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<東京怪談・PCゲームノベル>


Route6・拒絶 / 藤郷・弓月

 少し前を歩くあの人を小走りで追い駆ける。
 一見すると少し薄情な彼を追い駆ける彼女みたいに見えるかもしれない。でも、私たちはそんなんじゃない。
「鹿ノ戸さん! 待ってください!」
 声を張り上げて呼びかける。
 その声に一瞬だけ振り返ったものの、鹿ノ戸さんはため息みたいに小さな息を吐くと、何も言わずに歩き出した。
「うぅ、まだ勝手について来たこと怒ってるのかな……」
 全ての始まりは、帰宅途中に鹿ノ戸さんと遭遇したことなんだけど、鹿ノ戸さんはバイトの途中だったみたいで燕尾服のまま外にいたの。
「それにしても、買出しって何を買いに来たんだろう。商店街に入ってからずっと歩きっぱなしなんだけど……」
 そう、鹿ノ戸さんはバイト先の店長さんに頼まれて何かを買いに出た所だったみたいなの。
 それにちゃっかりついて来た訳だけど、この距離感。なんとも言えない虚しさが訪れるのは何故だろう。
「……鹿ノ戸さんとお買い物できるなら、デートに分類されるかもって思ったのに……」
 初めに感じたドキドキも今では急下降。一生懸命前を歩く背中を追い駆けるだけで精いっぱい――ん?
「これって……やっぱりデートっぽい?」
 元々ぶっきらぼうな鹿ノ戸さんのことだから、実際にデートしてもこういった距離感の可能性が高い。
 それに声を掛ければ振り返ってくれるし……って、あれ? さっきよりも歩きやすい?
 色々考えてるうちに、鹿ノ戸さんの背中が近くなってる気がする。例えるなら、手を伸ばせばすぐ届く、そんな距離に彼が近付いている。そんな感じ。
「鹿ノ戸さん……もしかして、ゆっくり歩いてくれてます?」
 思わず顔を覗き込むと、ふいっと横を向かれてしまった。
 これはまさか、照れ隠し!?
「うわ、嬉しいかも」
 へへっと笑って肩を竦めると、「はあ」と盛大なため息が。
 なんだかんだとこのため息も慣れつつあるよね。いや、良いことか悪いことかは別として。
「そう言えば、鹿ノ戸さんの好きな食べ物って何ですか? あ、飲み物でも良いです!」
 この際だから聞けることは聞いておかないと。勿論、答えてもらえるかはわからないけどね。
「ちなみに、私は甘いもの全般が好きです♪」
 そう言って笑うと、鹿ノ戸さんの足が止まった。
「えっと……何か変なこと、言いましたか?」
 突然止まられてドギマギしてしまう。
 流石にテンション高すぎたかな?
 鹿ノ戸さんとこういった普通のことができることに、ちょっとはしゃぎ過ぎたかも。
 まさかこのままお説教コース!?
 そう、思ったんだけど、実際には違くて――
「……腹が減ったんなら、普通にそう言え」
「はい?」
 今、なんと言いましたか?
 そう首を傾げると、鹿ノ戸さんも不思議そうに目を瞬いて来る。
「腹が減ったから食べ物の話をしたんじゃないのか?」
 なるほど。
 話はきちんと聞いてもらっていたのは良いとして、こういう風に捉えちゃうんだ。
「ふふ」
「……何だよ」
 思わず笑っちゃったけど仕方がないよね。
 だって、鹿ノ戸さん可愛いんだもん。
「私、お腹空いてませんよ」
「は?」
「食べ物の話をしたのは、単純に鹿ノ戸さんの好きな食べ物を知りたかったからです。他意はありません」
 にこっと笑って見上げると「しまった」と顔を顰める姿が飛び込んで来る。
「そういう顔もするんだ……」
 なんだか新鮮。
 そう思ってじっと見ていると、突然背を向けて歩き出しちゃった。
「わっ、ごめんなさい! もう変なこと言わないですから、待ってください!」
 慌てて追いかけてふりだしに戻る。
 結局鹿ノ戸さんの好きな物も聞けなかったし、距離も縮まらないまま。
 それでも「帰れ」とか「邪魔」とか言わずに前を歩いてくれているのは、鹿ノ戸さんなりの優しさだよね。
 そう思うと、やっぱり笑顔が零れちゃう。
「いやいや、駄目でしょ。このままじゃまた変な奴って思われちゃう」
 いや、もう思われてるかもだけど。
「ここだ」
「え?」
 足を止めた鹿ノ戸さんと、彼が示す店を見て私の目が瞬かれた。
「珈琲豆のお店、ですか?」
 鼻孔をくすぐる香ばしい香りと、窓から見える店内の様子から判断した声に頷きが返る。
「この店の珈琲が美味いんだ」
「あ」
 もしかして、好きな物を教えてくれた?
 よく見ると、お店を見る鹿ノ戸さんの表情が少し柔らかいかも。
「そんなに美味しいなら私も飲んでみたいです! どうですか、今から――」
「いや、無理だな」
 最後まで言い切る間もなく切り捨てられた。
「そ、そうですよね……今は買出しの途中ですし、そんな時間ありませんよね……」
 そうそう良いことは何度も起きないか。
 そう思って項垂れていると、頭に大きな手が触れた。
「違う。アイツがいる」
