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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


―It's Show time―





「――クリスマスのプレゼントに?」
「はい。我が孤児院で催事を行いたいのですが……」

 どんな無茶ぶりだろうか、と武彦は小さくため息を漏らした。まったくもって探偵の仕事ではないのだが、などとも言える相手ではないのだ。
 相手としてやってきたのは、この近くにある『白雪学童施設』、いわゆる孤児院の院長だ。何かと仕事を頼んでくれるのは有難いのだが、それが探偵業務とは関係ない仕事が九割を占める。

 ――その上、この人は少々特殊な力を保有した、『能力者』に精通している。

 彼は異能の力――つまりは超能力やら魔法やらには理解がある。
 それを子供達に見せた所で、それはトリックや仕掛けにしか見えないだろう、との考えから能力者達に精通している武彦にこんな依頼を頼んだのだ。

 ――つまりは、ショーをしてくれ、と。

「衣装はなければこちらで用意します。そうですね、出来れば2人ぐらいでやって頂ければ幸いです」
「2人ねぇ……。俺は付き添いで良いんだな?」
「はい。催しの内容はお任せします。ヒーローショーやマジックなんかでも、おおいに結構です」

 そんな事を告げられ、依頼料に折り合いをつけた武彦。

 子供の夢を盛り上げる為に、一肌脱いでやるか。
 ――と、武彦は思う訳もなく、一肌脱いでやってくれそうな知り合いへと電話をかける事にした。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「へー、ショーかぁ。楽しそうですね」

 草間興信所に呼び出された少年、工藤 勇太は小さく呟いた。
 彼の記憶にも、今回の状況と酷似した経験がある。

 ――遠い昔、自分のいた孤児院。

 クリスマスには質素ながら、院長達によって催されたクリスマスパーティーがあったのだ。
 
 温かい記憶の一ページとして、それは今の勇太にとっても心の中にしっかりと息づいている。

「それで、もう一人なんだがな」
「草間さんじゃないの?」
「悪いが俺じゃないんでな。もうすぐ来ると思うけどな――」
「――おまたせしましたー」
「あ、凛」

 武彦と勇太が話し合う中、背後から現れたのは護凰 凛だった。

「……凛、何で巫女姿なの?」
「催し、と聞いたのですが……?」
「ワザとだよね!? 敢えてのトライだよね!?」
「あら、バレましたか」

 たはーとため息を吐いた勇太に、凛は相変わらずふふっと笑っているだけだった。凛はどちらかと言うと、勇太を驚かせたりツッコミを入れさせたり、というのが好きなだけで、ただそれだけの為に今回も巫女姿で登場するという冒険を繰り出したのだった。

「っつー訳で二人共、頼んだぞ」
「さぁ、行きましょう、勇太。街はすっかりクリスマスムードですよ」
「クリスマスムード漂う中で巫女姿っておかしいからね!?」




―――。




 孤児院に着いた勇太達は、早速控え室と称された一室にそれぞれ通され、院長によって用意された衣装に身を包んでいた。
 来る途中で凛と話した結果、とりあえずは勇太の能力を使ったマジックショーという事に話が落ち着き、院長には伝えてある。

 勇太は衣装の中から“いかにも”と言わんばかりの燕尾服を手渡された。

「うへー、なんか恥ずかしいな……」

 鏡を見つめながら勇太は小さな声で呟いた。そんな折、部屋をノックされて返事をする。

「勇太、入って良いですか?」
「どうぞー」

 凛の声に勇太が返事をして、勇太が振り返る。

「ぶっ! な、ななな、何て格好してんのさ!!?」
「似合いますか?」

 勇太の目に飛び込んで来たのは、何故か露出度が高く、肩から透明の肩掛けを垂らし、半袖の申し訳程度の袖。そして下はミニのスカートを履いたサンタの衣装を来た凛だった。
 胸元を露わにし、足は膝まである赤いブーツ。頭にもしっかりと帽子を被り、凛が勇太に見せるようにクルっと回って見せた。

「だめーっ! そんなの子供に悪影響過ぎるよ!」
「似合ってませんか……?」

 瞳を潤ませながら、勇太に向かって凛が歩み寄って手を取り尋ねる。
 思わず視線が下へと落ちていく勇太がブンブンと首を振り、真っ赤な顔で凛を見つめた。

「いや、似合ってないって言うか、その、似合ってるけどさ!? こ、子供には悪影響って言うか、大人にもちょっと悪影響っていうか!?」
「……ふふ、こんな服があったので、勇太に見せようと思っただけです」
「へ……?」
「これは勇太の前だけでしか着ませんよ。こんな露出度の高い服、私も恥ずかしいですから……」

 顔を赤くして凛がクルっと振り返る。

「え……、俺の前だけって……」
「なんでもありませんよ。着替えて来ますね」

 ドアを閉められた勇太はしばらくの間顔を真っ赤にしてその場で立ち尽くしていた。


 結局、大幅に露出度の低くなった黒いパンツスーツに何故かウサ耳を頭につけた凛が、勇太と共に準備を終えて舞台裏とも呼べない廊下へと歩み寄る。
 室内からは子供達がジングルベルを歌う声が聴こえ、何処となく懐かしい気持ちになった勇太は、小さく微笑んでいた。

