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<東京怪談・PCゲームノベル>


+ あの日あの時あの場所で……【そして君は流転する】 +



 俺はとある病院の一角に立っていた。
 黒スーツに黒ロングコートという全身黒ずくめの姿。それから顔にはサングラスを掛けて一見して『誰』なのか分からないようにしていた。ただ遠目から見た雰囲気は物静か、けれどどこか触れるには戸惑うその無意識に出た拒絶感。
 俺は知っている。ここが本来の自分の居場所ではない事を。
 そして「案内人」たる『彼』もまた知っていた。


「見っけ」


 病室で眠っている一人の少年。
 その傍に寄り添うように、両手で少年の片手を包み込み額に当てる『彼』の姿に思わず俺はにっと微笑を浮かべた。第三者からの視線で見たそれは『思い出』。
 そして俺の視線に気付いていた『彼』は、迷わず視線を交わらせた。距離はそう離れていない向かい側の病院棟。そこに立つ黒ずくめの男の正体を一瞬にして理解した彼――カガミは少年の手に最後の口付けを落とした後、転移した。
 それを感知した俺は追いかけるように同様に転移する。己の能力テレポートを使って。
 二人が選んだ場所は病院の屋上。今は誰もいないその場所で対面したのは――。


「身長伸びたな」
「おう」
「お前は『また』勝手に飛んできたのか」
「え、いやいや、別に勝手に飛んできたわけじゃ……!」
「能力制御出来ずに飛んでりゃ勝手の分類に入ると思うけど?」
「うぐっ――お、おっしゃる通りです」


 図星を差されて俺はがくっと肩を垂れ下げる。
 時空転移の能力に目覚めたばかりの俺はその能力を自らの意思で使用する事が困難で、度々現在軸から様々な地点へと飛ばされてしまう。それを彼――カガミは指摘したのだ。
 しかし今回は『あの日』に到達するなんて、何か意味があるのだろうかと俺は考え込む。目の前のカガミは今の俺よりも幼く見える――なんて、それが時を定めか。
 こほん、と俺は改めて言葉を口にするため咳払いをする。カガミは屋上の網フェンスにその背を寄りかからせ、キシッ、と鳴るそこに身体を預けた。


「あの後、一時カガミの事忘れて大変だったんだぜー?」
「運命はお前と共にある」
「俺がお前の事を忘れたのも運命?」
「世には変えられない掟や理がある。選択を終えた以上、俺が「案内人」であり、お前が<迷い子(まよいご)>であった関係は先程の時点で一旦幕を下ろした。その事実だけはこの世界では間違いない『事実』。多くの過去、多くの未来で多くの選択肢があろうともこの場所では俺達は別つだろう」
「……本来だったらあそこで<迷い子>と案内人の関係は終わりだったのか?」
「お前の母親と俺は――俺とスガタは縁を得た。しかし彼女が迷いを絶ち、選択した瞬間から俺達は彼女との縁は切れている。それが最善か最悪かはその人の次第。俺達は幸福の神じゃない。あくまで<迷い>を導くだけの存在であり、その先に行く着く運命までは弄られない」
「母さんはお前を呼ばなかった。それが普通なのかもしんないけど――」


 俺はそっと手を持ち上げ、そこに嵌めている細い輪を見せる。
 銀色のそれは相変わらず俺の左指にぴったりと嵌め込まれており、輝きを失う事もなくそっと存在していた。カガミはカガミで自分の手を持ち上げる。そこには細い鎖で飾られた時計が嵌められている。


「俺さ、指輪に彫ってあった名前でお前の事思い出した」
「ふうん」
「言ったろ? 『迷い子じゃなくなってもお前を呼ぶって』――それともそうなる事をお前が望んでくれたのか?」
「俺はお前にとって過ぎ去る人格の一つしかない。特別だと思ってくれた、それだけで充分」
「カガミは相変わらずカガミだよな」


