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<東京怪談・PCゲームノベル>


とある日常風景
− Fantom Crow 後編 −

1.
『あなたと私が…同じ世界で生きられるはずないのよ』

「話もまとまったし、敵について情報を集めましょうか」
 日高晴嵐(ひだか・せいらん)はそういうと、耳を澄ませた。
 黒いカラスの群れが空を覆う東京。
 それを見上げながら日高鶫(ひだか・つぐみ)は晴嵐の言葉にうなずいた。
 早いとこ何とかしないと…少しの焦りが鶫の中にあった。
「これ以上被害者を出さないためにも…」
「僕も頑張ります!」
 小瑠璃(こるり)が小さな手をぎゅっと握りしめた。
「危なくなる前に呼んでよ? 俺が助けに行くから」
 少し不安そうな小瑠璃に工藤勇太(くどう・ゆうた)はぐっと力強くそう言った。
「…勇太、おまえ1人だけ違うとこ向いてる気がする…」
 草間武彦(くさま・たけひこ)ははぁっとため息をつくと、勇太は慌てた。
「ぜ、全然違うくない! 俺は誰も危険に晒したくないだけで…あーもう! 俺も敵探すのに集中するから、草間さん黙っててくれよな!」
 少し赤くなって勇太は息を大きく吸って精神を集中させた。
 晴嵐の周りに、小さな雀たちがいつの間にか肩を寄せ合っている。
 ちゅんちゅんとしか聞き取れないその声に、晴嵐は頷く。
 鶫は空をキッと睨み、警戒をした。相手はどこから見ているかわからない。
 晴嵐と雀が何を話しているのかはわからない。ただ、話を終えた雀たちは群れでどこかへと飛んで行った。
「カラスの集団はいっぱいいるけど、その中でもひときわ大きな集団があるんですって。あの子たち、それが怖いって…」
 晴嵐は雀たちが飛んでいった方向とは真逆の方向を指差した。

『あっちの方向』

 精神を集中させていた勇太の指と、晴嵐が指した方向は図らずも同じ方角だった。
「勇太は何を感じてあっちだと思うの?」
 鶫の問いに、勇太はゆっくりと目を伏せた。
「邪念…怨念…憎悪…とにかく嫌な感じだ…」
「胸騒ぎがします…。いきましょう!」
 小瑠璃が走り出すと、それに続けて鶫たちも走り出す。
 胸騒ぎは鶫の胸にも渦巻いき、足はただその不安に押されるように早くなっていった。