「では皆さん。今日はみんなの為に、マジックをしてくれるお兄ちゃん達が来てくれてまーす! みんな、拍手ー!」

 わーっと歓声が上がる中、勇太と凛が部屋の中へと入って行く。

「今日はみんなの為に、色々な魔法を見せちゃいまーす!」

 わーっと再び上がる歓声。子供達の前で勇太が手を振って答え、凛がステージ上でその横へと立ち、一本の黒塗りのステッキを勇太に手渡した。

「ここに、タネも仕掛けもない普通のステッキがあります。では、これからこのステッキを浮かしてみたいと思います!」

 勇太がクルクルと回していたステッキを自分の目線より少し上に飛ばし、サイコキネシスを使ってステッキを空中で浮かして止めた。

 おぉーっと歓声が上がる中、何人かの子供達がつまらなそうな顔をして口を開く。

「あんなん何か仕掛けてるに決まってるよ!」
「それだけー!?」
「他に何か出来ないのー!?」

(むっ、な、なかなか目が肥えた子供がいる……)

「はーい、今からこのコップの中に、コインが瞬間移動するマジックも――」
「――見飽きたー!」
「そういうのテレビで見たもん!」

 凛の言葉を子供達が遮る。さすがに凛もこの状態は予想していなかったのか、笑顔が引き攣っていく。

「……ならば、今日はみんなにとっておきの“大魔術”を見せちゃおうかな……?」

 勇太がステッキを落とし、子供達に向かって手をコキコキと鳴らしながら怪しい笑みを浮かべる。

「はーっ!」

 勇太が子供達に向かって手を翳すと、子供達の身体が徐々に浮かび上がる。

「うわー!?」
「何これー!」
「すごーい!」

 アハハハと子供達が大はしゃぎする中、凛は思わず勇太を見つめて小さく笑っていた。
 何処かやり過ぎな感も否めないが、勇太が楽しそうにしている笑顔を見て、凛はそれはそれで何処か満足気な顔をしていた。

「ねーねー! これってタネあるのー?」
「タネ教えてー」

 そう来たか、と凛が少し困ったように勇太を見つめると、勇太は少しの間目を閉じ、真剣な表情で考えこみ、やがて目を開けた。

「……マジックです(キリッ)」
「質問の答えになってなーい」
「マジックですから(キリリッ)」

 このやり取りをしばらく続ける、勇太と子供達の押し問答だった。






――
―――





「いやー、終わったねー」
「ふふふ、勇太も楽しそうでしたね」

 すっかり暗くなった夜道を歩きながら、勇太と凛は何処か満足気な顔をして歩いて帰る。

「……俺さ、小さい頃にクリスマスのパーティーってやった事あるんだ」
「……そう、だったんですか」

 凛は知っている。勇太の過去を。
 昔勇太から聞かされた幼少期。それを思い出させる事になってしまう事を考えた武彦が、今回は勇太の同行を凛に任せたのだった。

「クリスマス、とか俺にはあんまり思い出ってないけど、パーティーは楽しかったんだ」
「……今日みたいに、ですか?」
「ま、俺が小さい頃は超能力使ってサプライズしてくれる人なんていなかったけどね」

 勇太が笑顔を浮かべて凛を見つめてそう答えた。

 凛はその笑顔を見て、それが作り物ではないと実感していた。遠い空を見つめながら、懐かしい幼少期に思いを馳せる。
 大人であればそれは普通かもしれないが、凛の隣りを歩いている勇太はそういった優しい思い出は少ないのではないか。

 凛はただ、今日という一日を勇太にも楽しんで欲しい。その為だけに武彦からの話を引き受けた。
 恥ずかしい格好をしてみたのも、その一環だ。

「……今年もホワイトクリスマス、とはいかなそうだね」
「それでも、特別なイヴにはなりそうです」
「ん? って、おわっ!?」

 勇太の冷えた頬に凛がそっと唇を寄せた。

「勇太と一緒にクリスマスを過ごせるなら、それは私にとっては特別ですから」
「……え……ぁー……っと?」
「さぁ、勇太。行きましょ」

 勇太のポケットに入れた手を凛が追うように、勇太のポケットへと手を入れてきゅっと握り締めた。
 恥ずかしそうに顔を背ける勇太だったが、凛もそれを見ようとはせずに何処か俯いている。

「え……っと、凛……――」
「メリークリスマス、勇太」

 不意に勇太の顔を見つめた凛が、寒さのせいか頬を朱色に染めて笑顔で勇太を見上げて声をかける。

「……うん、メリークリスマス」

 ぎこちない勇太の言葉に、凛がクスクスと口に空いた手を当てて笑う。勇太は自分がしていたマフラーを外し、勇太も空いた手で凛の首にかけた。

「……寒いから」
「……はいっ」

 クリスマスのイルミネーションで飾られた街へ、二人はまるで恋人のように寄り添って歩いて行った。





                              FIN