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サンタ募集中!
0.
「人材不足ですね」
「わしゃ年だしなぁ…」
丸太小屋の中で、白いひげを触りながらはぁっとため息をつく老人。
そして、それに賛同するトナカイ。
ここはサンタクロースが住むという、幻の森。
雪吹きすさぶ窓の外を見やりながら、トナカイはスマホ片手に何やらポチポチとし始める。
「…何してるんだね?」
「アルバイト募集です。期間限定ですし、まぁ、やってくれる人はいるんじゃないですかね」
トナカイの手は器用にスマホを操作し、最後にポチリとボタンを押した。
『サンタクロース募集中。短期集中アルバイト
トナカイに乗って子供たちにプレゼントを配るだけの簡単なお仕事です
初心者歓迎!』
「集まるかのぅ…?」
「集まってもらわないと困ります」
1.
さて、そんなサンタ募集の広告を見たのは2人の少女…もとい、少年と少女であった。
花屋の店先でのんびりと店番しながら見ていたのだ。
「サンタというと……年に一度、トナカイと共に闇夜を駆けて誰にも見つからんように隠密行動などに長けた忍者のことやな」
少女…もとい、双子の兄である珠樹(たまき)はふむふむと頷いた。
しかし、珠樹の後ろから広告を覗き込んでいた双子の妹・珠枝(たまえ)は奇妙な植物の植えつけられた鉢植えを片腕に抱いて首をかしげる。
「…でもこの広告見とるとなんや違うみたい…? サンタって……忍者って聞いとったけど、ちゃうの…?」
2人で頭を抱える。しかし、考えても考えても答えは出てこない。
それはあたりまえの話で、2人の母がそのように教えたのだからそれ以外の答えは出てこないのだ。
そもそも母が間違えて覚えていたのだから、2人が間違えて教えられたのも無理はない。
だから間違ってはいない。間違ってはいないのだが…。
「折角だし、やってみよか。珠枝も一緒にいかん? 忍者の修行できるかもしれへん」
「…修業は別にいらんけど、珠樹がやるなら…」
かくて2人はサンタクロースのアルバイトを決心したのだった。
イブの夜、2人は教えられた集合場所へと行ってみた。
そこは大きな公園で、昼間は小さな子供たちでにぎわいを見せる場所だったが、今日は大きなそりと何頭ものトナカイ、そしてサンタクロースのアルバイト応募者であふれていた。
「受け付けはこちらでーす」
その声に、珠枝は珠樹の後ろに隠れた。
人が多いところは恥ずかしい…。珠樹の後ろに引っ付いたまま受付へとたどり着いた。
「応募した珠樹と珠枝、言います」
「…はいはい、確かに。よくいらしてくださいました」
よく見ると、頭に角が生え、毛むくじゃらの上に赤い鼻をした奇妙な人だ。
「…なにか?」
「あ、いや。温かそうな毛皮やなぁって思って」
「トナカイですから毛皮が基本です」
…なんか動物みたいな人や。
母が言ってた『トナカイさん』を初めて見た珠枝はそんな感想を持った。
実はその通り。トナカイは『人』ではなく、『動物』です…とは誰も訂正してくれないのであった。
「さっそく仕事の説明をさせていただきます。こちらで用意した制服に着替えていただきまして、指定の地域へプレゼントを配達していただきます。その際、プレゼントの配達先の方は起こさないようにお願いいたします」
トナカイは珠樹たちに赤地の白い縁取りがされた制服を渡した。
更衣室に入って着替えてみると…それはサンタ服のワンピース。しかも丈が、丈が短い!