「え?」
「……こっちだ!」
 突然走り出した鹿ノ戸さんに目を瞬く。
 『アイツ』って、まさか。
「檮兀さん?」
 うん、少しわかってた。この普通なデートっぽい流れが長続きしない事は……でも、だからって落ち込んでる場合じゃない!
「鹿ノ戸さん、私も行きます!」
 自分が行ってどうにかなるわけじゃない。
 それでも鹿ノ戸さんの傍に居るって決めたんだから、その気持ちを曲げるなんて真似したくない!
 私は必死に走って鹿ノ戸さんの背中を追い駆けた。そして彼が足を止めた先には、やっぱりあの人が居た。
「……檮兀、さん……っ……」
 全速力の鹿ノ戸さんに追いつくことは出来なくて。勘を頼りに到着したけど、体力は崩壊寸前。
 息が切れてまともに吸うのも厳しい。
「く、苦しい……」
 ヤバい、膝を付きそう――と、思ったんだけど、そんな暇なかった。
「!」
 さっきまで鹿ノ戸さんに向き合っていた檮兀さんが私の方を向いたの。
「力を持たぬ娘……未だ、鹿ノ戸の者に関わっていたか」
「っ……た、確かに私は力がないですけど、だからって鹿ノ戸さんと関わらない理由にはならないです!」
「ほう」
 私の言葉に檮兀さんの目が細められる。
 その瞬間、ぞわっとした感覚が背を掛けあがって、私は初めて悪寒っていうものを体感した。
「鹿ノ戸の者に関わる以上、自らの命が失われても構わない……そう言うのか?」
 自分の命が失われても良いのかどうか?
「そんなの、嫌に決まってます!」
 前にも色々考えたけど、死ぬのは嫌。怖いし、何より死んでしまう事は鹿ノ戸さんの望みじゃないもの。
「私は鹿ノ戸さんと関わる決意はあっても、死ぬ諦めの覚悟とかはないんだから!」
 ハッキリそう叫ぶと、檮兀さんは少し面食らったみたいに目を見開いて、そして――笑った。
「ククッ……ふははははは!」
 盛大な笑い声をあげる檮兀さんに、私も鹿ノ戸さんも訝しむ視線しか送れない。と言うか、鹿ノ戸さんは檮兀さんが何で笑ってるのか少しわかってるみたい。
「このアホは放っとけ。関わった所で血の因果に関わる事も出来ねえよ」
「酷っ!?」
 私なりに一生懸命やってるのにその言い方は無いんじゃないでしょうか! そりゃね、鹿ノ戸さんの言う事はもっともだけど、それでももっと優しい方ってものが……あるわけ、ありませんよね。
「……鹿ノ戸さんだし」
 ハハッと乾いた笑いが零れる。
 そんな私を背に庇うようにして鹿ノ戸さんが立った時だ。ひとしきり笑った檮兀さんが、改めて私を見てきた。
 それこそ、底冷えするような冷たい目で。
「関わった所で血の因果にかかわる事も出来ない――否、違う」
 地を這うような低い声が耳に響く。
 ゾクゾクって何かが駆けあがって、言おうと思ってた言葉が全て消えていく。
 「あなたは何がしたいんですか」とか「鹿ノ戸さんを追い詰めるようなことはしないで下さい」とか。本当に色々あったのに、檮兀さんの目を見た瞬間、全てが消え去ってしまった。
「その娘……危険」
「!」
 言葉を切ると同時に檮兀さんが消えた。
 ううん、違う。消えたんじゃない!
「嘘っ……」
 いつの間に傍に来たんだろう。
 私の後ろに立って首を掴んだ彼に、息がヒュッと締まる感覚がした。
「檮兀ッ!」
 すぐさま鹿ノ戸さんが反論するけど、私を人質に取るような形になって動けないでいる。
 だってそうだよね。
 檮兀さんが少しでも力を加えれば、私の首の骨なんて折れちゃうもん。でも、私だってこのままって訳にはいかないよね。
 すごく怖いし足も震えてるけど、それでもこのまま掴まっている事は、鹿ノ戸さんや私のためにならないもの。
「……は、離して下さい……こんなの……卑怯です!」
「力無き娘。この状況を理解しているのか?」
「……勿論、しています」
 頷く事は出来ないけど、目を向ける事は出来る。
 その目を受けて、檮兀さんの指に少しだけ力が籠った。
「――っ」
 物理的に息を奪われて目の前が揺れた。
 マズイ、マズイ。
「檮兀! ソイツは関係ないだろ!」
「鹿ノ戸の血を継ぐ者よ。その心、生に動いているのではないか?」
 問いかけに、千里さんの目が見開かれた気がした。
 でも次の瞬間、私の視界で赤いナニかが弾けて、彼の表情が見えなくなる。それが何なのか、今の私には理解できなかった。
 ただ1つ理解できるのは、意識を失うほどの力が私の首に込められたということ。そして、私の体が地面に崩れ落ちていくということだ。
 そんな私の耳に、あの人の……鹿ノ戸さんの声が聞こえてくる。
「……死ぬのは怖くねえよ。これがその証明だ」
 証明? 証明って、さっきの赤いのが?
 そう思うのだけど、瞼が重くて開かない。それに耳も遠くなってる。
 さっきまではそれなりに聞こえていた声が、今では断続的に響いてくる。言葉として拾えない、単語だけの世界。
「……倒す…、……死ねない……」
 そう届いたのを最後に、私の意識は途切れてしまった。

