常識が欠落しているところはあるが……個人的には、悪い子だとは思わない。
 確かに、セレシュは魔術師と情報交換などをして楽しかったのだ。
 セレシュから発せられた言葉……だが、その返事の代わりに魔術師は得物を構えた。
「無理な話よ。本当の『生』の為には、今を一掃する必要がある――わかってるでしょ?」
「……やっぱり、あかんかぁ」
 元々、期待していたわけではない。
 魔術師の放った鋭い魔法の刃を、黄金の剣で切りながら、セレシュは剣を輝かせると目暗ましの光を放つ。
「――!」
 側面から奇襲をかけ、体勢を崩そうとしたセレシュが刻んだのは、ゾンビだった。
 それは脆く崩れ、灰へと還る。
 咄嗟に距離を置いたのだろう、魔術師が呪文を唱え炎の塊を放つ。
 それは降りだした淡い雪を溶かし、セレシュの後ろを穿った。
「セレシュは好きよ、だからゾンビになっても大事にしてあげる!」
「……ゾンビになる予定は、ないねんけど」
 やはり、ゾンビにするつもりなのか……。
 予想していたが、嫌な予想が的中するものである。

 大怪我をさせないように気を付けながら戦うセレシュと、容赦無く魔法を撃ってくる魔術師。
 死霊の類を使わずに、自身の攻撃魔法を使っている事から、死霊術は不利だと学んだのかもしれない。
 ――冷たい汗が流れる、このままだと、ジリ貧だ。
 ゾンビの群れを自身の能力、魔よけで弱体化させると片っぱしから剣で撃ち砕いていく。
 だが、魔術師はそれを予測していたのかゾンビ越しに魔法を放った。
 空気が振動し、爆発する――それを防御の結界でやり過ごし、魔術師に肉薄する。
 鳩尾に叩きこもうとした剣は、魔術師の具現化した盾で防がれた。
 両者の力が拮抗し、バチバチと音を立てる。

(「しゃぁないなぁ……目立つ前に、決着付けたいし」)

 IO2が奮闘しているのか、これ程戦闘の音を立てても一般人の姿は見られなかった。
 だが、それに何時までも甘えている訳にはいかない――先に動いたのは、セレシュ。
 一旦剣をおろすと、眼鏡を外した。
 静かな青を湛えた瞳が、魔術師の瞳とかち合い、そして……石化の力を持つセレシュの瞳は、徐々に魔術師の身体を石へと変える。
「――な、何するのよ!」
 石になってる、と騒ぎ立てる魔術師……防御の呪文を唱えてみるも、既に遅い。
「うわぁーん、セレシュ、何するのよー!」
「倒れて砕けんように、座っとくのを勧めるで……って、首、首絞まる」
 がしっ、と抱きつかれてセレシュはたたらを踏んだ。
「助けてー、ちょっと、これ何とかしてよ!」
 上手くバランスを取りながら、コンクリートの上に落下しないように気を付ける。
 そして、セレシュの首に抱きついたままの、不可思議な石像が出来上がったのだった。



「随分と、珍しい石像ですね。首謀者であれば、IO2も喜ぶでしょう」
 斡旋所に戻ってきて、かけられたのはそのような言葉だった。 
「晶、知ってて斡旋したやろ?」
「さあ? 何のことでしょう……」
 首を傾げて、さも、無知そうに振舞う斡旋屋だったが、横に控える人形が算盤を弾いている辺り、何かしらの意図があるに違いない。
「この石像、渡す気はないで? そうやなぁ、報酬は此れで」
「――首謀者の引き渡しは、確かに依頼の範疇外ですが。ウッカリと私が喋らないように、IO2からの報酬は口止め料として頂いておきます」
 相変わらずエゲツナイ斡旋屋に、恨みがましい視線を送ってみるが――斡旋屋は気にした様子はなかった。
 始めから、斡旋料と報酬の二重取りを画策していたのかもしれない。
「じゃあ、うちは帰るで」
「ええ、またのご利用をお待ちしております」

 石像は重い……寒空の中を重量に四苦八苦しながら、漸く自宅に帰りついた時にはへとへとだった。
 だが、精神的疲労は此れからだろう。
 とりあえず、魔術師の機嫌をどう取るか――きっと、騒ぎ立てるに違いない。
 石化の魔法を解かれた後、動ける事を確認した魔術師は、やはりセレシュに噛みつくように言った。
「セレシュったら、酷い!」
「でもなぁ、こっちも依頼やし」
 酷い酷いと耳元で連呼されて、セレシュははいはい、と微苦笑する。
 魔術師は此れ以上ない程の、ふくれっ面。
「ケーキ食べたい」
「……はいはい」
「ツリー見たい」
「――はい」
 時計を見れば、今からならギリギリ、駆けこめばケーキ屋も開いているかもしれない。
 仕方が無いなぁ、とばかりにセレシュは立ち上がる。
「イチゴが乗ったケーキがいいなぁ」
「わかったわかった」
 機嫌を直した様子の魔術師を連れ、セレシュはケーキ屋へと足を向けるのだった。
 帰ってきたら、ささやかなクリスマスパーティをしよう。
 そう、思いながら。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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セレシュ・ウィーラー様。
発注ありがとうございました、白銀 紅夜です。

きっと、斡旋屋も魔術師も知っているけれど祝わない……と言うタイプなのだと思います。
折角ですので、クリスマスパーティをやりそうな雰囲気にさせて頂きました。
多分、魔術師は好きなものから食べるのだと思います。

では、太陽と月、巡る縁に感謝して、良い夢を。