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+ 今宵、どんな夢を見る?・2 +
可愛い可愛い女の子とクリスマスにデート。
それは本当に彼女いない歴○年の俺にとっては願ってもいない事だけど――そんな『彼女』が普段は十二歳ほどの少年だって誰が信じてくれるでしょうか。
ああ、俺の頭がぐるぐると混乱して回る。
黒のツインテールにカジュアル系コートにミニスカと茶ブーツ。寒空の下で太ももの『絶対領域』を晒す彼女の隣で歩きながら、俺はなんとか街の地図を脳内に広げた。
「じゃ、じゃあ、あそこの店に行ってみよう!」
「入った事は?」
「ないけど」
「じゃあ、冒険」
「き、気に入らない?」
「いんや。お前がどういう趣味なのか気になっただけ」
「うぐ……流石にレディースファッション系の店に入ってたら俺の精神がおかしいと思う」
「まーなー」
口調も態度もいつも通りの『彼』なのに、今のカガミはどこからどう見ても可愛い女の子。
俺と同年代ほどに引き上げられた外見年齢は愛らしく、生意気な口をきいていてもどこか愛嬌さえ感じられてしまうほどだ。有り難い事にそんな『彼女』と歩いているのは俺で、先程から歩く度に人々が振り返るので内心どきどきしてしまう。
しかもその視線の持ち主達の思考と来たらこれまた酷いもの。
例えば女性から聞こえる「あのコ可愛い」は許せる。
でも男性陣から聞こえる「あんな可愛い子になんであんな奴が!」という明らかなる嫉妬の思念は聞こえてきた瞬間思わずむっとしてしまう。だからついつい、強気な態度で俺は腕を伸ばし。
「勇太?」
「ほら、早く店に入るぞ!」
これ見よがしにカガミの肩を抱き、自分の方へと寄せる。
あー、ほっそい。どうしよう、マジ細いです。普段の少年姿は細いというより幼い。青年の時はむしろ俺の方が抱かれているのに……まさかカガミの事をこんな風に感じてしまうだなんて思わなかった。
多分カガミは周囲の視線や思念も感じ取っているんだろうと思う。だって俺よりも感受性が高いはずなんだから聞こえていないはずがない。でもカガミは堂々としていて、特に気にした様子もなくて、ただ普通の女の子みたいに俺を見て少し笑っていて……。
「別に気にする事じゃないだろうに」
「気にするってーの!」
そう言ってカガミは俺の手へと己の手をするりと伸ばし、絡め繋がったのは指先で。
俺がどれだけ相手にドキドキしているのかも伝わっているだろうし、周囲の人間がどんな目で見ているのかも知っているんだろうけれど、――あえてそれを無視して尚戯れてくる相手に俺は一体どんな方法でエスコートしようか。
……雑念を振り払い、今はただそれだけを考える事にした。
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「勇太まーだー?」
「まだ!」
「良いけどな、別に」
アレから何軒かの店を回りつつ、お互いに気になったものを購入したり食べ歩きをしたりとそれはもう至って普通のデートを楽しんだ。
そして今はとあるアクセサリーショップへと辿り着き――そこから既にうんうんと一時間程唸りながら俺は迷っているわけです。
店の端にある一人掛け用の椅子に座り、揃えた膝の上に肘を乗せて両手で頬杖を付くカガミがこれまた可愛い。相手を待たせるのは良くないと思ってはいるのだけれど、入った店先に陳列されている商品がちょっと好みで目を引き、財布と相談しつつ商品をピックアップしていく。
店員にオススメを訊きながら選び、やっと数個に候補を減らしたけれどそこから先が中々難しい。本当は本人に試着してもらう方が良いんだろうけど、びっくりさせたい気持ちがあるからそれは出来ない。
椅子に座ったカガミに時折男性店員が声を掛けるけれど、それに対してつい鋭い眼光を向けてしまう。店員に邪念があるわけじゃないけれど今は俺の『彼女』なわけだし、これくらいは……まあ、うん、許してもらおう。
「お待たせ」
「うん、すっげー待ったけど無事買えてなにより」
「ホントーに待たせてごめんってば!!」
「別に怒ってないって。で、何買った?」
「――秘密」
やっとの思いで購入物を選ぶとそれが包装された小さな袋を手に俺はカガミの方へと戻る。
本当に知らずにいるのか、それとも知っていて知らないふりをしてくれているのかは分からない。割となんでも知っているカガミだからとっくの昔に俺が何を選んで、何に迷っていて、何を買ったのかなんてお見通しなのかもしれないけれどそれでもいいと思う。
店外へと出て街中に戻ればすっかり暗い。
時間だけを見ればまだ夜手前というところではあるが、冬という季節柄日が落ちるのが本当に早くなったとつくづく思う。街を飾る様々なイルミネーションが艶やかに輝き始め、辺りを彩る。俺は相変わらず腕に抱きついてくるカガミと一緒にツリーの見える場所へとさり気なく誘導し……多分、多分さり気なくだから! けっして緊張のあまりぎこちなく歩いてなんかないからな!