2.
 黒い空は、走るうちに黒い街へと変わっていく。
「うわっぁああぁぁ!」
 逃げ惑う人々の群れが鶫たちの行く手を阻む。
「襲われてる!?」
 人の波間に黒い影が見え隠れする。この人々はそれから逃げてきたに違いなかった。
「一般の人たちの避難を…」
 そう言った晴嵐を制止し、草間が叫ぶ。
「避難は俺がやる。おまえたちは行け!」
「怪我人もいるかもしれない。私も…」
 そう言いかけた鶫に草間は言った。
「晴嵐を守るために来たんだろ? なら、晴嵐も含めて人間がこれ以上怪我しないようにおまえたちが諸悪の根源をぶっ潰せ」
「……わかった」
 対処療法よりも根本治療を。草間の言い分に鶫は納得した。
 草間が人々を近くの建物に誘導し始めたのを見て、鶫たちはさらに中心部へと向かう。
 カラスのくちばしが攻撃を仕掛けてきたが、それらを振り払い黒い塊となったカラスの群れの前へとたどり着いた。
 そこは、酷い惨状であたりは黒い羽根と赤い血によって染まっていた。
「…こんな…僕がしっかりしていれば…」
 小瑠璃の顔が苦しげにゆがむ。
「この…!」
 激情に任せて黒い塊に挑もうとした勇太を、鶫は押さえた。
「勇太、待て!」
「鶫先輩!? なんで!」
「勇太君、ここじゃ一般の逃げ遅れた人にまで被害が出てしまうわ。つぐちゃん、近くに大きな公園があるってさっきの子たちが言ってたわ」
「わかった!」
 勇太を諭し、晴嵐と鶫は阿吽の呼吸で動き出す。
 晴嵐は勇太と小瑠璃と共に公園を目指しだす。
 鶫は出した光の刀は黒い塊に一閃を入れた。なるべく傷つけたくはなかったから、刀の峰で叩く。
 だが効果はあった。黒い塊の意識は鶫へと向いた。
「ふん。小狡い真似してないで、きちんと表に出てきなよ」
 鶫はそういうと、公園を目指して走り出す。
 黒い塊は鶫を追い、走り出す。いや、飛んでいる。
 鶫も相当に足の速いほうだが、それよりももっと早い。
 公園まであと少し。誘い込めるのか?
「鶫先輩、伏せて!」
 勇太の声に鶫はスライディングのように公園へと走りこむ。
 同時に勇太が黒い塊に向かって強い目を向けているのが見えた。
『ギァアア!!』
 固まっていた黒い塊から数羽のカラスがぼとぼとと地面に落ちて痙攣した。
「つぐちゃん」
「わかってる」
 晴嵐の言葉に鶫は勇太の前へと刀を持って躍り出る。銀の髪が風に揺れる。
 勇太は鶫の後ろから、強いまなざしで黒い塊へと攻撃する。
「僕も行きます!」
 小瑠璃は空中に飛び出すと、襲いかかるカラスたちに光をもって立ち向かう。
 晴嵐もその背に翼を携えると、空へと舞いあがる。銀色の髪がふわりと風になびく。
「元に戻って! 心を取り戻して!」
 カラスたちが落ちていく。

 それは空が泣いているようにも見えた…。


3.
『愚劣なル人間どもメ…』
 落ちていくカラスとともに、姿を徐々に現したのは人間のような…それでいてどこか禍々しい雰囲気だった。
 そして、その言葉は反撃の合図だった。
 地面に落ち痙攣して横たわっていたカラスたちが一斉に鶫たちへと特攻を始めたのだ!
「姉さん!」
「ダメ! 傷つけちゃ…ダメ…」
「てめぇ!」
「やめてください!」
 くちばしが、羽根が、爪が容赦なく4人の体を傷つける。
 カラスたちは悲鳴のような鳴き声を上げてバタバタと地面に落ち、再び特攻を繰り返す。
 そんなカラスたちの体もまた、ぼろぼろになっていく。
「なんでこんな事をするの!?」
 晴嵐は問う。
「自分の仲間を傷つけてまで…なにを考えている!」
 勇太や小瑠璃もそれぞれの思いが口をついて出る。
『神に逆らイし人間どモ。冥土の土産に聞かせテやる』

『我は嘴太烏。貧乏神だった者ナり。
 その昔、人間の女と恋に落ちタなり。
 我は包み隠さズ、貧乏神であるコとを伝えタ。
 女は…我を拒絶シた。貧乏神であルといウ理由で!
 人間は、傲慢ナり! 人間は、強欲ナり!
 ならば神である我ガ天誅を下してやろウぞ』

「小瑠璃ちゃんと同じ…貧乏神?」
 勇太が呟くと小瑠璃は辛そうに首を振った。
「彼は…闇落ちして魔物になってしまっています。魔物になった貧乏神は…倒すしか…」
『人間に加担せシ貧乏神の末席にも置ケぬ者ヨ。おマえのような者が…世界をダメにすル!』
 むき出しの殺気で魔物は小瑠璃へとターゲットを絞った。
「僕は…」
 動揺しているのか、小瑠璃は動こうとしない。
「小瑠璃さん!!」
 1撃目はすんでのところで晴嵐に庇われ、事なきを得た。
 しかし、魔物はなお執拗に小瑠璃を狙う。
 鶫は、魔物の体から何かが剥がれ落ちてきたのを見た。
 だが、それに気を取られている場合ではない。
「勇太! 姉さんたちが!!」
 小瑠璃を抱えた晴嵐が魔物に執拗に追われている。
 地上からは何も手を出せない。歯がゆい。
 ぎりぎりとした焦燥感に苛まれながら、鶫はどうしたらいいか思案した。
 その時、勇太が魔物に叫んだ。
「貧乏神だかとかそんなじゃねーんだよ! あんたこそ、彼女の不安な気持ちを受け止めてやれたのかよ!」
 女性の強い思いをのせ、勇太は魔物へとテレパシーを送る。
 その思いの強さは魔物にだけでなく、鶫や小瑠璃、晴嵐にまで届くほどだった。