   ***

 次に私が目を覚ました時、鹿ノ戸さんの姿はなかった。
 アスファルトに横たわる私に乗せられた燕尾服の上着。これは間違いなく鹿ノ戸さんの物だ。
「……いったい、何が起きたの……?」
 手加減はしてたのかもしれないけど、それでも結構な力が加えられたのだと思う。
 首が痛みを発している。
 そこに手を添えながら目を動かすと、大量の血痕が視界に飛び込んできた。
「これって……まさか、鹿ノ戸さん?」
 そうだ。
 意識を失う前、赤いナニかが弾けた。
 鹿ノ戸さんが腕を動かした瞬間に飛び散った赤いもの。それに視界を遮られて細かな行動が見えなかったけど、まさか鹿ノ戸さんは自分で自分を……。
「……死ぬのが怖くない、証明……」
 ゾクリとした。
 死ぬのが怖いと言う自分と、死ぬのが怖くないと言う彼。決定的に住む世界が違うと言われた気がして泣きそうになる。
 でも、これは全ての始まりだった。

――数日後。
 私は鹿ノ戸さんが働いていた喫茶店に足を運んでいた。
「……辞めたん、ですか……?」
 鹿ノ戸さんの同僚さんの話によると、彼はちょうど檮兀さんと会ったその日、喫茶店を辞めたいと店長さんに言ったみたいだった。
「オーナーは千里を気に入ってるからね。今は保留ってことにしてあるけど……いったい、何処に居るんだか。それにあの怪我も何処でつけたのやら」
――あの怪我。
 その言葉にギュッと唇を引き結ぶ。
 やっぱり鹿ノ戸さんは怪我をしている。
 しかも今の口ぶりからすると、鹿ノ戸さんが何処にいるかもわからない状況なんだ。
 全てはふりだしどころか最悪の方向に進んでいる。そんな気がして、私はただその場で俯き、泣くのを堪える事しか出来なかった。

 END


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 5649 / 藤郷・弓月 / 女 / 17歳 / 高校生 】

登場NPC
【 鹿ノ戸・千里 / 男 / 18歳 / 「りあ☆こい」従業員&高校生 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは鹿ノ戸千里ルート6への参加ありがとうございました。
引き続きご指名頂きました、千里とのお話をお届けします。
最後の最後で過酷な状況に追い込まれてしまっていますが、如何でしたでしょうか?
もし気になる点等がありましたら遠慮なく仰って下さい。

また機会がありましたら、大事なPC様を預けて頂けて下さい。
このたびは本当にありがとうございました。