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第8夜 祭りの一幕
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午前10時15分。
多目的ホール2階は落ち着いたクラシック音楽が流れている。ホールには大きな絵画が掛けられ、要所要所に彫像が置かれている。人は多いが混んで何も見えないと言う程でもなく、落ち着いて鑑賞する事ができた。全て美術科の生徒達の手に寄るものだが、誰も何も言わなければ、高等部の生徒が作ったものとは思わないだろう。
これを作った人間の腕が後3年このまま伸びれば、いい値がつきますね……。
石神アリスは展示物一つ一つを見ながら、うっそうと笑みを浮かべる。それは傍から見ると天使に見え、彼女の本質を知っている人間から見れば悪魔にも見えた。
と、戸惑いがちながらも展示を鑑賞するにはいささか大き過ぎる足音が響き、アリスは目を半眼にしてそちらを見た。
「絵画鑑賞は静かに」
「あー、すみません」
いつもの調子でやってきたのは、小山連太である。アリスは金色の目でじろっと睨むと、手招きをする。
「ここだと邪魔になるから、外に出ましょう?」
「あー、そうですね。すみません」
今日は聖祭なのだから、どこに出向いても人が多い事には変わりないが、それでも努力するべきだろう。
アリスは足取り軽やかに連太を連れて、美術科の展示から少し離れたベンチへと向かった。
まだ朝と言うのもあってか、幸いまだベンチは埋まっていなかった。
「それで、話って何でしょう?」
連太が座るのを確認してから、アリスも隣に腰を落ち着ける。
アリスはにこっと笑いながら答える。
「バレエ科の話が聞きたいの。この前の怪盗騒動、変だなって思ったから」
「怪盗騒動って……副会長が怪盗を捕まえようとした、あれですよね?」
「ええ」
アリスはもったいぶったような口調で微笑む。
その方が連太が情報を出し惜しみしなくなるのは分かっていたから。
「あの時、オディールをロットバルトが助けに来たのよね……おかしいと思わない?」
「ああ……」
「ねえ、あの時守宮先輩と海棠先輩、どうしてたのかしら?」
「……随分突拍子がないですね」
「ええ……ちょっと気になったものだから」
単純に考えれば、オディールを助けに来たロットバルト……彼は海棠秋也なのではないかと言う想像がある。
連太は少しだけ眉間に皺を寄せると、いつもの分厚い手帳をペラペラとめくる。
「……海棠先輩はあの日、自分の……新聞部の知人に会いに行っていたと聞いています。その知人も泊まりに行っていたと」
「そうなの……守宮先輩は?」
「……その日理事長と話をしに行ったと言っていますね。それから2週間程休学していましたが、復帰して今日の舞台にも出演が決まっています」
「え……休学?」
それは初めて聞いたとアリスは驚く。
「理由って分からないの?」
「分かりませんね……最近思い悩んでいたと言う話は耳に挟んでいますが、具体的な話は耳にしていません」
「そう……ありがとう。ねえ、小山君」
「はい?」
「いつもあなたに頼ってばかりだけれど、あなたはどう思って付き合ってくれているのかしら?」
言っては悪いが、アリスは連太の扱いがいいとはお世辞にも言えない。だが彼ははいはいと付き合ってくれているのは何故だろうと、今更に疑問に思った。
「ああ……」
連太はシニカルに笑った。
先程から珍しい表情ばかり見せる。眉間に皺を寄せてみたり、皮肉めいた笑みを浮かべたり。
「それは、お互い様だと思っただけですよ。自分も石神さんに頼ってばかりだと」
「……」
何故かアリスは腹が立った。
まるで鏡を見て寝癖を発見したような、そんな小さな苛立ちだった。
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午後3時20分。
「白鳥の湖」の時、特にめぼしいと思える人間はいなかった。
強いて言うなら、今日のオデットの踊りが最悪だったと言う事。噂では今回踊るはずだった生徒が怪我したために代役を立てたらしいが、それにしたって下手過ぎる。
でも……オディールのマイムだけは目を見張るものがあった。でもあれが自分を魅了したオディールではないだろうとだけは思った。
今は「眠れる森の美女」の始まるのを待って、それらしい人間を探しているが、これだけの人通りだったらそうやすやすは見つかってくれそうもなかった。
ただ。
「……あの下手くそなオデット、先輩のバレエを見に行かないのかしら?」
オデット役の少女は白い衣装にカーディガンだけ羽織って、友達に平謝りしながら走っていくのが見えた。
あ。こけた。
「眠れる森の美女」を見に行かない……いや、いけない?
アリスは怪訝な顔で、聖祭のパンフレットを見た。
バレエ科と音楽科の声楽専攻の演目がだだ被りで損だと言う話はあちこちで聞いた。
ちょうど、「椿姫」を行うのだ。
わざわざそれを見に行ったのかしら? どうして?
アリスは怪訝な顔で、オデット役のまぬけな少女を見ていた。
<第8夜・了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【7348/石神アリス/女/15歳/学生(裏社会の商人)】
【NPC/小山連太/男/13歳/聖学園新聞部員】
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■ ライター通信 ■
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石神アリス様へ。
こんばんは、ライターの石田空です。
「黒鳥〜オディール〜」第8夜に参加して下さり、ありがとうございます。
実は一つの引っかけに見事引っかかってしまっているのが残念でした(それは第9夜に発覚するかと思われます)。
第9夜も現在公開中です。よろしければ次のシナリオの参加もお待ちしております。
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