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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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忘却の手鏡
------<オープニング>--------------------------------------
「おや、こいつは…―」
不思議な品の中で、一つの鏡が光を放っていた。派手な装飾によって縁を飾られた由緒ある手鏡として蓮の元へと辿り着いた物。
「…“忘却の手鏡”。所有者の過去を視る事が出来る神秘の鏡…。この子も役目を終えようとしている」蓮は縁を撫でながらそう呟いた。「最期の過去は、誰を映し出そうとしているんだろうね…」
ここ、アンティークショップ・レンへと廻り着く物はこうした不思議な現象を生み出す物は珍しくない。
「この子に残された時間は少ないみたいだね…」蓮はそう呟きながらある人物の顔を思い出していた。
蓮の思い付きは大胆な物だった。先日、偶然店を訪れた一人の来客者。特に何を手にする訳でもなく帰ったが、蓮にとっては印象の強い客だった。容姿などが特殊な訳ではないが、頭に浮かんだ人物。蓮はクスっと笑い、“忘却の手鏡”を手に取った。
「“思い付き”というのもまた、一つの廻り合わせ…」
蓮はそう呟き、手鏡をある場所へと送った。いつもの“ツテ”を使い、何処とも誰とも知らぬ、ただ偶然に訪れた“ある人物”へと…――。
蓮から添えられたメッセージカードはたった一言。
『gift to you』
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星の海――そう呼ぶのが正しいのだろう。
点在している小さく白い光が広がる漆黒の闇。酸素も重力もないその場所に佇む一隻の宇宙戦艦。数多くの人間を恐怖に追いやったとされるそれに対し、統一された白い戦艦。そしてそれらと同一の形、色をした艦隊が包囲していた。
四面楚歌。既に退路も逃げ道もない状態だ。集中砲火でもされれば、ひとたまりもないだろう、と包囲され、囲まれている側の彼らは思う。
そんな彼らの戦艦の操縦室。何人もの操縦員達がうろたえつつもこの状況を受け止めていた。
「……お、終わりだ……」
そんな言葉が呟かれたのは必然だろう。誰もが口にしなかった、自分達の終焉を確信へと変える言葉。誰もその事に気付いていなかった訳ではない。ただ心の中に押し留めていた現実が、口を突いて出るか否か。それ以上でもそれ以下でもない。
彼らは決して何処かの軍に所属している訳でもなければ、敵国に攻め込んだりした訳でもない。金銀財宝を求めては星の海を股に掛け、荒らしては奪い、殺しては蔑み、酒を飲んでは笑う。そういう連中だ。
そう、彼らは宇宙を股にかける悪名高い宇宙海賊。そんな彼らは今、死地へと追いやられている。
一方、そんな彼らを囲む軍勢を率いた中年の男性。操縦室から見つめるモニター越しの映像に、小さく鼻を鳴らした。
「フン、年貢の納めどきだな」
艦隊を支配する男性は汚らわしい物を見るかのような、侮蔑に満ちた視線を向けていた。
「投降の意思表示がないなら、駆逐してしまえ。どうせ生きていたとて、一生牢から出られぬ連中だ。情けなど不要だ」
「しかし、司令官殿。どうやら投降には素直に応じるようです」
「我が身可愛さに命乞いか。奴らにそんな温情を与える必要などないというのにな」
倫理的な措置。例え囲まれた彼らが人間であろうと、その非道な行いには目も当てられない。当てる必要はないのだ、と司令官は心の中で苦々しく呟いた。彼らは『犯罪者』であり、その行いは万死に値するのだ。司令官という立場に至った男は、その強い正義感を買われてはいるものの、少々行き過ぎた部分を持っている。
「館長、どうやら奴らは艦内の女子供を先に解放するようです。通信が入りました」
「フン、底辺な連中にしてはまともな反応だ。女子供を人質にするには駒として弱いと見たか、或いは法廷上での便宜を取り計らってもらう為、か」
司令官の男は、決してその賊の行動を良しとしていない。侮蔑の視線は既に嘲笑すら混じえたものに変わりつつあった。
「受け入れ態勢を――」
「――撃沈しろ」
「……は?」
進言しようと声をかけた所へと司令官の言葉。思わず、進言をしようとした比較的若い男性は素っ頓狂な声を漏らした。そんな若い乗組員の顔すら見ずに、司令官の男は再び口を開いた。
「撃沈しろ。奴らに与えられたのは温情を稼ぐタイミングではなく、自ら全てを投降するのみ。その上、あんな小さなシップだが、爆弾でも積まれている可能性もある」
「しかし――!」
「――命令が聞こえなかったのか、少尉殿。今すぐ、沈めるのだ」
「……はっ」
若い少尉と呼ばれた男は司令官の指示に従い、すぐに砲撃準備を整えた。「撃て!」との合図と同時に、斜め上に位置取りしていた一隻の船から砲撃が開始され、小さな脱出用シップは激しい爆発に飲まれた。
「――予定通りだな、この爆発に乗じてワープカタパルトを準備しろ! 但し座標軸は敵背後の未開惑星に固定。アレの遺伝子と鏡を射出しろ!」
「お、お頭! 何を言って――!」
「おい、誰かお頭を止めろ! 狂ってる――!」
「――俺は正気だ! 見てろ。あの星の奇跡的な発展を遂げた島国。東洋の魔女と称する女性陣がコスプレと呼ばれる文化の端緒に成る筈だ。その大胆さと可塑性を栄養にしてアレは育つ。アレは鏡を梃子にして必ず此処へ戻る」
―――。
――悲痛な罵倒。
その声や言葉とは裏腹に、多大な被害を受けている事は巻き上がる砂塵を見れば誰にも分かる、というものである。
もはや『制服』という事は着ていた姿を知った人間にしか、おおよそ見当はつかないだろう。襤褸と言っても過言ではない、その敗れ去った布を纏い、暴れる玲奈の姿があった。
「……自己保身。ただそれだけの為に私を生んだの……?」
その言葉と感情は複雑だった。憤りに任せた暴挙なのか、自傷行為にも似た自暴自棄なのか。
手に持った鏡から映し出された酔狂な遠い『記憶』。そして、その向こうに見つけた、真実の断片。到底玲奈自身に受け止める事は出来なかった。
「娘よ、鏡の写像は得てして全てが真実だという訳ではないのだ」鏡の向こうに映る、玲奈も知らない男。「映る景色と同じだ。持主の傾け方次第で、その映し出す世界も景色も変わる」
――そんなものは詭弁だ……!
心の中で未だ荒ぶる感情。他人の言葉も、綺麗事も。聞いているだけで苛立たしいとすら感じる玲奈。
しかし、その怒りのボルテージは荒々しい息を整えると同時に冷え込んでいく。
クリアになった頭の中で、再び鏡から発せられた言葉を心の中で反復する。
「……そっか……。解った……」
「ありがとう、パパ……」
不意に玲奈が小さな手鏡を抱いて呟いた。先程までの涙を流しながら怒り狂う烈火の如き泣き顔とは、全く違った。
何処か穏やかな表情をしながら、彼女は温かい涙を頬に伝わせながら、ギュっと細い手で手鏡を抱きしめた。
FIN
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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。
まさかの宇宙海賊スタートとは思わず、
どう繋がっているのかと思って考えてしまいましたw
お楽しみ頂ければ幸いです。
今年も残す所、あと僅かとなりました。
年末ならではのご挨拶にて。
よいお年を。
また来年も宜しくお願いいたします。
白神 怜司
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