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<東京怪談ノベル(シングル)>


はっちゃけあやこさん〜x没楠、襲来

1.
「ka ra o ke bo tu ku su …っと」
 ネットカフェで瀬名雫(せな・しずく)は友人と飲み物片手にキーボードにローマ字入力する。
 お目当てはカラオケボックス。放課後に低価格で行ける店を検索するためだ。
 慣れてしまえば造作もない。わずか数秒で事足りる作業だ。
 あとは反射的に変換して検索ボタンを押して…てやっ!
「…ん? 『没楠』?」
 検索結果のページにはずらっと出てきた謎の言葉。
「…年没。楠正成??」
 よくよく検索窓を見てみれば、間違えてた。
 どうやら『つ』を小文字にしそこなっていた。
 でもまぁ、おもしろい。こんな誤変換で出てくるものもあるんだ。
「超ウケる〜」
 友人もなぜか面白がっている。雫はもう少しふざけてみることにした。
「獣苦没楠…わ、出た! 麺麭銅没楠…うわ! これも出た!!」
 思いつきで入れたキーワードは次々と検索結果をひっかけて、雫たちの前に提示される。
「なにこれ〜! 面白すぎるんですけど」
 面白すぎてしょうがない。意外なキーワード検索に思わず没頭した。
 すると、突然ネットカフェの扉が勢いよく開いた。

「なんてことしてくれたの!!」

 そこには、血相変えた藤田(ふじた)あやこがつかつかと雫の方ににらみを利かせて迫ってくるところだった。
「な、え? な、何が??」
 雫は、何が何だかわからないといった顔であやこを見つめる。
 なぜそんなに怒られなければならないのか?
 そもそも今来たばかりのあやこに何を怒られなければならないというのか??
「いい事? 〜没楠。総じてX没楠とは妖怪ミミックの凶暴な変種で…」
「み、ミミック? それでなんで私が怒られるの??」

「もーーー!! わかんないの!? あんた、召喚しちゃったのよ! 妖怪たちを…」

 雫たちの顔が見る見るうちに泣きそうになったので、あやこはひとつため息をついた…。


2.
「没…楠…だと?」
 ケケケケケケケ…キキーキーキー…うっそうとした森の中に響くたくさんの動物の鳴き声。
 それに混じって動き出す不気味な影。
 こんなアフリカの奥地に潜む妖怪と電脳箱であるパソコンがどう繋がったのか。
 御託はいい! 目が覚めちゃったんだからしょうがないじゃない!
「呼んでいる…我々を…」
 その口に生えた牙から涎をしたたらせ、箱物妖怪は呼ぶ予定じゃなかった雫のもとへと急ぎ行く。
 その道は…すべての道は雫に続く!!

 ジャーンジャーンジャーン! バンバン♪ ジャーンジャーンジャーン! バンバン♪(以下繰り返し)
 晴海の海が、静かに荒れる。
 聞き覚えのあるマーチに乗って、それは何かの使徒の如く日本へと上陸してくる。
 そう。箱物妖怪たちだ。
 …はぇえ! 箱はえぇ!!
 箱だけに運ばれてきた? …あ、殴らないで!
 桶にマイクを乗せた空桶没楠の群。
 これは恐ろしい、打者が素振りしまくる罰田没楠の群。
 騒音公害、アナログ盤がガナり捲る獣苦没楠。
 一番マズいのは…ヤバい怪物が宝箱から覗く麺麭銅鑼没楠の群。
 そんなものが一斉に日本に上陸し、今とあるネットカフェへと向かっていく。
 そう、雫に向かって。

「きたわね」
「ああああああやこさん! どうしよう!?」
「ぶっちゃけ…」
「ぶっちゃけ?」
「どうにかなるとは思えない」
「そんなぁ…!?」
 雫とその友達涙目。
 でも自業自得なの。しょーがないの。
 すべては試練だわ。私には…どうしようもないの…。

 …ってあやこさん! 物思いにふけってる場合じゃないし!
 どーすんだよ、コレ!
 一女子中学生が責任とれる範囲じゃないでしょ!?
 何とかしてあげてええぇぇぇぇぇ!!