 理想は低く、望みはあくまで<迷い子>主体。
 彼は自我があるようで、時折どこか高みから操られた人形のよう。全てが全て、遊戯盤の上の人生だとすれば彼はきっとトランプでいう白紙の存在。どのカードが失われてもどのカードの代わりになれる者。プレイヤーの意思で彼は善にも悪にもなり、生と死も思うがままに弄られ続けるのだろう。
 それはカガミの『人生』なのか――存在すら怪しい彼に当て嵌まるのか分からないけれど。


「今の俺は幸せだよ。辛い事もたくさんあるけど、それでも俺はこの道を選んでこの力で救える人がいる事に幸せを感じている」
「俺はそんな未来知らない」
「知ってるはずだろ。カガミは俺よりなんでも知ってる。だから『今の俺』が案内人達とどうなっているかなんて……お前には分かるんだろ?」


 くすりと笑みながら俺はカガミに問う。
 だが彼は目を細め、少しだけ顔に影を落とした。


「『今の俺』が知っているのはこの瞳が捉えた複数の未来視だ。その中に確かにお前の存在はあるが、この時間軸では俺がお前を固定する事は出来ない。その上で答えるならば、この先の未来で俺達がどうなっていようとそれは可能性の一つでしかない」


 黒と蒼のヘテロクロミア。
 カガミの蒼の瞳にはほんの少し先の未来を見通す能力があるという。だからこそ彼はいつも先読みをする。悲しい未来も、楽しい未来も、全ての選択肢を知りながら選ばせるのは<迷い子>自身に。その結果起こりうる最悪も最善も彼はその度に受け止めてきたんだろう。
 蒼の瞳へと手を当てて、彼は『俺』を見た。
 その瞳は不変の色をしているような気がして、背筋がぞくりと跳ねる。だけど、それがカガミだ。終始余裕の笑顔を浮かべながらも俺は『過去』を懐かしむ。
 俺が辿ってきた人生の中で決して排除してはいけない因子。
 IO2へと至る道程を決心させてくれた存在の一人。


「じゃあ、俺は戻れる時までこの時間軸で遊んでるな」
「迷惑だけは掛けるなよ」
「おう!」


 この時間で俺と彼が長時間いる事は多分ない。
 過去と未来が交差した影響は考えてはいけないのだ。だからこそ、俺は影響を考えて過去との接触を極力避けながらまた戻れる時を待つ。
 その時もそのつもりだった――のに。


「勇太」


 俺を抱きしめるのは誰だ。
 ほんの少しだけ俺より大きくて、その手が視界を遮るようにサングラス越しに被せられる。気配が『二つ』に増えた事に対して俺は笑うしかない。
 そうだった。彼はいつだって人間である俺よりも多くの<迷い子>と共に複数存在し、場合によってはその生涯を共にするのだ。笑いがこみ上げてきて仕方が無い。
 どうしたら彼に勝てるのだろう。
 どうやったら彼を驚かせる事が出来るのだろう。
 フェンスに寄りかかったままの気配と俺を抱きしめてくれる気配。
 同一軸に存在して尚、ぶれる事のない希少な存在『達』。


「やっぱりカガミには敵わないなぁ」


 生み出されては分かれて行く人格達。
 多くの個の中には邂逅を得る時間もあって、うぬぼれかもしれないけどきっと俺専用のカガミも存在しているのだ。俺を抱く腕の温かさと強さは変わらないのか。


「勇太」


 比べる事の出来ない未接触。呼びかけてくれるのはどちら?
 後ろに存在する『共に生きる存在(カガミ)』に俺はただただ笑うしかない。










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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8636 / フェイト / 男 / 22歳 / IO2エージェント】

【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、フェイト様としては初めまして!

 今回は(も?)カガミ指定有難う御座いました。例の話の後と言う事で最後はタイムパラドックス風味に。
 これからもフェイト様の活躍を楽しみに待たせて頂きますね^^
 あと指輪所有設定という事ですのでこちらにも贈らせて頂きます。ではでは!