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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


激しい戦いの後で





 あの激しい戦いから、幾日かが過ぎた。
 傷の回復も然ることながら、既にその影響は身体には残っていない。

 オフィーリアが空から独特な鳴き声で潤を呼ぶ。その声に、公園に立っていた潤が手をあげる。
 漆黒色の何処か妖艶とした美しさを持つオフィーリアが、その美しい翼を広げて上空から減速。潤の腕に乗った。

「調子はどうだい?」

 潤の言葉にオフィーリアが瞳を見つめて応える。あれだけの激しい戦いの後ではあったが、オフィーリアももう大丈夫なようだ。
 潤は僅かに目を細め、慈しむようにオフィーリアの頭をそっと撫でた。




 虚無との激戦。
 虚無の身体から抜き出した『虚無の核』は潤によって一時的に封印を施されていたが、この数日の間に潤は封印を上書きするように強固な物へと更に作り替えた。
 球体だった封印も、今では真っ黒なキューブに変わっている。潤はこれを持って、ある人物へと会いに行く。




―――。




 ――IO2東京本部。
 黒いベンツに乗ってそこへと訪れた潤に、守衛の男が歩み寄る。

「何か御用ですか?」
「『引渡し』に来た夜神 潤だ。これを預かっている」

 そう言って守衛に見せたのは、一枚の名刺サイズの紙だった。そこには何も書かれていない。守衛の男がそれを持って「少々お待ちを」と言って守衛室へと戻っていく。



 何も書かれていないその紙は、虚無との戦いの後、IO2の鬼鮫に会った潤が渡された物だった。

『虚無の核はウチが預かる。とは言っても今ここでって訳にはいかねぇからな。数日後、日を改めて持って来てくれ』

 そんな事を一方的に言われた潤が、今回こうしてIO2の東京本部を訪れたのは、ある幾つかの目的があったからだ。



 少しの間そのまま待っていると、守衛の男が慌てて駆け寄ってきた。

「確認が取れました。どうぞ、中へお進み下さい。案内の者が入り口にいますので」
「あぁ、ありがとう」

 独特なエンジン音を噴き上げて、潤はIO2東京本部の敷地内へと入って行く。

 IO2東京本部は、何処にでもある中堅の工場を持った会社のような造りをした一般的な会社だった。表向きは製薬会社にでもなっているらしいが、名前は聞いた事もない。それでもここは間違いなくIO2だろう、と潤は確信していた。

 肌で感じる結界にも似た力の残根。
 それだけでも、普通の会社じゃまず有り得ないというものだ。

 入り口を入って道路に書かれた指示通りに車を進めると、そこには来客用の駐車スペースが用意されていた。
 慣れた様子で車を停め、潤が入り口に向かって歩いて行く。そんな潤に向かって、入り口に立っていた黒い上下のスーツを着た女性が頭を下げた。

「お待ちしておりました、夜神さん。どうぞ、ご案内させて頂きます」
「えぇ。よろしくお願いします」

 歳の頃は二十代後半といった所だろう。随分としっかりとした雰囲気を放った女性に先導され、潤はビルの中へと足を踏み入れていく。

 ビル内のロビーは、それこそ広々としているホテルのロビーかのような造りをしていた。スーツ姿の男性や女性があっちこっちに点在し、白衣を着た者も時折見かける。
 そんな光景を横目に、潤は女性と共にエレベーターに乗る事になった。

「……あまりそういうのは好きではないんだが?」
「え……?」

 エレベーターに乗り込んでドアが閉まると同時に潤が口を開いた。

「俺の真意を探る能力、か? 敵対する意思があるのか、それとも協力する意思があるのか。その辺りが気になるんだろうが、そんな事をされなくても答えるつもりだ」

 女性の頬を嫌な汗が伝う。
 彼女は潤の予測通り、対象者の感情を読む能力を持った能力者だった。一般人ならばその能力が向けられている事に気付くはずもないのだが、潤はその規格外な力と性質から、その違和感に気付いたのだ。

