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<東京怪談ノベル(シングル)>


〜新しい舞台へ〜

 白鳥瑞科(しらとり・みずか)は、朝日が斜めに入って来る自室で、着替えを済ませ、鏡の前で髪を梳いていた。
 彼女の髪は常日頃からまっすぐで、まったくもつれていない。
 それでもなお、これは日課のようなもので、彼女は戦闘に駆り出されていないときは毎朝こうして鏡に向かっていた。
 その後、真っ白い清楚な部屋着から、自分専用の戦闘服へと着替える。
 彼女は午前中、訓練室でひとりで鍛錬すると決めていた。
 彼女にとっては、それは当然のことであり、誰かから特に指示されたことではない。
 いつ何時、任務が降って来るかわからないが、それがいかなるときであっても、常に体調を整え、万全の態勢が取れるようにしておきたいだけだった。
 鏡の前に立ったまま、椅子にかけた戦闘服をひとつひとつ手に取る。
 絹でできたしなやかな下着の上に、豊満な胸を強調するコルセットをつけ、きゅっと背中で紐を縛ると、腰のくびれがひときわ目立った。
 けぶるような真っ白いケープを備えた、腰下ギリギリまできわどいスリットが入ったシスター服を身にまとい、白雪を思わせるヴェールをふわりとかぶる。
 それから、元々細い脚をさらに細く長く見せる、太ももに食い込むニーソックスと、膝までの長さの革製の編み上げブーツを装う。
 よく見ると薔薇の彫りが施された、同じく革製の手首まで覆うグローブ、その下でさり気なく存在を主張をする真っ白なロンググローブを装着すると、彼女の戦闘態勢は完了する。
 修練室に置かれた模擬戦闘用の自動操縦人形に近付こうと一歩足を踏み出したそのとき、コンコン、と控え目なノックが扉から聞こえて来た。
「どうぞ」
 戦闘前の緊張を、小さく吐息することで解き放ちながら、瑞科はくるりと扉の方を振り返った。
 入って来たのは伝令役の男性だった。
「任務、ですわね」
「はい」
 男はゆっくり瑞科に一礼した。
 こくりとうなずき、瑞科は足早に彼の横を通り過ぎて、音のない廊下に出た。
 任務の内容は極秘事項を含むことが多々ある。
 そのため、伝令役の人間からは「これから任務である」という一事のみしか伝えられない。
 詳細は、直属の上官である神父から直に聞くことになる。
 瑞科は慣れた足取りで、いつもどおりの道をたどり、神父の部屋へと向かった。
 
 
 
「敵の首魁が不明…ですか」
 瑞科は可憐な顔をやや曇らせつつ、神父の言葉をくり返した。
 今回の任務は、ある山あいの村を中心に起きている行方不明事件の真相を解明し、敵の首魁をたたくことだった。
 しかし、この村の者たちは、自分の身内がいなくなっても、「そんな者は元からいなかった」と主張して、まったく協力的ではないのだという。
 おかげで、いったい誰が今回の事件を起こしたのかわからず、雲をつかむような事態に陥っていた。
「記憶が操作されているのでしょうか?」
「その可能性も捨てきれない。もしくは村人すべてが洗脳されているか…」
「いつ頃から村人たちはいなくなり始めたのでしょうか?」
「半年前からだそうだが、それも定かではないのだ。結婚して隣りの村に行った者が里帰りしたときに、自分の兄弟がいなくなっているのに気付いて、初めて騒ぎになったそうだ」
「では今回の任務は、まず敵の正体を暴くことから始めなければならないのですわね」
「そういうことだ。現地までの地図はこれだ。どんな手段を使っても半日はかかるから、今すぐ出発してくれ。人が消えているのは主に夕方から夜にかけてだそうだからな、少しでも君の到着が遅れると犠牲者が増える可能性がある」
「かしこまりました」
 地図を受け取り、腰をかがめて優雅に一礼してみせてから、瑞科はそのまま扉へ歩き出した。
 出口へと向かう瑞科の胸は期待に踊っていた。
 今回新調したこの戦闘服がどんな威力を発揮してくれるか、それだけが楽しみだった。
 この事件の解決に時間がかかるとすれば、敵を倒すためにではなく、敵の首領を探し出すことに、だろう。
 そう、敵がどんなに強かろうが、瑞科にはあまり関係がないのだ。
 敵を探し出した後は、瑞科の独壇場に相違ないのだから。

〜To Be Continued〜