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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 侵食される心、世界、すべて ―――

 LOSTが何を考えているのか分からない。
 明確な目的が分からない以上、どんな行動を取ればいいのかも分からない。
(本人‥‥ログイン・キーに聞くのが1番手っ取り早いんだろうけど、難しそうですね)
 松本・太一は小さくため息を吐いて、バッグの中に入れてあるログイン・キーを見る。
(‥‥ログイン・キーが何か教えてくれるのなら、今までのうちに教えてくれているはず)
 今までそんな兆しは見えなかったから、教えてくれるつもりはないという事になる。
(ログイン・キーは何をさせたいのか、雲を掴むような感じだけど途中で投げ出せない)
 色々と調べようにもネットの情報は憶測ばかりで信憑性に欠けるものばかりだった。
(でも、だからと言って何も調べないのは‥‥)
 小さくため息を吐いた時「おい、松本」とLOSTを勧めてきた男性が声を掛けてきた。
「‥‥? 何か用ですか?」
「いや、今度の日曜にでも食事にでも行かないかなぁと思ってさ」
「いえ、私は‥‥」
 断ろうとしたけど、LOSTに関しての噂を知らないかと思い、拒否の言葉を飲み込む。
(LOSTを勧めてきたこの人なら、もしかしたら何か噂とか知っているかもしれない)
 そう思い、松本は「喜んで」と頷いて言葉を返した。

「‥‥‥‥」
約束の日、松本はタクシーに乗って待ち合わせ場所にやって来ていた。
(何でわざわざドレスコードのある店で食事なんてするんだろう‥‥)
松本は小さくため息を吐きながら、ガラスに映った自分の姿を見て、再度ため息を吐く。
 露出は少ないけれど、それなりに女性らしいドレスを選び、松本はやって来ている。
(こんなに堅苦しい店じゃなくて、もっと気軽に入れる店の方が良かったんだけどなぁ)
 松本は気づいていない。
 男性がLOSTを理由に松本をデートに誘ったと言う事に。
「ごめん、ちょっと遅れたかな」
「いえ、時間通りなので大丈夫ですよ」
 約束の時間ピッタリに男性がやって来て、2人は高級そうな店の中へと入って行った。

「そういえば、LOSTは進んでる? 俺はこの前のイベントに参加出来なくてさー」
「私も参加出来なかったんですよ、結構レアなアイテムが手に入ったみたいですね」
 高級レストランでする会話じゃないと分かっていたけど、向こうからLOSTの話題を出してくれて助かり、松本は心の中で『良かった』と呟きながら言葉を返した。
「‥‥ログイン・キーについて、何か知りませんか?」
「ログイン・キー? 俺は持ってないけどレア系のアイテム?」
「‥‥いえ、知らないのなら構いませんけど、ちょっと聞いて見たかっただけなんです」
 何も知らないのか、と肩を落としながら松本は言葉を返す。
「あ、でも俺の知り合いがログイン・キーを持っていたとか言っていたような気がするな」
「ほ、本当ですか? その人に連絡は取れますか? 聞きたい事があるんですけど‥‥!」
 松本が言葉を返した途端、男性の明るかった表情が一気に暗い物へと変わってしまった。
「‥‥? あの、何か悪い事でも聞きましたか?」
「その友達、もう死んでいるんだよ」
「――えっ」
 男性の言葉を聞き、松本は目を丸く見開いて驚きの表情を見せた。
「‥‥そ、そうだったんですか、私――ちょっとお手洗いに行ってきます」
 ログイン・キーを持っていた人が死んだ。
 その事実は分かっていたはずなのに、見知った顔から聞かされると動揺してしまう。

(‥‥ログイン・キーを持つ者は1人、今までだって行方不明になった人だっていた)
(分かっていたはずなのに、何でこんなにも私は動揺しているんだろう)
 松本は胸の辺りを押さえながら、どくどくと早鐘を打つ心臓を落ち着かせようと必死だった。
「‥‥うふふ、無駄な事を‥‥」
「えっ!」
 まるで鈴が鳴るような可愛らしい声が頭の中に響いてくる。
「どんな意図を持って聞きまわろうとしたのか知らないけど、無駄な事はやめなさいよ」
 声の主が誰なのか、考えるまでもない。
 松本はバッグの中に入れていたログイン・キーを慌てて取り出す。
「‥‥光ってる‥‥」
 普段は輝いていないログイン・キーは声に合わせるように淡い輝きを見せている。
「あまり私の機嫌を損ねる事はしない方がいいと思うわ、貴方――死ぬわよ?」
「何のために私を選んだんですか、何のために何も情報を与えて来ないんですか‥‥?」
「さぁ、それは貴方がこれから知っていく事よ、今は言えないわ」
「何かを知るためには、貴方が自分で調べていくしかない、私からは何も言わないわ」
 後からの言葉は、まるで脅すかのようにゾッとするほど冷たい言葉だった。
「私をどうするつもりですか‥‥?」
「さぁ? ただ、私の見込み違いだったら、今までのように次を探すだけよ」
 声だけだからどんな表情をしているのか分からない。
 だけど、とても楽しそうな表情をしているんじゃないだろうかと思う。
「‥‥っ」
「精々、私の期待を裏切らないようにしてちょうだいね――死にたくないのなら」
 それだけ呟くと、ログイン・キーの輝きも収まり、頭に声も響かなくなった。
(どんな事情があるのか分からない、だけど私は利用されている、これだけは分かる)
 恐怖に震える手を見つめながら、松本は堪えるようにグッと唇を噛み締めていた。


―― 登場人物 ――

8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女

――――――――――
松本・太一様>

こんにちは、いつもご発注ありがとうございます!
今回の話はいかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていれば幸いです。

それでは、今回も書かせて頂き、ありがとうございました!

2012/12/14