「も、申し訳ありません」
「いや、それも仕事なのだろうが、な。いずれにせよ、敵対はする気はない」
「……はい。そのようですね。さすがは虚無を倒す程の方、ですね。能力を使った事に気付かれた事はありませんでした」
「僅かな変化を感じただけだ」

 潤の一言からは終始無言のエレベーターが上り続ける。


 エレベーターが止まり、延々と続く真っ白な床と壁。そして続く部屋の数々。それぞれに特徴もない事から、まるで自分の入った場所を錯覚してしまうのではないだろうかという程に等間隔に同じ光景が続く。

 ある一室の前で女性が足を止め、ノックする。

「『引渡し』の方をお連れしました」
「入れ」

 中から聞こえた声に、女性がドアを開けて中へと手で促す。潤が中に入ると、女性は中に入らずにドアを閉めた。

 会議室のような楕円形の机と、連なる椅子。そしてその向こうの窓辺に立つ人物。IO2のジーンキャリア、鬼鮫だった。

「大人しく来てくれて助かったには助かったが、正直予想外だな」
「俺が来ない、とでも?」
「あぁ。IO2はあの戦いじゃ蚊帳の外だったからな。信頼されてるとは思えなかった、ってのが本音だ」

 自嘲気味に鬼鮫が呟く。

「……成る程。確かに、あの戦いではそうだったかもしれませんね」
「あぁ、否定はしねぇ。それでも俺達に託してくれるってのは、一体どういう了見だ?」
「疑り深いですね……。まぁ、隠すつもりもありませんが」

 潤は虚無の核を机に置いた。

「そいつか」
「えぇ。ただし、渡すには少々条件を飲んでもらう必要があります」
「……ま、拒否権はねぇか。条件ってのは?」
「話が早くて助かります」

 鬼鮫が椅子に腰を降ろし、向かい合うように潤も椅子へと座り込んだ。

「条件は二つ。まず一つは、これが虚無の境界に渡されないように守り切る事です」
「至極当然の条件って事か」
「えぇ。勿論」
「それに関しては配慮する。そんな厄介なモン、出来るなら消滅させてぇってのが本音だがな。それが出来ない以上、渡させねぇ」

 鬼鮫が真っ直ぐ潤を見つめて答えた。潤もこれに頷いて答える。

「もう一つは、条件というよりも忠告ですね」
「忠告?」

 潤が小さく笑った後で鬼鮫を見つめる。その目付きと身体から放たれる威圧感。一瞬にしてその場の空気が凍てついた。

「俺と翼についてです。今回のことはたまたま協力関係に終わったというだけで、わざわざこちらから敵対する気はありません。が、翼と俺の力をそちらの都合のためだけに利用しようと考えても無駄です」
「……ッ、それは……――」
「――そうですね。簡単に言うなら、俺達の事を忘れてもらえるのが一番、という所です」

 威圧していた空気が緩和する。
 鬼鮫は対峙していたからこそ分かる。その威圧は圧倒的な強者によるものだった。抗おうとすれば、あっさりと喰われるだろうものだった。

「……分かった。それは俺からも伝えておこう」
「お願いします。虚無の核には封印を強化して施しています。解除方法は必要ありませんよね?」
「あぁ。構わない」
「でしたら、どうぞ」

 潤が突然キューブを放射線を描くように投げて鬼鮫に渡す。
 突然の行動に鬼鮫がキューブを見あげて受け止めると、そこには既に潤の姿はなかった。

「……夜神 潤、か……」

 残された鬼鮫は、何処か楽しげな感覚に身を震わせて口角を吊り上げた。





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ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回はIO2に直接警告するような形で書かせて頂きました。
やはりイケメン……!(

お楽しみ頂ければ幸いです。

今回でこちらも連載終了となります。

今後とも、また機会がありましたら是非、
よろしくお願いいたします。

白神 怜司