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<東京怪談ノベル(シングル)>


はっちゃけあやこさん〜ムーン【らぶ】ソディ
 薄暗いバーのカウンター。そこには黒と紫のオッドアイが美しい女性がひとりグラスを弄んでいた。その美女こそ今回の物語の主役、藤田あやこである。
「ねぇ〜そこのお・ね・え・さ・ん。私と遊ばな〜い」
 そこに一人の女が近寄り、腕を絡めあやこの耳元で囁く。
「私はいいわ。ほかを探して。マスター帰る」
 絡められた腕をするっと抜けると、やんわりと断り、会計を済ませると優雅な立ち振る舞いで店の外へと出た。
「ちょっと〜冷たいじゃな〜い」
 店を出たことで、店内の別の人間を探すかと思われたが女はしつこくあやこにつきまとってきた。
「ふぅ」
 これ以上はごめん。とばかりに、あやこは女を無視して車に乗り込むと、車を走らせ始めた。
 海岸線を走る車。もちろん辺りには車はいない。
「撒いたかな」
 そう安堵のため息を付いた瞬間だった。いきなり横から大きな波が襲ってきたのだ。車はあっという間に波に飲み込まれ、宙を舞い、奈落の底へ……行くはずだった。しかし、目を開いたとき目の前にあったのは先ほどの女の大きな瞳だった。
「うふっ♪もう離さない」
「貴女、黄昏の向う側の存在でしょ?」
「そういうあやこちゃんも」
「うっさいわね!不可抗力でエルフやってんの。で要件は?」

「はぁ?」
「だ・か・ら〜、男紹介して〜」
 頭が痛くなってきた。だいたいこの女はなんで私にそんなことをこの女は言ってくるんだろう。そこからもう意味がわからない。しかし、ここまで追いかけてきている以上、この女は多分男を紹介しないと私の前から姿を消さないだろう。自分が相手をする羽目になる可能性だってある。既婚者として、女としてそれは絶対に避けなくてはならない事態だった。
「適当に摘みな」
 と分厚いアドレス帳を示す。
 遊びすぎだろうあやこさん!とつっこみたいところだが、まあ今回は役に立つはずなので黙っておこう。
 しかし、女はアドレス帳をざっと見て言い放った。
「全部イマイチ」
「鏡を見なよ。月下美人」
 使われることのなかったアドレス帳をしまいながら、もう呆れて何も言いたくないあやこ。
「もう面倒〜。貴方でいいわ」
「ちょっと!んっ……」
 そういうと女はいきなりあやこの唇を奪った。

「全く……サッキュバスなら先に言ってよね。普通の人間なら死んでたよ」
 キスの時間はどれくらいだっただろうか。一瞬だったのかもしれないが、精力を吸われていたあやこにはすごく長く感じられた。ぐったりと憔悴するあやこ。それに引き換え女はまだまだ物足りなそうである。どれだけ精力が足りないというのか。
「ねぇ、誰かいない?貴方でもいいんだ・け・ど♪」
 偏頭痛がひどくなってきた。仕方がない。あいつに犠牲になってもらうか。あやこは女に少し離れるように言うと、小さな声で呪文を唱え始めた。
「人と獣の申し子よ月の光に導かれ友の招きに応じ願わん」
 月の光の下、あやこは目の前に指で魔法陣を描き呪文を唱えるとその軌跡が青白く光り、一人の男性が現れた。しかし頭には狼の耳、ふさふさとした狼のしっぽもある。いわゆる狼男と呼ばれる黄昏の向こう側の存在のようだ。
「およびっすか?」
「この子の相手をしてあげて」
 そう言ってあやこは女の方に顎をしゃくった。
「うぃっす」
 そして女にあやこは言った。
「この子なら満月の度に復活するよ」
「わぁい♪」
「お幸せに」
 うんざり感と意味のわからない嫉妬感に駆られながらあやこは二人を厄介払いした。
「アホらしい。帰ろ」

そして次の日。朝早く、綾子の寝室にノックの音が響いた。
「なによ。寝てるのに」
 寝ぼけ眼で扉を開けるとそこには昨日の女とミイラ化した狼男がいた。
「この子じゃ足りな〜い。ねえ、新しい子紹介してよ〜早く〜」
 あやこは偏頭痛を覚え、頭を抱えた。


FIN