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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>



あなたへの導き

「今晩は……初めまして」
 店内にやってきたのは、ブルカで顔をすっぽり覆う女性だった。
 しかも、コートで体もすっぽり覆っているため……丁度、シーツを頭から被る、仮装の幽霊役のようにも見えた。
「いらっしゃいませ。お客様、コートと被り物をお預かりいたしましょうか?」
 絢斗が手を前に出して受け取ろうとするが、客人は猛烈に首を横に振って拒否をする。
「ごめんなさい……屋内なのに非礼かと思いますが、このコートとブルカは脱ぐわけには参りませんので……」
 申し訳ないと謝罪しながら、女性はぎゅっと強くコートを握る。
 余程肌を晒すのが嫌なのだろうか。
「そうですか……では着用されたままで構いませんよ。
お席はどうしますか? カウンターでも、テーブルでも。この通り空いておりますので、どうぞお好きな所に」
 絢斗は席を女性に促した。どうしようか逡巡した様子を見せた後に、とことことテーブル席のほうへ向かう女性。
 テーブルに置かれた小さなキャンドルは、明るい光を灯して、新たな客人を迎えている。
 銀のトレーにメニューを載せて向かうと、女性は俯き加減で『タロット占いをして頂きたく参りました』と答えた。

 女性の名前は三島・玲奈(7134)というそうだ。
 メニューを置くと、お酒は必要ないと断られた。聞けば未成年ということなので、ソフトドリンクのメニューだけを置いておく。
 とりあえず、ウーロン茶をという事なので注文を受けた後、カウンタースツールに腰かけている寧々に『ご指名ですよ』と告げた。
「……占いということなら、うちのオーナーの仕事だね」
 あら、と驚いた寧々は口元に手を当てる。
「ここにいらっしゃる皆さんは、本当に占いが好きね」
 くすくす笑って、オーナーの寧々は立ち上がるとゆっくり玲奈の横の席へと移動する。
 許可をもらい、隣に座ると優しい微笑みを浮かべて『何を占いましょうか?』と訊ねた。

「あのっ……私の将来についてです!
八方塞がりの闇に希望を見出したく、色々な伝手を辿って縋る思いでこのお店に参りました」
 お願いします、と必死に懇願する玲奈。寧々はそんな玲奈の肩に手を置くと、ありがとうございますと頭を下げた。
「信頼に値する腕かどうかを聞き及んだのかは存じませんけれど、そうまでしてここに足をお運びいただけたのですね……
わかりました……貴女の話せるところで結構です。少々、話をお聞かせくださいますか?」
 寧々の言葉に、玲奈はこくりと頷いてから――ゆっくり語り始めた。

「私、以前は普通の女子高生でした。
色々あって戦う道を選び……何の因果なのか、生き別れた母と戦う形での再会を果たしました」
 その時のことを思い起こしたのだろう。一瞬で悲壮な雰囲気になると、涙交じりの嗚咽が響く。
「それで……グスっ……母は……その時までに沢山の人を殺しました……。
これ以上の殺戮を止めさせるために、私は自分の親を……断腸の思いで倒しました」
 テーブルに置かれたキャンドルの灯がゆらめいて、3人の影を左右に大きく揺らがせる。
 影が大きく揺らぐさまは、まるで玲奈の心境のようだった。

「でも、無事ではすみませんでした……私も彼女の呪詛を受けて、この様な姿になったのです」
 そうして、玲奈はブルカを取り去って素顔を寧々へと見せる。
 鮫の鰓に尖った耳。そして、人のそれではないつるつるの肌。
 少しの間を持ってから、ブルカを再び着用した玲奈は、がっくりと肩を落とす。
 そのまま自分の胸の上に手を置いて、切なそうに呟いた。
「この姿も……親殺しの報い。
……私の母は、私を妊娠中に不治の病を患ったそうです。
虚無の境界に治療して貰う見返りに、私を普通の人間として里子に出したとか」

『虚無の世界』とは……人類の滅亡を願う狂信的な一面を持っている、早い話がテロ組織である。
 病を治そうと努力し、いろいろと訊ね歩き……最後に残ったのが、そこなのだろう。
 弱った心に温かい手と希望を差し伸べられれば、心酔してしまいたくなるのも頷ける。
「……信じる者は救われるとは言うけれど、君の母親は救われたのかな」
 ちゃっかり話を聞いていた絢斗は腕組みして、玲奈へと問うが――玲奈自身も『わかりません』とかぶりを振った。
「……救われたのであってほしい。そう思いたいです。
そして、ごめんなさい。話の続きです。
私自身のことですが……私の心は、とても揺れ動いています。
復讐だったわけでは……なかったけれど。母を倒した今、人間に戻りたい。
でも、このまま世の為に正義を成すのも悪くないかなぁとも、思っているんです」
 なんだか変ですよねと小さく笑った玲奈を見て、寧々はカードを取り出す。

「では、玲奈さん。人間に戻るほうがいいのか、戦い続けるか、を占ってほしいということなのかしら……?」
 しかし、玲奈はいいえと否定した後で、『私の今後なんです』と語った。
「私はこんなふうに……特殊な身体となってしまっています。
お友達と呼べるような間柄の人も……過去にはいました。
だけど、生身のお友達は皆逃げたの」
 この外見が、力が恐ろしかったのだろう。その感情を糾弾することなどできないし、
 もし自分が相手の立場であれば……逃げなかったかどうかもわからない。
 しかし、玲奈は……友人たちが次々に『自分から離れる』という行為を受けるうちに正体を明かすことも、できなくなった。
「見た感じ、普通の人とそんなに変わらないけど? 耳とがったりしてるくらいで」
「いつもは、ヒトの雌に化ける薬を肌に塗り、人間の皮と鬘を被ってるんです。
そうしないと、みんな私を避けるから……」
 しょんぼりしてしまう玲奈に、よけいなことを言ったと気づいた絢斗。
 がりがりと頭をかいてから、居心地悪そうに視線を逸らす。

「だから、生身のお友達は……悲しいけど、もう作るのはやめたの。
でも……お友達は欲しいです。そこで、占ってほしいんです。
私に人外のお友達とか、この先出来ますか?」

 期待と不安が混じった眼。
 それをまっすぐ見つめた寧々は、ふわりと微笑んでカードを置いた。
「それは、占いことではないわね……」
「えっ……」
 玲奈は悲壮に満ちた顔つきで寧々を見るが、決して相手を貶めようとしているわけではない。
「友人ができるかどうかは、相手からの働きかけだけでは無理なんだもの。
お互いの心の疎通が取れないといけないわ」
 だめなのか、と諦めたような顔をする玲奈。おそらく、過去の経験が自分の足かせとなってしまったのだろう。

 だけど――と、寧々はタロットカードを一枚手に取り、そっと玲奈の前に置いた。

「魔術師の正位置。 始まりのカードよ。
あなたには無限の可能性があり、それはあなただけではなく――誰かにも、きっと作用することが出来る。
だから、自信を持って進んで行ってね」

 玲奈はそのカードをじっと眺めていたが……また感極まってしまったのか、こくりと頷いて手に取ると、しっかりと握った。
「そのカードは差し上げます。あなたにとっての、道しるべとなりますように」

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【7134 / 三島・玲奈 / 女性 / 年齢16歳 / 猟奇!悶絶!暴力二女】