3.
「コーヒーのお替りをもらえるかしら?」
「イェス、マダ〜ム」
 続々と迫りくる箱妖怪の群れの中。
 ただ、いつものように瀟洒なカフェはいつも通りの日常を過ごしている。
 ゆったりとした空間、オシャレな時間。
 しかし、その時は唐突に終わりを告げる。
『砂嵐の恐ろしさを体感せよ〜!!』
 襲いかかる中古照微箱。あぁ、デジタルになったから…って納得してる場合じゃない!
「いい事? この角を斜め45度の構えで…ド突く!!」
 クリーンヒットする美脚タイトミニスカート姿の女店主のエルボー!!
 これは痛…あれ? 砂嵐直った!(ぱちぱち)
「星に代わって何チャラよ☆」
 びしぃっと指を差し上げて決めポーズ☆
「うわぁ〜。桂木さんすごーい!」
 ぱちぱちと思わず拍手したお友達のエルフ奥様…もとい、エルフ雫が美脚を披露するあやこに拍手喝さいを送る。
 しかし、なんで雫さんエルフ耳? そこはふつーにスルーしてして。
 あやこは冴えない顔をしている。
「…旧姓で呼ぶな」
 ぶーっとブーイングすると、雫は少し考えて…
「じゃ、月n…」
「仕置くよ!」
 鬼の角が生えた気がした。
 エルフ雫は沈黙した。ちょっと死の淵を見た気がしたのだ。
「…あのー…没楠に主婦の知恵が通じるんですか?」
 雫は恐る恐る聞く。その間にも続々と没楠たちはこの晴海へと上陸している。
 何とかしなくては!
 でも…これは本当に何とかできるレベルなのだろうか!?
「いーのよ。主婦は強いの。子育てだって、バーゲンだって、特売だって、タイムセールだって…いつだって勝つのは主婦!」
 くわっっ! とあやこは断言した。

 それは黄色い猫さえ青くなってしまうであろう恐怖であった。


4.
 箒にまたがりちらっとでも見えないように最低限の女性のラインを見せつつ、あやこは立ち向かう。
 エルフ雫を従えて、迎え撃つは没楠妖怪軍団!
「キシャアアアアァァァァァ!!!!」
 麺麭銅鑼没楠は牙をむいた!
 ひらりと身をかわしたあやこはすかさず振り向きざまに攻撃を加える。
「あやこチョーップ!!」
 脳天…じゃなくて蓋にもろにヒットしたそれのせいで、麺麭銅鑼没楠の蓋が閉まらなくなった!
「ハグハグァ…」
 麺麭銅鑼没楠、蓋が閉まらないせいで使い物にならなくなりました!
 一方、空桶没楠と対峙するエルフ雫。
 相手はぶんぶんとマイクをヌンチャクのように振り回す。
 攻撃範囲が相手にかなり有利な間合いだ。
 どうする、雫!!
「とりゃああああああ!! 雫手刀ー!!」
 まずは振り回していたマイクに手刀を浴びせる。
 するとマイクはぷちっとジャックから外れてどこへともなく飛んでいく。
「あっ…!?」
 そこへ情け容赦なく雫の第2波状攻撃が襲う。
「チェストォオオオオォ!!!」
「フングワァアァァァァア!!」
 角を思いっきりド突かれた空桶没楠、もはや完膚なきまで破壊された。

 一角が落ちれば後はたやすい。
 あやことエルフ雫のユニゾンで妖怪どもを次々と蹴散らしていく。
「シンクロ率を上げるわよ!」
「了解!」
 …かくて没楠妖怪による日本侵攻は、彼女たちによって食い止められたのであった。

「来週もご奉仕♪ ご奉仕☆」
 あやこはビールの缶をテーブルに並べて、満足そうにそう言った。