「珠樹…? 珠樹…?」
カーテンから顔だけ出して珠樹を呼ぶが、どうやら着替え中のようだ。
今更着替えられないとは言えず、珠枝はそれを着た。
ひらひらしたそれはいつも着慣れた服とは程遠いほど着心地が違う。
うぅ…恥ずかしい…。
「おまたせー! …珠枝?」
珠樹の声が聞こえた。
珠枝は「…珠樹…」と小さく呼んだ。
「…もう着替え終わったん? 出といで」
カーテンから顔だけ出した珠枝は、恥ずかしさをこらえてカーテンを開けた。
「…こないスカート短いんは…恥ずかしい…」
赤い顔の珠枝はささっと珠樹の後ろに隠れてしまった。
「可愛いって! 慣れればすぐに恥ずかしくなくなるって! 僕ももう恥ずかしくないし!」
「…珠樹はもうちょっと恥ずかしがらんといかんと思うよ?」
そんな2人のやりとりに、トナカイが仕事の話を始めた。
「時間もありませんので、担当地域を決めていただきたいのですが…」
地図を広げられ、珠樹は地図に赤く書き込まれた1ヵ所を指差した。
「ほな、ここで」
「はい。大きなお友達地域ですね」
トナカイはにっこりと微笑んだ。
2.
「なあ、珠樹……大きなお友達て?」
トナカイの引くそりに乗り込み、プレゼントの入った袋を積み込んで出発した珠樹と珠枝。
トナカイは不思議にも空を飛び、夜空を駆けていく。
トナカイさんの言っていたことが引っ掛かる。
『大きなお友達』とはいったい…!?
「大きな夢を持った友達がいっぱいおる人のこと…かなぁ?」
「…なんかそれ『どどいつ』みたいやね」
珠枝がそういうと、珠樹はハハッと笑った。
珠樹も絶対わかってない。
「そ、そうかもしれんし、違うかもしれんなぁ」
そう言いながら首をかしげる珠樹を見ながら、珠枝は確信を持った。
1件目のお家。
窓の外からどうやって入るのかとトナカイに尋ねると、トナカイの特殊能力に鍵開けがあるのだと教えてくれた。
ただし、これは企業秘密なので内緒にするようにと念を押された。
「えっと、ここのプレゼントは…この箱やね」
プレゼント袋に入っていた配達一覧から相当する家の情報を探し出す。
『28歳 ○×の限定フィギア』
「この年でもサンタに贈り物をもらえるとは……純粋なん?」
「…??」
28歳…で、純粋ならサンタからプレゼントがもらえる…?
サンタのプレゼントの基準ってどこなん??
小さな箱を取り出して、トナカイの開けた窓から暗い部屋へと侵入する。
「お邪魔しま…」
そう言って静かに床に足を付けた瞬間…!
「待ってました!!」
突然電気がつき、ベットの上で正座待機していた男がクラッカーを鳴らし目をキラキラとさせていた。
なんで…起きてるん?
あまりの突然の出来事に目の前は真っ白だし、次にどうしたらいいのかわからない。
「もしかしなくとも、サンタ失格やん! 見つかったらあかんのやろ? だめだめやん」
珠樹がパニックになったようで、アワアワし始めた。
ハッと珠枝は我に返った。
人間、パニックの人を見るとかえって冷静になれたりするものだ。
「なぁ、見つかった時ってどないしたらええん? やっぱ土下座とかするん? それとも忍者だから切腹とかするんかなぁ!?」
珠樹をそのままに、珠枝はプレゼントを正座待機の男性へと差し出した。
「ああ、気にせんでええよ。はい。メリークリスマスやで」
珠枝はプレゼントと鉢植えを渡すと、珠樹を引っ張ってそりに乗り込んだ。
トナカイは次の家へと向かいだす。
プレゼントを渡した家から「うをーーーー!! 限定フィギアァァァァァ!!」と叫び声が聞こえた。
3.