「カ、カガミ。あのさ、これ」
「んー?」
「これ、受け取って欲しいんだけど」
「これさっきお前が選んでたやつじゃないか」
ぱちぱちと、それはもう可愛い音を立てそうな動きで瞬きが数回繰り返される。
俺が差し出した手乗りサイズの紙袋をカガミは両手でそっと受け取ってくれたので内心安堵の息を吐き出した。そしてそれを開封するよう視線で促すとカガミは素直に袋を開く。
その中から出てきたのは細い鎖で出来たシルバーウォッチ。男女兼用デザインのもので、サイズも多めに切り替えが出来る。カガミはそれを手の平の上に乗せると俺の方へと視線を向けた。黒と蒼のヘテロクロミアが俺を映し出し、不思議そうな表情を浮かべている。
「カガミには時計なんて必要ないかもだけど……でも、それでも……俺と同じ時に居てくれたらいいなって思ってさ……」
「さっき選んでたのこれか。何か真剣な念を感じたからあえて感じ取らないようにしてたんだけど」
「付けてみてくれるか?」
「ん」
どうやら気を使っていてくれたらしく、カガミは本気で今俺が買った物がなんなのか知ったらしく嬉しそうに目を細めた。言われるがままに手首に袋の紐を通してぶら下げた後、その女性らしい手首へと贈ったばかりの時計が嵌められる。シャラリ……と金属特有の音が聞こえ、収まったそれを俺はじっくりと観察した。
「似合うか?」
「うん」
「そっか。アリガトな」
「……似合うよ、カガミ」
俺は嬉しそうに微笑むカガミを見つめながら今までの相手との出来事を振り返る。
最初は変な少年だと思っていたけれど、口が悪いように見えて実は的を得ていたりして、そこからやっぱり相手は俺の知らない長い時間を過ごしてきた「案内人」だと感じる出来事が多々あった。更にカガミが青年の姿になれる事を知り、出会いから今までの時間の半数はその姿で一緒に過ごしてきた事を思い出す。
母親の記憶を失った時も二十歳ほどの青年の姿のままで九州まで付いていてくれたし、夢の世界での逢瀬も今はもう慣れたものだし……。
「勇太、有難う。大事にする」
「……カガミ」
良い雰囲気だと思う。
本当に、本当にとーっても良い雰囲気だと思うんだ。
でも何故だろう、この違和感は。
俺が過ごしてきたのは確かに目の前にいるカガミである事は間違いない。
でも可愛い女の子ではなかったし、むしろガンガン攻撃するタイプの少年もしくは青年だった。共に過ごしてきた時間の中、これほどまで甘いムードが漂った事はあるだろうか。……あ、あったかもしれないけど、どちらかと言うと俺の方が受身でリードされる事が多かったから正にこれは反転状態。
可愛い女の子とデート出来たのは嬉しい。でも、でも……!!
「ああ!! 俺のアイデンティティーが崩壊する!」
「勇太!?」
「無理! 確かに可愛いコを希望したけど! カガミはカガミのままがいい!」
「――あー……そんな涙目にならなくても良いじゃん」
「むーりー! くっそー! いつものカガミに戻ってくれぇぇええー!!!」
全力で叫びだした俺に周囲の人たちの視線が集まる。
それはもう涙がだばだば流れるし、心の中の何かが壊れるような音が聞こえ始めて、何から何までもう限界! 俺は確かにカガミが好きだけど、女の子であって欲しいなんて思っていなかったから余計に無理!
「可愛い男の子とかどうよ」
「それ色んな意味でアウトだろ!?」
「えー、じゃあ格好良い青年?」
「……うー」
「はいはい、あっちの姿が良いわけだ」
カバンの中から手早くハンカチなんかを出してきて俺の頬に当ててくれる可愛いカガミの気遣いが心に刺さって痛い。
別に今の姿が絶対に駄目って言うわけじゃない。この姿もカガミの一部だと言うのならば好きになれると思う。でも俺が好きになったのはあくまで青年カガミの姿だったから――。
「じゃあ、あっちのホテルで青年姿になって過ごそうか?」
「さり気なく問題発言に聞こえるんだけど!?」
「別にラブホテルに行くわけじゃあるまいし」
「発言がアウトー!!」
「ふーん、ホテルが嫌ならお前の部屋にでも行くぞー」
ここで変化するわけにはいかないしな、と一言付け加えられながら俺はカガミに手を引かれる。
その腕には俺が選んだばかりの時計がイルミネーションの光を吸って輝くばかり。
歩く街並みは確かにクリスマス仕様でいつもより変わって見えるけれど、それとはまた違う特別な人が此処には居る。
歩いている最中やっぱりカガミを見て振り返る人々の姿は耐えない。
だけど俺が好きな人は――。
「勇太ー、ほら泣き止めって」
「うー……」
繋いだ先には細い手の持ち主。
少女が青年に変わって俺を抱く時こそ、心から安堵の息を吐けるのだと自分はもう知っている。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男 / 17歳 / 超能力高校生】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、続編の発注有難う御座いました!
青年の方がやっぱり良いというオチでしたので、どうやってフォローしようかと思いましたが周囲の目とか考えると変化出来ない……と考え、青年姿に戻った時の事は妄想にお任せ致します。
抱擁に走る事は間違いないので!
ではでは!
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