『あなたと私が…同じ世界で生きられるはずないのよ
 神と人ではきっと許されない恋…それにいずれ私は醜く老いて行く…
 私は怖いの…あなたに嫌われてしまうのが
 あなたと共に生きていけないのが』
 
『こレ…は…この思イは…』
 魔物の動きが止まった。
 晴嵐と小瑠璃も止まり、鶫は上を見上げて叫んだ。
 哀れなすれ違い。だけど…。
「彼女が愛したあんたと今のあんたは大違いだよね。…彼女が今のあんたを見たらどう思うかな」
 晴嵐は小瑠璃を離すと、魔物を真正面に見据えた。
「この子にも言ったことだけど、きっとあなたも何かしらの神様としての役割や存在意義があったからこそ神を冠していた…彼女もそう思ったからこそ身を引いたんじゃないかしら? 私は…彼女のことを知らないけれど、あなたを本当に愛していたと思うの」
 魔物はうつむいたまま、何かを考えていたようだった。
 そして、少しの時間の後小瑠璃を指差した。
『お前、我を消セ。思イを踏みにジり、勝手に憎しみを募らセた我に引導ヲ渡すがいい。我が、我でいられルうちに…』
 小瑠璃はビクッと体を震わせ、晴嵐、鶫、勇太と順番に見つめると意を決したように静かに光の刃を出現させた。


4.
「大丈夫? きっとアイツもこれで良かったと思ってるさ…だから、泣かないでよ」
 小さくなってすすり泣く小瑠璃を前に、勇太は何もできずにオロオロしていた。
 傷ついたカラスたちは晴嵐の手厚い治療により、すっかり元気になった。
「洗脳の方は…大丈夫なの?」
「…何も覚えてないみたい」
 鶫の言葉に晴嵐はそう言った。
 魔物がいなくなったことにより、カラスたちは洗脳が解けたようでそのまま何事もなかったかのように解散していった。
「草間さんにも決着ついたって連絡しないとな」
 勇太はそういうとスマホを取り出して、草間に連絡を取った。
 その時、小瑠璃が立ち上がり鶫と晴嵐、そして勇太に向かってお辞儀をした。
「あの…ありがとう…ございました」
 泣きはらした瞳で、小さな鳥になって空に飛んで行った。
「あのさ…小瑠…あ、あれ?」
 勇太が振り向くと、小瑠璃は既にいなかった。
 ぽかんとする勇太に、鶫はポンッと肩を叩いた。

「大丈夫、きっとまた会える日が来るよ。そんな気がする」

 いつもの予感だ。だけど、この予感は当たると思う。
 東京の空は、少し雲があったけれど青い空だった。


■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 5560 / 日高・晴嵐 (ひだか・せいらん) / 女性 / 18歳 / 高校生

 5562 / 日高・鶫 (ひだか・つぐみ) / 女性 / 18歳 / 高校生

 8501 / 小瑠璃・− (こるり・ー) / 男性 / 14歳 / 貧乏神

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
 
■□         ライター通信          □■
  日高 鶫 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度はご依頼ありがとうございました。
 冬の空、雲の予感。鶫様の予感が当たるといいですね。
 少しでもお楽しみいただければ幸いです。