「大きなお友達って…年齢の高い人のことなんやろか?」
引っかかる。やっぱり引っかかる。
珠枝の言葉にようやく落ち着いてきた珠樹は「え?」と返すと「うーん」と考え込んだ。
「…背が高そうなお友達って意味かもしれへんよ?」
「誰のお友達やの?」
「…僕にもわからん」
あははと笑って、珠枝たちは次の家へ。
次の家は既に明かりがついていることが確認できる。
「…また待ってるんかな? そないにサンタクロースがくるの待ち遠しかったんかな?」
「サンタクロースが…ていうんより、プレゼントやろ」
今度の家はトナカイがカギを開ける必要もなく、すんなり入ることができた。
「いらっしゃい、サンタ…!?」
出迎えたのはやはり大人の男。しかし、今度はなにか顔を赤くして口をパクパクしている。
「? どないしてん?」
「メリークリスマス。これ、プレゼン…」
そう差し出した珠枝の手をプレゼントごとガッツリつかむ男。
「!?」
まさかつかまれるとは思っていなくて、珠枝はびっくりすると同時に恐怖した。
「珠枝に何するんや!!」
即座にバシッと男の手を振り払い、珠樹は珠枝と男の間に割って入る。
こういう時だけ珠樹は頼りになる。
「君たち…リリカ☆マヂカのタマミとヒロミじゃないのか!? 俺は夢を見ているのか…!?」
…言っている意味がさっぱり分からない。
「えっと…確かプレゼントの希望は『リリカ☆マヂカの等身大抱き枕クリスマスバージョン限定版』やったけど…それと関係あります?」
珠枝がすらすらとプレゼント名を言うと、珠樹はちょっと驚いたようだった。
しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
驚くべきは…
「そう! 今回頼んだ俺の抱き枕を見てくれ!」
そう言ってプレゼントの包装紙を破り捨てた男のプレゼントのイラストは…
「なんか、珠樹と私に似て…る??」
「そう! 君たちは天が遣わした真の贈り物! まさに奇跡!!」
大興奮の男。これは…つまり…?
「それやったら……」
冷静に珠枝が珠樹の耳にそっと囁く。
珠樹は「珠枝がいいなら」とコクリと頷いた。
そして2人は深夜アニメ・リリカ☆マヂカのタマミとヒロミに扮した。
いわゆる『コスプレ』というものだったが、2人がそれを知っていたのかは定かではない。
「すごい! 奇跡は本当にあるんだ!!」
涙流しながら写真を撮りまくる男。
「お触り厳禁ですよ? お客さん」
「触りません! 真のヲタたるもの、レイヤー様を崇めこそすれ触るなど恐れ多い!!」
よくわからないが喜んでもらえているようだ。
にこにこと笑顔を作りながら、珠枝はいいことをしたのだと思っていた。
「宝物にします! 今日の奇跡を忘れません!!」
最後に珠枝が手渡した植木鉢をたいそう大事に抱えながら、男はそりに乗った珠樹たちをずっと見送ってくれた。
「私ら、いいことしたんかな?」
「そら、喜んでたし…いいことしたよ」
そんな会話を交わしながら、2人は次々とプレゼントを届けに頑張った。
行く先々で写真に納まり、プレゼントを手渡し、夜空を駆けまわったのだった…。
4.
翌日、ネットで色々な噂が飛び交った。
曰く
双子の可愛いミニスカサンタが現れた…とか。
双子の可愛いミニスカサンタがリリカ☆マヂカの登場人物にそっくりだった…とか。
双子の可愛いミニスカサンタがコスプレしてくれた…とか。
双子の可愛いミニスカサンタがくれた鉢植えから小さな女の子らしき芽が生えてきた…とか。
真偽のほどは定かではなかったが、確かに超絶可愛いコスプレ双子の写真がアップされていた。
しかし、珠樹と珠枝はそんなこと知らない。
クリスマスの良い思い出として、珠枝の胸のアルバムにしまわれている。
胸に抱かれたドライアドもどきが引っ込んだり、珠枝の顔を覗き込んだりしている。
珠枝はそんなドライアドににっこりと笑いかけた。
メリークリスマス!
幸せがあなたのもとに訪れますように。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
8638 / 珠樹・ー (たまき・ー) / 男性 / 14歳 / 双子の植物育て屋(兄)
8639 / 珠枝・ー (たまえ・ー) / 女性 / 14歳 / 双子の植物育て屋(妹)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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珠枝 様
こんにちは、三咲都李です。
ご依頼いただきましてありがとうございます!
双子さん! 美少女と美少年な双子さん!!
恥ずかしがり屋な毒舌少女…ということで、一応そこここに毒をちりばめてみました。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
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