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<東京怪談ノベル(シングル)>


女達の意地と力

「久し振りに帰ってきたわ。一年ぶりってところかしら」
 藤田あやこは、大分にあると言うエルフの隠れ里へと帰省していた。
 帰省した理由は、今日が正月だからだ。
 この隠れ里には妖精第三紀の妖精王国から近頃エルフ達が移民してきており、それは華やかな村だ。
 一年ぶりに戻った故郷は毎年のように賑わい、あちらこちらで年が明けたことを祝い賑やかな風景が広がっている……はずだった。
 しかし、どうしたことか今年の故郷は随分とどんよりした空気に包まれている。
「どうしたのかしら……」
 あやこは小首を傾げ、故郷の村に足を踏み入れた。
「あんた! 今のままで一体どうするつもりなんだい!」
「いい加減にしてっ! そんなんでやっていいと思ってるの?!」
 村に入るなり、そんな声が各家々から響き渡ってくる。その様子にあやこは眉間に深い皺を刻み、怪訝な表情を浮かべる。
 一体どうしたと言うのだろう? 今までこんな風に喧騒していることは一度としてなかった
「ねぇ、これは一体どうしたの? なんでこんな事になってるの?」
 この異変にあやこが隣の奥方に訊ねると、奥方は困り果てた様子で頬に片手を当て溜息を一つ吐く。
「普段大人しくて、あまり目立つような存在じゃなかった男達の収入がどうも最近軌道に乗り始めたみたいで、あたしらの収入を脅かしているんだよ」
「……マジかえ?」
「そのせいで、男達がでしゃばってくるようになってこの様さ。男は黙って生け花や恋愛小説を書いていればいいのにねぇ……」
 大きく溜息を吐きながらぼやく奥方に、あやこはただただ驚くばかりだった。
「見てみるかい?」
 あやこは奥方に誘われ、村にある巨大な魔方陣を抜けて妖精王国所領の森へと足を踏み入れる。するとそこは騒然とした戦場になっていた。
 猛々しい蜥蜴の群に怯む事無く突っ込んでいく男達の姿がある。
「嘘みたい。普段は刀研ぎや詩歌創作している男達が戦ってるだなんて……」
 そう呟いたあやこに、奥方は呆れつつもどこか感心したように呟く。
「武具の進化で、男達の腕力も物理攻撃が効かない魔物にも其れなりに通用するようになったの」
「さすが都会ね……」
 あやこは険しい表情ながらも納得したように頷いた。


 その晩。
 あやこと同じ獅子座生まれの女が集まり傷を舐めあう宴席に彼女も参加した。
「ちょっと、大丈夫? 飲みすぎじゃない?」
 隣に座っていた友人を気遣い、彼女の肩に手を置いてあやこが声をかけると、友人は苛立ったようにその手を振り払った。
「冗談じゃないわ……。なんで男なんかに……」
 友人はぐいっと手にしていた杯を傾ける。
 静かな夜の空の下、見渡す限り女達が感傷に浸り酒を煽っている。
 あやこは困り果てため息を吐いて彼女達を見渡していると、友人が机に齧りつく様にしながらぼそりと呟いた。
「これならいっそ、女を捨ててやるわ……」
 そう愚痴を零し、そのために男装していた友人をあやこは目を見開いて振り返り、ムッとした表情で睨むように見た。
「男に勝つために女を捨てるなんてありえないわ! 見せてやろうじゃない、女の意地と力を!」
 叱責し、椅子から立ち上がったあやこに友人は彼女を見上げた。
「でも……」
 それでもと再び視線を落とした友人に、あやこはニッコリと微笑みかける。
 あやこは再び視線を上げる彼女の肩に手を置き、パッチリとウインクしてみせた。
「女には女をよ☆」
 力強い眼差しでこちらを見詰めてくるあやこの姿に、友人は涙を拭う。
「そうね……。そうよね……。このままでいいはずはないわ。私達の本当の力をみせてやろうじゃない!」
 そう言って立ち上がった友人に、周りにいた女たちも一斉に立ち上がった。
 空を仰げば、満天の星空が辺り一面に広がっている。その空を見詰め、あやこは息を吸い込み浪々と詠い出した。


 欠けた月はまた満ちていくわ それを貴女に告げたい……


 詠うあやこの詩に、その場にいた女達はこれまでの消沈していた気持ちを奮い立たせる。
 そんな彼女達を見たあやこはにっこり笑う。
「この名にしおう吟遊詩人の女王、あやこさんがブルーライオンさんたちの為に一曲書くから頑張ろ☆」
 あやこの言葉に、女達は一斉に大きく頷くのだった。


                 *****


 誰が貴女を傷つけたの? 譯を尋ねる積りまだないけれど
 潤んだ瞳寂しい色ね 心はもう此処に居ない
 グッバイブルー・グッバイブルーライオン
 グッバイブルー・グッバイブルーライオン……


 長びく蜥蜴の群に男達が戦い続ける戦場。
 あやこは近くの木の枝に座り、高らかに詠うソプラノの歌声。
 その歌声は女勝りな主夫たちを浪々と圧していた。
 そんな様子を戦いに備えた女達は武器を手に静かに見下ろしている。
「私が援護するわ! 弓を構えなさい!」
 あやこがそう掛け声をかけると、女達は一斉に手にしていた弓を蜥蜴たちに突きつけた。


 月は欠けてはまた満ちていくわ…それを貴女に告げたい
 涙なんて無意味だわ…それが貴女の口癖
 優しさすら畏れてる 癒してあげるよ


 あやこは声を張り上げながらも、綺麗な声音で颯爽と詠い上げる。
 女達はあやこの防御呪歌に護られて、手にしていた弓を引きながら怒涛の矢を解き放つ。
 解き放たれた矢は鋭く空を切る音を上げ、凄まじい速さで蜥蜴たちの群の中に飲み込まれ、悪戦苦闘していた男達を尻目に蜥蜴らを次々と一撃で仕留めていった。