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<東京怪談ノベル(シングル)>


はっちゃけあやこさん〜憑かれたよ八°卜ヲ゛/ュ
「今日はやけに物騒やな」
 あやかし荘の窓から見下ろして、天王寺綾(てんのうじ・あや)は呟いた。
 外をパトカーが数台、連なって通過していく。
 部屋の中の二人は、警察密着24時の特番を視聴中。窓の外でもテレビの中でも、同じようにサイレンが鳴り響く。
「全然テレビに集中できんやないの」
 未だ鳴り響くサイレンの音に嫌な顔をしながら、綾は出かける用意をはじめた藤田あやこ(ふじた・−)を見た。
「どっかいくん?」
「買い出し行ってくるよ。テーブルの上、お菓子ばっかりになっちゃったから」
 見てみれば、おやつなのかなんなのかわからない食べ物だけがならんでいる。
「ほな、うちも一緒にいこか」
 立ち上がって、再び鳴り響いたサイレンに、綾は再び嫌な顔をした。

「またなんかすごい人だかりだね。撮影かな?」
 買い物途中、停車したパトカーと野次馬の人だかりを見つけたあやこは、立ち止まって様子を見た。
「衝突事故があった、って通報があったんだって」
 手近な人に尋ねると、そう応えた。
 しかしそこに転がっていたのはミニカー。
「これはまた見事な衝突事故だね」
 あやこが呆れたように笑う。
「イタ電かよ」
 怒る野次馬に、肩を竦める警察官。何事もなくて逆に良かったじゃないですか、と引きつった顔で野次馬の列を現場から移動させていた。
 内心ではこの忙しい時期に…と思っている事だろう。
「なにがあったん?」
 気になる雑誌があったのか、あやこより後から店を出てきた綾がたずねる。それにあやこが事の顛末を話していると、再びサイレンのけたたましい音が。
 犯人逮捕だって! と野次馬がざわめく。
 あやこと綾は好奇心からパトカーの後を追い、現場へ向かった。場所はそう遠くない。

「不審者で悪かったな」
 立っていたのはバットを持った野球打者。練習しているのを、凶器を振り回している不審者、として通報されたようだった。
 バット片手に怒る打者に、警察は一応…と事情聴取をはじめた。
「あれ?」
 その中にあやこは、スッと視界を横切るものを見た。
 気になってそちらの方へ行ってみると、警察犬の霊がパトカーの側に立っていた。
「どうしたの? 何か気になる事でもあるのかな?」
 自分が見えるあやこに、警察犬の霊は喜んで飛びつく。
 ひとしきり遊んだ後、警察犬はふっとパトカーの中に飛び込んだ。
「え、あ、ちょっ! ちょっと待って!!」
 クンクンウ〜ウ〜ワンワン!!!
 突然エンジンがかかったパトカーに、警察官達が振り向いた。
「どないしたん!?」
 綾の問いに、あやこはどう説明しようか迷いながら、とっさに綾の手をとって走り出した。
 逃げた先はモスカジ社。あやこの経営する会社だ。
 社長室に飛び込んで窓から見ると、パトカーが完全に会社を包囲していた。
 その全てに警察犬が取り憑き、嬉しそうに尻尾を振っているのがパトカーに重なって見える。
 社員達が慌てたように社長室に飛び込んできた。
「何やらかしたんですか!?」
「自首しましょう!」
「罪を償って裸一貫からやり直しましょう!」
 口々に詰め寄る社員達。
 あやこはなんとも言えない表情を浮かべる。そして、何かを思ったかのように顔をあげた。
「違〜う。でも私は死ななきゃならない。後は頼む」
 覚悟を決めたように綾の方を向くと
「パトカーラッシュ…? あやこ何したん?」
 呆れたような顔で綾に詰め寄られる。
「違うの! 仕方ないの…奥の手で〆るわ。皆、さよなら」
 言うが早いか、あやこは窓から飛び出した。
 その後をパトカーの群れが追いかける。
「あやこ、どうする気なの…?」
 綾はため息混じりにあやこの後ろ姿を見送った。

 ついた先は教会。
 ひっそりと静まりかえっている。
 幸い、今日は誰もいないようだった。
 あやこは天使を模したステンドグラスの袂に座り込んだ。
「皆も天国に行こうね」
 あやこは教会の中で薬を飲んで横たわる。
「パ……シュ…私はもう憑かれたよ」
 眠るように死んだあやこに、クンクンと玩具のパトカーが縋る。
 静かにパトカーの玩具の群れから警察犬の魂が離れ、羽を生やしたあやこの魂とともに天使に導かれ、昇天した。
 それはまるで、どこかの飾られている絵画の1枚のようだった。